85/100!!
~イズナ編~
ツムギは百鬼夜行に来ていた。名作時代劇、柴犬ワン蔵監督の忍者モノ『彷徨う孤独な忍者77人組』のコラボ企画で忍者体験キャンペーンをやっていると聞いたので、やってきたのだ。
「さて……忍者体験キャンペーンとは一体どこでやっているのでしょうか」
そんなツムギの小さな独り言を、大きな耳で聞き取った者がいた。
「おや!?あなたも忍者体験キャンペーンに興味があるんですか!?」
それは大きな耳と尻尾が魅力的な、百鬼夜行の生徒であった。
「他校の生徒さんですよね!これから挑戦するところなのでよければ案内しますよ!」
「おやこれはご丁寧に、助かります」
生徒に案内されて到着した場所はどうやら忍者体験キャンペーンのスタート地点と言える場所で、地図が置いてある。
「なるほど……順路通り進み試練を突破して一流の忍者を目指そう……という企画ですか」
「ふふふ……燃えてきましたね!あっ、あちらで忍者の格好に着替えることができるみたいですよ!」
生徒の指差した先には、コラボ企画用に忍者衣装を貸し出ししている建物があった。
「おや、せっかくですし、着替えてみますか」
ツムギはせっかくなので黒を基調としたくのいちの格好に着替える。昼間の今はむしろ目立ちそうだが、姿からなりきればやはり気合いが入るというものだ。
「どうです?似合っていますかね?」
「とてもお似合いです!本物の忍者みたいですよ!」
ツムギは案内してくれた生徒がやる気満々なのに着替えてないことが少し気になったので、聞いてみることにした。
「あなたは着替えなくていいんですか?」
「イズナはこの格好で普段から忍者として活動をしているので!むしろ着替えてしまっては修行になりません!」
「なるほど、あなたはイズナさんというんですね」
「はっ!?なぜ名前がわかったんですか!?まさか、あなたは本物の忍者の末裔なんですか!?」
なぜわかったかと問われれば名乗られたからとしか答えられないが、反応が面白かったのでツムギは少しからかってみることにした。
「いかにも、私はワイルドハントに移り住んだ忍者の末裔、霧隠ニャン蔵の子孫なのです」
「おお!?あの伝説の忍者が実はワイルドハントに移り住んで生きていただなんて!?」
「まぁ、全部嘘なんですけど」
「嘘なんですか!?」
想像通りに面白い反応が返ってきたので、ツムギは満足して頷く。
「あなたが自分からイズナだと名乗ったんですよ」
「あ……恥ずかしいです!穴があったら入りたい!」
「ふふっ、私はワイルドハントの眠り姫、椎名ツムギですよ」
「眠り姫!ツバキ殿と同じ異名です!ツムギ殿も眠りながら戦えるのですか!?」
「いえ、本人にもお会いしたことありますが、私はそういうのは……」
「では、ツムギ殿は戦えないタイプのお姫様なのですね!それなら、このイズナがお守りします!」
「おや頼もしいですね。忍者として身分を隠す姫様の護衛を任せられたイズナさん……まさに主人公忍者のような立ち位置ですね」
「お任せください!ニンニン!」
イズナは先行してツムギの前を護衛するために、大袈裟な動きで警戒する。ツムギを含めた周囲の人たちは、完全に忍者の役になり切っているイズナを微笑ましく眺めながら次のスポットに進むのだった。
まずは第一の試練が近づいてきたようで、怪しげな屋台が遠くに見えてきた。
「ツムギ殿!まずは手裏剣の試練のようですよ!」
「おや、イズナさんは目がいいんですね。それにしても手裏剣ですか」
「イズナは普段から投げているのでお任せください!」
さっそく忍者の格好をした従業員の説明を聞いて、手裏剣投げに挑戦することになった二人。ルールは単純で五枚ある手裏剣を一枚でも的に当てれば合格のようだ。
「不合格でも進めるようですが、せっかくならば合格したいですね……」
ツムギは早速一枚手裏剣を投げてみるが上手くいかない。周囲を見ればそもそも的まで届くほど投げられる人自体稀であった。
