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~ユズ編~
「よし……パーフェクトがとれた」
ユズは珍しく一人でゲームセンターに来ていた。なぜなら普段からプレイしているリズムゲームに、新曲が大量に追加されたからである。いつもならゲーム開発部のメンバーと来るのだが、生憎他のメンバーは先約があって一緒に来れなかった。
(一人だけはちょっと怖いけれど、特に絡まれたりすることが無くてよかった……)
実際はずっとパーフェクトをとるプレイヤーを遠目から見ている人が何人かいたのだが、ゲームに集中しているユズは気づかなかった。直接話かけでもされない限り。
「すみません。新曲が追加されたのってこのゲームであっていますか?」
「ぴぃ!?ひゃあああ~~!!?」
そう聞かれた瞬間、ユズはまるできゅうりをこっそり背後に置かれた猫のように跳びあがり、筐体の後ろに隠れる。
「……すみませんユズさん。そういえばユズさんはそういう方でしたね」
「あ……ツムギさん。こ、こんにちは」
実はツムギとユズは知り合いであった。以前アリスに紹介されてゲーム開発部にツムギが来た時に、顔を合わせたのだ。といっても、その時はユズが中々ロッカーから出てこなかったため、本当に顔を合わせた程度ではあったが。
大した面識は無いといっても話しかけてきたのが知り合いだとわかったユズは少し安心した顔で筐体の後ろから顔を出す。
「えっと……こちらこそごめんなさい。それで、なんの話でしたっけ?」
「いえ。ユズさんが今プレイしてたリズムゲーム、今日曲が追加されたと聞きまして。そのゲームで間違っていませんよね?」
「ええ……大型アップデートとしてかなりの数の曲が追加されました。それで、とりあえず全曲パーフェクトチャレンジしようと思って今日は来たんです」
「ほほう、お隣の筐体いいですかね?私もプレイさせていただきます」
隣でプレイされるのに少し思うところが無いわけでもなかったが、止めるのも失礼だし、何より見知らぬ人が来る方がもっと嫌なので、ユズは小さく頷いて許可する。
「ぜぇ……ぜぇ……ひゅう……ひゅう……」
数十分後。汗だくで疲れ切っているツムギがそこにはいた。
「あの……大丈夫ですか?」
「これ……私の……ひぃ……普段の走り込みより……ふぅ……きついです」
ペットボトルの麦茶を一気飲みして、ツムギは呼吸を整える。
「ハイテンポな曲の最高難易度をずっとプレイしていたら……当然そうなります」
「ユズさんは先ほどから最高難易度をずっとパーフェクトしているのに、全然息切れしてないように見えるんですけど」
「私は……慣れているので、はい」
涼しい顔をしながらパーフェクトを出し続けるユズに、なるほどそういうものかと納得をするツムギ。周囲のプレイヤーは、いや納得すんなと突っ込みたくなったが、必死に抑えているのを二人は知らない。
「ツムギさんは……初心者さんですよね?動きを見ればわかります」
「ええ。このゲームをプレイするのは初めてですね。リズムゲームは好きなんですけど、ゲームセンターには中々足を運ばなくて」
「でしたら、なんでその曲の最高難易度に拘るんですか……?ハイテンポで難しいですし、まず最高難易度からいきなり始めること事態がかなり厳しいというか……しかも、見ている限りパーフェクトチャレンジしていますよね?なぜ……」
「おや、バレていましたか。パーフェクトをずっととってるのに、こちらを見る余裕もあるのは流石ですね」
ツムギは少し思案した後、まぁ言ってもいいことかと判断し、ユズに真意を打ち明ける。
「実は……この曲、私が作曲してうちのバンドで演奏したものでして。採用してもらった以上、せっかくなら最高難易度でパーフェクトをとってみたいな~~って」
「え!?ツムギさんが!?」
「なんだか自慢みたいで恥ずかしいですが……はい」
「なるほど……開発者のプライドみたいなものですね……その気持ち、とってもよくわかります」
ユズは何度か頷き、先ほどまでは喉のあたりを見ていたが、今度はしっかりとツムギの目を見て提案する。
「そういうことでしたら……ツムギさんのプレイに助言させてください」
