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~リツ編~
「ふぅ……ふぅ……」
ツムギは巨大な荷物を抱えていた。ミレニアムで見つけた怪しい店で買った、両手でやっと持てるサイズの怪しい悪魔の石像を抱えていたのだ。道行く人々は怪しいオーラをムンムンに放っている石像を持つツムギを奇異の目で見ているが、ツムギは気にせずこれを早くエリたちに見せたいという一心で歩き続ける。
「重いですし、早く見せたいですし、急いで帰りたいですね……しかし、こういう呪物を持っている時は危険が降りかかってくるものなので気を付けないと……」
そんなことをツムギが呟いた瞬間、カーン、カーンと謎の音が響き渡る。
「……怪異でしょうか?」
まずは姿を出さず、音を出して周囲の注意を引く怪異は少なくない。獲物の恐怖が最高に高まった瞬間に姿を現すこの手の怪異相手には恐れることなく、そのまま無視して進むことが最適解なのだが────
「さっそくこの石像の効果が出てきましたね。さて、一体どんな怪異が現れたか拝ませていただきましょう」
ツムギ逆に周囲をぐるりと見渡し、怪異の正体を探りにいく。オカルト研究会副会長の彼女の好奇心は誰にも止められない。果たして、怪異の正体とは……
「~~~♪」
「……何やってるんですかリツさん?」
「ん?あ、ツムギちゃんだ!見ての通り石を削ってるんだよ?ボクの専攻忘れちゃった?」
カーンカーンと響き続ける謎の音の正体はリツが石を削っている音であった。リツは自分より大きな石を石粉に塗れながら必死に削っている。
「いえ、思いっきりワイルドハントの敷地外の、明らかに民家の石を削っているので……」
「この石がね。ボクに語り掛けてきたんだ。もっと綺麗な形を隠してるよ~って。だから、ここのおじいさんにお願いして削らせてもらってるんだ!」
「そういえば石の声が聞こえるんでしたねリツさんは。もう大分形が出来上がってるみたいですけれど」
「うん!後少しって感じ!とっても大変だったけど、あと少しでこの子の一番綺麗な姿をみんなに見せてあげられるんだ!」
「ふふ、私も完成までここで見ていてもいいでしょうか?重い物持って歩いてたら大分疲れちゃいましたし」
ツムギは悪魔の石像を横に置いて、リツが一心不乱に石を削る様子を見ることにした。
30分程後、元々巨大な石があった場所には、立派な狼の彫刻ができあがっていた。
「できたー!!」
「見事ですね。デティールまで素晴らしく、今にも襲い掛かってきそうです」
家の中からおじいさんが飛び出してきて、彫刻を見て驚嘆の声をあげる。
「お、おお!!これはこれは!どうせ処理に困っているから任せてみたら、まさかこんな素晴らしい狼に生まれ変わるとは!任せてよかったよ学生さん!」
「えへへ……おじいさんが気に入ってくれてよかった!」
「なぁ……本当にただでこんなもの貰ってしまってもいいのかのう?こんな素晴らしいものが貰えるとわかっていたら代金を支払ったものを。今からでも遅くない。あまり大金を持っているわけではないが、儂のへそくりを……」
「いいんだって!この石も喜んでるし、おじいさんも喜んでる!ボクはそれだけで十分なんだ~」
困ったおじいさんはツムギに気づくと、よぼよぼと近づいてくる。
「そこの生徒さんも、この子の説得をしてくれないかのう?」
「無理、ですかねぇ。彼女がどういう人間かは私がよく知っているので。彼女は決してお金に余裕があるわけでも、お金に興味がないわけでもありません。大理石も高いですしね。しかし……一度彼女が納得してしまった以上、もうお金を受け取るという選択肢は無いと思いますよ」
「むぅ……ならせめて家に上がっていってくれ。お茶とお菓子ぐらいは出すぞ。お友達ももちろんご一緒に」
「いいの!?わーいお菓子お菓子!」
「おや、私までいいんですか。それならば失礼します」
家にあげてもらった二人は、お茶とお茶菓子をご馳走になった。リツはモリモリお菓子を食べて、まるでハムスターのようにほっぺたを膨らませている。
