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~ココナ編~
「さて……今日はどこを回りましょうか」
山海経に来たツムギはいつもの通り玄武商会で美味しい食事をとり、山海経を歩いていた。
「またサヤさんのところにでも顔を出しますかね……むっ」
周囲を見渡したツムギは大きな袋を抱えた小学生高学年ほどの少女を見つけた。少女は前が見えない程に大きく積みあがった、くだものがパンパンに入った袋を二つも持っており、なんとかバランスを取りながら移動している。
「おや……荷物がいっぱいですね。お持ちしますよ」
ツムギが少女の抱えていた袋のうち片方を持つと、少女は袋で周囲がよく見えてないのかツムギのいる場所をきょろきょろ探した後、声をかける。
「す、すみません!持っていただいて……申し訳ないですけどもうすぐ目的地なので、そこまで一緒に運んでもらえますか?正直前すらよく見えなくて……」
「はい、問題ありませんよ。ただ……その状態で案内できますか?」
「前はよく見えなくても道は体が覚えてるので大丈夫です!」
「……一応私が前は注意しておきますね」
少女に案内された先は梅花園という施設であった。二人は中に入ると調理室まで荷物を運び、そこの机の上にやっと食料を置く。
「ふぅ……やっと運び終わりました。シュン姉さんにも一緒に行ってもらった方がよかったですねこれは」
「お疲れ様です。お姉さんに頼まれてお使いですか?偉いですね」
「違います!私は教官として買い出しの仕事をしただけです!」
「おや、その歳で教官なんですか?凄いですね……それで教官ってなんです?」
「教官が何かって……はっ!?よく見たら他校の生徒さんじゃないですか!?そんな方に手伝わせちゃうだなんて!」
「別にどこの生徒だろうと関係ないですよ。困ってる人がいたら手を貸すのは────『当たり前』、ですから」
「立派な人です……うちの子たちにもお姉さんみたいな人に育ってほしいですね」
「私は椎名ツムギ。教官、あなたの名前は?」
「きょ、教官……えへへ。私は春原ココナ!ありがとうございます、助かりましたツムギさん」
「ココナ教官は、なんでこんなにも多くのくだものを運んでいたんですか?」
「園児たちのおやつの時間用にくだものを買いに行ってたんです。そしたら、園児のみんなもココナちゃんもたくさん食べなきゃだめだよって言われて、たくさんおまけしてもらえて……」
「それで想定より量が多くなってあんな風に危険な移動してたんですね」
「善意なので断るわけにもいきませんしね……本当に助かりました」
ココナは袋からくだものを取り出し、冷蔵庫に入れていく。
「そうだ。ツムギさん、お礼にリンゴでも剥きましょうか?たくさん貰いましたし、私の分をわけるという形で」
「おや、いいんですか?でしたらお願いします」
「お任せください!」
ココナは慣れた手つきでリンゴを剥いていく。普段から園児のために剥いていて慣れているのであろうことがツムギにも容易に想像できるほど見事な腕前であった。
「上手ですね、皮むき」
「園児のみんなから私の作るおやつはシュン姉さんのに比べて美味しくないとよく言われるので……せめて皮むきぐらいはと思ってたくさん練習したんです。もちろんおやつ作りも練習していますよ!」
「園児に教えるためにはまず教官が勉強し続ける姿勢を見せなければいけない……ココナ教官は立派な見本ですね」
「えへへ……」
にんじんが食べられなくてよくそこを好き嫌いの多い園児につつかれるが、そこは言わないで隠しておくココナであった。
「それで、先ほどの話を聞く限り梅花園というのは園児たちを育てる保育園のような場所なんですかね?」
「ええ。山海経は特に子は宝という考えが強くて、教育に力を入れているんです」
「なるほど。そんな場所の教官に選ばれるなんて、ココナ教官は相当優秀なんでしょうね」
