76/100!!
~トキ編~
「ミレニアムを訪れるのももう何度目でしょうね……毎回来るたびに新しい設備が試験的に実装されてるのですから何度来ても新鮮な場所です」
ツムギはミレニアムを訪れ、とことこと歩いていた。来るたびに姿を変えるミレニアムは、なんでも爆発などの損傷が起きるたびに最新の技術と入れ替わっているらしく、ワイルドハントとは真反対ともいえるその姿勢はツムギは新鮮なインスピレーションを訪れるたびに与えてくれる。
「さて……せっかくですしゲーム開発部に行きましょうか」
ミレニアムについたらとりあえずゲーム開発部にいくことがツムギは習慣となっていた。なぜなら、あそこに行けばミレニアムの最新情報がかなりの確立で手に入るからである。モモイはあまり知り合いは多くないと言っていたが、どう考えてもゲーム開発部の人脈は随一であり、特にアリスに聞けば大抵の情報は手に入ると言っても過言ではない。
「どうも、ツムギさんがサプライズで来ちゃいましたよ~」
ツムギがゲーム開発部の扉を開けた先、そこにはポテチを広げヘッドホンをつけながらくつろいでゲームをしている、バニー服を来た少女がいた。
「……!?」
どう考えても異様な光景に、ツムギはまたゲーム開発部が新しく変な事業を始めたのかと思って周囲を見渡すが、どうやら部員たちは誰もいないようだ。
「おや?誰か帰ってきましたか。すみません勝手にポテチ開けてゲームさせてもらっています。ポテチはお箸で食べているので大丈夫です。お行儀のいいパーフェクトバニーなので、ぴょん」
少女がこちらを見ることはなく、ゲーム画面から目を離そうとしない。
「すみません、今忙しいところなので、そっちのコーラとってくださいませんか?」
「……はぁ」
ツムギは机の上に置いてあったコーラを手渡す。
「ありがとうございます。ボスが強くて中々手を離せなかったんです」
ツムギはいつ気づくのか気になり、後ろで静かに座ってゲームを見ている。少女は全くツムギに気づく様子はなく、真剣な顔でボスと戦っている。
「ふぅ……どうですか?私の完璧なアクションは。ピースピース」
少女がボスを倒したタイミングで、こちらを振り向きダブルピースでドヤ顔……ほとんど真顔に見えるがおそらくドヤ顔をしてくる。
「お上手でしたよ。兎さん」
「……へ?」
トキはヘッドホンを外し、クールな表情に似合わない素っ頓狂な声を出す。
「すみません。邪魔するのも悪いと思い、しばらく見させてもらってました」
「……な、なるほどどど。ゲーム開発部のお客さんですか。お、お茶でも淹れましょうか?」
少女はすっと立ち上がり、背筋をピンと伸ばしお辞儀をする。
「今更そんな風に取り繕わなくても大丈夫ですよ。私もゲーム開発部でよくくつろがせてもらっていますし」
「そうは言われても……私にもその……初対面で恥ずかしいという感情はありますので」
「ああ、そうですね。初対面なんですから挨拶しないと。私はワイルドハントの兎、椎名ツムギです」
「……飛鳥馬トキ。よろしくお願いします」
(……意外と人見知りなんですかね?それならば)
ツムギはトキのプレイしていたゲームを見る。以前ゲーム開発部に来た時にプレイさせてもらったもので、確か二人プレイが可能なはずだ。
「トキさん。ゲームしてたんでしょう?私も一緒にやっていいですか?」
「はぁ……ゲーム開発部に何か用事があって来たんじゃないですか?」
「ええ、そうですよ。ゲーム開発部に来る用事だなんて、ゲームをするからに決まってるじゃないですか」
「し、しかし……私はあまり上手くないですよ?」
「それを言ったらモモイさんも別に上手くないですし……」
「……正直、かなり難しいので手助けがあるのは助かります。ツムギ、協力感謝します」
「トキさん!右から敵が来てます!」
「ツムギ、私が範囲回復します」
「ナイス雑魚処理です!」
「見てください、レア素材ですよ。ぶいっ」
ツムギとトキは二人で協力して、ボスを順調にやっつけていき、何度もリトライした上でラスボスまで倒すことに成功した。
「……結局、クリアまでやっちゃいましたね」
「ええ、これは一人では絶対にクリア不可能な難易度でした。ツムギと最後までやれてよかったと思います」
