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~ニコ編~
「ふむ……中々情報が集まりませんね」
ツムギが百鬼夜行の田舎道を考え事をしながら歩いているとき、背後から足音が迫る。
(おや……?昼間ですがもしかしたら?)
しかし、ツムギが期待していた『ソレ』とは違う存在だとすぐにわかってしまった。
「こんにちは。FOX EATSです!」
「……FOX EATS?」
ツムギが振り返ると、そこには大きな狐耳が特徴的な生徒が大きな荷物を背負って立っていた。
「おや、こんな場所でどうなさいました?迷子でしたら残念ながら私も他校の生徒のため力にはなれませんよ?」
「いえいえ。実はアンケートにご協力いただきたくて」
「アンケート?」
「この辺りはお年を召した方も多く、食事の配達業に需要があると踏んで新しく手を広げるべきではないかと実地でアンケートをとっているんです。しかし、中々そもそも人が少なく……ノルマ達成のためにも他校性の方にもアンケートにご協力いただきたいなと」
「おや、それはそれは苦労していらっしゃいますね」
「アンケートにご協力いただければ、こちらのいなり寿司を無料でお渡ししますので!」
少女は背中の大きなバッグからいなり寿司の入った箱を取り出し、ツムギに差し出す。
「無料でいなり寿司が?キツネに化かされているような美味しい話ですが……すみません。今は生憎お腹が空いてなくて。ですがアンケートには協力しますよ」
「助かります。こちら、アンケート用紙になっています」
ツムギはアンケート用紙に記入する。内容は簡単な需要に関する質問だ。ツムギはこの辺りに住んでいるわけではないので関係ない話であるが、適当に書いてくれればいいとのことなので、気楽に記入していく。
「そういえば……私はアンケートのためですけどなぜあなたはここに来たんですか?」
「ふふっ、聞いたら驚きますよ。『ぴしゃがつく』の調査です」
「ぴしゃがつく……!ですか。先にアンケートしたお宅で話には聞いてますよ。ぴしゃがつくが出るので夜は出歩かないようにと」
「おや、ご存知でしたか。この辺りに伝わるオカルトですよ」
「実はその話に興味がありまして、よければお話聞かせてくださいませんか?」
「どうやらあなたもオカルト好きのようですね。私は椎名ツムギ、ワイルドハントの冒険家です」
「私は吉野ニコです。それで、ぴしゃがつくというのはどういうオカルトなんですか?」
「夜中、道を歩いている人の後ろでぴしゃ……ぴしゃ……と気味の悪い足音を出しながら、ずっと後ろをついて歩いてくる……いうならばそれだけの怪異のはずです。本来後ろを向いても誰も何もいないというのが定番ですから」
「では、この辺りのぴしゃがつくは違うと?」
「ぴしゃがつくに襲われたという証言をする人、実際に怪我を負った人などが出ていますから。それも、音に驚いて足を踏み外しただけにしては多すぎるほどに」
「ふむふむ……私も気を付けないといけませんね……」
熱心に話を聞くニコを見て、ツムギは優しく笑う。
「オカルトにそこまで興味があるとは、ではいなり寿司に使われる油揚げですが、なぜキツネの好物とされているかご存知ですか?」
「それは……そういえば知りませんね」
「キツネは古くから神様の使いとして有名でした。しかし、そんな神の使いであるキツネの好物とされていたのはネズミを油揚げです。そんなものをお供えされたとしても神様を祀る場所を管理する側の人も困ってしまいますよね?そのため、豆腐の油揚げになったという話があるんですよ」
「へぇ……そんなルーツが」
「全然別物に変わっているのに、今ではキツネの好物と聞いて豆腐の油揚げを思い浮かべる人が圧倒的に多く、そして信じられています。世の中で信じられていることが主流となって、形を作る。これは一種のオカルトだと思いませんか?オカルトは人の噂が集まって生まれるものですから」
「!!人の噂が集まってオカルトに……」
「ふふっ、その顔、オカルトに関して何か調べている中で思い当たることがあったのでしょうか?」
