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~ヒビキ編~
ツムギはミレニアムに来ていた。といっても、今日は遊びに来たわけではない。壊れた音響機材の修理が終わったとエンジニア部から連絡があったので受け取りに来たのだ。
「さて……無事修理が終わっているといいのですが」
ここで言う無事とは、原型を保って返ってくるかという意味である。エンジニア部の腕前は信頼できるし、頼んでおいた部分の修理は完璧に終わっているだろう。問題は、それ以外の部分に謎の改造が施され元の目的を見失った謎のマシーンが返ってくる可能性があるということである。
「まぁ、最悪見た目がかっこよければ多少見た目が変わっていても使えますが……さすがに自立歩行して周囲の人物を撃退するAIとか組み込まれてると使うのが難しいですからねぇ」
こればかりはマイスターたちの気分次第。見てからのお楽しみだ。
「どうも。ワイルドハントから吟遊詩人(バード)がやってきましたよ」
ツムギは扉を開き、エンジニア部の部室を覗くと複雑そうな機械に囲まれてヒビキが一人唸っていた。
「おや、今はヒビキさん一人ですか?」
「あ、ツムギ。えーっと、何の用だっけ?」
ヒビキは明らかにやつれた顔でツムギを出迎える。
「しっかりしてください。そっちが呼んだんでしょう……コーヒーでも淹れます?」
「うん、めちゃくちゃ濃いので頼むよ」
「ポットは……ここですね」
なぜかステルス迷彩されたポットを使って特濃のコーヒーに砂糖をたっぷり注いでヒビキに渡す。
「ありがとうツムギ。えーっと……そうだ、音響機材の修理だったね。これ、修理終わってるからもう大丈夫だよ」
渡された音響機材を見てツムギはぎょっとする。なぜなら、見た目が以前修理前に渡したものと全く同じだからである。
「あ、あのこれ……何か機能追加されたりしてますか?」
「ん?自爆機能が追加されてるよ。いざという時はそれを使って身を護ってね」
「そ、そんな……追加されてるのが自爆機能だけだなんて、どれだけ最近忙しかったんですか!?」
「う~ん……忙しいというか……凄くスランプなんだよね私たち」
「みなさんがスランプに陥るなんて、一体何があったんですか?」
「実はミレニアム花火大会があって、そこで私たちはホログラム花火で出場したんだよ」
「ふむふむ、ホログラム花火とは」
「簡単だよ。夜景をホログラムとして花火を投影するの。結果的に散々な点数でさ……何がいけなかったんだろうって思って、ずっと試行錯誤してるんだよね」
「なるほど、それで行き詰ってしまい他の作品にもいまいち集中できない状態と」
「できれば、ツムギからも意見を聞かせてもらいたいな」
ツムギはホログラム花火の映像を見て、静かに頷く。
「これは……ふむ」
「何かわかった?」
「これは見事な芸術です。夜空に映える色合いを完璧に研究し、音の演出まで完全に拘った職人技ですね」
「そ、そうだよね!ツムギならわかってくれると思ってた!」
「ですが、これは花火ではない」
「花火じゃ……ない?」
「花火に必要なのは、わびさびです。打ちあがった後の、全てが終わってしまったという寂しさ。もう一度電気を流せば全く同じものが上映されるホログラム花火では、それを再現することができていません」
「そ、そんな……」
「いいですか?これは確かに素晴らしい芸術品です。ですが、あなたたちがやっていることはケーキコンテストに精密に模写されたケーキのイラストを持ち込んだようなものです」
「うぐっ」
「花火としてもっとも肝心な部分が欠けているのです……ただ、この技術は素晴らしい。ワイルドハントでも評価されるような作品ですよ。花火の枠で競うのではなく、アプローチの仕方を変えたほうがいいでしょうね」
「さすがツムギだね……餅は餅屋。芸術のことは、ツムギに聞いた方がよさそうだ」
「そう言ってくださるのは嬉しいですね。さて、これで方針は固まりそうですか?」
「うん、スランプからは抜け出せそう」
「それはよかったです……そういえば、ヒビキさんは割と芸術方面にも興味がある方なんですかね?」
