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~ツバキ編~
「全く……随分と探させてもらいましたよ。百鬼夜行の眠り姫」
ツムギは今、百鬼夜行の眠り姫と思われる生徒の前に立っていた。
先日、ツムギは百鬼夜行の眠り姫の噂を聞き、ワイルドハントの眠り姫を自称する身としては一度会ってみたいと考えたのだ。しかし、修行部にまで来たものの、件の眠り姫は出かけているということで、出かけた先に行けばまた別の場所に行ったと言われる。そんな訳で各所をたらい回しにされながら、やっと出会えたのである。
「……あの……返答がありませんが、あなたが百鬼夜行の眠り姫で間違いありませんよね?」
見た目の特徴は修行部を訪れた時点で聞いている。こんなきわどい服を着て盾を持っている生徒が複数人もいてたまるかとは思うものの、百鬼夜行は実際なぜか横乳を出している謎の露出の服が文化的に多く、絶対に本人だとは言い切れないため確認をするツムギであった。
「……」
しかし、返答はなく生徒はトコトコとツムギを無視して歩いていく。
「おーい?すみませーん?聞こえてますでしょうかー?」
「……」
尚も無視して、ツムギの方を見向きもせずに歩き続ける。さすがに無視され続けて少しイラっとしたツムギは、大きく息を吸って全力のデスボイスで思いのまま叫ぶ。
「ヒャッハー!!てめぇ話を聞かねぇんならその可愛らしい耳を破壊しちまうぜぇぇ~~!!」
「……ふあぁ?私のこと、呼んだ~?」
「呼んだ~?じゃねぇぞぉ!ずっと目の前で叫んでたぜぇ!魂の雄たけびをよぉ!!」
「ごめん~今寝てたから~」
「……寝ていた?いや、普通に歩いていましたよね?」
「うん~今日はそういう修行だから~~」
「……はい?」
「この紙に書かれたように眠りながら移動する修行~~」
「ちょ、ちょっとその紙を見させてもらってもいいでしょうか!?」
「うん、いいよ~~」
ツムギが紙を受け取り中身を覗けば、そこには今日ツムギが通ってきたルートと全く同じルートが書かれていた。
「……まさか、修行部を出発した時からずっと寝ながらここまで移動してきたんですか!?」
「うん……そうだよ?というか、私が修行部だって知ってるんだ?制服的に他校の生徒さんだよね?やっぱり私に用があったの?」
「私はワイルドハントの眠り姫、椎名ツムギです」
「私は修行部部長の春日ツバキだよ~ふわぁぁ……眠い」
「さて、特に用事はないんですよね……噂の眠り姫さんに会いたくなって追いかけてきただけで。ツバキさんが百鬼夜行の眠り姫で間違いなさそうですね。なんというか……私が想像していた眠り姫と180度違いましたが」
「どう違ったの~~?」
「こう……なんというか寝顔の綺麗さとか、お姫様のような雰囲気で呼ばれているものかと思っていましたが、まさか眠りながら動ける特技持ちだから眠り姫と呼ばれていたとは」
「ツムギはそうなの~?確かにお淑やかな雰囲気はしてるね」
何か寝起きの時は変な言葉が聞こえたような気がしたが、寝ぼけていただけだろうとあまり気にしないおおらかな性格がツバキの魅力であった。
「あ、私自称しかしたことないんでわかりません」
「あはは~変な人~」
「正直ツバキさんの特技の方がかなり変人というか超人というか……寝ながらでも動き回れるのは姫というか警戒心の高い騎士とかな気がしますが……」
実際眠りながら戦うこともできるのがツバキではあるので、この考えはあまり間違っていないがさすがのツムギもツバキが眠りながら銃を避けることのできる能力があるとはわからない。
「う~ん、でも、眠りながら動けたらいっぱい眠れるってみんな思うよね?じゃあ、そんな変な事じゃないと思うんだけど。まぁ私は特に眠ることが好きだとは自負してるけどね」
「思うのと実行するのでは大分違いますからね。しかし、とんでもない常識ブレイカーを前にして正直わくわくしていますよ。芸術の世界は常に常識を壊すような存在が期待されているので。私も修行すれば寝ながら何かできるようになるんでしょうか」
