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~アル編~
ツムギがいつも通りインスピレーションを探すために歩いていると、公園でずっと地面を見ながらうろうろ歩き回っている生徒を発見する。
「どうかなさいました?可憐なヒロイン」
生徒はツムギの方を見ると、一瞬フリーズした後に手をポンと叩く。
「あ……あなたは」
「おや?私をご存知なんですか。もしファンでしたらサインくらいならお書きしますよ」
ツムギはステージ上では基本原型がわからないほど濃いメイクをしているが、普段の格好でゲリラライブをすることも多くそこでファンができることも珍しくはない。だからこそ、自分が顔を知らない相手に一方的に顔を知られていてもそこまで驚かないのである。だが、今回は違った。
「いや、そうじゃなくて。あなた、椎名ツムギさんよね?私は陸八魔アル、って言えばわかるかしら?」
「陸八魔アル……ああ!便利屋68の社長さんですね!?」
便利屋68。ツムギにとっては以前から活動を応援してくれているファンであり友人のカヨコや、前回海賊に攫われたときに助けてくれたムツキの所属する組織であり、二人からアルの話はよく聞いている。なにせ油断するとすぐアルのことを話す二人なのだから、自然と耳に入っているのだ。
「確か、以前海賊から逃げる際に手助けしてくださりましたよね。その節はありがとうございます」
「いえいえ、あなたも災難だったわね。まさか海賊に目を付けられるなんて。まぁ、これからも何か困ったらうちを頼りなさい」
「……なんというか、ある意味では思った通りで、ある意味では予想外の方ですね」
「……?」
ムツキとカヨコの二人から話は聞いていたが、それにしても物腰柔らかで、温和な雰囲気の常識人である。これがあの二人を部下に持ち、圧倒的な狙撃力を見せたアウトローの頭だとはとても結びつかない。
「まぁ、ある意味最も恐ろしいタイプのアウトローかもしれませんね」
「え!?もしかして褒められちゃった!?私!」
「……恐ろしいアウトローって褒め言葉なんですか?」
「そりゃあそうよ!アウトローってのは恐れられてナンボなんだから!」
(やはり、計算した上でこういうキャラをしているわけではないみたいですね)
「それで、どうしたんですか?ずっと地面を見ていたみたいですけど、バッタでも探していたんですか?」
「違うわよ!ちょっと落とし物を探していて……」
「意外とおっちょこちょいなんですね」
「私のじゃないわよ!!?依頼よ依頼!!」
「落とし物拾いの依頼……ですか?」
「……落とし物拾いがアウトローの仕事なのかって今思ってるでしょ」
「まぁはい、正直探偵とかに頼む仕事だなって」
「しょうがないのよ!今月ピンチなんだから!言っとくけどいつもピンチなわけじゃないからね!」
「存じていますよ。ただ、お金があると社長がすぐ使うからピンチな時は多いとも存じていますが」
「か、カヨコから聞いたでしょそれ!そうよ!でもアウトローには見栄も必要だとは思わない?」
「まぁはい。私も基本カッコつけて奢ったりと金使いは荒い方なので、気持ちはわかります」
「そうよね!一々値段を気にして物を買ったりするのはアウトローらしくないわよ!」
「そして、怒られた結果一人で落とし物拾いの仕事をしていると」
「……まだ怒られてないわよ」
「わかります、わかりますよ。私もお金が全くない時、ルームメイトに叱られるのが怖くてお手伝いをして小遣い稼ぎしたりしますからね」
「カヨコ怒ると怖いのよ……」
「私も以前カヨコさんに金使いの荒さを指摘されちゃいましたね……あれは怖かった」
変なところで共鳴した二人は、顔を見合わせてにへらっと笑う。とても普段アウトローやデスメタルをやっているとは思えない柔和な笑顔だ。
「落とし物探し、手伝いますよアルさん」
「……言っとくけど、報酬は分けてあげないわよ?」
「以前アルさんに助けられましたからね。そのお礼ですよ」
「そういうことなら手伝ってもらいましょうかね。助かるわツムギ」