「まぁ、割とエンジニア部そのものが手広くやってるかもね……?華道部に頼まれたりとかで、芸術品に関する機械を作ったりすることもあるし。そういう時に芸術方面の知識もあったら便利ではあるよね。それと、ホログラム花火は私の発案ではあるね」
「なるほどぉ……いえ、コスプレをしていると聞いたので、服飾とか興味のある方なのかなと思いまして」
ヒビキはこの部屋に入ってきた時のゆったりしたスピードからはとても想像できないほどの速度で首を動かし、ツムギを見つめる。
「……どこで聞いたのその情報」
「風の便りですね」
「どこから吹いた風?」
「真っ白な石から吹いた風……ですかねぇ」
「先輩……よくも」
「別に隠してるわけじゃないんでしょう?以前チアリーダーの格好をしたとか聞きましたよ。私にも見せてくださいよ」
「ぜっっったいにやだ。というかあれはツムギじゃなくてもやだ」
「なぜですか?」
「あれは初期に作った完成度の低いコスプレだから……」
「じゃあ、最近作ったものなら私に見せてくれるんですよね?」
「絶対にやだ」
ヒビキは断固として拒否の姿勢を崩さない。普段のヒビキの落ち着いた雰囲気とはまるで違う、意固地になった子どものような雰囲気である。
「……なぜそこまで断るんですか?」
「だって、芸術の都、ワイルドハント出身の人にまじまじと見せるだなんて、恥ずかしいし。見せるならもっと上手になってからじゃないと」
「そんなこと言わないでくださいよ~絶対にヒビキさんのコスプレ姿とかインスピレーションを刺激する可愛さですよ」
「……ツムギってファッションとかあまり興味ないタイプだったりする?」
「いえ……服飾を専門にしてる後輩がルームメイトなので、割と気にしてる方ではあります」
「嫌だぁ!絶対に見せた時に、細かな欠陥が目に付くもん!」
「私は小姑か何かですか……気にしませんよそんなの」
どうしても見せようとしないヒビキに対して、ツムギは別方面から交渉を仕掛けることにした。
「考えてみてください。私の伝手で専門家から意見を聞けるかもしれないんですよ?」
「……それって、ツムギが紹介してくれるってこと?」
「ヒビキさんが好きなものには妥協をしない性格なのはよく知っています。というか、ミレニアム全体そういう生徒さんばかりですけど。そんなヒビキさんにとって、服飾の専門家から直接話を聞ける機会なんて、とても貴重じゃないですか?」
「それは……確かにそうかも」
「じゃあ、わかりますよね?」
「……別に今着なくても、その後輩さんがミレニアムに来た時だけ着ればいいんじゃないかな?」
「そんな意地悪するなら呼びませんよ!?」
「いいじゃん!いつも特別代金で修理してあげてるんだから!!」
結局、ツムギのごり押しでコスプレすることになったヒビキは、メイド服を来ていた。
「うう……コスプレって心の準備が必要なんだからね……言っとくけどキャラになりきるための時間ももらえなかったから、サービスとか無いよ?」
「構いませんよ。コスプレを通じて誰かになりきるヒビキさんを見るのも確かに素晴らしいですが……照れながらコスプレをするヒビキさんそのものには更に価値がありますから────『恥じらい』は、至高の調味料(アクセント)です」
「……なんだか変態臭い」
「いいセリフですねぇ……シャッターを押すスピードも加速するというものです」
「当然の如く写真を撮ってるよね」
「これは先ほど言っていた後輩に見せるためでもありますから……それはそれとして、思った通りヒビキさんのコスプレ、いいものですね」
「……ツムギは多分コスプレさせても恥じらわないよね」
「可愛い衣装はいつでも歓迎ですよ?」
「今度その後輩ちゃんと、恥じらわせる方法も一緒に協議しようかな……どうせ後輩ちゃんも被害者でしょ」
「おや、楽しみにしてますよ。先ほども言った通り、恥じらいは至高の調味料としてインスピレーションを刺激してくれるものなので、私自身味わえるなら味わってみたいものです」
「……なんだかなぁ」
結局、その後も色んな衣装に着替えて写真を撮られたヒビキ。途中からなぜかツムギもコスプレしながら一緒に撮影することになったのだった。
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