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~ココロ編~
「ついに来ました……オデュッセイア!!」
鐘崎港に帰還したというオデュッセイアの話を聞いて、爆速で準備をして見学に来たのはこの女、椎名ツムギである。常にインスピレーションを探しているツムギが、キヴォトスでも指折りの大きさを誇りなおかつ普段は目にすることが難しいオデュッセイアが簡単に見られると聞けば、大人しくしているわけがない。
「不思議ですね、鐘崎港には何度か来たことがあります。特に最近はドラム缶カニというオカルト的な噂もありましたから。ですが……今は全く新しい光景が広がっているとは」
ツムギはまるで切り取った町がそのまま乗っているような巨大な船が何隻も止まっている光景に息をのむ。
「さて……まずは何しましょうか」
ツムギはひとまず周囲を見渡す。手がかりは無いか。オデュッセイアの生徒はいないか。普段からインスピレーションを探し続けている観察眼は、今日も獲物を逃さなかった。海から上がってくる生徒を一人発見したのだ。
「これは……第一村人発見というやつですね」
オデュッセイア生はダイビング後の機材などのチェックを入念に行っており、ツムギに気づいていない。ツムギは逃げられないように獲物にこっそりと近づき、背後から声をかける。
「すみません。今よろしいでしょうか?」
「はいっ!?え、誰ですか!?私また何かやっちゃいました!?」
「いえ、そういう訳ではなくてですね。少しオデュッセイアについてお話を伺いたくて。観光客ですよいわば」
「ああ……よかったぁ。また何か怒られるんじゃないかと。この辺りのダイビングはまだ勝手もわかっていませんから」
「そんなに怯えないでください。怪しい者ではありませんので」
「すみません……最近色々と怒られたり脅されたりと色々ありすぎて……敏感になっていたかもしれません」
「……色々苦労なされているようですが、もしかして風紀を担当しているというトライデントだったりするんですか?」
「いえ、私はダイビング部です。ですのでただの一般生徒ですよ」
「私はワイルドハントのマーメイド。椎名ツムギです」
「ま、マーメイド……?」
「ええ、生足へそ出しではありませんがマーメイドです」
(生足は相当出してると思うけれど……)
ダイビング部の生徒はツムギの短いスカートを見て突っ込もうと思ったが、これが今の流行りかもしれないし、そもそも初対面でそんなこと言うのは失礼なのでやめておく。
「えっと……私は渡海ココロです」
「ココロ、素敵な名前ですね。それで、ダイビング部というのはどういう部活なんです?」
「主に海の中の落とし物を拾ったり海中の設備の点検をしたりするのが部活動なんですけど……今は船も港に泊めてあるので、船底の掃除ばかりです……うっ、思い出しただけでフジツボの臭いが」
「苦労されてるんですね」
「あはは……まぁ今色々とお金が必要で。自業自得でもあるんですが」
「やはり活動にお金がかかるタイプですか?」
「まぁ、見ればなんとなくわかりますよね」
ダイビングを終えた後のココロの格好は専門的な装備で固めてあり、活動するだけでお金がかかることは用意に想像がつく見た目だった。
「私も活動にけっこうお金がかかるタイプですからね」
「確かに、芸術学校もけっこうそういうの大変そうですよね」
「定期的にお金が無くなってはバンドの運営に苦労していますよ」
「だからといって妥協したりもできませんもんね……お互い苦労しますね」
「私でもダイビングできるでしょうか?いつか海の中の世界も冒険したいものですね」
「もちろんできるとは思いますけど……こういうのは段階が大事です!もしやる時はまずは浅瀬から、私がついてチェックをしますので!」
「おや、ダイビング部がついてくれるとは心強いですね」
言ってからココロだけに、と脳内で気づいたが海から上がったばかりのココロが凍えそうなので言わない常識がツムギにはあった。
「といっても私のチェックってあまりにも慎重すぎるって不評があったりもするんですけどね……」
「海は我々陸の学校にとっては未知の領域ですからね。慎重なチェックが大事なのはわかります」
「いえ、オデュッセイアの内でももちろん入念なチェックは行っています。この海は我々オデュッセイアの生徒にとっても、未知と危険が溢れていているんです。ちょっとした油断が取り返しのつかない危険を引き起こすことがあるんですから」
「なるほど……ココロさんはしっかりしてますね」
「そ、そんなことは……オデュッセイアは元々規律に厳しい学校ですし、私も先人の知恵を借りているだけですから」
「ところで、ツムギさんってワイルドハントの生徒さんなんですよね?」
「ええ、2年生です」
「私と一緒ですね。バンドしてると言ってましたけど何が得意とかあるんですか?」
「私は作曲・演奏・歌唱辺りをメインでやっていますかね」
「おぉ……私も歌が大好きなんです!この前も作業中に歌を無意識に歌ってたみたいで……」
「ふむ……ではお近づきの印に私が作曲したものを一曲歌いましょうか。ココロさんの好みに合うかはわかりませんが」
「え!?凄い!ぜひ聞かせてください!」
「それじゃあ……意識ぶっとばねぇようにせいぜい気を付けるんだぜ嬢ちゃん!ヒャッハー!!」
「!!!!!?????」
ツムギは迫真のデスメタルを披露する。ココロは目の前の自分と同じような大人しいタイプだと思っていた生徒から発される全力のデスボイスに気圧されつつも、その圧倒的パフォーマンスに引き込まれてしまう。
「……以上です。ご清聴ありがとうございました」
「す、凄い!凄いですツムギさん!なんというか魂が揺さぶられるというか……こんな生歌が聴けるなんて感激です!」
「ふふっ、では次はココロさんに歌ってもらいましょう」
「……へっ?私?」
「私が歌ったんですから、次はココロさんの番でしょう?」
「む、無理ですよ!?あんなプロのような歌の後に歌うことなんて!そ、それに私の歌は……」
「何か人前で歌えない理由があるんですか?」
ココロは言葉に詰まり、どう説明すべきか頭の中で整理した後、言葉にする。
「……ツムギさんはセイレーンについてご存知ですか?」
「ええ、これでもオカルト関係には少々詳しくて。船乗りたちの間で恐れられている、歌で人を誘惑して船を沈める怪異ですよね?」
「私の歌を聞いた友達はみんな海の中に自分から飛び込んじゃって……もしかしたら私の先祖にセイレーンがいるかも……なんて。前先生には否定されましたけど、同年代だけに効くとかもあるかもしれませんし」
「だとしたらむしろ聴かせてください。オカルトの研究をしているものとして、セイレーンの歌声を聴いたなんてとんでもない誉ですから。それに、ワイルドハントのマーメイドとオデュッセイアのセイレーンのどちらが強いか試してみたくありませんか?」
「本当に大丈夫なんですか?」
「ふふっ、安心してください。これでも呪いの類には慣れていますから」
「よくわかりませんけど……それなら私も自分で作ったといえるような代物ではありませんが、普段口ずさんでる歌を……」
ツムギは覚悟してココロの歌を聴く。果たしてセイレーンの正体とは……
「♭わたしの なまえは #ココロ~♪」
そう。これがセイレーンの正体。ココロは凄まじいレベルの音痴であった。聞くだけで精神が不安定になり、どこかに逃げ出したくなるような歌。
「こ、これ……は……」
普段ワイルドハントでレベルの高い音楽ばかり聴いてきたツムギは意識を保てず、海の中へと落下していく。
「つ、ツムギさん?ツムギさーん!!?」
ココロは急いでダイビングして、ツムギの救出に向かう。ワイルドハントのマーメイドとオデュッセイアのセイレーン。勝者はセイレーンであった。
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