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~ハルカ編~
ツムギは悩んでいた。外出許可を取り、ワイルドハントの外に来たまではいいが、どこに行くか悩んでいるのだ。ツムギの出現場所はまさに神出鬼没。特に決まったルートも無いため、本人でもどこに行くか当日になっても中々分からないことが多い。
「久しぶりにレッドウィンター……いえ、残暑を楽しみに百鬼夜行もいいですかね?」
そんなツムギの元に、一件のモモトークが届く。内容を見てみれば、便利屋68から届いたメッセージであった。
「事務所を新しい場所に引っ越しました……これからはお仕事の電話は下記の番号に……なるほど」
渡りに船とはまさにこのこと。ツムギは今日は新しい便利屋68の事務所にお邪魔することにした。
「せっかくなので、引っ越し祝いに何か買っていきましょう」
ツムギは近くのデパートでお菓子の詰め合わせを買って、便利屋の新しい事務所に向かうことにした。
事務所はブラックマーケットの一部ではないが、明らかに治安が悪い地域に存在していた。壁のラクガキやゴミのポイ捨てなどが目立ち、一瞬便利屋68のこれからの生活が心配になるが、よく考えれば彼女たちもアウトロー集団であったと我に返る。
「彼女たちがアウトローだなんて……特に社長を知っていたら一瞬忘れてしまいますね」
ツムギが事務所に到着し、中を覗いてみると事務所の庭で鉢植えに植えた雑草を並べるハルカの姿があった。
「お、ここで間違いなさそうですね。ハルカさんこんにちは」
「ひ、ひえっ!?敵襲!?」
ツムギの頬をショットガンの弾が掠める。背後にあるぴかぴかの事務所の壁にさっそく銃痕がつく。
「あ……ツムギさんでしたか!すみません!すみません!」
「いえ、こちらこそ事務所に行く前に一言連絡しておくべきでしたね……こうなるので」
「すみません!すみません!本当にすみません!!」
便利屋68がアウトロー集団であることを再確認したツムギは、冷や汗を垂らしながら一息つく。
「それで、他の従業員の方は事務所の中にいらっしゃるんですかね?」
「あ、いえ。今ご近所回りの営業で出かけていて……私はお留守番ですね。私なんかしかいなくてすみません……」
「おや、ハルカさんと二人っきりですか。それならこれはハルカさんに渡しておきましょう。便利屋のみなさんへの引っ越し祝いです」
ツムギは持ってきたお菓子の詰め合わせをハルカに渡すと、ハルカは最大限落とさないように注意しながら、手をプルプルさせて受け取る。
「あああ、ありがとうございます!?みなさんへのプレゼント、絶対に落とさないようにしなきゃ……」
「ハルカさんももちろん食べていいんですからね……?」
ハルカはお菓子を置いてくるために事務所の中に入っていく。その間、ツムギは並べられた雑草を眺めていた。
「……ふむ。並べてる途中みたいですね」
ハルカが事務所から出てきた後、ツムギが雑草を眺めているのを見つけ、そっとツムギに声をかける。
「あの……見ていてもあんまり面白いものじゃないと思いますよ?」
「いえ、これにはハルカさんの拘りを感じます。すみませんが、鉢植えを並べるのを手伝わせてもらってもいいですかね?」
「ええっ!?そ、そんな!?かなりの重労働ですよ!?それに、花ならともかく雑草なんて!」
「私はこの雑草が並んでる姿が見たいんです」
「じゃあ……ツムギさんが指示して私が運ぶのはどうでしょうか」
「いえ、ハルカさんの感覚で並べてください。私が手伝う側です」
「なぜですか?芸術的センスなら私なんかより、絶対にツムギさんの方が優れているのに」
「センスというのは、そんな簡単に測れるようなものじゃないんです。少なくとも、一つ一つ大事に鉢植えで育てたハルカさんの感覚が、今は優先されるべきです」
「わ、私なんかの意見が優先?」
「自信を持ってくださいハルカさん。あなたと、あなたが育てたこの子たちに」
「そ、そこまで言っていただけるなら、わかりました」
「ではハルカさん。これはどこに運びますか?」
「その子は……ええっと、この子の隣にお願いします。私はこっちの子を運びますね」
ツムギとハルカは協力して鉢植えを移動させ、事務所の庭には見事な雑草が並んだ。
「ふぅ……壮観ですね。たくさんありますね~鉢植え」
