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~ミカ編~
「ふぅ……草むしりっていくらやっても慣れる訳じゃないよねぇ」
聖園ミカは今日も社会への奉仕活動の一環として、草むしりをしていた。夏も終わりに近づいているとはいえ、まだ日差しは暑い。そんな状況でずっと草むしりを続けるのは、ミカがいくら丈夫で体力に自信があるといっても身が持たない。一旦ベンチに座り、自販機で買ったお茶をごくごく飲む。
「ぷはー!やっぱ生き返るって感じだねこれは。ナギちゃんだったら多分自販機のお茶なんて飲んだら倒れちゃうだろうけど、今の私にとっては至高の一杯だよ」
カラカラになった全身に冷えたお茶が染みていくのを感じながら休憩していると、他校の生徒と思われる人物が真っすぐミカの方に近づいてきた。
(お?なんだろう。道案内とかなら奉仕活動の一環になるだろうし、時間も潰せるから大歓迎なんだけどな)
しかし、そんなミカの期待とは裏腹に生徒からの第一声はとんでもないものであった。
「すみません、トリニティの屋根裏部屋の魔女とはあなたのことですか?」
「は?」
ミカは冷たく低い声で、謎の生徒を睨みつける。
「はは、面白い子だね。まさかいきなり人のこと魔女宣言とは。面白過ぎるジョークにはちゃんとお返ししないとね」
ミカは銃を手に取り、ツムギに向けて突き付ける。さすがにいきなり撃ったりはしないが、トリニティの生徒ならばともかく誹りを受ける謂れもない生徒にいきなり侮辱されて黙っていられるほど大人しい子ではないのだ。
「おや……これは正体を下手に暴いたら良くなかったやつですかね……落ち着いてください。私は魔女狩りなどではないので」
「いい?あなたがやるべきことは二つ。一つは右を向くこと。もう一つはそのままトリニティの外までさっさと出ていき一生私の前に姿を出さないこと」
「……その命令は呑めません。現代に残った数少ない魔女の手がかりをみすみす逃すわけにはいきませんので」
「ふぅん、いい度胸だね。あなた名前は?救急車を呼ぶときに、名前とか分かってた方が色々スムーズだからね」
「……椎名ツムギ。友のために、魔女の正体を探る不届き者です」
「……椎名ツムギ?」
その時、ミカの記憶の蓋が開き、必要な情報をまとめ始める。数秒のうちに脳内は整理がつき、銃を下ろしツムギに質問をする。
「もしかして、ナギちゃんの言ってたワイルドハント生徒?」
「ナギちゃん?」
「桐藤ナギサ。私の友達だよ」
「ああ……一度絵画展を案内したことがありますね」
「……ふ~ん、ナギちゃんから話は聞いた限り、悪い子じゃなさそうだったし……何か勘違いがあるのかな?ねぇ、あなたのお話を聞かせてもらえる?なんのために私に会いに来たのか」
「私はオカルト研究会の副会長として、魔女について調べているんですよ」
「あ~~……そっち系の人だったかぁ。これはなんというか……ごめん、早とちりしちゃったや」
「トリニティの魔女たちについて調べるために今日は来まして」
「私以外魔女がいるの?」
「トリニティだと古書館の魔術師とか氷の魔女とか……素敵な二つ名を持った魔女が」
「ああ……聞いたことあるなぁ。あの二人か。言っておくけど、トリニティにおける魔女なんて偏屈とか問題児とか、基本的に侮辱だからね?あなたわざわざ会いに行って、開口一番喧嘩売ってるようなおバカさんになるよ?ボコボコにされてもしらないよ?まぁ私以外の子はそんなことするとは思えないけど」
「ううむ、つまり敵意もないのにいきなり撃たれたがってる変態が目の前に現れるということですか。魔女の前に立つマゾということですね」
「はは☆ウケる。中世ならギロチンもののギャグだね」
「それはそうと、すみませんでした。知らなかったとはいえミカさんを侮辱する発言だったわけですね……配慮が足りておりらず申し訳ありません」
ツムギは腰を曲げ深々と謝る。
「いいっていいって。私はそれだけ言われるようなおバカなことしちゃったんだから。ただ、さすがに他校から冷やかし気分で煽りに来られたのかと思われたらだーいぶイラっとしちゃっただけで」
「そんなつもりは無いんですよ本当に……ですが、そうなるといわゆるおとぎ話に出てくるような魔女ではないんですね……じゃあ噂に聞いていた、隕石を落とす魔法を使うというのは……」
