ついに50/100!!
~ユメ編~
「あ、暑い……干からびます」
ツムギはアビドス砂漠で一人、棒を引きずって歩いていた。別に遭難した訳ではない。儀式のために魔法陣を描いているのである。
必要な条件は砂地に直径20mの魔法陣を描くこと。一人で行うこと。昼間に行うことであった。
直径20mの魔法陣を描ける大きな砂地は中々あるものではない。そのため真昼間のアビドス砂漠に来て、滝のように汗をかきながら棒を引きずり魔法陣を描いているのだ。
「さて……降霊の儀式は上手くいくのでしょうか」
魔法陣を描いた後、たまらず水を飲む。直径20mの魔法陣など上手く描けているか地面に立って分かるわけがない。できる限り丁寧に描いたので、どうにか成功していることを祈る。
「もう二度と描きたくないですが、これ失敗しても元々効果が無いガセなのか、それとも魔法陣が失敗しているのかわからないのが悪質ですね……」
ツムギがもう一度ペットボトルを逆さにして水を口に含み、前を向き直すとそこには半透明でいかにも幽霊ですと言わんばかりの水色髪の少女がふわふわ浮いていた。
「ぶっーーーー!!!??げほっげほっうぉえ!!?」
思わず口から水を噴き出すツムギ。気管の変なところに水が入りむせ返る。少女も驚き、水は全て貫通しているのに思わず飛び退いて手で顔を守る動作をする。
「ひぃん!!?汚いよぉ!!」
「うぇっほ!?えほ!え!?え!?誰ですか!?というか喋りました!?」
「え!?私の姿が見えるの!?」
「見えますよ!?……いやよく考えたら私が呼び出したのか。失礼、あまりにもイメージの幽霊と違ったので突っ込んでしまいました」
「私は梔子ユメ。アビドス高校の生徒だよ!あなたは?」
「私は椎名ツムギ。ワイルドハントで芸術とオカルトの探求を続ける冒険者です」
「ワイルドハントの生徒さんなんだ~。何しにアビドス砂漠まで来たの?」
「あなたに会いに来ました」
「え!?うそ!?嬉しい~!私っていつの間にか有名人になっちゃったのかな?」
「いえあなたに会いに来たというのも少し語弊があるのですが……」
「じゃあ会いたくなかったの!?」
「いえ、とても会いたかったです」
「やったー!」
とりあえず話が通じそうで、自分が呼び出したと言っても怒られなさそうなので、ツムギは細かく事情を話すことにした。
「私は降霊術を試そうと、アビドス砂漠まで来たんですよ。足元の魔法陣はそのために描いたんです」
「え!?これ魔法陣だったんだ!」
「ユメさんが現れたということは……この降霊の儀式は本物という事ですかね?」
「う~ん、私はそもそもお盆だから現世に顔を出せただけだからなぁ。それで、砂漠に大きなサインを書いてる人がいて、もしかしたらSOSなんじゃないのかなって思って急いで走ってきたんだよ?足ないけど」
「幽霊ジョークをいただきました。となると、降霊ではなく、あくまでそこに存在する霊を見ることが出来るだけの儀式。ですが幽霊が実際に見えたため降霊の儀式だと勘違いされ伝わったというところでしょうか。次は砂地以外でもできないか試してみましょうか……?」
「面白そう!お盆のうちなら私がつき合ってあげるよ!」
想像の数十倍はフレンドリーな幽霊に困惑しつつも、せっかくなので根掘り葉掘り話を聞いてみようとするツムギ。ユメは相変わらずのほほんとした顔でツムギからの話題を待つ。
「そういえばユメさんは元々アビドスの生徒なんですよね?なんというか、若くして死んだのに悲壮感がないというか……」
「最初は悲しかったけど、ずっと悲しんでるだけじゃ後輩に心配かけちゃうからね」
「凄い人ですねユメさんは」
「う~ん、そうかなぁ。私がポンコツだったせいで、後輩にはたくさん迷惑かけちゃったしなぁ……特にホシノちゃんにはしょっちゅう怒られてたし」
