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モエ誕生日おめでとう!
~モエ編~
「どうも~RABBIT小隊のみなさん。椎名ツムギです」
ツムギが慣れた様子でRABBIT小隊のテントにお邪魔すると、中にいたのはモエだけであった。
「あ、ツムギじゃーん。何?遊びに来たの?」
「まぁそんなところです。知人からいいお肉が送られてきたので、みなさんにお分けしようかと思いまして」
「え!?見せて見せて!?」
ツムギが持ってきたクーラーボックスを開けば、中にあったのは1kgほどの霜降り牛肉であった。
「うわぁ……いいお肉じゃん!牛肉だよね?」
「ええ、最高級品ですよ」
「さっすがツムギ!顔が広いね!?こんなの私たちじゃあ絶対に買えないよ!」
「ふふっ、私だってそうですよ」
「こんなにいいもの貰っていいの?ツムギにだってルームメイトとかいるでしょ?」
「既にルームメイトとは分けた後なんですよ……送ってくださった方がトリニティの方でして、お友達とその従者を含めて呼んでも足りるようにって気を使ってくれたらしくて……」
「トリニティは基準が狂ってるね~~」
既によだれが垂れてきているモエは、目に満天の星空を浮かべながら肉を覗き込み、目を離せない。
「ところで、他のみなさんはどこに行ったんですかね?」
「あ~他のみんなは商店街でお手伝い。私は拠点で見張り番だって」
「なるほど……まぁモエさんは主にバックアップの仕事ですもんね」
「それもあるんだけどさ~今回のお手伝いする場所の近くに爆弾専門店あるらしくて」
「はいはい」
「私を近づけると危ないから……って判断らしいよ」
「……それ教えてもらったうえで連れていかれないってどんな気持ちなんですか?」
「悔しいな~って感じ。だって、すぐそこで爆発させたら全部が終わっちゃうような店がある場所でお手伝いなんて……それだけで凄くドキドキしちゃうじゃん!?もし『間違えて』手榴弾でも転がしちゃったらなんて考えたら……くひひ」
「凄い!全く反省してない!それでこそモエさんですね」
「破滅に繋がるボタンがすぐ押せる場所にあるようなものだからね。そんなこと知ってたら押さずに我慢なんて……まぁできなくはないけどさぁ」
モエは心底悔しそうに語る。
「そーいうツムギも破滅とかに興味あるタイプじゃない?」
「おや?バレましたか」
「くひひ……だってそうじゃないとあんな過激な歌詞を歌わないでしょ?もっと言えば、そもそもあの曲ってツムギが作曲したやつなんでしょ?」
「ええ、私も破滅的な末路に進んだらどうなるか、考えたことはあります。特に、オカルト関係は禁止事項が多いので」
「オカルト?禁止事項?」
「ええ、私はオカルト研究会の副会長なので。儀式には決まった順番。決まった供物。決まった呪文。一つでも欠いた瞬間に自分の魂が奪われるなんていうのはよくある話でして。それを破ったらどうなるのか……厳密に決まっているからこそ気になってしまうんです」
「なるほど……それは破滅的だね」
「そうじゃなくても、私の目標は悪魔召喚ですからね。その行為自体が絶対に開けてはいけないパンドラの箱を開けるために、鍵を一つ一つ外しているようなものです」
「じゃあツムギはオカルト研究会の活動を重ねるたびに、破滅にどんどん向かって行ってるってこと?」
「そうとも言えますね」
「なにそれ!?超破滅的じゃん!!」
「それじゃあ破滅大好きツムギのために、私が一つ最高の破滅を教えてあげようか……」
「ほうほう……一体どんなことをするつもりですか?」
「まず用意するのはなんてことのないガスバーナー!!」
「……火事に繋がるようなことはやめてくださいよ?」
「まさかぁ。そんなことにはならないって……私がちゃんと手順守れば」
「どうしましょう。一気に不安になりました」
「ほらほら~ツムギも手伝って~~」
「え!?私も手伝うんですか!?」
「何さ。まさか見てるだけのつもりだったの?」
「いえ、さすがに犯罪になった時に共犯だとルームメイトとかに迷惑かけるので」
「私は確かに自分の責任の負いきれないような破滅を迎えたいとは思ってるけど、一応SRTの一員だよ?犯罪はやらないって」