「よく食べるのう……お腹が空いておるのか?」
「うん!やっぱりあんな大きなもの削るとお腹が空くし集中力も使うしね……それに、ワイルドハントでは中々お菓子も手に入りにくいし!」
「そうなのかい……規律が厳しいとは聞くが、それならたんと食べていきなさい」
「まぁ、ボクは他の子に比べればお菓子たくさん食べられるんだけどね。こっそり持ち込んでるから」
「……リツさん、それ言ってしまっていいんですか?」
「あっ……ごめん今の秘密!」
「最近歳のせいか耳が遠いから大丈夫じゃよ。ふぉっふぉ」
「えへへ……おじいさんありがと!」
三人で何気ないお話をしていると、リツがツムギの隣に置いてある石像に目を付ける。
「ところでツムギちゃん、何持ってきてるの?」
「ああこれですか?先ほどミレニアムで買った石像です。なんでも魔を集める効果があるとか」
リツはじっと石像と向かい合う。以前話に聞いたがリツ曰くこの状態は石の声を聞いている状態らしいので、ツムギは黙ってリツの様子を伺う。リツは顔を上げて、ツムギの方をまっすぐ見つめて堂々と発言した。
「……う~ん、これ偽物だよ!」
「……偽物、ですか?」
「うん!多分この子には魔を引き寄せる効果なんてないね。それに、そもそも詳しい人が見れば造りも荒くて適当な量産品だってわかるよ」
「……私もまだまだ目利きが足りませんね」
リツはじっと石像を見て、難しそうな顔をして顎に手を当てて考え込む。そして、おじいさんの方を向き、一つ提案をした。
「ねぇおじいさん!この石像庭で削ってきてもいい?」
「ん?どのみち先ほど石を削ってもらったわけだし、特に問題はないんじゃが……」
「わかった!それじゃあこれ借りるねツムギちゃん!」
「ちょ、ちょっと待ってください!石像を削るんですか!?」
「うん!これはこの子本来の形じゃないから!」
「……ふむ、リツさんがそこまで言うならばそうなんでしょうね。ではお任せします────『友人』、は信頼してこそですから」
リツはツムギが両手でやっと持てた石像を軽々と片手で持ち運び、庭の方へ持っていく。ツムギは隣に座り、リツが削るのをじっと見ている。
カーン、カーンと素早く、丁寧にリツが削っていけば、悪魔はどんどんその身を変えていった。
「よし……できた!!」
怪しげな悪魔の石像を削って生まれたのは、力強い騎士の石像であった。
「なんと……猛々しい」
「気味の悪いだけの石像が、誰も文句のつけようがない芸術品に変わってしもうた……」
驚愕するツムギとおじいさんを見ながら、リツは解説をする。
「この子は本来、退魔の力を持った石だったんだ。なのに魔を引き寄せるための石像なんかにされて……とっても悲しんでた。だから、魔を切り裂く騎士の石像にしてあげたんだ。今とっても喜んでるよ!」
「ええ……なんとなく私もわかる気がします。明らかに、発しているオーラの量が違いますから。そうですか……あなたの本来の姿はこっちだったんですね」
「あ……でも、ツムギちゃんは退魔の石像なんて持ってても困るかな?」
「いえ、魔を祓うものも立派なオカルトなので。それに、こんな素晴らしいもの飾らないという選択肢はありません。ぜひ私たちの部屋に飾らせていただきます」
「えへへ、よかった~!!この子もとっても喜んでるよ!」
リツは大事そうに騎士の石像を撫でて、ツムギに手渡す。
「あ、その!そんな気軽に渡さないでくださぁ!」
ツムギは急に重い物を変な体勢で渡されてプルプル震えているのを見て、リツは笑う。
「わ~ツムギちゃん変な顔~!ツムギちゃんのそんな顔初めて見たかも!普段ずっと格好つけてるもんね!」
「そ、そんなことより、これ持って……ください……腰が!腰がぁ!!」
その後、リツの手によって寮に持ち帰られた石像は珍しくレナも気に入り、404号室に飾られることとなった。
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