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~シロコ*テラー編~
「さて……今日はアビドスぶらり旅です!」
最近人が増えてきたというアビドス。せっかくなので地図も無しでぶらり旅をしてみることにしたツムギは、この安易な選択をのちのち後悔することになる。
「それにしても、全然人がいませんし、お店もありませんね……もっと中心地に移動してみるべきでしょうか」
そうは言っても、中心地がどこにあるかは勘でしかない。地図無しぶらり旅の名の通り、地図を使わず想定外の出会いからインスピレーションを得る事こそが、この旅の目的なのだから。
「ううむ……余計空き家が多い場所に来てしまった気がしますね……あ、フェネックです!可愛いですね……せっかくなのでフェネックを追いかけてみましょう!」
ツムギはインスピレーションの欠片をフェネックが持っていると信じて、追いかけてみることにするのだった。
「……フェネックを追いかけた結果、完全に人気のない場所に来ちゃいましたね。さて、どこかに泊まれそうな場所はないでしょうか」
砂漠の夜は冷え込む。早く宿となる場所を見つけないとまずい。何より、水も大分足りなくなってきているのが問題だ。ツムギは周囲を歩き回ってみるが、人の気配が全くない。
「……マズいですね。これは本当にマズい。雨風はなんとかしのげても水が無いのはアビドスを移動するにあたって致命的です」
あたりが暗くなってきて、スマホも圏外であるため今自分がどこにいるかもわからない。地図無しで歩き回ったことを後悔し、最悪シロコにでも連絡して助けてもらうことを視野に入れていたところ、一軒の明かりの点いた家を見つけた。
「この家は……電気が通っている……?まさかこんな場所に住んでいる人がいるんですか?」
だがこんな空きや塗れの場所になぜ?恐る恐るインターホンを押してみると、中から出てきたのはシロコそっくりの生徒であった。
「……シロコ、さん?」
「……あなたは、こっちのシロコの知り合い?」
「私はワイルドハントから来た冒険者、椎名ツムギです。あなたは……シロコさんのお姉さんですかね?」
「まぁ、大体そんな感じ」
「なんと呼べばいいでしょうか」
「私のことは……シロコって呼んで。あなたの知ってるシロコをよわシロコって呼べば区別がつくから」
「それでいいんですかあなたは……?まぁ、それじゃあシロコさん。実は私、迷子になってしまって……」
「ん、そんなことだろうと思った。そうじゃないとこんな時間にこんな場所にいない。それで、泊めて欲しいって相談だよね?いいよ」
「おお……話が早くて助かります!」
家の中は外から見た通り電気が通っており、シロコは一杯の水を出してくれた。ツムギは水を飲み干し、シロコに感謝をする。
「本当に助かりました……空き家で寝るのはまだよしとしても、昼と夜の寒暖差に水分不足で危ない所でした」
「ん、気にしないで……たまには二人も悪くないから」
シロコは台所で晩御飯を作りながら、少し考える素振りをする。
「……ごめん、やっぱり気にして欲しいな。もし私がいなかったら、大変なことになってたよ」
「ええ、それは本当にその通りですね」
「ことの深刻さがわかってない。最近のアビドスは人が増えた影響で治安が悪化している面もある。あんな夜遅くに歩いてたら狙われていたかもしれない。それに、水分不足は本当に危険。気づかない間に意識を失って倒れるかもしれない。いい?死は思ったよりも日常の近くにあるんだよ」
シロコの言葉にツムギの背筋は凍り、ただ汗を流して頷くしかできなかった。普段なら『でもおかげであなたに出会えた』程度の軽口が出てくるツムギからも、一瞬で言葉を奪うほどの真の死の気配が、この少女からは漂っていた。
「怖くなった?でも、死んでからじゃあ遅いから……」
「ええ……肝に銘じます」
「料理できた……簡単な野菜炒めだけどよかった?」
「わぁ……美味しそうですね。水とか電気とかってどうしてるんですか?」
「近くの太陽光発電から引っ張ってきたり、綺麗にした水をタンクで溜めて置いたり……一応緊急時には自転車で発電する仕組みも用意してあるよ」
「わぁ……これ全部自分で用意したんですか?ただの空き家から」
「まぁ……ね。こういうのは得意だから」
「凄い技術力ですね……それにしても、自転車で発電する仕組みがあるということは、やっぱりシロコさんもシロコさんと一緒でサイクリングが趣味なんですか?」