「あ、隕石落とせるのは本当だよ」
「ほら!やっぱり使えるんじゃないですか!魔法!」
「いや別にあれは魔法というわけでは無いから……まぁ原理の説明を求められたら私も困るんだけど」
「じゃあ古書館の魔術師が時間逆行魔法が使えるというのは?」
「それただの古書の修復だね……いやあれただの修復なのかな?正直魔法と言われた方が納得いくレベルな気はするな」
「ほら!やっぱり!じゃあ氷の魔女のエターナルフォースブリザードは!」
「それは本当に根も葉もない噂だね!?」
「むむぅ、残念です。せっかく現代を生きる魔女について調査ができると思ったのですが」
「まぁ、ウイちゃんのところには確かに行ってみたらいいかもね。きっと役に立つ文献紹介してくれるよ」
ミカは一息ついてお茶を飲み、ツムギに気になっていることを質問する。
「ツムギちゃんのお友達は魔女に憧れているんだ」
「ええ、いっつもとんがり帽子を被って、人を幸せにする魔法について研究していますよ」
「人を幸せにする魔法?」
「ええ、魔法はキラキラしていて、誰かを幸せにするものであって欲しい……そう思っているようです。そんな彼女のためなら、私はいくらでも頑張ることができるんです。だって、私はエリが真の魔法使いになった姿を見たいと思っていますから」
その目に映し出された覚悟に、ミカは思わず目を背ける。ただ友達を無条件で信頼し応援できる。考えをここまで正直に話せる。そんなツムギが眩しく映ったからだ。
「ミカさんも魔女と呼ばれていることを気にしなければいいんじゃないですか?そんなに悪いものじゃありませんよ?魔女」
「あはは……そーいう訳にはいかないかなぁ。この魔女というあだ名は私自身に対する戒めだから。それに、私にだって憧れているものがあるからね」
「ほほぉ、それはなんでしょうか」
「……笑わない?」
「笑いません。夢を笑う奴や芸術家ではありませんから」
「私ね、お姫様になりたいんだ。大事な人にとっての、お姫様。草むしりしてた奴が何言ってるんだって思うかもだけど」
ツムギはふむふむと頷いたうえで、きょとんとした顔をしている。
「草むしりするお姫様の何が悪いんですか?泥にまみれようと、私は美しいという証明になるでしょう?」
「あはは……そこまで自信は持てないかな」
「私は信じてますから、私のかけがえのない友人が真の魔女になることを。ミカさんが大事な人にとってのお姫様になることを」
「……ツムギちゃんは凄いね。そんな風に、誰かのことを心の底から信じられる人間だもの」
「私は自分のことを信じていますから。そうじゃないとステージなんて上がれませんよ。だから、ミカさんもミカさん自身のことを信じてあげてください」
「難しいなぁ……」
「そんなことありませんよ。あなたは初対面の印象が最悪だった私を、ナギサさんの言っていたことを信じて話を聞いてくれる優しさを持った素晴らしい人です。そのナギサさんが信じるミカさんを信じてあげればいいんですよ」
「そうだ、草むしりしているなら手伝いましょうか?時間を使わせちゃいましたし」
「ダメだよ、これは私の罪に対する罰。赦しを得るための方法なんだから」
「ふむ、では質問に答えてもらったお礼として何か演奏でもしましょうか?生憎今できることはこれぐらいしかなくて」
ツムギはベースを取り出し、ミカに尋ねる。
「わぁ、本格的な楽器だ。ツムギちゃんってワイルドハントでもそういうの専攻してるんだ。じゃあ……リクエスト。Kyrie Eleison……祈りの歌なんだ。ねぇ、私のために、祈ってくれる?誰かに信じてもらうことが、祈ってもらうことが一番力になるから」
「ええ、ミカさんのために、祈りますね」
(自分を信じて、祈ってくれる人……かぁ。ナギちゃん、セイアちゃん、先生……私にはこんなにいるんだな。ツムギちゃんに気づかされちゃった……ありがとうねツムギちゃん。私のために、祈ってくれて)
ツムギの演奏を聞き、ミカは穏やかな表情へと変わっていく。それはまさに、お姫様のような笑顔であった。
(ツムギちゃん……私もツムギちゃんとその大切なお友達のために……祈るね)
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