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~コハル編~
コハルは人目を避けて街中を歩いていた。橋の下で宝物を見つけたので、それを誰かに見つからないように無事に家に帰ることがミッションだ。しかし、普段は使わない路地裏も通った時、事件は起きた。
「おい、嬢ちゃん。観光客か?持ってるもん全部よこせや」
大人しそうな生徒が、不良に絡まれていたのだ。不良は一人だが大きな銃を持っており、片や大人しそうな生徒の方は武器らしいものが見当たらない。
(あの制服は……ええっと、どこの学校の生徒だっけ?と、とにかく!このままじゃ危ない!)
コハルは守るべき存在のために荷物を捨てて飛び出し、間に割り込む。
「あ、あんた!何やってるのよ!そんな風に大人しい生徒を狙って……サイテーよ!」
「ふん!いかにも襲ってくださいみたいな雰囲気でそこら辺歩いてるのが悪いのさ!テメェも痛い目見たくなけりゃ……って、正義実現委員会!?」
コハルの真っ黒な制服を見て、不良はわかりやすく怯む。当然だ。この辺りで不良をやっているものならば正義実現委員会の恐ろしさを知らない者はいない。
「そ、そうよ!!正義実現委員会よ私は!」
正確に言えば今は補習授業部ではあるが、正義実現委員会の制服を身にまとう者として不良程度を恐れる訳にはいかない。コハルは必死に勇気を振り絞り、自分よりずっと大きな不良を睨みつける。
「ちっ……こうなったら!仲間を呼ばれる前にテメェをぶっ飛ばす!」
銃口をコハルに向け、引き金が引かれるその刹那、ガンッっと鈍い音が響き渡る。
「グフッ……」
「ふぅ……これで静かになりましたね」
不良が倒れた後ろには、先ほどの大人しそうな生徒が鉄パイプを持って佇んでいた。
「い、今!ガンッてガンッて音が!?や、やったのあんた!?」
「ええ、あなたに夢中になっていましたので、すんなりいけましたよ」
「ええ!?こ、これ大丈夫なの!?」
「大丈夫ですよ。そもそも人を襲おうとしたんですからこの程度覚悟してもらわなきゃ」
「あ、あんた見かけによらず意外と恐ろしいこと言うわね……」
コハルは不良の応急手当てを行う。不良は完全に気絶しており、しばらくは起きそうにない。
「むしろ私としてはあなたが優しすぎると思いますが……スナイパーライフルを持っているなら、不意打ちで不良を撃つとかもできましたよね?」
「だって……何か事情があるかもしれないし……なるべく傷つけたくはないし……」
「あなた、名前はなんて言うんですか?」
「わ、私?私は下江コハル。その……えっと……よろしく」
何か気の利いた一言を言おうと思ったが、結局思いつかなかったコハルは俯きがちに自己紹介をした。
「私は椎名ツムギ。ワイルドハントからの旅人です。助けてくださりありがとうございますコハルさん」
「べ、別に私は何もしてないし……」
「いえ、不良に勇敢に立ち向かったあなたは輝いていましたよ」
「結局私は何もできなかった……から」
ツムギはにっこり笑うと、コハルの頭を撫でる。
「誰も傷ついてほしくないから自分が傷つく覚悟を持ってでも立ち向かう。これは、誰かを傷つける覚悟よりもよっぽど難しく、立派なものです。その気持ちを忘れてはいけませんよ────『信念』、は大事ですから」
「な、なんで頭を撫でるのよ!?」
「あ……すみません、ちょうどよい場所にあったので」
「ところで……ここから出るためにはどうしたらいいんですかね。いつの間にか路地裏に入って迷子になっちゃって」
「この辺りの道は複雑だから慣れてないと迷うわよね……私も覚えるのに結構時間かかったから……それじゃ、案内するわよ」
歩き出そうとしたところで、ツムギは道の端に何か本が落ちているのを見つけた。
「あ……そういえばこんなところに本が落ちてますよ。これコハルさんのものじゃありませんか?」
「あ!?それは!!?」
「何々?『先生と生徒、禁断の花園』、『秘密の逢瀬』『普段堅物なあの子の裏の顔~脅され堕ちた委員長~』……」
「バカバカバカバカ!!何読み上げてるのよ!?」
「……コハルさん。こういうのに興味あるんです?」
「なんでツムギは全然恥ずかしがってないのよ!?」
「まぁ、私普段からもっと過激な発言していますから」
「もっと過激!?エッチなのはダメ!死刑!」
