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~ヒヨリ編~
とうとう迎えたワイルドハントの特大芸術イベント当日。ツムギも当然ライブを披露するがそれは2日目。今日は明日に備えて英気を養う時間である。
「リハーサルも終わりましたし……せっかくですし色々見て回りましょう。同業者から得られる熱は、何物にも代えがたい────『インスピレーション』、となるのですから」
制服に着替えて、この日のためにたくさん用意したお金の入った財布を持ち、準備万端!意気揚々と寮から第一歩を踏み出して、地面に突っ伏した少女を跨ぎ、いざ祭典(フェスティバル)の世界へ────────少女?
「……へ?」
(ルンルン気分で完全に見過ごしていましたが、今地面に誰か突っ伏してましたよね?)
体が固まり、やっと思考が追いつく。勢いよく振り返ればそこには巨大な銃を背負った水色髪の少女が倒れていた。
「他校の生徒ですかね……とりあえず、部屋に運びますか」
今部屋には他に誰もいない。ルームシェアしているなら誰かを部屋にあげる際はまずは許可の電話をするのが礼儀だろうが、そんなこと言っている場合ではない。それに、どこかの誰かが倒れているのにそんなことを一々気にするような生徒ではないことはツムギが一番よく知っている。ツムギは少女の体を持ち上げ、巨大な銃ごと背負いあげる。
「おも!?」
最近体を鍛えていた自分に感謝しながら、少女を背負って運ぶ。
部屋に運び込んで少し経った頃、ベッドから体を起こした少女はきょろきょろと周囲を見渡す。
「ううん……ここは?」
「おや?起きましたか。思ったよりも早かったですね」
「ひゃあ!?うわぁぁぁぁぁぁぁん!!死神に捕まってしまいました!!」
「死神……?」
「このまま地獄に連れていかれて、あの世の一員にされて、永遠の苦しみを味わうことになるんです!!どうせここまで辿り着いたなら美味しい物をたらふく食べてから死にたかったです!!うわぁぁぁん!!」
「……まずは落ち着いて、水でも飲んでください」
「へ?お水?いいんですか?」
「そもそも介抱するために部屋に運んだんですから。ほら、零さないようにゆっくり飲んでくださいね」
少女はコップを受け取った瞬間逆さにしてごくごくと飲み干し、更にもう一杯くださいと言わんばかりにツムギの手にコップを戻す。
「あ、ありがとうございますー!!!ワイルドハントでは今日ただでご飯が食べられるって聞いたから、やって来たんですけど、途中で意識を失っちゃって!!もうだめかと思いました!!」
「あ~~確かに、食材を使ったアートはお披露目した後観客のみなさんに食べてもらったり、味も芸術の一部として料理やスイーツをお客さんに食べてもらって採点してもらう対決などがありますね」
ツムギはもう一杯水をコップに入れて渡すと、今度こそ少女はゆっくり水を飲みながら話をする。
「綺麗な食べ物が食べられるって聞いて、いてもたってもいられなくて3日ほど前からワイルドハントの近くに来たのはいいんですけど……」
「いいんですけど?」
「あ、あんまりいい野宿場所が見つからなくて……食料も全然転がってないですし……」
その話を聞いたツムギは、目を丸くして少女の方をじっと見つめる。
(や、やっちゃいました!!?お腹が空いて頭が回らず、余計なことを口走っちゃいました!!怪しい生徒だと思われちゃいます!?)
「あ……その!今まで言ったことは忘れてください!
