42/100!!
~カズサ編~
「……」
「……」
ツムギとカズサは向かい合って座っていた。別に大した理由があったわけではない。先ほどまではアイリも含めて三人でスイーツを食べながら話していたが、アイリが急用で抜けたのだ。アイリがいなくなったからといって、じゃあさっさとスイーツ食べてさようならするほど知らぬ仲でもない。それに、互いに聞きたいことはあるのだが、聞きたいことをいきなり質問する程無礼できる間柄でもない。結果、相手の出方を伺う絶妙な読み合い状況になったのだ。そんな状況を先に動かしたのはカズサだった。
「ねぇツムギさん」
「はい、なんでしょうか」
「なんでアイリに目をつけたの?」
「いえ、アイリさんが先に私に目をつけたんですよ。なんだか、路上で演奏している私がキラキラして見えたみたいで」
「ふーん……アイリ側から目を付けたんだ。てっきり、ツムギさんの方からアイリをバンドに誘ったものかと」
「ふふ、もう随分昔のことのように感じますねぇ、アイリさんとの出会い」
「あの時は、楽曲の提供にライブへのお誘いしてもらったんだったよね。えっと……本当にありがとうございました」
改まって礼をするカズサがおかしくて、ツムギはくすくす笑いながらチョコケーキを一口つまみライブの日のことを想い返す。
「懐かしいですねぇ……みなさんがライブに初めて来た日、ライブが終わってみなさんと対面した時、カズサさんに凄い目で見られてましたからね。明らかにこっちを睨みつけてましたよね?」
「だって、アイリを悪い趣味に誘ってる怪しいバンドマンに見えたから……」
「デスメタルやってる人への偏見が凄いですね……」
「正直今でも少し疑っているよ?ヒロインとか調子のいい言葉使ってアイリを誑かそうとしてるんじゃないかとは」
「カズサさんは相変わらずアイリさんの守護者(ガーディアン)ですね。でも、ヒロイン扱いしたい魅力に溢れていますからねアイリさん。素直で努力家で愛嬌たっぷりでどこか自信が無くて……私のルームメイトにもいるんですよ。似たような可愛い子が」
「……本当にすぐ可愛いとか口に出すよね。いつか刺されても知らないよ?」
「可愛いものは可愛いんです。カズサさんだって可愛いですから安心してください」
そう言ってカズサの頭に手を伸ばす。カズサはフォークを持ってるのと反対の手でツムギの手を振り払う。
「撫でようとするな!!」
「失礼。うちの猫と同じように撫でてあげたら喜ぶかなって」
「猫扱いするな!!次やったらぶん殴るからね!?」
そうやって反抗するところもうちの猫ちゃんそっくりだと言おうと思ったが、本当にシメられそうな雰囲気を感じたため言わないでおくツムギであった。
追加のマカロンを注文したツムギは届くのを待つ間カズサに逆に質問する。
「そういうカズサさんはなぜアイリさんに目をつけたんですか?さっきの聞き方からして、カズサさん側からアイリさんに目をつけた感じですよね?」
「……言わなきゃダメ?」
「私は教えたんですから、そっちも答えるのが平等じゃないですか?」
「……スイーツ食べてる姿が、キラキラして見えたんだ。ただ、それだけなんだけどさ。昔の自分が馬鹿らしくなって、それでスイーツ部に入ったんだ。」
「ほほう。アイリさんも罪な女ですねぇ。そんなことをしながら、自分に自信なさげに私に相談していたとは」
「このこと、絶対にアイリには言わないでよね?」
「何かまずいんですか?カズサさんがアイリさん大好きなことは、もはや誰にも隠せてない事実だと思いますが」
「な、何言ってんのあんた!!」
顔を真っ赤にして、しかし否定はできないカズサ。そんな素直な反応を見て、更にツムギの口は回る。
「アイリさんには逆らえませんもんねカズサさん」
「だ、だってあんな純粋な目で頼まれたら……無理じゃん。断るの!」
「ああでも、アイリさんはカズサさんに好かれてることいまいち気づいてないかもしれませんね。アイリさん、自分の魅力に気づいてませんもんねぇ。さっきみたいなエピソードもカズサさんは本人には絶対に言わないでしょうし」
「まぁ、アイリならそうかも……割と鈍感なところもあるしあの子」
ツムギは顔をずいっとカズサに近づけ、ひそひそ声で一言告げる。
「しかし、カズサさん。そんな奥手ではアイリさんをどこぞの馬の骨に取られてしまうかもしれませんよ?例えば私みたいな人に」
「はぁ!?」
睨みつけるカズサに平気な顔をしながらツムギは届いたマカロンを頬張る。
「あ……これ美味しい。それで?カズサさん。アイリさんのいいところ、普段ちゃんと言ってあげてますか?なんなら、今ちゃんと言葉にできますか?」
「そ、それくらいできるし!?」
「じゃあ聞かせてくださいよ。カズサさんから見たアイリさんを。私気になります♡」