「ふふっ、どうしたしまして」
「途中でツムギの道案内で進んだら迷ったときはどうしようかと思いましたが」
「ふふっ、人生は時に迷うことも経験となるのです」
出会った時に比べれば、トキの反応はかなり柔らかくなっていた。
(やはりゲームは仲を深めてくれますね……)
ツムギはトキとコーラで祝杯をあげて、笑い合う。
「これからも一緒にゲームをしましょう。ツムギ、連絡先交換しませんか?」
「ええ、いいですよ」
ツムギとトキはモモトークの連絡先を交換し合う。トキは嬉しそうにツムギの連絡先が追加された画面を見ている。
「トキさんはゲームが好きなんですか?」
「そうですね……趣味の一つですね。最近は漫画とか配信を見たりとかも……あくまで仮ですが」
「仮?」
「実は趣味探しの最中でして、何か良い趣味などないでしょうか」
「それならば、音楽とかどうでしょうか?」
「音楽……ですか。おススメの曲とかありますかね?」
「そういうのももちろんありますが……私はむしろトキさんに好きな曲が無いか聞きたいですね」
「趣味探しの一環で音楽を聴いていた時に、結構お気に入りの曲は見つかりましたね」
「そういった曲を、演奏してみたいとは思いませんか?」
ツムギはベースを取り出しトキの前で音を鳴らしてみせる。
「!……なるほど、そういうことでしたか。もしやワイルドハントでツムギさんが専攻しているというのは」
「ええ、実践音楽です。バンド活動なんかをしてますよ」
「バンド活動……みんなで……演奏を……」
トキは相変わらず無表情だが、声が高くなりわくわく感が抑えられない様子である。
「おや?何か思いついたのでしょうか?」
「あ……いえ、もし先輩たちと一緒に演奏ができたら素敵だろうなって……ただ、これは過ぎた願いでしたね」
「いいじゃないですか、誘ってみれば」
「いえ、先輩たちは忙しいですし……優しい方ですので。きっと、私がやりたいと言ったら気を使うと思うんです。せめて、私が一人前程度に演奏できるようになってから……声をかけようかなと」
「ふむ……トキさんの先輩はどんな方なのでしょうか」
「そうですね……天然でワンコな先輩や、クールに見えてお勉強が苦手な先輩。何を考えているかいまいちわからず怖い先輩に、チビで凶暴な先輩がいます」
「それはそれは、愉快なメンバーですね」
「ただ……私は色々入った経緯も複雑でして……正直、まだ馴染み切れているのか不安なところがあります。もちろん、先輩たちは優しく接してくれているのですが、その優しさに甘えて、これ以上無理無茶を頼んだらいけないなと」
「ふむ、その考えは理解できます。実際、バンド活動にはお金も時間もかかるものですから」
「……そうですよね」
「だから、ちゃんとそこまで伝えたうえでどう思うか聞けばいいんですよ」
「えっ……」
「簡単ではない点もちゃんと伝えたうえで、断ってももちろんいいという状況で、聞いてみればいいじゃないですか。一度も誘わないなんて損ですよ。トキさんがバンドに誘いたいと思うほど素晴らしい先輩なのでしょう?だって、好きじゃない人とバンドだなんで死んでもごめんですもんね」
「もし……もし断られたら?」
「それは仕方がないことです。例え断られてもトキさん本人が嫌われるわけではないんですから、気にしなくていいんですよ」
「……私が嫌われるわけではない」
「確かに相手を思いやる気持ちは大事です。でも、だからといって最初から何も伝えないのは違うと思うんです。言葉を紡いで、相手に伝えて、互いの考えを知る────『対話』、は人間の大事な文化ですから」
トキはしばらく考え込んだ後、意を決したように立ち上がる。
「もし、バンドにチャレンジすることになったらツムギは手伝ってくださいますか?」
「ええ、もちろんですとも」
「そうですか……それと、もう一つ」
「はい、どうしました?」
「パーフェクトバニーである私はメインボーカルが似合うと思うのですが、これで先輩方に希望提出してもいいと思いますかね」
「ふふっ、トキさんらしくて非常にいいと思いますよ」
トキはゲーム開発部から出ていった。しばらく後、モモトークにはピースマークが二つと次のバンド練習の日程が送られてきた。
気が向いたら評価お願いします!