「いえ……わかる、わかりますよその気持ち。この辺り、野宿に向いてる場所有りませんよね。無料で食糧確保できそうな場所も」
「へ?」
「なにせ芸術意識が高いので、どこもかしこも綺麗にされちゃってるんですよね……芸術品に溢れていて誰の目にも留まらないような場所もありませんし、廃棄弁当なんかもゴミ箱が一見ゴミ箱に見えない場所が多くて狙うのが難しいですよね」
「な、なんでそんなこと知ってるんですか……?」
「私も頻繁に金欠になり外出時に野宿したりするタイプなので……さすがに廃棄品を漁ったことはないですが、外出時の野宿程度ならワイルドハント生でも意外と多いですよ?それに、ワイルドハントやその近辺にはそもそも芸術家が多いので、金欠になってそういう浮浪者紛いの行為をする芸術家が多かったことも防止策が講じられた一因だったりします」
「芸術家って大変なんですね……?」
「ええ……あなた名前は?」
「つ、槌永ヒヨリです」
「私は芸術の死神、椎名ツムギです。よろしければ私が案内しましょう」
ツムギの案内でワイルドハント内を歩くヒヨリ。人ごみに消えてしまわないようにツムギはしっかりヒヨリの手を掴む。
「どこもかしこも綺麗ですね……そ、それで、ただで食べられるっていうのは……どこなんですか?」
「ふふっ、これだけ人が多いと都合よくありつけるかどうかかなり怪しいですし、お腹いっぱいになるまで食べることはできませんからね」
「そ、そんな!騙されたんですか!?や、やっぱり現実はそんなに甘くないんですね……」
「その代わり、私がとびっきりのレストランをご馳走してあげましょう。見た目も味も保証しますよ?」
先ほどまで死んだ魚のようだったヒヨリの目が宝石のように輝き、ツムギの手を握る力も強くなる。
「おお……あれ?でもツムギさんって頻繁に野宿するぐらいお金が無いんじゃ?」
「いいですかヒヨリさん。芸術家が金欠になりがちな理由の一つには金の使い方が壊滅的に下手というのがあるんですよ」
「す、凄い!なぜかわからないですけど自信満々です!?」
レストランで注文したメニューはどれをとっても作品と言って差し支えないほどに綺麗な逸品であり、目でも味でも客を楽しませようという気概を感じさせる。
「うわぁぁぁん!!美味しいです!それにとっても綺麗です!!」
「ヒヨリさんって綺麗なものに興味はあるんですね」
「え……変ですか?」
「世の中の芸術家じゃない人は窮すると美しさに鈍するものですからねぇ。もしかしたらヒヨリさんには芸術家の才能があるのかもしれませんね」
「えへへ……本職の方に言われると照れちゃいますね」
レストランを出た後はツムギの案内でワイルドハント中を巡ることになったヒヨリ。行く先々で感動し続けるヒヨリが楽しくてツムギも色々な場所を案内するのだった。
「こちら服飾専攻の展覧会です」
「うわぁぁぁ!!?綺麗な服がいっぱいです!!商品もあるのに、買うだけのお金が無いのが悲しいです!!」
「モデルによるショーもありますよ」
「えへへ……キラキラしていて、こんな舞台がモデルさんの足元からでも見れるなんて感動です」
「こちらは絵画展です」
「うわぁ!?世界をこんなにも美しく描けるなんて……私たちでは絶対にできません」
「こちらはアニメ系ですね」
「キラキラしています!!なんというか、夢と希望に溢れているというか……私にもそういうものを感じる気持ちがあったんですね……えへへ」
「こちらは彫刻展になります」
「だ、大迫力ですね……重量感が伝わってきます。石だからこそできる表現ってあるんですね」
「こちらはメディアアート。テーマはこちらに問いかける芸術だそうです」
「こちらに問いかけるタイプの芸術……ですか。芸術の世界は奥が深いんですね」
日も落ちて暗くなったころ、ツムギとヒヨリは寮の前に帰ってきていた。
「さて……最後に音楽の世界をご案内しましょうか」
ツムギはバッグの中から自身のライブのチケットを取りだし、一枚渡す。
「明日、ライブをするんです。よろしければヒヨリさんも見に来て下さい」
「うわぁ……いいんですか!?これ本来お高いんじゃ?」
「本来はチケット代金を頂きますが……ヒヨリさんは特別ですよ?将来の芸術家への投資です」
「こ、今度何か困ったときは私に連絡してくださいね……できることは少ないですけど、必ずお返しするので。えへへ」
「それではヒヨリさん。また明日ライブ会場で会えることを楽しみにしています」
後ろ手を振って別れようとするツムギ。しかし、そんなツムギを弱弱しい声でヒヨリは止める。
「あ……あの……」
「……?どうしました?」
「わ、私眠る場所がないので、よろしければ毛布の一枚でも貰えると嬉しいんですけど……えへへ」
「……今日私たちの部屋に泊まります?」
「うわぁん!!何から何まですみません!!本当にいつかお返ししますので!!」
「せっかく別れのシーンを演じたのに、カッコつきませんねぇ」
その後、ヒヨリの卓越した隠密技術により寮監隊にバレることなく、404号室でお泊りすることができた。カノエ、エリ、レナも事情を聞けばこころよく泊めてくれ、ヒヨリは泣きながら何度も感謝したという。
