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~ツルギ編~
「キヒヒ……」
茜色に染まった空。公園から帰っていく子どもたちを見送りながら、ツルギはブランコに座り考え込む。青春とはなんなのか。自分は青春を送れているのか。キラキラした青春が血なまぐさい自分に似合うのか。こんなことを考えるのは、今日が初めてではない。ツルギだって年頃の女の子なのだから、当然何度も考えては、結局自分にはそんなもの似合わないと拒絶してきた。だが、抑え込むほどに欲望は表に出てこようと暴れるもの。
「………………」
きょろきょろと周囲を見渡し、誰もいないことを確認する。特に、子どもに聞かれたら泣いてしまうかもしれないという懸念がツルギにはあった。息を吸い、吐いて、更に一段大きく吸い込み、空に向かって叫ぶ。
「キェェェェェーーーー!!!!」
空が震えるほどに叫ぶ。電柱にとまっていたカラスは怯えて飛び去り、周囲の落ち葉は衝撃で舞い上がる。
(よし、ストレスは解消できたな)
これがツルギなりのストレス解消法だ。暴れたり叫んだりするバーサーカーとしての一面を強く出して、弱気な自分を制するのである。
「さて……帰るか」
ツルギが帰ろうとした、その時であった。茂みから少女が顔を出していたのだ。髪も緑、制服も緑で茂みの色と同化し見逃していたのだろう。ツルギらしくもない失態だが、思い悩めば誰でも視野が狭くなるものだ。
「あなた……」
ばっちり目が合ってしまい、ツルギは顔を熟れたイチゴのように真っ赤にする。
「あ、その。す、すみません?えっと、うるさかったですよね///」
あんな叫び声をあげておいて今更ではあるとはツルギ自身思ったが、相手にまずは謝罪する。
(恥ずかしい!気まずい!爆発したい!!爆発してここから消えてなくなりたい!!)
凄まじく重い沈黙が場を制圧しそうな時、茂みから飛び出した少女の一言で空気が変わる。
「あなた!凄まじいデスメタルの才能を感じます!名前をお聞かせください!」
「へ……?剣先ツルギですけど……?」
「私は椎名ツムギ。ワイルドハントで実践音楽を専攻している────『兎』です」
「う、兎?」
「ええ。あなたを芸術の世界に案内する時計兎です」
「芸術の世界?」
「ええ。私と共に芸術の世界を歩む気はありませんか?」
ツルギがまるで状況の理解ができていないまま、ツムギはツルギの手を取る。先ほどまでの恥ずかしさと、現在の状況の意味不明さで凍り付いていたツルギは、ツムギの手から伝わる熱でやっと手をとられていることを理解する。
「えっと……その?」
「要するに、一緒にバンドをする気はありませんか?というお誘いです」
「へあ!?ば、バンド!?そんなキラキラしたものに私が!?」
ツルギは跳び退きそうになるが手を握られているためできない。ツルギにとってバンドと言えば、スイーツ部がしていたようなキラキラした青春の象徴の一つのようなものだ。そんなものに自分が誘われたという事実に頭が真っ白になる。
「あ……ええっと……私は」
「ふふ、返事は焦らなくてもいいですよ。もし、興味があればこちらの番号にご連絡ください」
ツムギは連絡番号を渡し、くるりと背を向けて去っていく。ツルギはじっと連絡番号の書かれた紙を見詰めた後、ツムギの背中をまっすぐ見据え、声を張り上げる。
「あ、あの!!!」
「どうしました?」(め、目が合っちゃった。は、恥ずかしい!でも、これだけは伝えなくちゃ)
できる限り声を張り上げてツルギは胸の内を叫ぶ。
「へ、返事はどうなるかわからないですけど!!私を誘ってくれてありがとうございます!!」
「ふふ、いい声です。やはりあなたは才能があります。いい返事、期待してますよ」
今度こそ遠くへ去っていくツムギの背中を見ながら、ツルギはバンドをする自分の姿を想像してみる。
「バンド……私がバンドに誘われる、かぁ」
自分が誰かに戦闘以外で認められる、キラキラしたものに誘われるという経験。彼女がどんな返事をしたにしても、この一件が彼女の人生の小さな転換点になるのは間違いないだろう。
~アコ編~
「答えてください!あなたの目的はなんですか!!」
ゲヘナに来て早々、風紀委員の行政官を名乗る生徒にカフェに連れ込まれたツムギ。行政官は机に手を叩きつけ、ツムギにいきなりすぎる質問をする。
「あの~~ここカフェですし、まずはもう少し静かにしませんか?」
自分が騒ぐのを咎める側になるとはツムギも思わなかったが、不本意な状況で明らかに周囲から悪い注目を集めているとなれば、さすがに苦言も呈する。
「そうやって言い訳して逃げるつもりですか!まぁ、あまり周囲に聞かれたら困る会話なのでもう少し静かにしてあげてもいいですけど」
(じゃあなんであんな風に叫んだのでしょうか……?)
