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~セリカ編~
「あ~も~!これはどこに運べばいいのよ!」
「それはあっち側にお願いします!」
ワイルドハントの芸術イベントの会場設営に東奔西走している多くの生徒。その中にはツムギとセリカの姿があった。会場の準備は基本的にワイルドハントの生徒が行うが、それでも人が足りない場合バイトを雇うことがある。セリカは毎度ワイルドハントが募集するバイトに参加している常連である。
今回でライブ会場の設営の手伝いは3回目であり、現地の生徒とももうある程度顔見知りであった。
会場の設営が終わった後、へとへとになったセリカは階段の一番下の段に座ってうなだれていた。
「はぁ……機材の運搬とかこの時期やってられないわよ……幸いなのはワイルドハントがアビドスに比べれば大分涼しいことだけれど。それでも表面アツアツになってるし。倉庫は熱気がこもってるし」
「セーリカちゃん!!」
ツムギはそっと後ろから近づいて冷たいスポーツドリンクをセリカの首元に当てる。セリカはびくっとオーバーリアクションとも思えるほど跳ね上がり、背後を向き威嚇する。
「うひゃあ!!?な、なにすんのよ!?」
「ふふふ……相変わらずいい反応しますねぇ」
「なにすんのよツムギさん!?」
そう言いながらも、素直にスポーツドリンクを飲むセリカを愛おしそうに眺めるツムギ。ツンデレ猫という属性が誰かを思い出すようだ。
「いつもワイルドハントがバイト募集すると来てますよね、セリカさん。私に会いに来てくれてるんですか?」
「なわけないでしょ!ここのバイト時給がいいのよ!」
「そんな……私は毎回セリカさんに会うたびに心を躍らせていたのに……」
「……そんなに嬉しいの?私と会えるのが」
「もちろんです────『リアクション』、が愉快ですから」
「やっぱりオモチャ扱いじゃない!!」
「オモチャ扱いじゃありませんよ。アイドルにだってリアクションは大事ですから。トリニティでのステージ、見てましたよ?まさかセリカさんに音楽方面の才能があったなんて……」
「やー!!忘れろ忘れろ忘れろ忘れろー!!」
シャーと聞こえるような威嚇をしてくるセリカに、ツムギはくすくすと笑いながら話題を変える。
「それにしても、こんな酷暑でも相変わらずバイトに励んでいるんですね」
「そりゃそうよ。アビドスの借金を返すために頑張らなくちゃ!」
「……セリカさんはいい子ですね。本当に」
「ちょ!?急にやめてよ!?先輩みたいなこと言い出すのは!」
「先輩みたいなこと、ですか。他にはどんなことしてくるんです?先輩は」
「私、この後柴関ラーメンでバイトがあるんだけど、わざわざ私が働いてる時間帯に食べに来て、大将に普段私がどんなふうに働いてるか聞いてくるのよ!!」
「おやおや、今から柴関ラーメンでバイトですか。じゃあ準備でお腹空きましたし、柴関ラーメンに食べに行くとしましょう」
「……言わなきゃよかった!ツムギさん何考えてるの!!」
「おや?私はいつもセリカさんの話題に出てくる大好きな先輩の真似をして、セリカさんと少しでも距離を詰めたいと思っただけですよ?」
「もう十分距離近いと思うんだけど!?」
「おや、セリカさんからはそう思われてたんですね。距離感の近い友人と思われていたとは……嬉しい限りです」
「近すぎるって言ってんのよ!言っとくけど、大将に私の働きぶりとか確認したらぶん殴るからね!」
「フリですか?」
「フリじゃない!!」
言い合いをしながらも、二人仲よさそうに並んで柴関ラーメンに向かうツムギとセリカ。ツムギは大将にセリカの様子を聞きこそしなかったが、まるで妹でもみるかのような視線でセリカの働きぶりをじっと眺めていたという。
~サオリ編~
ワイルドハントの芸術イベントの会場設営二日目。今日もバイトの人は来るがセリカが来れないと聞いて少し悲しい気分になったツムギであったが、また新しい出会いがあると考え直し、自身の頬を叩く。