「相変わらずラインが複雑な人ですね……」
「くひひ、自分の心の奥底にある欲求に従ってるだけだからね。私でもよくわかってないかも。よくわかってたら制御できてると思うしね」
「ですが、そんないつ爆発するかわからない緊張感こそ、モエさんと付き合う楽しみでもありますからね」
「いいこと言ってくれるじゃーんツムギ」
モエの指示通り組み立てを終わらせると、出来上がったのは長い四本足で自立するコンロであった。
「これは……バーベキューコンロですか?」
「くひひ、少し遅いかもしれないけど、夏といえばバーベキューでしょ?」
「なるほど、それでこれが破滅というのは?」
「それはねぇ……これだよ!!」
モエの取り出した魚の干物は、強烈な臭いを放ち、周囲一帯の空間を一気に汚染した。
「ふぐぅ!?こ、これは一体全体どのような代物ですか!?」
「これはね~私たちが以前色々あって仲良くなった漁村から送られた名産品のくさやだよ」
「な、なるほど……噂は耳にしたことがありますが、私たちが作った謎ポーションよりも酷い臭いですよ……これが食べ物とは信じられません」
「そんなものを炙って、くっさ~い煙を更にモクモクと出して、全身破滅的な臭いに包まれながら食べるんだよ?とても女の子からしちゃいけないような臭いをさせて。破滅的じゃない?」
「なるほど……それは確かに破滅的です」
「しかも、バーベキューってことはもちろん他にもいろいろ焼くわけでさ。その中には、ツムギが持ってきた霜降り牛肉もあるわけじゃん?」
ここでツムギはモエの企みに気づき、鼻を抑えていた手を離すほどの衝撃を受ける。
「ま、まさか……!」
「超高級お肉をここで焼いちゃうのに、くさやの臭いが全てを消し去っちゃうなんて……破滅的でしょう?」
「くっ、確かにそれは凄まじい破滅レベルです!味を阻害しているわけではないのに、絶対にやっちゃいけないことをしている気がする!」
「じゃあ、早速くさやから焼いていこうね~」
「こ、これは。やばい!煙が目に沁みます!普通の煙よりもなんだか沁みる気がします!」
「うわ~何度焼いてもこれはやばいね~。本当に破滅的な臭いだよ」
「な、なんで普通に焼けるんですか!?」
「慣れかな……でも、慣れてるってことは、刺激が足りないってことだよね」
モエはくさやをもう一尾とりだすと、網の上にゆっくりと運ぶ。
「そ、それ以上は!それ以上はいけませんモエさん!私のオカルト研究会で培った危機感知センサーがもう振り切れそうです!」
「大丈夫!どうせミヤコたちも食べるんだし多少多めに焼いとこ!どーん!!」
二つ焼くということは、単純計算で煙の量は倍。臭いも倍になるわけで……
「げっほ!うえっほ!!?ま、まさにこの世の終わり(フィナーレ)に相応しい臭い……これ周りのテントとか大丈夫ですか!?」
「ぐぇっほ!?うっわ想像以上に酷い!!ま~みんなに怒られたらその時はその時ってことで。大丈夫、私は怒られるのも慣れてるからさ!」
そうこうしているうちに焼き終わったくさやを二人で取り分ける。皿の上からは相変わらず異臭が漂っている。
「くひひ……さて、ツムギは食べられるかな?大分好き嫌いが分かれる食べ物だけど」
「……いただきます」
ツムギは恐る恐る一口齧ってみる。強烈な臭いと濃縮された海産物の旨味が脳天を突き抜ける。
「……意外と、いけますね?」
「お!?一口目から大丈夫なんて才能ありだよ!そのうちこの味にやみつきになるんだから」
そう言いながらモエはむしゃむしゃと食べていく。
「確かにこれは……ムシャ、なんというか……ムシャ、食べれば食べるほど癖になる味というか……」
「くひひ、これでツムギも破滅の虜だねぇ」
結局、他の隊員が帰ってくるまでに焼いたくさやを全部二人で食べてしまった。残った臭いが酷すぎてサキにめちゃくちゃ怒られたが、高級霜降り肉を見せたら機嫌が直ったので、全員で仲よくバーベキューを再開し、高級肉を心ゆくまで味わったのだった。
なお、高級肉はくさやの臭いにも負けないほどインパクトのある味わいだった。
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