疑問に思うが、まずはそれよりも優先すべき疑問の解決を優先する。
「あのー、そもそもあなたは何者で、なぜ私を疑っているんですか?」
「ふむ。そういえば名乗っていませんでしたね。私は天雨アコ、風紀委員会の行政官です。椎名ツムギさん、あなたには万魔殿と接触していた疑いがあります」
「ああ、それだったらしていますね。イロハさんとチアキさんにゲヘナを案内してもらったり、イブキちゃんの子守りを頼まれたこともあります」
「やっぱり!あの万魔殿(タヌキ)どもと一体何を企んでいるのですか!!」
「いえ……その。ただの友達ですが……」
プルプルと震えた後、アコは鋭い目で睨みつけながらコップのコーヒーが震える大きさの声で叫ぶ。
「嘘を言わないでください!万魔殿(あいつら)が何も企んでない訳ないでしょう!」
「えぇ……」
あまりの気迫に押されるツムギ。どう返答したらいいものか頭を悩ませる。
「えっと……そもそも私はワイルドハントでは特に権力なども持たないただの生徒なんですが……」
「そんなことは調べているに決まっているでしょう!風紀委員会の情報網をバカにしているんですか!?あなたはオカルト研究会で怪しい儀式をしている問題児ということまで知っています!」
「ではなぜ……?」
「催眠術なんで怪しいものに頼ってる組織が、オカルトに手を出してもおかしくないでしょう?最近じゃあ幽霊船の船長になったとかいうわけわからない噂まで立っているんですから!」
「待ってください!?幽霊船!?なんですかその美味しそうなネタは!!」
「……あっ、あなたの差し金じゃなかったんですか?」
「ちょ、ちょっとすみません。今すぐ取材に行きたいので!!」
コーヒーを急いで飲み干し、カフェから出て行こうとするツムギをアコは羽交い締めする。
「こら!逃げようとしないでください!!」
「離してください!最高のインスピレーションが私を呼んでいるのです!!」
ギャーギャー騒ぎ出す二人。ここがゲヘナじゃなかったらカフェから追い出されてもおかしくないのだが、幸いゲヘナならばまた頭のおかしい奴らが騒いでる程度で周囲からの認識は収まる。
「ちょ!?どこ触ってるんですか!?変態!スケベ!馬脚を露しましたね!?」
「そんな異世界みたいな服着てる側の問題でしょう!!ステージ衣装でもそんな衣装着ませんよ!!レナちゃんに見せたらなんて言われるか楽しみな服です!」
「な、なんですかその言い草は!!」
結局、アコが離してくれずツムギはもう一度席に座り尋問を受ける。
「では、最後にこれだけ質問させてください。ヒナ委員長とも接触したというのは本当ですか?」
「ええ。本当ですよ?一曲演奏してもらいました」
「……ヒナ委員長に怪しいことはしていませんか?取引を持ち掛けたりとか。もしくはその行動自体が万魔殿の差し金だとか」
「ふふ……私は音楽に関することで決して嘘を吐いたりなんかしませんよ。私の曲を聞いていただければわかるでしょう」
アコは腕を胸の下で組みムムムと唸った後、ずいっと顔をツムギに近づけ、宣言する。
「いいですよ!それなら一曲演奏して、私を納得させることができたらこれ以上追求することは無しとします!」
「おお。ストーリーが見えてきて面白くなってきたじゃないですか。まるで小説のような展開です。それならこの後一曲広場で演奏するとしましょう」
「ふふ、私をそう簡単に満足させられると思わないでください。なんなら賭けてもいいですよ?」
広場にて一曲演奏が終わり、アコは悔しそうな顔でハンカチを噛みしめる。
「ぐぬぬ……しょうがないですね!ここは満足したということにしてあげますよ!感謝してください!それでは」
「おっと待ってくださいアコさん?人に散々質問しておいて、そのままさようならはないでしょう」
「……へっ?」
「あなたみたいな愉快な狂犬を放っておくのはもったいない!こちらからも質問攻めしてインスピレーションの種にしていただきますよ!!」
「はぁ!?」
そうして双方向による徹底的な尋問の結果、最悪な初対面に反して意外と仲良くなった二人であった。
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