「この子たちは生命力が強くて中々枯れなかったり、子どもが残ったりするので、いつの間にかこんなに増えちゃったんです」
「なるほど。青々とした生命力の象徴。これもまた芸術ですね」
「芸術……なんでしょうか?」
「芸術において生命力は大事ですよ。桜のような儚さは芸術ではありますが、何物にも負けない健全な肉体美もそれは一つの芸術なのです」
「そう言っていただけるとなんだか嬉しいです……私はこの子たちに私自身を重ねてるところがあるので……」
そこまで言った後、ハルカは大慌てで両手で口を塞ぐ動きをした後また頭を下げる。
「あ!すみません!私が褒められたわけでもないのに調子に乗っちゃって!」
ツムギがハルカの頭を撫でると、ハルカはフリーズして動かなくなってしまった。
「あ、すみません。頭を差し出されたので撫でたくなって……それならこの子たちだけじゃなくて、ハルカさんも褒めてあげましょうか?努力家なところとか、忠誠心が高い所とか。見た目を褒めるのもいいですね。紫色で全体のファッションを纏めてるの、綺麗な髪色と合ってて素敵だと思いますよ」
「あ、え、えっと!」
慌ててしまい言葉に詰まるハルカの様子を見て、ツムギはニコニコ笑うのだった。
「そうだ、この子たちのために歌を歌いましょうか」
「確かに、植物は音楽を聞かせると良く育つといいますね……あれでもツムギさんの得意分野って」
「デスメタルですが……クラシックとかの方がいいですかね?」
「いえ、多分この子たちはデスメタルの刺激ぐらいでちょうどいいと思います……それに、カヨコ課長と一緒によくツムギさんのデスメタルを聴きますけれど……素敵な音楽だと思うので」
「それじゃあ、いっちょいってみようかぁぁ!!ヒャッハー!!」
ツムギはいつの間にかベースを取り出し、デスメタルの演奏を始める。
演奏が終わった後、ハルカはツムギに拍手をする。
「相変わらず圧巻の演奏と歌唱です……えへへ。カヨコ課長がいない間にこんなの見てよかったんでしょうか」
「お望みならば、みなさんが揃った後で演奏してあげますよ?」
「聞いたことのある歌声だと思ったらやはりお前か椎名ツムギ!!」
「おや……あなたは?」
声をかけられた方向を二人が向くと、そこにはいかにも海賊の下っ端という格好をした生徒が一人立っていた。
「ああ……ナナミさんのところの」
「竜王様と呼べ!あの御方の名前を気軽に呼ぶなど不敬に当たるぞ!」
「そんなこと言われましても、私一味に入ってませんよ?」
「そうだ!貴様に逃げられてから色々大変だったんだぞ!竜王様に怒られるし、しばらく雑用ばかり任せられるし。今日だって資材の買い出しにここまで走らされたんだからな!」
「それはお気の毒ですね」
下っ端は銃を取り出し、ツムギに向ける。
「だが、ここでお前を捕まえることが出来ればそれで私の評価は覆る!悪いが同行してもらおうか椎名ツムギ!」
「あの~やめておいた方がいいと思いますけど」
「なんだと!?私が下っ端だからって芸術学院に通ってる音楽家に負けると思ってるのか!?」
「いえそうじゃなくて……」
ツムギはハルカの方をちらりと見る。予想通り、明らかに殺気立った目をしていた。
「ツムギさん、アレは敵でいいんですかね?」
ここで確認しているだけ昔のハルカに比べて格段に成長しているのだが、残念ながら今回は本当に相手が100%悪い状況だ。よってツムギから出た言葉は────
「ええ、敵ですね……ただ、やりすぎないようにしてあげてくださいね?」
その言葉を聞いた瞬間、ハルカは一足飛びで跳びかかり、下っ端に組み付く。
「な、なんだこいつ!?ぐわぁ!?」
そのまま腹部に強烈な膝蹴りを食らわせて、ダウンしたところに何度も何度も何度も、ショットガンを撃ち込む。
「死んでください!死んでください!死んでください!!」
「あの……ハルカさん。もう意識ありませんよその人。お~いハルカさ~ん」
結局、ツムギの心配通りボコボコにされた下っ端はツムギが半ば無理やりハルカを止めた後もしばらく起きなかった。起きた後、ハルカを見て涙目で逃げ出す下っ端をハルカは追撃しますか?と目で訴えてきたが、ツムギが首を振るとちょっと残念そうにやめるのだった。
「ハルカさんは素直でいい子ですねぇ」
「そ、そんな……からかわないでください」
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