「助言……ですか」
「ええ。ただ遊んでるだけなら下手に口を出すのも失礼だと思いましたが……」
そうしてユズによる徹底攻略のための教室が始まった。まず、目押しは大事だが、それはそれとしてリズムでいつノーツが来るのか覚えること。一曲だけ極めるなら、譜面を覚えてしまった方が早いこと。プレイしやすい姿勢や指の滑らせかたなどなど。
普段のユズとは見違えるほどに饒舌で、堂々としていて、もはや別人かとツムギが疑うほどのユズの指導にツムギはどんどん上達していく。
「ああ~~!!あと少しでパーフェクトだったのに!」
「そんなことはいくらでもあります。気を取り直してもう一回!」
「うわぁ!!序盤でミスってしまいました!」
「そういう時は切り替えて後半の練習とするんです!!ほら!まだまだノーツが流れてきますよ!」
そうしてまた数十分後、ついにその時は来た。ユズや周囲のプレイヤー、店員が見守る中、ツムギはついにパーフェクトを達成する。周囲から歓声と拍手が湧き立ち、感動のフィナーレを迎えた。もはや集中力も体力も使い果たしたツムギは、倒れ込むようにユズに抱きつく。
「や、やりました!!やってやりましたよユズさん!!」
「ひゃあああ~~!!?ち、近いです!近すぎますツムギさん!!」
ツムギに抱きつかれて大慌てでパタパタと手を暴れさせるユズ。しかしツムギによる抱擁からの解放には能わず周囲はニコニコした様子で二人を見つめ、ユズは恥ずかしさで顔を真っ赤にしてオーバーヒートしてしまう。
その後、ツムギはユズに冷たい瓶コーラを奢り、二人で勝利の祝杯をあげるのだった。
~アツコ編~
誰にも管理されていない森の中に自然と生まれた色とりどり花が咲き誇る花畑。そんな花畑を最近手入れしている存在がいた。
「ふふ、みんな今日は一段と綺麗だね」
ジョウロに汲んで来た水を花にかけ、笑顔で挨拶をするのはアリウスの姫、アツコであった。花はアツコの挨拶に返事をするかのように朝日を水で反射させてキラキラ光る。そんな花たちの声を聞きとりやすいようにアツコはしゃがみ、一層慈しむような笑顔で花と見つめ合う。
「すみません。撮影してもいいですか?」
アツコの背後から女性が声をかける。
「自由に撮ってもかまいません。ここは私の花畑というわけではないので」
アツコはその声に振り返ることなく返事する。そもそも、アリウススクワッドの一員であるアツコにとって人の気配が近づいていることなどとっくにわかっていた。敵意も無さそうなので、気にしていなかっただけだ。
「いえ……そうじゃなくて」
しかし、女性はアツコの前に顔を突きだし、予想外の質問を口にした。
「あなたを撮影してもいいのでしょうかと聞いているんですよ。お花畑のヒロイン」
「……ヒロイン?」
アツコは立ち上がり、女性と向き合う。女性は学生服を着ており、恐らくどこかの学校の生徒であることがアツコには想像できた。最も、まだまだ外の世界に詳しくないアツコはどこの学園の生徒かまではわからなかったのだが。
「あなたはだぁれ?」
「私は椎名ツムギ。ワイルドハントの眠り姫です」
「へぇ……あなたお姫様なんだ?」
「ふふ、別に何か特別な血筋や役職があるわけではありませんが、女の子なら誰もが憧れるでしょう?お姫様」
「……そういうものなんだ」
「あなたは違うのですか?」
「私は……ふふっ。色々あったけど、やっぱりお姫様扱いされたら嬉しいね」
「おや魔性の笑み。一体何をしたのかは気にしないでおきましょう」
「別に誰かを誑かしたりしたわけじゃないけど……そうだね。聞かない方がいいかも」
アツコにとって姫とは複雑な色々を含んだものであったが、それは人には話せないこと。それに、自分が一般的なお姫様のイメージとは遠く離れた立場であることはアツコ自身が一番よくわかっていた。
「私は秤アツコ。それで、私を撮影したいってどういうことかな?ツムギさん」
「ここには毎年この時期に大自然の花畑が生まれるんですよ。今年もそれを見に来たんですが……今年は例年よりも一層綺麗に咲いていますね。アツコさんがお水をあげていたからでしょうか」
アツコは少し得意げな顔になり、綺麗に咲き誇る花畑を改めて見渡す。