その後もアイリに関することをずっと語り合った二人。アイリはその日風邪でもないのにずっとくしゃみが止まらなかったらしい。
「へくしゅん!!」
~レナ編~
「レナちゃ~~ん。助けてください~~!!」
ツムギがレナに跳びつくと同時に、レナはまるで蠅を払うようにツムギを叩き落とす。
「シャー!!いきなり跳びつくな!!」
「いきなりじゃなければいいんですね?じゃあ今から跳びつきます」
「そういう問題じゃないでしょ!!」
そうは言いつつも素直にツムギに抱きつかれるレナ。本人的には諦めているだけのつもりだが、無意識に口元が緩んでいる。
「それで、何の用なのツムギ先輩。何を助けて欲しいの」
「実はライブ用の衣装がリハーサル中に破れてしまって……レナちゃんに縫って欲しいんですよ」
「なんだ、その程度ならすぐに終わるわよ。それじゃあ、服、出して」
「え……代金として脱げということですか?そんなレナちゃん……今日は随分と積極的ですね」
「誰が今着てる服を出せと言ったのよ!!ライブ衣装出しなさい!シャー!!」
「ふふ、冗談ですよ。レナちゃんを揶揄っただけです」
「堂々と言うな!開き直るな!このバカ先輩!!」
あーだこーだと文句を言いつつも、渡された瞬間レナは手慣れた手つきでライブ衣装を縫っていく。そもそも困ったときはデザインを相談したり、場合によっては一から作ってもらうこともあるのだから、レナがライブ衣装を扱えないわけがないのだ。
「はい。直ったわよ」
「え、早くないですか?また腕を上げましたねレナちゃん」
「ふふん!それほどでも……あるかも?」
得意げに鼻を鳴らしてツムギに直った衣装を渡す。ほら、完璧に直したんだから今着てみなさいよと言わんばかりにレナはじっと見詰めている。代金として脱ぐとか先ほどツムギが冗談で言っていたが、そもそも同じ部屋で過ごしているのだから着替えぐらい見慣れているのだ。ツムギも特に気にせずレナの前で着替えてみる。
────だが、直ったはずなのに衣装が入らないのだ。
「ふぬぬぬぬ……」
「おかしいわね……縫ったからって元の衣装とサイズは変わってないはずなのに……洗って縮んだとかじゃないわよね?」
「そんなはずはありません……ステージ衣装は最大限に気を使って管理しています!お姫様に仕えるメイドのように!」
レナは少し唸って考え込んだ後、何かに気づいた顔をする。しかし、すぐには何かを言わず10秒ほど経ってから、重々しく口を開いた。
「ねぇ……ツムギ先輩。そういえば最近新しくできた友達とよくスイーツ食べにいってる写真送ってきてるよね」
「………………」
「しかも、話聞く限り他のメンバーがよく食べるから釣られてけっこう食べてるっぽいよね」
「………………」
「ねぇツムギ先輩。言いたくないけどもしかして」
「────それ以上は、それ以上はなにも言わないでください」
体の持ち主として最近目を逸らし続けた事実を、確たる物的証拠付きで可愛い後輩に突き付けられたという事実。さすがにツムギといえどダメージの大きさは相当なものだ。レナが聞いてきた中で一番真剣な声色で、やめるよう懇願する。しかし────
「いや。ツムギ先輩のために言わせてもらう。太ったから衣装破れたんでしょ」
トドメの一撃。レナはツムギのお腹をツンツン突く。ぷにっと音が聞こえそうなぐらい指が沈む。
「あーあー!!聞こえません!何も聞こえません!!」
「現実から目を背けるな!」
スパァンと頭を叩かれ、椅子に座らされるツムギ。レナは椅子を引っ張ってきてツムギと対面する。それはまるで子どもに説教をするお母さんのような構図であった。
「それで、ライブどうするのよ。このままだと衣装着られないわよ」
「はい……本番までに痩せます。スイーツも控えて、運動もします……」
「できる?本当に?」
「も、もちろんやりますとも!私がレナちゃんに嘘を吐くような真似をしたことありますか!!」
「私を驚かせるために~とか。私から怒られないために~とかの理由でたくさん嘘吐いたことあるでしょ」
図星を突かれ目を逸らすツムギ。レナは大きくため息をついて、ある提案をする。
「しょうがないわね……私がツムギ先輩がダイエットできるように見張っててあげるから。まずはランニングね?後、お菓子は没収するから」
「そ、そんなぁ!?私の作曲中の食事が!」
「うるさい!というか作曲中もちゃんとご飯食べなさい!ダイエットは規則正しい食生活と運動から!」
さすがのツムギも大事な後輩に言い訳のしようがない弱みを握られればどうにもできない。こうしてレナの管理の元で椎名ツムギダイエットプロジェクトが始まったのだった。
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