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ミナ誕生日おめでとう!
~ミナ編~
ツムギがワイルドハント自治区を歩いているとき、他校からの観光客と思われる生徒に話しかけられた。
「すまない、この近くのラックドナルドの場所を知らないか?」
話しかけてきたのはクールな雰囲気の、いかにもシゴデキな生徒であった。
「おや……この近くですと……二軒ありますがどちらですかね」
「えーっと……参ったなぁ。近くには何があったか……」
「お食事でしたらどちらでもいいと思いますが……待ち合わせか何かですかね?」
「いやそういう訳では無くてだな……『月見で一杯』を知っているか?」
「ああ、ノワール映画の名作ですね。なるほど、聖地巡礼の方でしたか。それならあちらのラックドナルドですね」
「知っているのか!?」
生徒は先ほどまでのクールな面持ちを崩し、子どもらしいというか、年齢相応の笑顔を見せる。
「ええ、あの映画は私に斬新なインスピレーションを与えてくれた作品ですので」
「なら、案内を頼めるか!?私は近衛ミナ、山海経高級中学校の二年生だ」
「私はワイルドハント芸術学院二年生椎名ツムギ、あなたを映画の世界にご案内しましょう」
胸に手を当てて上品に挨拶するツムギは、まさに案内人の風格を醸し出しており、ミナのテンションは否応なく上がっていく。ツムギの案内で店舗に近づいていくと、どんどん映画で見たような風景に変わっていき、ミナは何枚も写真を撮り始めた。
「到着しましたよ。ここがミナさん希望のラックドナルドです」
「おお……ここがあの『月見に一杯』の撮影現場か……凄い!劇中で主人公が食事していた店舗がちゃんとあるぞ!」
「せっかくですし、ここで食事していきます?」
「ああ、そうしよう」
列に並び、ツムギは何を食べようかなと考えている最中、ミナはイメージトレーニングと思われる奇妙な動きを繰り返している。
「すみません、ダブルチーズバーガーとフライドポテトのMサイズください」
ツムギが注文した後、ミナはついに来たと少しにやけた表情を引き締めて、注文を行う。その方法は、メニュー表から写真を順番に指差し、商品を注文するというものであった。
「ご注文繰り返します。ビッグラックとチキンナゲットが1つずつですね」
ミナはコクリと頷くと、注文が通る。ツムギのいる席に向かう途中、ミナは小さくガッツポーズをしていた。
「劇中と全く同じ注文方法ですね。メニューまで一緒だ」
「ふふっ、どうだ。中々カッコよかったんじゃないか?」
「ええ、様になっていましたよ」
傍から見るとただ口下手な人に見えなくもないが、実際ミナは黙っていればカッコイイ部類なのでカッコよかったのは嘘ではない。
二人は注文したハンバーガーを食べながら、映画の話に花を咲かせる。
「ワイルドハントは映画の聖地だからな!ワイルドハントで作られた映画はとても多く、たまの休みにはよく聖地巡礼に来るんだ」
「ワイルドハントは芸術全般が盛んですからねぇ。ミレニアムも最新技術を使った映画が人気ですが、ワイルドハントは街並みも綺麗ですし、映画産業でも決して負けるつもりはありませんよ」
「やはり、ワイルドハント生徒の中には映画を専攻している生徒もいるのか?」
「もちろんです。実はワイルドハントには生徒によって作成された未公開の映画も結構眠っていまして……ミナさん好みの映画をいくつかピックアップして上映室で一緒に見ましょうか?私がいれば校内も問題なく歩けるはずです」
「上映室……映画を見るための部屋まであるのか。さすがワイルドハントだな。そして、なんと魅力的な提案だろう。ぜひご一緒させてもらいたい!」
「では、食べ終わったら早速向かうとしましょう」
上映室は本物の映画館と比べてもまるで遜色ない造りとなっており、このような場所が個人利用が可能という時点でワイルドハントが芸術学院と呼ばれる理由を物語っていた。
「な、なぁ……本当に使って問題ないのか?」
「許可もとって来たんで大丈夫ですよ。以前友人に見せてもらった映画は確か……これですね。同じシリーズがあるので二作品とも見ちゃいましょう」