「そうだね。一時はサイクリングをやめちゃったけど、今はまたやってる」
「へぇ……二人で仲良く走ったりしてるんですか?」
「ううん、バチバチしながら走ってる。ライバルだから」
「だから、よわシロコなんて呼んでたんですね。意外と子どもっぽい所があって、安心しました。そこはシロコさん同士でそっくりですね」
「ん、そっくり扱いは納得いかない」
露骨に不機嫌になるシロコを見て、ツムギはなんだか知っているシロコの顔を見られて嬉しい気持ちになるのだった。
晩御飯を食べた後、ツムギはシロコに、フェネックを追っていたらここまで来たことなどを話していた。
「というわけで、ここまで来たんです」
「なんというか……動物を追いかけたらそりゃあ住宅街から離れた方向に行くと思うんだけど……」
「あはは……そうだ、せっかく泊めてもらうんですし、お礼として演奏でもしましょうか?」
「演奏……?ツムギは演奏できるの?」
「ええ、これでもバンド活動をしているんですよ」
「じゃあ、一曲頼めるかな?」
「わかりました。では、全力で奏でさせていただきます」
ツムギはベースを構え、深く深く息を吸い込む。先ほどまでの和やかな雰囲気が一変したのをシロコは肌で感じ、固唾を飲む。
「キェェェェェ!人間の死が社会の福祉だぁぁぁぁぁぁ!!!」
周囲に自分たち以外はいなく、一切夜だとしても容赦する必要はない。完全開放されたツムギのデスメタルはシロコを音楽の世界に呑み込んだ。
「死ね!死ね!全部死んじまえぇぇぇぇ!!!」
演奏が終わった後、ツムギは深く息を吸って、吐いて、髪をかき上げる。
「凄い迫力だった……これは一体なんてジャンル?」
「これはデスメタルですね」
「かっこいい……ねぇ、私にも少し奏でさせてもらっていい?」
「もちろん、お教えしますよ」
シロコはベースを受け取ると、ツムギの指示通り音を出す練習から始める。シロコは覚えが早く器用で、すぐに音の出し方を覚えてしまった。
「おお、すぐそれっぽくなりましたね。シロコさんは覚えるのが早いですね」
「そうかな……ツムギが言うならそうなんだろうね。嬉しいな」
「それじゃあ、次は簡単な曲を演奏してみましょう」
シロコがツムギの用意した曲を奏でる。たどたどしい演奏ではあるが、その演奏を聴いたツムギは心臓が加速するのを実感した。
「シロコさんが奏でる音楽……なんというか、私の心の奥底に叩きつけられるような……求めていたものがここにあると魂が叫んでいます!!」
シロコは不思議そうな顔をしながら、譜面から目を逸らすことはせず必死に演奏を続ける。
「すみません!そのまましばらく演奏してもらえますか!?」
「え……いいけど」
「今なら最高のフレーズが出てくる気がするんです!より死に近い!それでいて生に向かっている!活気のある死とも表現すべきでしょうか!?デスメタルの本質に最も近づいた音楽が頭の中を駆け巡っているんです!!」
「よくわからないけど……私の演奏がそんなに心に響いたなら……嬉しいな」
ツムギは超高速で筆を動かし続け、作曲を続ける。
「活気のある死か……ねぇツムギ、あなたはなんで自分が生きているか考えたことがある?やっぱり、自分が思いついた曲を届けるためだったりするの?もしそうなら、誰も聴く人がいなくなったら、あなたは曲を作り続けるの?」
「……?急にどうしました?そうですねぇ、楽しむために生きる、じゃあダメでしょうか?」
「楽しむために?」
「ええ、シロコさんは今、思い通りの音が出て楽しいなって思ってるでしょ?私は今、求めていたインスピレーションが降りてきていい曲が完成しそうで楽しいんですよ」
「今……楽しい」
「そうです。今を楽しむことために生きるんです。音楽は────『楽しんだもの勝ち』、ですから。だから私はきっと、誰も聴く人がいなくなっても曲を作り続けると思います」
目を輝かせながらひたすら作曲を続けるツムギを見て、シロコは頷く。
「うん、素敵な答えだと思うよツムギ。変なこと聞いてごめん。お詫びに作曲、できるかぎり手伝うよ。といっても何をすればいいかよくわからないけど」
「シロコさんはただ、好きなように曲の演奏に挑戦してくれれば大丈夫ですよ。シロコさんが楽しんでいる曲が一番、私に響くと思うので」
その後、二人は楽しく演奏と作曲を続け、いつの間にか眠ってしまったのだった。
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