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サオリ誕生日おめでとう
~ミサキ編~
「……明日リーダーへの誕生日プレゼントどうしようかな」
ミサキは一人悩んでいた。
明日はサオリの誕生日である。この日のために必死に軍資金を貯めてきたが何を買うかまだ決まっていない。今までアリウスの中では手に入らなかったものが多すぎて、この無限ともいえる選択肢からサオリが喜ぶものを一つだけ選ぶなど、まだ外の世界に関する知識の足りないミサキには難しい話なのである。
こういう時普段から活力にあふれているアツコやヒヨリはそれぞれ心当たりがあるらしく、既に別の場所にプレゼントを手に入れに向かい明日サオリの元で合流する予定である。
ミサキはとりあえずD.U.の巨大商店街の近くまで来た。目標物は決まっていないが、ここならば大抵の物は手に入るだろう。
「今日はもう遅いし、明日に備えて早く寝ないとな……」
ミサキはこの辺りに潜んでいた時に使っていた隠れ家を再利用しようと思い、廃墟へと向かう。電気を照らし、中を見てみる。以前使っていた時に比べれば多少は汚れているが、一度大掃除したおかげで今でも使えそうな状態である。
「大掃除の時はハウスダストで大変だったな……くしゃみが止まらなくて」
そして、この廃墟で唯一使える状態にある部屋へと向かう。他の部屋は残念ながら掃除したところで使えそうな状態ではなかったのだ。それでも、一部屋でも使える部屋があるだけ幸運なのだが。スマホのライトをつけて部屋の中に入ると、ソファの上で生徒が一人眠っていた。
「……は?え?誰?」
「ん……んんぅ……?へっ?人?」
互いに向き合い、なぜここに人がという全く同じ疑問で数秒固まる。先に口を開いたのはミサキの方だった。
「あ……もしかして、普段からここで寝泊りしてるの?」
「いえ、今日だけですよ。使えそうな部屋があったので。そちらは?」
「……ここ、私たちが昔使ってた拠点なんだよね」
「あ……道理で廃墟にしては妙に整っていると。すみません、勝手に使っちゃって」
「……いや、よく考えたら別に私たちの場所って訳でもないし、ここで寝ててもいいよ。ただ、私も勝手に使わせてもらうから」
「私はワイルドハントの眠り姫、椎名ツムギです」
「私はミサキ……戒野ミサキ」
「ミサキさんが一緒にいてくれるなら、正直心強いですよ。ここ狭くて暗いので、一人だけだと不安だったんですよね」
「そう、私は怪しいやつが傍にいてむしろ不安になってるけどね」
そう言いながらミサキはツムギの隣に座り、銃の手入れを始める。
「……その割に、ミサキさんめっちゃ距離近くありません?実は怖いとか?」
「こ、怖くなんてないけど……ツムギが怖いから、私も怖がってるように思えるんじゃない?」
「いやぁ……まぁ狭くて暗いって本能的に恐怖を刺激しますからね。そういう場所は怪異にとっても付け込みやすいので実際一人は危険だったりするんですよね」
「……ツムギってオカルトとか信じるタイプなんだ」
「まぁはい。けっこう調査とかもしてますし、何度か怪異と会ったこともありますよ」
「別にツムギが信じるのは勝手だけど、私は全く信じてないから。だから、そういう話はもうしないでね」
ミサキは先ほどから銃のずっと同じ部分ばかり磨きながら話を聞いていることが分かったツムギは、そのお願いを了承するのだった。
「ふふっ、わかりました」
「そういえばツムギはどんな理由で野宿してるの?」
「まぁ、節約ですね」
「節約?お金自体はあるみたいな言い方だね」
「あると言えばあるのですが……明日友達へのプレゼントを買うんです。そのためのお金に手を付けるわけにはいきませんから。普段からもっと貯金していればいいと言われたらそれまでなんですがね」
「奇遇だね。私も明日、プレゼントを買うんだ。お世話になった人のために。ツムギってこの辺りについて詳しいの?」
「まぁ、何度か訪れたことはあります」
「私この辺りの店とか全然知らないからさ、一緒に買いにいかない?」