「ふふ、安心してください。ユメさんの優しさはちゃんと後輩たちに受け継がれていますよ。私はセリカさんやシロコさんにお世話になったことがありますから、よくわかっています」
「そうなんだ!!確かにセリカちゃんもシロコちゃんもいい子だもんね……そこに私の影響が少しでもあったら嬉しいな!」
「脈々とストーリーとともに受け継がれる想い……これも含めてユメさんの物語ですから。死んだらそこで全て終わりではありません……まぁこの調子だとあの世で第二幕が始まってそうでもありますが。あの世ってどんなところなんですか?」
「う~んとねぇ。契約でそういうことは生きてる人に言っちゃダメなんだって!」
「ううむ、残念。ですがユメさんの様子を見るに悪い所では無さそうですね。最も、ユメさんの日ごろの行いがよかっただけの可能性もありますが」
「そういえばツムギちゃんってワイルドハントの生徒なんだよね?何が得意なの?」
「私は実践音楽を専攻していています」
「ほほぉ!演奏とかできるのかな?」
「ええ。楽器は私の魂とも言えるものです。今日だって持ってきてますよ」
「ねぇねぇツムギちゃん!ツムギちゃんの演奏を聴かせてよ!あっ、でも。この暑さじゃあ厳しいかな……?」
「いいですよ。熱気に包まれての演奏なんて慣れたものです。観客(オーディエンス)からの熱い視線に比べれば太陽なぞ涼しいものです」
「凄い!私はアビドス出身なのに暑さに負けちゃったのに!」
「では、演奏しましょうか……あ、ちなみにボーカルと作曲もできますので、私が作曲した曲を私が歌って私が演奏する形になりますね」
「え!?なにそれ凄い!ツムギちゃんってなんでもできるじゃん!」
「ふふ、すみません。その言葉が欲しくてわざわざ言いました。ユメさんは本当に褒め上手な方ですね」
ツムギは大きく息を吸い込む。乾燥した空気が気管を通り、肺を満たしていくのをツムギは熱で感じる。そのままじっと下を向き、集中力が最高点に到達したところで、頭を振り上げた。
「では……逝くぜこれからテメーと地獄!!ヒャッハー!!」
「へっ!?地獄!?」
その後、まさに地獄を体現したかのような演奏に完全にグロッキー状態になったユメを見て、ツムギはすっといつも通りの状態に戻りクスクスと笑う。
「大丈夫ですか?ユメさん」
「す、凄い演奏だったね……私幽霊なのに、体がビリビリ痺れる感覚がしたよ」
驚いたせいでアホ毛が伸び切った状態でユメは、目を点にしながらぶるぶるまだ震えている。
「デスメタルは魂に素早く届きますからね。にしても、幽霊を逆に驚かせてしまうとは。これはオカルト研究会のみんなに自慢できそうですね」
「私も幽霊になったし、不意打ち以外で誰かを驚かせてみたいな~。怖いぞ~って感じで!」
「おや、それならうちのルームメイトにとても驚かしがいのある子がいて……」
ツムギの返答にユメは思わず身を乗り出し、うっかりツムギの体を貫通しそうなところで(足は無いが)なんとか踏みとどまる。
「ふんふん!私でも驚かせそう!?」
「それはもう。きっと希望通りのリアクションをしてくださいますよ」
「でも、どうやって驚かせようね?」
「じゃあ、ツーショットを撮りましょう。心霊写真を見せれば驚くはずです」
「わかった!私は物持てないからツムギちゃんが撮ってね!はいチーズ!」
写真には満面の笑みのユメがツムギの隣に移っており、ピースまでしていた。
「ちょっと近すぎますね……それに笑顔でピースまでしてこれだとただの友人です」
「え!?お友達だと思ってたの私だけ!?」
「あなた今回の目的忘れてません?そういう問題じゃないですよ。まぁユメさんは友人ですから、友人としてアドバイスするならですね……」
