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~ソラ編~
シャーレの当番で呼ばれたツムギは、朝食を食べていなかったので店で何か買おうと思いシャーレ近くのエンジェル24に入った。ウィーンと小さな音と共に自動ドアが開くと、中にはケータイを弄りながらあくびをしている店員が一人だけ。この時間帯ならば出勤前のサラリーマンなどで混んでいるのが一般的だろうが、どうやらこの店はまるで利用客がいないということが店員の態度からも丸分かりであった。
「暇だなぁ……ふあぁ!?いらっしゃいませ!!」
店員は大急ぎでケータイをしまい、ツムギに挨拶する。まだ小さな子というのもあって、ツムギはそんな態度も微笑ましくてつい笑ってしまう。
「ふふっ、暇そうですね?店員さん?」
「あ、あはは……すみません。この店って本当に利用する人が少なくて……つい気が緩んじゃうんです。その、本当にごめんなさい……」
「別に気にしないでいいですよ。私もどっちかというと不良生徒側の人間なので」
「え!?そうは見えませんけど……」
「ふふっ、私は椎名ツムギ。店員さんは?」
「私は……えっとソラです」
「不良店員と不良生徒同士仲よくしましょうか」
「ふ、不良店員……何も言い返せません」
ツムギは店の中を見て回っている最中に、ドリンクコーナーで足を止める。
「すみませんソラさん。栄養ドリンクの在庫ってないんですか?これから先生の業務を手伝うのに少し眠くて」
「ああ……それですね。先生が毎日買っていくんですよ。普段は小中1本ずつなんですけど、忙しい時は小中在庫全部買っていってしまって……毎日仕入れてるんですけど、今日はもう先生が全部買っちゃったみたいですね」
「……相変わらず大変そうですね。大は取り扱っていないんですか?」
「大は取り扱ってないんですよ。ドラッグストアではないので」
「……先生は大を買いだめしておけばいいのに」
「なんでも先生が言うには『大サイズを買いだめしてずっと飲み続けると本当に依存しているみたいでよくないから』だそうです」
「……誤差な気がしますが、大事な大事な小さいプライドですね」
また店内を歩き始めたツムギ。そこで奇妙な物を見つけてソラに声をかける。
「ちょっと待ってください。こっちの棚にあるものはなんですか?」
「あ……それはネプラディスクの欠片や壊れたファイストス円盤とかです……と説明しても私じゃああんまりわからないんですけど」
「はぁ!?」
先ほどまでかなり物静かだったツムギの突然の叫び声にソラは自分が何か失言をしてしまったのではないかと思い棚の後ろに隠れてしまう。
「あ、あの……すみません……何か気に障るようなことを言ってしまったでしょうか?」
半身だけ棚の角からだして、ツムギの様子を見る。ツムギ本人は完全に固まってしまい一点だけを見詰めているのだから、ソラは怖くてたまらない。
「え……?これオーパーツ……ですよね?オカルトを愛する者たちが求めてやまないオーパーツが売り物として売っているんですか?眠気とか全部吹き飛びましたよ?」
「はい……オーパーツコーナーが当店にはありますので」
「他の店じゃあ間違いなく置いてないようなオーパーツがなぜシャーレ近くのコンビニにだけ……?」
「そ、それも先生が買っていくんです」
「先生。まるでオカルト関係は初心者みたいな顔しといてやっぱりあなたが一番のオカルトじゃないですか……うっ、中々高いですね」
「う、うちのお店はこれでも凄く良心的な値段ですよ?いえ、オーパーツとかに関してはそもそも相場がわからないのでなんとも言えませんが」
「わかってますよ……これでも安いのは……くっ、先生に買われる前に買うしかありませんね」
ツムギは苦々しい顔で財布の中身を覗きながら、値札と交互に視線を動かす。
「しかし、なぜオーパーツなんて取り扱っているんですか?」
「任務には準備が必要なので……だから、必要なものを先生にお得に提供できるように……だとか。だからこの店では特別に発注できるらしいです。オーパーツなんて何に使うかわかりませんけど」
「……なんだかこの店怪しいですけど大丈夫ですか?シャーレの近くということで随分と商品も変ですし」
流石のツムギもここまで露骨に怪しさMAXでは心配もする。ましてや相手は自分より年下の中学生なのだから。
「ここはほとんど人が来なくて暇ですし……それに先生は怪しい人では……その、ありますけど」
「怪しい人ではあるんですね」
「色々良くない噂もありますから。でも、優しいですし、以前は疑ってましたけど誤発注した時は手を貸してくれたので少し信用してもいいのかもなって今は思ってます」
「まぁ、先生ならば信用しても大丈夫でしょう。確かに色々謎の多い人ではあるので、私も調査中ですが」
「それに、私は働かないといけない事情もあるので……ここでもう少し頑張りたいと思います」
先ほどからおどおどしてこそいるが、そこだけは譲るつもりのないソラの真っすぐな視線に、ツムギは納得したのか、眼を瞑り小さく頷く。
「ソラさんは頑張り屋ですね……何かあったら私に教えてください。一応オカルト系だったら専門分野なので」
そう言いながら、ツムギはソラの頭を撫でる。まるで姉が妹を撫でるように、優しく。
「ひゃぁ!?おでこは触らないでください!?」
「ソラさんのおでこがこんなに無防備なのがいけないんですよ~?」
「うう……こんなに優しくして、何か企んでいるんですか?」
「う~ん……強いて言えば、先生の調査のためには仲良くしておいた方がいい、とか?一番はソラさんが可愛いからですけど」
「……ここまで下心が見えると逆に安心しますね」
ツムギはオーパーツの棚から商品を持ってレジに慎重に置く。
「じゃあ、このネプラディスクの欠片と壊れたファイストス円盤を買っていきますね」
「あ、はい。袋はお付けしますか?」
「そうですね、付けてください。後、緩衝材として何か貰えますか?」
「あ、大丈夫です。オーパーツ専用の緩衝材も袋とセットでついて来るので」
「……本当に謎だらけですねこのお店」
「あ、あの。ありがとうございました!なんだか色々気にかけてもらって……」
「こちらこそ。色々教えていただきありがとうございました」
ツムギは礼をして、緩衝材でパンパンに膨らんだ袋を持ってシャーレへと向かっていった。
「面白い人だったなぁ……また会えるといいんだけど」
このバイトをしている以上、一度会ってもう二度と会わない相手というのは多くいる。特にここは固定客が先生ぐらいしかいない店であることは毎日働いているソラにはよくわかっていた。それでも────
「オーパーツ取り扱っておけば、また来てくれるのかな?」
そんな未来に少しわくわくしているところで、ウィーンと小さな音と共に扉がまた開く。
「へっ!?また来客!?い、いらっしゃいませ!!」
ソラは先ほどはお客さんに恥ずかしい姿をみせてしまったので、今度こそと大慌てで挨拶し頭を下げる。そして顔を上げたソラが見た人物。入口に立っていたのは……ツムギであった。
「すみません……そもそも朝ごはん買いに来ていたことを忘れてました……」
ツムギがささっと食品コーナーから商品を取り、たっぷりツナのツナサンドをバツが悪そうにレジに持ってくると、ソラは少し笑い声を漏らしながら会計をするのだった。
「ふっふふ……袋はおつけしますか?」
「笑ってるの誤魔化せてませんからね……?袋は大丈夫です」
そう言いながらも、自身も笑みが隠せてないツムギに、レジを通したサンドイッチを手渡すソラ。ソラの願いは、少し望んでいたのとは違った形ですぐ叶ったのだった。
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