「きっとできるよ~」
「修行部のみなさんもできるんですか?」
「ん~?そもそも別に眠る修行は私以外してないしな~」
ツバキの予想外の言葉に目を丸くするツムギ。
「え……修行部ってツバキさんの元で修行をしているメンバーの集まりじゃないんですか?じゃあどんな修行をする部活なんですか?」
「私の元で修行してるって訳じゃないよ、一応部長はやってるけど。修行部はみんなそれぞれ自分の目指すもののために日々邁進しているメンバーなんだ……といっても、基本は好きでやってるだけなんだけどね。みんなとってもいい子だよ」
「面白い部活ですね。そうなると私の音楽活動もある意味修行なのかもしれませんね」
「そうだよ。修行って言うのは言葉の響きから難しいことのように思えるかもしれないけど、もっと気軽に挑戦してみてもいいと私は思うんだ」
「……ところで、呼び止めておいてなんですが、歩いていたということは目的地があるのでは?先ほどの紙的に目的地はここではなさそうですし」
「大丈夫~急ぐ用事じゃないから。ふふっ、すぐそこだからツムギも来る?いい場所だよ」
「では、お言葉に甘えて」
確かにツバキの言う通り、目的地にはすぐに到着した────草原だ。ツバキにガイドされて向かった先には、草原が広がっていた。ツバキはそのまま木陰まで移動して、枕を取り出す。
「綺麗な景色ですね……何か、体の中の悪いものが出ていくような、ある種のパワースポットのような力すら感じます。」
「パワースポット……そうかもね。ここで眠ると、いつもとっても楽しい夢が見られるんだ。ツムギも一緒に寝る?」
「おや、確かに気持ちよさそうですね。ツバキさんを探し回ってくたくたですし、私も一緒に眠らせてもらいましょうか」
「あ……枕一つしかないや。私は無くても寝れるから、ツムギが使う?」
「私だってワイルドハントの眠り姫を自称するだけあって野宿には慣れてますから。大丈夫ですよ」
ツバキはその言葉を聞いて、くすりと優しく笑う。
「……眠り姫って別に野宿するイメージはないけれど。やっぱり変わった人だねツムギは。それじゃあ、代わりに私の膝を使って寝る?」
「……ひゃい?」
予想外の言葉にツムギは気の抜けた返事をしてしまう。なにせ、ツバキは大胆に露出した柔らかそうな太ももを叩きながら、ツムギに提案しているのだから。
「結構好評なんだよ、私の膝枕。私自身仰向けになって寝るから、二人でL字みたいに寝ることになるかな」
「……あの、それいいんですか?ツバキさんは」
「私はみんなに睡眠の楽しさを知ってもらいたいからね。熟睡できるなら膝ぐらい貸すよ?」
本当にただ純粋にツムギに気持ちよく眠ってもらいたいというのが表情から伝わってくる。本当にいい人であることが伝わってくるからこそ、罠では無いと信じられるからこそ、なぜか騙しているような気持ちになって首を縦に振っていいものか悩む。
「……逆に眠れなくなりそうですが、せっかくなので枕にさせてもらっていいですか?」
なにかいけないことをしている気がするが、実際頭を置いたらどれだけ柔らかいんだろうという好奇心には逆らえない。ツムギはツバキの太ももの辺りに頭を置き、ゆっくりと眼を瞑る。
「どう?気持ちいいでしょこの場所。私のお気に入りスポットなんだよ」
「あ……確かにこれは日差しもちょうどよくて枕も柔らかくてとても…ねむ…く」
ツムギがあっという間に寝てしまったのを見て、ツバキは顔を覗き込む。
「うんうん……いい寝顔だね~。それにしても……なるほど、確かにこの寝顔はお姫様みたいかも」
ツバキはツムギの頭を撫で、寝顔をしばらく楽しんだ後ゆっくり自分も眠る。草原には、二人の眠り姫がまるで童話から出てきたようなきれいな寝顔でお昼寝をしている光景が広がった。
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