~フユ編~
ワイルドハントの特大芸術イベント2日目。ツムギはライブを終え、楽屋で力尽きていた。
「あ、あ~う~~」
言葉にならないうめき声を出しながらソファで横になるツムギ。今は周囲に誰もいないとはいえ、とても年頃の乙女が晒していい姿ではないな……とツムギは考えていた。考えていたのだが────
「……何してんの?」
「ひゃう!?」
「さっきまでステージ上でデスボイス全開にして叫んでたくせに、随分と可愛い声出すじゃん?」
「フユさん!?な、なんでいるんですか!?」
「さっきからずっとノックしたのに返事が無かったんだもん……差し入れだけ置いて帰ろうかなって思ったら普通に寝っ転がってるし」
「ぜ、絶対に他の人に言わないでくださいよ!?私のキャラじゃないので!」
「え、意外。キャラとか気にしてたんだ。私は割と気にしてかっこつけてるタイプだけど、ツムギは素でやってるものかと」
「そりゃ基本は素ですけど、それはそれとして頼れるアーティストを演じてる面は多少ありますよ……身に余る光栄ですけど、私に憧れを抱いてくれている人も少なからずいるので」
「へぇ。真面目だねぇ?」
友人の意外な一面が見れたのが嬉しかったのか、フユはケラケラと笑いながらツムギの隣に座る。ツムギが顔を背けた状況で、フユはごそごそとバッグを漁り、荷物を取り出す。
「差し入れのフユさん特製お弁当があるけど……食べる?」
「食べます。今すぐ食べます」
「わぁ、一瞬で釣れた」
「だってフユさんの料理美味しいんですもん」
「素直な子は好きよ?交渉がしやすいから」
ツムギがお弁当を開いてみれば、中に詰まっているのはだし巻き卵にウインナー。唐揚げにきんぴらごぼうに……色とりどりのおかずが丁寧に詰め込まれている。更に大きなおにぎり二つが別に付けられており、満足感に溢れたお弁当である。
「これですよこれ!これぞお弁当のイメージ!まさに模範的お弁当!この感動の覚え方はフユさんの弁当が芸術品の域に達している証拠でしょう!」
「なんかツムギテンションおかしくなってない?疲れてるから?」
フユからの質問も気にかけることなく、ツムギはだし巻き卵を一切れ食べて続けておにぎりを頬張る。口の中に広がる多幸感に脳が痺れ、疲れが全身から吹き飛んでいくのが実感できる。
「ところで、何が狙いなんですか?なにか密輸の手伝いをして欲しいとか?今なら何でもお願い聞いちゃいそうですよ」
「いやいやまさか?友人としてねぎらいに来ただけですよ?私ってずっと何か企んでるように見える?」
「まぁ割と」
「ふふ、まぁこの学園を裏から操作する桜井先生の足役だからね。そう思われるのも無理はないかも」
「またそんなことを言って……ミヨさんに言いつけますよ?」
「それだけはやめて!?……まぁ、わかりやすく言うなら、お得意様の信頼を買ったってところかな。信頼は取引において最も高価な逸品だから」
「相変わらずかっこつけですねぇ……ですが助かりました。正直ライブの後は栄養不足なのに何もする気が起きないので」
ツムギが食べ終わったのを見計らってフユはデザートのカップケーキをツムギに差し出す。ツムギは一礼をして受け取ると、ぺりぺりとカップを剥がし始める。
「それにしてもフユさんには結構助けられていますね。壊れた機材を直すのにも何度か呼んでしまいましたし」
「私としてはお金なんていっつも足りてないから割のいいバイトで助かったけどね」
「……私たちが知識無いからってぼった喰ったりしてませんよね?」
「まさか。取引は公正公平にだよ。むしろ安めの価格で修理してあげてるんだからね?」
「ふふ、何かお返しをしなければいけませんねぇ」
カップケーキまでしっかり食べ終わったツムギは手を合わせて食後の挨拶をする。
「ご馳走様でした。あ、そういえば昨日フユさんの個展に他校の友人を連れて行きましたよ。見る人に問いかける芸術というのが珍しいみたいで、随分と興味深そうに見ていました」
「お!それは嬉しいねぇ!なんだよ~~私もツムギに助けられちゃったな?持つべきものは友人ってね」
ぺしぺしとツムギの背中を叩いて嬉しそうにするフユ。そんなフユを見てツムギも嬉しそうに微笑みはするが、それはそれとして叩いてくる手を掴んで締め上げるのだった。
「ちょ!?痛い痛い!?離して~!?」
「すみません。フユさんの反応がいいものですから……ついイジメたくなるというか」
「酷いなぁもう……そういえば最近のオカルト研究会の調子はどう?」
「いや~最近はさっぱり当たりは引けませんね~。前はよさそうな情報手に入ったのに、寮監隊に邪魔されてしまって星の並びが揃った夜に外出できませんでしたし」
「ごめんね~?私たちのせいでまた寮監隊が厳しくなったみたいで?」
「まぁ、なぜか密輸品が学内にどんどん増えているんですからねぇ。私も何度か密輸してもらった以上なにも言えませんけど。ふふ」
「二ヒヒ」
そんな風にグダグダ最近会ったことを話す二人は年相応の学生そのもの。芸術家でもないただの問題児二人としての会話も、息抜きとしては大事なのである。
気が向いたら評価お願いします!