「学生の時点でシリーズ物の映画を……映画の撮影なんて相当に時間がかかるだろうに。これがワイルドハントか」
「まだ本人が納得していないから世に出ていないだけで、完成度は私が保証しますよ」
ツムギの言葉通り、一般に上映されている映画と比べても遜色ない完成度のノワール映画であり、ミナはここでしか見られないという貴重さと相まって食い入るように映画を見ていた。上映が終わった後、感極まったミナはしばらく黙って震えた後、溢れだす感想を抑えきれず口を開く。
「いやぁ……最高だったな!特に主人公を狙って封鎖されたビルに巨大爆弾が仕掛けられあわや全員被害に合うという危機!敵は『お前という死神のせいで多くの無関係な者が死ぬ』と言い放つ!しかし主人公が間一髪で爆弾を見つけ出し外に放り投げ、爆弾の光で照らされた宵闇、正確に敵をスナイプして『俺はお前だけの死神だよ』と言い返した姿!最高に痺れたな!なぁツムギ!お友達にも伝えておいてくれ!」
テンションが上がりすぎたのか今までで一番の大声でミナは感想を叫ぶ。
「ふふっ、ええ、必ず友人にも伝えておきますね。きっと、大変喜んでくれるでしょうね」
映画が終わって空き教室に移動して、二人で感想を言い合っている最中、ミナはふと疑問を口にした。
「ところでツムギの専攻はなんなんだ?」
「私は実践音楽ですね」
ツムギはベースを取り出しながら答える。
「音楽か。私も常にリコーダーを持ち歩いていてな……」
そう言うとミナはリコーダーを自信満々に取り出す。
「おや、リコーダーが趣味なんですか?」
「リコーダーが趣味……というより、このリコーダーで鎮魂歌を奏でつつ警告をする形だな」
「リコーダーで?」
「ああ、山海経で悪事を働く下手人どもに、お前たちにとっての死神がやってきた、もう逃げられないと知らせるためのリコーダーだ」
さっそく死神というワードを使ってるなと思いつつ、指摘はしないツムギであった。
「なるほど……まぁなんとなくミナさんのやりたいことはわかりました。ぜひどんな音か聞かせていただけますか?」
「いいだろう。山海経ではこの音を聞けば今では私の姿を想起し恐れる下手人も多くいるぞ」
ミナが気合いを入れて演奏したリコーダーは、お世辞にも上手いとはいえず、音は外れている部分の方が多く、気の抜けた音楽を奏でるだけであった。
「……本当にこれが恐れられているんですか?」
「ああ、何かおかしかったか?」
「……はっきり言いましょう。大分音がずれてますよこれ?」
「な、なんだ……と?」
「……今から録音するので、もう一度吹いてみてください」
「あ、ああ」
録音した音声をミナに聞かせれば、ミナは白目をむきショックを受ける。今まで散々カッコつけのためにやってきたのにこんな気の抜けた音楽になっていると知らされればショックは計り知れない。
「……ツムギ。リコーダーの正しい吹き方を教えてくれないか?」
「専門ではありませんが……わかりました。音がずれない程度には教えられますので」
そうして、ミナは上手とまではいかないが、ずれない程度にリコーダーを上達させたのだった。
「取り急ぎ……これで周囲から不協和音と思われない程度には上達したでしょう」
「そのレベルだったのか……いや、確かに録音したものを聞かせてもらったときは酷いものだったが」
「ふふっ、これでミナさんの鎮魂歌も、映画の演出のようになってくれるはずですよ」
それから数日後、ミナからモモトークがツムギの元に送られてきた。
「お、ミナさんから連絡が入りましたね。何々……?」
ミナからのメッセージには『きちんとした音程で演奏したら、私が来たと思われなくて警告による治安維持の効果が無くなってしまった……せっかく教えてもらって悪いがまたずらして演奏することになりそうだ。本当に不本意なのだが』と書かれていた。
「……まぁ、ミナさんという証明には下手くそな演奏の方がいいんですからね」
ツムギはせっかく教えたのにと少し悲しい気持ちになったが、ミナとの出会い自体は貴重なものだったので、あの時間も無駄ではなかったと考え、気分を持ち直すことにした。
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