「ええ……似たような経験が。やはりあなたはオカルトの専門家のようですね」
「専門家だなんて……ニコさん相手だとつい話過ぎてしまいますね。相手に気持ちよく話させるのが上手なんでしょうね。聞き上手といいますか」
「ツムギさんの話が面白いからですよ、こんなに真剣になって聞いてるのは」
「では調子に乗ってついでにもう一つ。キツネに関する信仰といえば有名なのは稲荷信仰ですが、稲が成るで稲荷、つまり商売繁盛だけでなく稲の豊穣もご利益に含まれているんですね。そう考えると油揚げに米を包んでいなり寿司という名前になるのは当然といえますね」
「意外と身近なもののルーツを掘っていくと、人が信じていたものが関わってくるんですね……」
「オカルトも身近なものが発展して生まれたものが多くありますから」
ツムギは一通り話し終えて満足したのか、伸びをしてニコの方に向き直る。
「今日は本当にいい日です。ニコさんに会うことが出来ましたので」
「そんな……私はそこまで言ってもらえるほど大した生徒じゃないですよ?」
「いえいえ。こうして本人に何が目的なのか聞く機会に恵まれたのですから。業者を装う────『オカルト関係者』、さん?」
ニコもツムギも表面上は穏やかな表情を崩さなかったが、緊迫した空気が二人の間に流れる。
「実はFOX EATSについても調べていましたので。最近キヴォトスのあちこちで名前は出てくるものの実態は謎の組織。しかも我々が調べていたオカルトスポットで特に名前が出てくるというのですから、どうしても気になってしまっていまして」
「……それを私に言ってしまって大丈夫なんですか?もし私が本当にオカルト的存在だったなら、正体に感づいたものを消し去る可能性もありますよ?」
「話しているうちに、『そっち側』ではないと判断しました。どちらかといえば、『同業者』だろうなと」
「同業者……」
「ですが、オカルト関係にはまだ詳しくなさそうですので、恐らく最近調べ始めた人かなと」
「……全てお見通しですか。任務失敗とは、ですが事情は話せませんよ?」
「大丈夫ですよ。私としてはあなたが同志だとわかっただけで収穫ですから深入りはしません。オカルトを探求するキヴォトスの裏組織……まさにそれ自体が素敵なオカルトじゃないですか。そんな活動の邪魔するような真似はしませんよ。本当は色々調べたいところですが、我慢しておきます」
「ふふっ、それならよかった。もしかしたら、何かあったらあなたの知識を貸してもらうかもしれませんねツムギさん」
「その時は喜んでお手伝いしますよ、ニコさん」
ツムギはパンと手を叩き、重くなった空気を変える。
「さて、それじゃあいなり寿司をいただきましょう」
「話しているうちにお腹が空きましたか?」
「いえ、ヨモツヘグイに代表されるように怪異から受け取った食事を食べてはいけませんので、少し警戒していただけです。正直ちょうどお腹が空いていたので誘惑に耐えるのに必死でしたよ」
「私としては嬉しいですね。私が作ったものを食べてもらえるって、それだけ信頼している証みたいなものですから」
ニコは背中のバッグからいなり寿司を取り出しツムギに渡す。
「ほぉ……これはこれは……いただきます」
ツムギは割り箸を割って一つ食べる。続けて二つ目、三つ目と次々と食べてしまう。
「これは……危険な食べ物ですね。ジューシーな油揚げとすっきりした酢飯の相性が最高で、いくらでも食べられてしまいます。まさに黄金比といっても差支えない完璧さです。これを食べてしまっては偽物の企業だと疑うのは無理でしょうね……間違いなく職人の技です。食べずに話を聞いたのは正解かもしれません」
「ふふっ、褒めてもおかわりしかでませんよ?先ほど話したこの辺りに人が少ないというのは本当でして……このままじゃ結構余っちゃうんですよね」
「ではお言葉に甘えてもう一箱貰いましょうか」
こうしてツムギは新しいオカルト仲間とお土産分まで含めたいなり寿司を手に入れたのだった。
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