~アリス編~
「~~~♪♪」
アリスは冒険していた。お気に入りのRPGのOP曲を口ずさみながら、もう廃線になった地下鉄を冒険していた。暗くて誰もいない場所。アリスの妄想力ならばここは既にダンジョンそのもの。崩れた瓦礫も真っ暗な道も、アリスを試す試練だと考えれば怖くなどなかった。
「いい曲ですね。確か英雄神話の曲でしたか」
「ひゃあ!?」
だが、さしものアリスも背後から唐突に声をかけられれば情けない声を上げる。盛大にずっこけそうになりながら、背中の超重量のレールガンを軸に方向転換を行い、構える。
「出ましたねモンスター!しかし勇者にはバックアタックなんて効きませんよ!!」
「どうどう。落ち着いてください。私はモンスターではありません。」
「じゃあ何者ですか!アリスはタンク兼光属性アタッカーです!」
「私は椎名ツムギ。ふむ……今ここの『ムード』に合わせるならば、吟遊詩人(バード)と言ったところでしょうか」
「なるほど!アリスと同じ冒険者でしたか!これは失礼しました!」
二人は直感していた。自分たちは同じ波長の生徒だと。だからこそ、こんな状況であっても一瞬で和解し、二人は笑顔を見せる。そして和やかな雰囲気で互いのことについて語り始める。
「ところでアリスさんはなぜここに?アリスという名の通り迷い込んだなら、兎として出口まで案内しますが」
「アリスはここに冒険に来ました!」
「いえそうじゃなくて……何かこう、クエストを受けたとか」
「いえ!今日はそういう訳じゃなくて純粋な冒険です!」
「そう……ですか」
ツムギは顎に手を当ててしばらく考え込んだ後、言葉を選んで返答を返す。
「ここから先には強力なモンスターがいる可能性が高くて……アリスさんのレベルでは危険かもしれませんよ?」
「……はい?」
その瞬間、先を照らしていたスマホのライトがチカチカと点滅し、消灯する。空気にツンとした血の臭いが混じり、生物の遺伝子的に恐怖を呼び起こすような、危険信号そのものの唸り声が狭い路線内に響く。
「!!?アリスさん!逃げましょう!想像以上にこれはレベルが高い!」
爛々と光る眼がどんどん近づいてきて、ずしん……ずしんと足音が響く。
「怨念が過剰に集まり実体化した怪異……これはとてもじゃないが手に負えるものではありません。全力で走りましょう!」
ツムギがアリスの肩を掴む。
「出ましたねボスモンスター!!光よ!」
「えっ」
「GYAUU??」
空間が光に満たされる。血の臭いも唸り声も、光へと塗り替えられていく。
目の前にいるのがオカルトで、ツムギはオカルト研究会だからこそ忘れていた。そう、このキヴォトスにおいてレベル(暴力)は────『問題解決』に一番必要なものなのだ。
「ツムギ!ボスモンスターを倒しましたよ!でもドロップ品は見つかりませんね……」
アリスがぽいぽいと瓦礫を退かしソレがいたはずの場所を漁りながら、報告する。辺りの不穏な空気は一掃され、お祓いは完了したようだ。
「実体化したことによる弱点……ですか。いえ、アリスさんが強すぎただけですねこれは。まさに、アリスの名に相応しい主人公……ですか」
「ツムギツムギ!また今度冒険に行く時はアリスを連れて行ってください!またモンスターの討伐したいです!そうすればレベルアップできます!」
純粋無垢な眼でそう訴える少女は、ツムギ視点、何よりも恐ろしい魔王にも一瞬見えたという。
~ミユ編~
ツムギは思い悩んでいた。というのも、ライブを無事終えたまではいいものの宿泊する場所が無かったのだ。いや、場所はある。新しい楽器を買って金が無いのだ。オカルトグッズに音響機材に、ツムギのキラキラした日常にはとにかく金がかかる。そのため今夜は────
「────『野宿』……するしかありませんか。」