何百枚と心霊写真を見てきたツムギからの助言を元に、最高の立ち位置と表情を探求し、やっと奇跡の一枚が撮れた二人。レナに送信すると幽霊が映ってるとめちゃくちゃ心配されながらビビらせることができたので、二人で向かい合って悪い笑みを浮かべるのであった。
~エリ編~
「……こ、ここがトリニティですか」
「ええ。ここがトリニティです。といってもまだ中心地ではありませんが」
「これで!?これだけ豪華な建物が並んでいるのに!?」
ツムギとエリは一緒にトリニティに来ていた。以前ナギサに貰ったレストランのペア無料券を使って、食事に来たのだ。
「ところで、レストランはどこにあるんですか?」
エリはツムギが持っている地図を覗き込む。エリが覗き込むと大きなとんがり帽子のせいで地図が影になってしまうが、いつものことなのでツムギは気にせず地図を指差す。
「それがですね……ここなんですよ。トリニティの一等地に立っているレストランです」
「へ~~……え?そ、そんなところめちゃくちゃ高いんじゃないですか?」
「ええ。トリニティに何度か来ている身からすれば、とても私たちのような一般人の入れる店ではないでしょう。むしろ、あの辺りの土地を歩くだけでも気後れするレベルですよ」
「ツムギの言っていたナギサさん……でしたっけ。凄い人なんですね~」
「なんというか、高貴という概念に服を着せたような方でしたよ」
エリは周囲をきょろきょろと見回しながら、興奮を隠しきれず跳ねまわる。
「ワイルドハントとはまた違った綺麗さがありますね~ぜひ景色を描きたいところです!」
「ふふ、エリなら気に入ってくれると思っていましたよ。まだ時間もあることですし、観光地を案内しましょう」
「むむむ……そういうことならば、スケッチ用に道具を持ってくるべきでしたかね?」
「エリ。一応今回の目的はレストランですからね?それを忘れたらいけませんよ?」
「あ……あはは……もちろん忘れてませんよ~?」
エリは一つのことに集中すると、回りが見えなくなることがある。そんな経験自体はツムギもある……というか、芸術家なら珍しくも無いのだが、エリは元来の真っすぐな性格も相まって特にその傾向が強い。だからこそ、ツムギはエリのことを評価しているのだが。
観光地を回っている最中、エリは気に入った景色を写真に撮りながら、細かいところまで観察していく。
「にゅっふっふ!!諦めませんよ!写真をたくさん撮って、記憶と共に景色を描き起こすのも一つの方法です!」
「完全にインスピレーションを刺激されちゃったようですねぇ……まぁ、いつも熱心なエリのこの姿が私は大好きなんですけど」
「ツムギ!?声に出てますよ!?」
「聞こえるように言いましたからね」
「こ、こんなに人が多い場所でやめてください!?」
「じゃあ、二人っきりならいいんですか?」
「そ、そうやってからかうのはレナちゃんだけにしてください!」
「いやです。エリの反応が可愛いのがいけないんですよ?」
そう言いながらエリに近寄って更に反応を楽しむツムギ。エリは帽子を目深に被り、赤くなった顔を必死に隠す。カノエがいれば「デート楽しんでいるね」とからかわれるのが目に浮かぶような光景である。
そうこうしている内に日も落ちてきて、二人は目的地のレストランに向かう。目的地のレストランは明らかに普段定食やなんかを利用している学生が入るには場違いな場所であり、エリは心配そうにツムギの手をぎゅっと握る。
「つ、ツムギ?本当にここで合ってるんですよね?」
「……私も信じられませんが、店名は間違ってなさそうですよ?まぁ、中でチケットを見せた時の反応でわかるでしょう」
二人は中に一歩、また一歩と覚悟を決めて踏み込む。入口時点で絢爛豪華な空気が漂っており、二人にとっては幽霊が出るという廃屋よりもずっと息が詰まる場所だ。
「すみません。この無料券って、この店のものであっていますよね?」