「わざわざ花を撮影しに来るなんて、花が好きなんですね」
「綺麗なものが全て好きなだけですよ。そう、あなたのようなね」
「へ?」
「綺麗な花畑が最高に似合う美しいヒロインがそこにいるのですから、花と一緒に撮影したいと思うのが大自然の理です。むしろ我々の出会いは奇跡ではなく、この大自然が引き合わせたと私には思えて仕方ありません」
「……調子いいこと言うんだね?」
「お姫様(ヒロイン)扱いされて、嫌ではないでしょう?」
「全く……魔性の笑みとか人に言っておいて、そっちの方がよっぽど人タラシなんじゃないかな?」
ツムギは誤魔化すように微笑み、アツコに質問をする。
「それで、撮影してもよろしいでしょうか?」
「いいよ。あなたは悪い人じゃなさそうだし。ついでに私のカメラでも写真を撮って欲しいな。私、写真が趣味なんだ」
「ほほう、写真が趣味の美人を撮影する。これは絶対に失敗できないところです」
口ではプレッシャーを感じるようなことを言いつつも、ツムギの撮影は見事なものであった。なにしろホラースポットなどに行っては暗い中でも証拠集めに写真を撮っている猛者なのだから、この程度造作もない。
「凄い綺麗に撮れてる。さすが自分から撮影を申し込んだだけはあるね」
「ふふっ。お褒めに預かり恐縮ですよアツコ姫」
「あ、そうだ。撮影ならこっちの木でも写真撮ってよ。花が満開なんだよ」
アツコはささっと木の上まで登り、満開の白い花の横に座ってツムギに撮影を頼む。
「……アツコさんってお姫様みたいな雰囲気の割に、アグレッシブなんですね」
「……?私の知るお姫様はアグレッシブなものだよ?」
自分自身の他に、サオリたちから話に聞いたトリニティのお姫様を思い浮かべ答える。
「それに、自分を眠り姫だって言ってたツムギさんもけっこうアグレッシブじゃん」
「しょうがないでしょう……下から撮影してもいまいち綺麗に撮れないので」
ツムギもアツコと同じように木の上まで登り、撮影を行う。
「どう?綺麗に撮れた?」
「降りてから確認しましょうよ……なんで普通に枝を渡ってきてるんですか」
「別にこの程度普通だよ?」
「う~ん。守られてばかりのタイプのお姫様ではなさそうですね。どうやら思ったよりもおてんばお姫様のようです」
「頼れるお姫様って言って欲しいかな」
「そこでそうやって言い返してくる時点で大分たくましいお姫様ですね……」
写真を一通り撮った後、ツムギは花畑を見ながら真剣な顔でノートに何かを書いていく。
「ツムギさん何書いてるの?」
「作曲のために、メモしてるんですよ。やはり美しいものに触れるとインスピレーションが湧いてくるので、忘れないようにメモにするんです」
「作曲?作曲家なのツムギさん」
「ワイルドハントは芸術家のための学園ですからね。私は作曲に演奏、ボーカルとかできますよ」
アツコはふむふむと興味深そうに頷き、何を思いついたのか手をポンと叩き、ツムギにほほ笑む。
「そうだツムギさん。あの子たちのために、一曲演奏してあげてくれるかな。撮影させてあげたお礼ってことで」
「花に音楽を聴かせると綺麗に育つといいますしね……花たちも撮影に協力してくれたわけですし、断る理由もありませんね」
「ところで、ツムギさんの得意な曲って何?」
「デスメタルですが……花に聴かせるならばクラシックとかになりますかね」
「私デスメタル聞いてみたいな。ツムギさんが一番得意なんでしょ?」
「一般的に花に聴かせる音楽はもっと穏やかなものだと思いますが……」
「大丈夫だよ。花だって一番自信のある曲を聴きたいはずだもん。それに、激しい曲も元気を分け与えられていいと思うな」
「アツコさんがそういうのならば、演奏させて貰います……ヒャッハー!!てめぇら後悔すんじゃねぇぞぉ!!」
アツコはデスメタルを聴きながらニコニコで合いの手を入れる。演奏を聴いて揺れる花たちは、どこか音楽に合わせて頭を振っているようにも見えた。
ノリのいい観客(オーディエンス)たちのおかげで花畑でのゲリラライブは大成功となったのだった。
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