「ううむ……的に刺さる様にかなり重く作られてる上、形もいびつなので投げても全然とびませんね……」
「ツムギ殿!手裏剣はこうやって投げるのです!」
イズナは宙を舞い、一斉に五つの手裏剣を投げ全て的に命中させる。周囲からは歓声が湧き立ち、従業員も思わず拍手をする。
「さ、ツムギ殿!挑戦してみてください!」
「……真似できるかは怪しいですが、やってみましょう」
ツムギが真似して四枚一斉に投げてみると、手裏剣はあっちこっちに飛び散り床に二枚、天井に一枚、従業員の頭を掠め壁に一枚刺さった。
「……すみません」
「あはは……気を付けてくださいね」
従業員は苦笑いで自分の頭をさする。
「あわわ!?ツムギ殿すみません!この投げ方は普段やってない人には難しかったみたいです!」
「まぁ、気を取り直して次の試練に進んでみましょう」
第二の試練は忍者としての隠密力を試されるものらしく、建物の入口から出口まで巡回する従業員に見つからず通り抜けることが出来たら合格のようだ。
「ではここはまずイズナが挑戦します!」
イズナは素早い身のこなしで内部に侵入する。内部の情報はカメラで見えるようになっており、ツムギはさすがの身のこなしに関心をした。しかし……
「さ、さささっ!」
「……あの大袈裟な動きは必要なのでしょうか?」
時代劇などの影響が大きいイズナは先ほどの手裏剣投げのように忍者としては派手な動きが目立つ。そんな動きをしていれば当然いくら身軽なイズナでも音が出てしまう訳で。
「曲者じゃ!出会え出会え!」
「うわーん!見つかってしまいました!!」
「ツムギ殿……後は頼みました。護衛として面目ない」
イズナはツムギの元に戻り、後を託す。
「まぁ、忍者らしく突破できるかはわかりませんが、任せてください」
ツムギは内部に入ると、一瞬のうちに姿をくらます。それはカメラ越しでさえ姿を捉えるのが困難なほどの隠密力であった。
「普段から寮監隊の目を盗んで色々やっていた経験がまさかこんな形で活きるとは……これだから知らない世界への挑戦は面白い」
「おお!さすがですツムギ殿!本物の忍者も真っ青な隠密力です!?」
ツムギは無事出口まで到達し、イズナの元に戻ってくる。
「イズナ!感激しました!今度ツムギ殿に隠密のいろはを教えていただきたいです!」
「私のは経験則なのでそんなに教えられることがあるかはわかりませんが……わかりました。機会があればお教えしますよ」
その後も何個か試練を突破、もしくは失敗し、二人は無事に忍者経験キャンペーンを終わらせツムギはいつもの服に戻った。
「ふぅ……結構難しかったですね」
「もちろん!本来は凄腕忍者のための試練ですからね!あれらを全部突破で来た日こそ、イズナたちは真の忍者になれるのでしょう!」
「イズナさんはなぜ忍者に憧れているんですか?」
「それは……忍者がカッコイイものだからです!ツムギ殿は忍者がカッコイイと思いませんか!?」
あまりにも正直すぎる回答。ツムギは何度か無言でうんうんと頷く。
「……どうしましたツムギ殿?」
「いえ、それでこそイズナさんだなぁと。ええ、私も大好きですよ忍者。カッコよくて」
「やはりツムギ殿はわかってくださいますか!また一緒に忍者として修業しましょう!」
「ああ……その時は私の友人も誘っていいですか?ツクヨさんという方で、どうやら忍者に憧れているらしく」
「なんと!ツクヨ殿とも知り合いだったのですか!?なら今度は忍術研究部で修行するのもいいですね!」
「おや、忍術研究部というのは?教えていただきましょう。忍者にとっては────『諜報活動』、は大事ですから」
「えへへ!それはですね~」
イズナの耳がピコピコ動き、大きな尻尾もわかりやすくブンブン振っている。そんなイズナの様子を見て、また百鬼夜行に来たときは必ず忍術研究部で修行をしてみようと考えるツムギであった。
気が向いたら評価お願いします!