ツムギがスタッフの一人に声をかけると、スタッフは慌てた様子でビシッと畏まり礼をする。
「ここ、これは大株主様用の無料券!?た、ただちにコースの用意をさせていただきます!!」
「へ!?いえ!ゆっくりで大丈夫ですよ!?ねぇツムギ!?」
エリはあたふたしながらツムギに同意を求め肩を掴んで揺らす。
「い、いえしかしそういう訳にも……」
「落ち着いてください。これは頂きものなので、私たちは大株主ではありません。桐藤ナギサという方に譲ってもらった形でして」
「ナギサ様のご友人!?ひえぇ~!!?」
「あ……行っちゃいましたね。ツムギ」
「まぁ、すぐ案内の方が来るでしょう。この感じなら」
ツムギの予想通り、すぐに来た案内の方に丁重にもてなされながら、二人は窓際の特等席に座らせられる。トリニティの一等地の街並みが窓の外に見えて、待ってる間も退屈はしなさそうだが……二人にはやるべきことが他にあった。
「料理が来るまでに、マナーの再確認をしましょうか?」
ツムギの提案にビクッとしたエリは背筋を正し、まずはどうにか落ち着こうと行動する。
「あわわ……こ、こういう時はまず、人と手に書いて飲み込みましょう!」
古のオカルトを頼りながら、どうにかして落ち着くエリ。ツムギはゆっくりとテーブルの上にあるものを確認していく。
「さて……エリ。実践の時が来ましたよ。事前に練習しておいてよかったですね」
「ええ……本当に」
トリニティのレストランに行くということで、事前にマナーを勉強しておいた二人。部屋にあるもので必死に練習をしている二人の様子は随分愉快だったのか、レナやカノエにずっと練習中笑われていた。
「えーと、食器の位置はこうで……皿への置き方で意味が変わってくるんでしたよねツムギ?食事中とか、下げて欲しいとか」
「そうですが、そもそも食器自体種類が多すぎてどれがどれだか……なんだかまるで儀式みたいですね?」
「なるほど……なんだか儀式だと思うと楽しくなってきましたね。儀式を手順通り行ったら、相応の対価が得られるという訳ですか!」
こんな時でもオカルトになぞらえてテンションを上げるエリ。しかし、面倒なマナーも儀式と同じと考えればわかりやすい。二人はいつも通り、儀式に向けて準備した知識を活かし、儀式と食事の両方を楽しむのだった。
「いやぁ……美味しかったですねツムギ!」
「始めてあんなに美味しいものは食べましたよ……」
複雑な味すぎてあまり表現が思いつかないが、とにかく美味しかったことはよくわかった二人はご機嫌でトリニティの一等地を歩いていく。豪華なディナーを食べた二人はもはや一等地であっても全く気後れしていない。
「今日はありがとうございますツムギ」
「お礼ならナギサさんに。あの人に絵を描いた人と一緒に行ってほしいと無料券を渡されたので」
「いえそれだけではなく……きっと、一人だったら楽しめず、そもそも味がわからなかったので」
「それは……ありますね。私もエリが一緒じゃなかったら緊張して食事どころじゃなかったでしょうし」
「ツムギ珍しくかなり緊張してましたもんね。顔に出てましたよ」
傍から見ればいつも通り以外の何物でもないが、その細かな違いに気づけるのも友人の証。ツムギもエリなら気づいて当たり前と言わんばかりに、指摘されても特に気にしていない。
「さて……それじゃあ。これから夜の部、ですね」
ツムギの目配せにエリは深く帽子を被り直し、真っすぐと夜のトリニティを見つめながら答える。
「ええ。私たちの夜はこれからですよ」
エリは銃を杖のように振り上げ、夜空に魔法陣を描く。それは簡単に言い表せば安全祈願のサイン。これから危ないところに行くという逆説的な証明。
「では今からトリニティのオカルト研究の旅に……出発です!」
「おお~~!!」
オカルト研究会の冒険が、今宵も始まる。
気が向いたら評価お願いします!