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~ムツキ編~
「いやぁ……暇ですねぇ」
ブラックマーケットの一角、ツムギはナナミたちの所有している倉庫に縛られていた。周囲にはナナミの部下が2人見張りについており、また倉庫自体にも頻繁に部下が出入りしているのがツムギからでも見える。
「お前状況わかってるのか……?今縛られてるんだぞ?」
「縛られてるから暇なんじゃないですか、こんなレアケースならメモの一つもできれば新しく作曲できるのに……」
「ははーん?お前そうやって警戒を解いて、脱走を狙ってるわけだな?残念ながらそれは不可能だぞ?この辺りは私たちの縄張りだ。仲間も多ければ、道もよくわかってる。脱走なんて土台無理な話よ」
メモの件に関しては本気ではあったが、実際脱出の糸口が見えないのもまた事実である。寮監隊相手ならばまだなんとかなるかもしれないが、ここは相手の縄張りでしかも顔を完全に割れてしまっている。そもそも縛り方がやたら頑丈なせいでロープを解く方法すら思いつかない。それでも落ち着いているのは、寮監隊から何度も逃げた経験則から、焦れば余計機会を失うことがわかっているからだった。
「さて……なんとかしてこいつを自分から船に乗るようにしろって言われたけど……別に説得しろとは言われてないんだよな」
海賊は銃を取り出し、ツムギに向ける。
「竜王様の誘いを断った時点で生意気だし、たっぷり痛い目見せてやらないとな?」
「痛みに屈するようなのはロックではありませんから。悪いですがいくら痛めつけようが首を縦に振る気はありませんよ」
「その強がりが何時間持つかな。こっちも伊達や酔狂で海賊やってるわけじゃないんだ。舐められっぱなしじゃあやっていけないんだよ」
海賊はツムギの眉間に銃を突きつけ、ぐりぐりと押し付けながらまずは一発撃とうとする。その瞬間、ド派手な爆発音と共に倉庫が崩壊した。一瞬の光の後爆風と土埃に包まれたツムギの傍に、迫る影が一つ。
「やっほー、あなたがツムギちゃんだよね?」
それは大きなバッグを携えた小さなアウトローだった。
「ええ、私はワイルドハントの囚われの姫君、椎名ツムギです」
「やっぱり~?まぁ明らかに縛られてるもんね。カヨコちゃん心配してたよ~まさか私たち行きつけのステーキハウスに迎えに行ったら、連れていかれたってオーナーが言うんだもん」
ツムギがそもそもステーキハウスに入ったのは、カヨコにそこで迎えを待っているように言われたからである。となれば、連行された後カヨコが来るのは当然ではある。
「そんなこと話せばオーナーも危ないでしょうに……わざわざ私の場所伝えてくれたんですね」
「といっても海賊たちが所持してる倉庫としかわからなかったから、調べるのに苦労したけどね。後、あの店のオーナーと私たちは前依頼を受けた都合で仲がいいからね~。私たちがいるなら報復も怖くないって思ったんじゃない?」
「それで……あなたはカヨコさんの知り合いですか?」
「便利屋68の室長、ムツキだよ。カヨコちゃんの友達だね」
「カヨコさんのお友達でしたか。ご迷惑をおかけします」
「本当にね~?普通うっかりでもブラックマーケットに迷い込んだりしないよ?しかも短い時間で誘拐されるとか、問題を起こす天才じゃん」
ムツキはツンツンとツムギを突いてケラケラ笑う。
「すみませんが縄を解いてくれませんか?」
「う~ん……船乗りが使うロープは丈夫だし、縛り方も複雑なんだよね。だからちょっとナイフで切っちゃうね」
ムツキはバッグからナイフを取り出し、ツムギの縄を切っていく。ロープ自体が丈夫なため、切るのには少し時間がかかりそうだ。
「ところで他のお仲間さんは?便利屋68って確か四人でしょう?カヨコさんも見当たりませんし」
「別の倉庫探してるよ~。本当はツムギちゃんのこと見つけた後、全員揃うまで待つつもりだったけど今にも拷問されそうだったからさ~」
「ムツキさんが危ないんですから、全員揃うまで待っていただいてもよかったのに……」
「ツムギちゃんってカヨコちゃんが大ファンの子なんでしょ?バンドやってるって。そんな子の顔に傷がついたりしたら大変じゃん」
「……正直、顔に傷なんてつけてきたらルームメイトやバンドメンバーにどれだけ心配かけるかわからないので、助かりました。ありがとうございます」
「お、ロープ切れたよそれじゃあ脱出しよっか」
逃げ出そうとする人の前に、五人の海賊が現れる。
「おい!お前が爆破の犯人だな!」
「犯人……って言い方は納得いかないなぁ?そもそもカヨコちゃんのお友達に先に手を出したのそっちじゃん」