「……何か勘違いされている気がしますが、今のは私の言い方が悪かったですね」
「それで、これはコハルさんのものなんですかね?」
「違うに決まっているでしょ!?そ、そこら辺に落ちてたものよ!」
「私が最初にここに来たときには無かったはずなんですけど……」
「そ、そうやって私が持ってきたことにして、私の弱みを握るつもりでしょ!?そして、その弱みに付け込んで私に色々エッチな要求をするつもりなんでしょ!その本に書いてあったもん!しかもこんな人も通らなさそうな路地裏で……今すぐにでも手を出すつもりなんでしょ!?エッチ!変態!!」
「……あの、やっぱり中身読んだんですね?」
「あ……うわぁぁぁ!!忘れろ忘れろ!!」
コハルはツムギをポコポコと叩き始める。
「あ~ワスレテシマイマシタ~」
「バカにするな~!!」
「じゃあどうすればいいんですか~」
「わかんない!もうわかんないもん~!!」
「じゃあ、コハルさん。交換条件でどうですか?」
「交換条件?」
「ええ、コハルさんがこの路地の案内を私にする代わりに、私はコハルさんが持っていた本の話は口外しないという交換条件です」
「なるほど!わかったわ!」
(ここで『騙して悪いが……』されないと思っている辺り、本当に根は素直な子ですね)
「じゃあこっちよ!付いてきなさい!」
「は~い」
コハルの案内で進んでいくと、ラクガキや不法投棄の目立つ地帯を進んでいくことになる。
「トリニティって治安いいイメージありましたがこういう場所もあるんですね……」
「綺麗な場所ばかり目立つけれど、お金を持っている人を狙う不良や、経営に失敗して行き場を失った会社の人とかもどうしてもいたりするからね……だからこそ、正義実現委員会のパトロールや救護騎士団の炊き出しが求められているのよ」
「コハルさんは正義実現委員会の一員として活動してらっしゃるんですよね?立派ですね」
「ま、まぁね……」
「……何か事情があるんですか?」
コハルは露骨に目を逸らす。本当に嘘が苦手な子だなぁと思うツムギであった。
「わ、私が今緊急時ぐらいしか正義実現委員会の活動が許されていないって言ったら、ツムギは笑う?」
コハルは成績不振が理由で普段のパトロールへの同行などは許されていない立場である。そんな自分が正義実現委員会の一員として胸を張っていいものか、そんな考えがコハルの顔を曇らせる。
「まさか、笑いませんよ。それに、あなたは正義実現委員会の活動を立派に成し遂げたじゃないですか」
「へっ?」
「私を不良から助け、困っていたところを道案内しているあなたの姿を見て、きっと正義実現委員会のみなさんも胸を張って答えると思いますよ。コハルさんは立派な正義実現委員会の一員だと」
「そ、そうかなぁ。えへへ」
コハルが笑うと頭の小さな羽がピコピコ動く。とても微笑ましい光景にツムギも思わず笑みをこぼすのだった。
「ところでツムギ。ワイルドハントってどんなところなの?」
「ワイルドハント芸術学院……その名の通り芸術を極めんとする卵たちが集まる場所です」
「ふぅん……ツムギは一体何をしてるの?」
「私は主にバンド活動をしていますね」
「ば、バンド!?」
「ええ、バンド活動です」
「つ、ツムギはなんの楽器を担当してるの?」
「ベースです」
「ベーシスト!?」
「……先ほどからなんでそんなに驚いてるんですか?」
「だ、だってバンドなんて、モテるためにやってるんでしょ!?」
「いえ、そういう訳では……」
「特にベーシストなんて、クズで女の子食べまくってるって!!」
「随分と偏った知識ですね……それも本からの知識ですか?」
「や、やっぱり私を油断させて、襲うつもりなんでしょ!?」
「あの……話を聞いていただけると嬉しいんですが……」
「ケダモノ!エッチ!!死刑!!」
コハルは突如顔を真っ赤にして走り出し、ツムギは一瞬呆気にとられた後、遅れて走り出す。
「ちょ!?待ってください!!私コハルさんがいないとここから出られないんですって!コハルさん!?コハルさーーん!!」
結局、コハルを追いかけているうちに路地裏から抜けることができたツムギ。よくない勘違いをされたままになってしまったことを心残りに思いながらも、次会ったときは誤解を解くために本気の曲を聴いてもらおうと考えるツムギであった。
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