「えへへ……それほどでも。はい、できましたよ」
リンゴが皿に盛られて出てくる。ココナが剥いたリンゴはウサギの形になっていた。
「おや、可愛らしいですね」
「あ……いつものくせでウサギさんの形に剥いちゃいました。まぁ別に大丈夫ですよね?こっちの方が可愛いですし」
「ええ。食事は目で楽しませることも大事ですからね」
リンゴは新鮮でシャクシャクと小気味よい食感で、蜜もたっぷりの上物であった。
(サービスでこんなものを渡されるなんて……山海経の人たちが園児たち及びココナ教官を大事に思っていることが伝わってきますね)
リンゴを食べる音だけが響いていた部屋に、唐突にドタドタと足音が廊下から近づく。何事かとツムギがドアの方に目をやると、ドアが開き園児の集団が現れた。
「ココナちゃん帰ってきてる!」
「あ~ずるい~リンゴ食べてる~」
「みんなの分はおやつの時間にあげるから!」
「ふふっ、教官は大変ですね?」
「ココナちゃん!このお姉さん誰!?」
「いつも言ってますがココナ教官と呼んでください!この人はツムギさん。先ほど荷物運びを手伝ってくれたんです」
「どうも椎名ツムギと申します。ワイルドハントから来た歌のお姉さんですよ~」
「お歌!?わたしお歌だいすき!!うたってうたって!!」
「こら!ツムギお姉さんに迷惑かけないの!」
「ふふっ、私は大丈夫ですよ」
「本当ですか……無理しなくてもいいんですよツムギさん?」
「安心してください。これでも、専門分野ですので」
ツムギは各学校で覚えてきた童謡をメドレー形式で歌う。トリニティ、ゲヘナ、ミレニアム、百鬼夜行……先ほどまで騒いでいた園児たちも黙って聞き惚れてしまう程の優しく心に響く歌。ツムギが一通り歌い終わった時には、園児たちから拍手が送られた。
「すっごいお歌上手!!ツムギお姉さんかっこいい!!」
「ねぇねぇ今の歌わたしたちにも教えて~!!」
「おや、いいんですかね?教えちゃっても、ココナ教官」
ツムギがココナに確認をとろうと目をやると、ココナも尊敬のまなざしでツムギを見詰めていた。
「ツムギさん……私にも教えてください!上手な歌い方を!」
「ではお歌のお勉強としましょうか。童謡にはその学校の特色がよく表れていて、歌詞の意味も一緒に覚えるととっても面白いんですよ?もちろん、上手な歌うためのコツもお教えしますね」
唐突に始まった梅花園での音楽勉強会。ツムギは園児たちの質問に答えていき、音楽の世界の素晴らしさを伝えていく。ココナもツムギの話に興味津々で、まるで園児の一人のように目を輝かせながら話を聞いていた。最後は全員で合唱をして、大団円で勉強会は終わったのだった。
「今日は本当にありがとうございましたツムギさん!」
「頑張っている教官のお手伝いをしたくなっただけですよ。それに、私も子どもたちと触れ合って素晴らしいインスピレーションを手に入れることが出来ました。子どもたちはいつだって新鮮な視線を提供してくれる。子は宝……それがよくわかる日でした」
「ええそうですね。私も教官として苦労も多いですが、子どもたちからたくさんのことを学ばせてもらってます」
「ああそれと……」
「はい?どうしましたツムギさん?」
「にんじん、ちゃんと食べられるようになってくださいね?ココナちゃん?」
「あ、あの子たちに聞きましたね!?というか今ココナちゃんって!!」
「ふふっ、次会う時までににんじんを克服していることを期待していますよ。そしたらまたココナ教官と呼んであげます」
「む、むむむ~~!!!」
ふくれっ面で睨むココナの頭を撫でてツムギは去っていく。ツムギの背中を見ながらココナは一人呟く。
「子ども扱いして……一人前のレディなのに……」
そうは言いつつも頭を撫でられたことは少し嬉しかったココナちゃんであった。
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