「てめぇ!このまま帰れると思うんじゃねぇぞ!」
「バラして魚の餌にしてやる!」
「謝ったって許さねぇぞ!」
「……くふふ、なんでそんな上から目線なんだろうね。組織がでかいからなにしてもいいとか思ってるのかな?便利屋68にとっての要人を連れ去っといてそんな態度とられたらさぁ……」
ムツキは銃を構えて、その小さな体から出ているとは思えない鬼気迫る殺気を全身から噴き出す。ツムギもその殺気に影響され、銃を構えて臨戦態勢をとった。
「ぶっ殺すしかないよねぇ!!」
「ヒャッハー!!テメェら地獄行きだぁ!!」
「う、うわ!?」
数の不利に怯むことなく乱射する二人に物陰に隠れる海賊たち。しかし、ムツキは冷徹に爆弾を投げつけ、それを自身の銃で撃ち抜く。障害物ごと海賊たちが吹き飛び、更に吹き飛んだ先に二人は追撃を加える。容赦ない連撃に海賊たちはノビてしまった。
「あ~すっきりした~。それじゃあ、早く逃げよっか。大分派手にやっちゃったからね」
「そうですね、まだ助かったと確定した訳ではないんです。気を抜かないようにしますね」
「そうだ。ツムギちゃんは変装してね。顔バレてるでしょ?フード付きのパーカーと、メガネ用意しておいたから!」
ムツキはバッグから変装用の服を取り出し、ツムギに手渡した。
「おお、さすが手慣れていますね」
「くふふ~早くつけて……じゃなくて着てね」
ツムギは上からパーカーを羽織り、フードとメガネを装着する。ムツキはマジマジと眺めた後、サムズアップをした。
「おお!似合ってるよツムギちゃん!」
「似合ってるかどうかは今あまり関係ないと思いますが……そう言われると素直に嬉しいですね」
「ねぇねぇ!写真撮ってもいい?」
「かわいく撮ってくださいね?」
ツムギはポーズもビシッと決める。ムツキはニコニコで何枚も、特に顔をアップにした写真を撮るのだった。
「……あ、そうだ。こんなことしてないで早く逃げないとね。」
「本当に物語のヒロインになった気分ですね……さぁ、大脱走の開始です」
ムツキの案内の元、二人は人目につかないルートを走り抜ける。しかし、海賊たちの縄張りの外までもう少しといった所まで走り抜けた時に問題は起きた。
「よぉ……待ってたぜ。下手な変装なんてしやがって」
海賊が笛を吹くと数えきれないほどの海賊が二人を囲む。
「うわぁ……道塞がれちゃったね」
「先回りされてましたねこれは」
「ふん!第二倉庫から縄張りの外に逃げるのに一番早いルートはここだからな!爆破の報告があった時点でこの辺り一帯を警戒していたのよ!このまま大人しく捕まるなら半殺しで済むが……さぁ、どうする?」
銃に囲まれた現状に、さすがのツムギも冷や汗を垂らす。しかし、ムツキは一瞬遠くの方を見た後、ニヤリと笑い大声で叫んだ。
「くふふ……ツムギちゃん!このまま走るよ!」
「はい!」
ムツキの合図で突っ走る二人。海賊たちが構えた銃で二人を撃ち抜こうとした……その刹那、海賊たちがバタバタと倒れていく。
「な、なんだ!?スナイパーか!?だが全然音も聞こえないし、そもそも一体どこから狙って……ぐわぁ!?」
「さすがアルちゃん、この距離でも外さないね」
ムツキが見た先にあったのは、この位置からはうっすら見える距離にある廃ビルであった。
「いつの間に連絡をとってたんですか?」
「最初に突入する前にね。そろそろ時間的に一番近くを調査してたアルちゃんが到着してるだろうなって。別に事前にどうして欲しいとかは言ってないけど、アルちゃんなら絶対に、フォローに入ってくれるから」
「なるほど。数々の修羅場を共に潜り抜けた信頼関係ですね」
「くふふ、そういうこと」
ムツキはウィンクをした後、大量の爆弾を海賊の集団に放り投げた。爆音とまばゆい光が海賊たちを包み込んだ。
そのまま包囲を潜り抜けて突っ走った二人は、ブラックマーケットを抜けて一般的な繁華街まで飛び出した。
「いぇーいここまで来れば大丈夫だね!とりあえず、このままワイルドハントまで送るよ」
「ありがとうございます、本当になんとお礼を言えばいいのか……」
「お礼なら~今度カヨコちゃんも含めて、私たちをライブに招待して欲しいな♡もちろん最前列の一番いい席ね!」
「わかりました。チケット送りますので、必ず来てくださいね?」
その後、二人は先ほどまでピンチに瀕していたとは思えないほど呑気に、何気ない雑談をしながらワイルドハントまで向かうのだった。
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