「それで、落とし物の特徴はなんですか?まさか危ない薬とかじゃないですよね?」
「なんでもお財布だとか。私も前財布を落としたことがあるから、焦る気持ちはよくわかるわ」
「……やっぱりアルさんは意外とおっちょこちょいなんじゃ」
「失礼ね!?私だってそんな何回も落としたわけじゃないんだから!!」
1時間ほど後……
「……全然見つかりませんね、お財布」
「まぁ、渡されたルートを隈なく調べつくすとなると、どうしても時間がかかるわよね……」
「私たち、凄い不審者だと思われてませんかね」
「い、いいのよ!アウトローなんだからちょっとぐらい怪しいことしても!」
「それとこれとは大分話が違う気がするんですけど」
「……正直こんなことに付き合わせるのも申し訳ないし、ツムギは帰ってもいいのよ?」
「そういう訳にはいきません。一度やるといった以上、途中で折れるなんてロックではありませんので。それに、インスピレーションの元を探して不審者だと思われることには慣れていますので」
「慣れてるの……?」
「まぁ、そもそも公園とかで野宿とかしてると毎回凄い目で見られますよ」
「ああ……それはわかるわ。私たちも事務所を失ったときはテント生活をしていたこともあるもの」
「それでもみなさんついて来るあたり、カリスマ性は本物なんでしょうねぇ……実際こうしてつい私も手伝っているわけですし」
「カリスマ性……ってなんなのかしらね。やっぱりバンドやってるとそういうものを何となく身についたりするの?」
「いえ、私はバンドメンバーの中でも地味な方ですので。それに、こういうのは生まれ持っての性質が大事だと思いますよ」
「そうなのね。ツムギから見て私はカリスマ性があると」
「もちろんですよ。きっと、その心根の優しさと善良さが、周囲の人を癒し惹きつけるのでしょうね」
「ぜ、善良さ……?」
「?……はい、アルさんが真面目ないい人なのは、少し話した私でもよくわかるので。きっと、みなさんもそんなアルさんだか信頼してるんだろうなと」
「真面目……いい人……!?」
アルはショックを受けて膝から崩れ落ちる。目に見えて落ち込むものだから、ツムギも心配はするが、落ち込んでいる理由がわからない。真面目に落とし物探しをして、周囲ともすぐ馴染み、部下からも慕われ自分を助けてくれた。その上太陽のように笑うキヴォトスでも屈指の善人である彼女が、まさか恐れられることに喜ぶだけでなく、積極的に悪いイメージを持ってもらいたいなど彼女と接した人物にとってはまるで理解できない話なのだから。
「あ……アルさん、これじゃないですか?お財布」
「え!?見つかったの!?」
(あ、元気になりましたね。よかった)
「さっそく依頼人に返しに行くわよ!きっと今も心配でおどおどしてるんだから。早く安心させてあげないと」
(……やっぱり優しくて良識のある人ですね。結局、落ち込んだ理由がわかりませんね。もっと彼女のことを知りたい……と思わされるのもきっと彼女のカリスマ性の一部なのでしょうね)
二人は依頼人に財布を返した後、ほくほく笑顔で仲よく道を歩いていた。
「いや~無事にお金が手に入ったわね!」
「ちゃんとお金を払ってくれる依頼者でよかったですね」
「せっかくだし、今からうちの事務所に来ない?収入も入ったしサービスするわよ。五人分のお昼ご飯買っていきましょう!」
「それなら私は皆さんの分のスイーツを買って帰りましょう」
「あら、ツムギも最近収入が入ったの?」
「いえ、最近はまったくですが……しかしこの記念すべき出会いになにも用意しないのはロックではありません」
「それじゃあ、今日はお祭りよー!!」
結果、二人は奮発して寿司とケーキを人数分買ってきたが、金の使い方に関してカヨコに散々叱られたのであった。二人して正座をしているのを見て、ムツキはずっと笑っており、ハルカはおどおどしていた。
「「ご、ごめんなさい……」」
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