正直言って他人へのプレゼントなど何を買えばいいか全く分からないミサキであったが、外の世界に詳しい人が隣にいればいいものを見つけられるかもしれない。そう思ってツムギを誘ってみるのだった。
(……さすがにこのお願いは怪しすぎるかな。私だったらこんなこと言われたら100%断るし)
「え!?ミサキさんとデートですか!?いきなり情熱的な方ですね……好きですよ、そういう方」
「……やっぱり一人で選ぶ」
「ふふ、言質はとりました。ミサキさんから提案したんですから逃がしませんよ」
夜が明けて、結局ツムギと二人で買い物をすることになったミサキ。ツムギは化粧品店の中に入り、とんでもない種類の化粧品を見る。
「うわ……こんな小さいのに結構高いんだね化粧品って。それに、似たようなのがたくさんありすぎてよくわかんない……」
「確かあの人は化粧品に興味があるとか言ってましたからね」
「……そういう嗜好品は私全く分からないや。でも、確かにリーダーは興味ありそうだったし喜んでくれるかも」
「それじゃあミサキさんのプレゼントもここで選んじゃいますか?」
「……そうだね。多分それがいい気がする。正直他にプレゼントにいい物とか全く思い当たらないし」
「私は……このハンドクリームにしましょうかね。サンプルを嗅ぎましたがいい匂いです。それに、普段からずっとバイトをしていて荒れていそうですから」
「よくわかんないし、ツムギと同じものでもいいかな」
「私は、ミサキさんが選んだものを渡すべきだと思いますよ」
「そんなこと言われても……化粧品なんてわかんないし」
「だからイメージするんです。どんな化粧品を使っているリーダーさんが、一番美しいのか」
「……私の主観で?」
「ええ。だって、ミサキさんはリーダーさんのことをよく知っているんですから、あなたの主観ならきっと外れませんよ。それに……こういったものは相手のことを考えて選んだという事実そのものが、プレゼントに特別な価値を与えるんです────『愛』、を形にしたものがプレゼントですから」
「そっか……じゃあ、これにしようかな」
ミサキはヘアオイルを一つ手に取る。
「私はねえさ……リーダーのあの長い髪が好きだから……」
「決まりですね」
二人は会計を済ませラッピングまでしてもらった後、大事そうにプレゼントを抱えて店から出た。
「ところで、ミサキさんは今から私に行くんですか?」
「うん……ツムギは?」
「私もです。それじゃあ、お別れですね……大丈夫、リーダーさんはミサキさんのプレゼントを絶対に喜んでくれますよ」
「そんな励ましの言葉いいから……じゃ、お別れだね」
ミサキは目的地に向けて歩き出す。
「あ、私の目的地もそっちなんですよ。それじゃあ、別れるまでもう少し一緒にお話しましょうか」
「……別にツムギみたいに気の利いたことは言えないよ」
「構いませんよ。私のわがままですから」
そのまま、どんどん歩いていくが一向に離れない二人。目的地まで大分近くなったところで、不安になったミサキが声をかける。
「……ところで、どこまで一緒について来るの?本当にこっちであってるんだよね?」
「はい……私の行先も確実にこっちなので」
「…………ねぇ。私は誕生日だからプレゼント買ったけど、ツムギはなんで買ったの?」
「……」
二人の間にしばらくの沈黙。その沈黙こそがツムギの答えであった。
「あの……もしかしてなんですけど、ミサキさんの言うリーダーって、サオリさんですか……?私は以前バイトに来てもらって以来の友人ですけど」
「はぁ……どんな偶然なの全く……うん。なんでリーダーって言ってるかは聞かないで。関係性は話すつもりないから」
「まぁ初対面の時から思ってましたが。色々事情があるみたいですね。その……同じもの、買わなくてよかったですね」
「本当にね」
二人からのプレゼントを受け取ったサオリは、珍しく柔らかな笑顔を見せてくれた。その笑顔に対しミサキはツンとした態度をとりつつも小さくガッツポーズをした。貴重なものを二つも見れて、ほぼ無一文になったが大満足なツムギであった。
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