まぁトリニティに旅した時も物価が高すぎて野宿していたし、慣れたものである。野宿によさそうな場所を探して公園にまずは訪れる。
「ふむ……自然豊かで広さも中々。ここで野宿するのがよさそうですね」
ツムギは一通り公園を歩いてみる。野宿する場所なのだから、周囲の確認は欠かせない。そして、一つの違和感に気づいた。
「……動物が少ないですね。ここはアスファルトのジャングルではないはずなのに」
違和感を感じたら調べずにはいられないのは、オカルト研究会副会長としての性(さが)か。文字通り草の根をかき分け捜索を続けるうちに、動物たちの足跡が一方向に集まっているのが確認できた。手がかりを見つけたまらず衝動のままに走り出した先にツムギが見たものとは────
「……美しい」
まるで白雪姫のように、雀にリス、野良猫などの鳥や小動物に囲まれた兎耳のカチューシャが特徴的な少女が木の実を拾い集めている光景だった。
「もし、そこのヒロイン」
無意識のうちにツムギは話しかけていた。
「……?へ!?もしかして私に話しかけてますか!?」
少女はそれこそ兎のように驚いて飛び上がり、怯えた表情を見せる。
「す、すみません……まさか私なんかに話しかけてくれる人がいるとは思ってなくて……」
「こちらこそ急に話しかけてすみません。して、華凜なヒロインは今宵何を目的にこのような場所に?」
「ヒロイン……?私なんかには似合わない称号ですが……えっとその、明日のご飯を集めてたんです。夏はまだ明るいので、晩御飯を食べても食料を集める余裕があるんですよ」
「もしかして……あなたも野宿してるんですか?」
ツムギは再び驚く。なぜこのような気弱そうな少女が一人野宿をしているのかと思ったのだ。
「あ……申し遅れました。私は霞沢ミユって言います……あなたも野宿……ということは?」
「私は椎名ツムギです。丁度今晩眠るベッドを探していたところですよ」
ミユも驚く。見たところまるで武装していない一般生徒が野宿をしようとしているのだから。
「え……その……大丈夫ですか?」
「そちらこそ……そうだ。ミユさんさえよければ、今晩ご一緒しませんか?」
「え、えええ!?」
ミユはぶんぶんと高速で首を横に振る。こういう時だけは意思表示がはっきりしているのが彼女らしい。
「いえ、あなたのようなおとぎ話のヒロインを一人だけにするのはありえません。この出会いは必然。王子として選ばれた我が身として今宵はあなたのことを護りましょう」
「え……えっと」
「実は私あなたの出会いに心が非常にときめいてまして、今宵だけでもいいので少しお話しませんか?」
仲間がいる。と言い出せないのはミユが臆病だからか。それとも……
(こんな自分に興味を持って貰えてるんだ……)
「じゃ、じゃあ今夜だけ……えへへ」
ミユは今日は個人的な任務があって帰れません、とだけ連絡を入れて、ツムギと添い寝……もといツムギの護衛をすることにした。
次の日、何があったかをミユは珍しく明るい表情で部隊の友達に報告していった。ヒロインと呼ばれたこと。楽しくて星を見上げながらずっとおしゃべりしたこと。モモトークも交換してしまったこと。
そんな楽しい時間は隊長の一言で風向きを変える。
「つまり、ミユを甘い言葉で誘って一緒に寝たと?」
「あ……いや……一緒に寝たのは私の意思で……」
「そうやっていつも騙されそうになってるだろ!以前だって先生に首輪をつけられたとか話題になってたぞ!」
「あう……あれも……私が……勝手にしたことだから」
「そいつ爆破したほうがいいんじゃない?この手の輩はしつこいよ。運命とか言って付きまとってくるんだから」
「わ……私の話を……聞いて……あうう~」
「へくしゅん!……野宿で風邪でもひきましたかね?」
ツムギ爆破まで、後30分。