「さて……それにしてもライブ会場の設置に来るはずのバイトの方はどこでしょうか……?」
きょろきょろと周囲を見回しても、それらしい影は無い。もうそろそろ来てもいい時間なのだが。
「もしや……」
嫌な予感を感じて、仕方ないのでツムギがライブ会場の周囲を軽く探してみると、ワイルドハント生徒に囲まれた他校の生徒の姿があった
「す、すまない。今からバイトなんだ。どいてくれないか?」
「そこをなんとか!あなたをデッサンさせてもらいたいの!」
「ライブ会場がどこか聞きたかっただけなんだが……」
「こっちを向いて!写真を一枚!」
「ねぇ!新作ファッションのモデルになってくれない!?」
「写真を送ってもらったときに嫌な予感はしていましたが、やはり捕まっていましたか。顔だけでなくスタイルも抜群ならさもありなんですね」
そう。囲まれている中心にいる人物こそ、今回のバイトに応募してくれた錠前サオリだ。ツムギは一息つくと、周囲の生徒をかき分けて突っ込みサオリの手を取る。
「すみません、先約が入ってまして。このお嬢さんは私がいただいていきますね」
「むー!ツムギちゃんずるいー!」
「ふっふっふ。私もこんな大当たりが来るとは思ってませんでしたからね。日ごろの行いがよかったということで。それにみなさん、こんなところで油売ってていいんですか?」
「うっ」
「みなさんも、それぞれ展覧会とかの会場準備あるでしょう?」
「くー!ここは引き下がるけど諦めないからねツムギちゃん!」
困惑するサオリの手を引き、ツムギはライブ会場に向かう。
「すまない、学園に来るなり囲まれてしまって……あれは一体何だったんだ?」
「言うならば、美しさは罪と言ったところでしょうか」
サオリは困惑した顔をしたが、思い出したかのようにツムギに向き直るとお辞儀をする。
「とにかく挨拶からだな。改めて、本日ライブ会場設営のアルバイトに来た錠前サオリだ。よろしく頼む」
「おやこれはご丁寧にどうも。私は芸術のテロリスト、椎名ツムギです」
「テロ……リスト?やるものじゃないぞ、そんなもの」
「おっと、これは天然の雰囲気。まぁちょっとした比喩表現ですよ」
「む、そうか。すまない。では早速仕事を始めようか」
そうしてライブの準備が始まったが、ツムギの想定の3倍は働くサオリに恐怖する。
「これはここだな」
「……以前似たような場所で働いたことあるんですか?」
「ああ。海辺でDJの手伝いをしてな……色々あって私自身がDJすることにもなって大変だった」
「へぇ……ぜひその話聞かせてくださいよ」
その後もサオリは人並み以上にずっと働き続け、一切止まることが無かった。
「さ、サオリさん?少し休んでもいいんですよ?」
「いや、この程度休憩の必要はないが」
「いえ。私がDJしていた時の話を聞きたいんです。一緒に休憩してくれませんか?」
「そういうことなら……?」
(セリカちゃんよりも働くんですけどこの人……あのアビドスよりも過酷な環境で普段生きてるんですか?)
休憩中、ツムギはセリカにやったようにサオリにも背後からスポーツドリンクを渡そうとしたが、バレて睨まれたので普通に渡し横に一緒に座る。
「サオリさん。よろしければ私の奢りで後でラーメン食べに行きませんか?柴関ラーメンという店なんですけれど」
「いいのか……?そんなに気にかけてもらって」
「いいんですよ。それだけ働いてくれたんですし。それに、サオリさんが海辺で働いてた時の話はゆっくり聞きたいですし」
(ふふ、騙されそうなぐらい真面目なバイト戦士って感じでセリカちゃんと同じものを感じますし、紹介したら案外仲よくなれるかもしれませんね。セリカちゃんに紹介したら驚くでしょうか?)
そんなことを考えながら、ツムギは休憩を終え、サオリと共に準備完了までもうひと頑張りするのだった。
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