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~ミドリ編~
ミドリはワイルドハントに来ていた。広場の中央でぐるりと周囲を見渡し、まるで城下町のようなオシャレで異世界的な雰囲気に圧倒される。
「凄い……荷物の検査といい、外の人は普通は入れないゲームの世界に入れちゃったみたいな雰囲気だ……まるで『ゼルナの伝説』の世界に来たみたい」
さっそくスケッチブックを取り出し風景を描き始める。普段ならこんなこと広場の中央でやれば相当目立つだろうが、ここは芸術の最先端ワイルドハント。この広場だけに限ってもスケッチブックやキャンバスに絵を描いてる生徒は少なくない。
正直、ワイルドハントの専門家たちに混ざって絵を描くのは少し気後れしたが、こんな貴重な機会に燃える彼女の創作魂を消火するには至らなかった。
「どんどん筆が進む……ワイルドハントに来てからずっと筆が止まらないや私!」
実際既にワイルドハントに来てからいくつも絵を描いているミドリ。アイデアが思い浮かばず描きたいモノが見つからなかった昨日までの自分が嘘みたいである。
そんなミドリの背中に迫る影が一つ。夢中になってスケッチブックと目の前の景色を交互に見ているミドリはその存在に気づきようがなかった。
「ミードリさん。楽しそうですね」
「うっひゃあ!?つ、ツムギさん!?」
背中から急にツムギに覗き込まれ、ミドリは反射的にスケッチブックを抱えて中が見えないようにする。
「別にいいじゃないですか、見せてくれても」
「うう……普段から上手な人の絵をいっぱい見ている人に自分の絵を見せるって凄くドキドキして」
「どうせ私がプレイするゲームに取り込まれるんですから、近い未来に見ることになるでしょう?」
ツムギはよくゲーム開発部開発のゲームの試作品をプレイさせてもらうことがあるし、もちろん完成品もプレイしている。つまり、実質的に普段からミドリの絵を見ているようなものなのだ。
「開発されたゲームとは違うんです!生の絵を見せるのはその……やっぱり恥ずかしいっていうか」
「でも、エリには見せたんでしょう?」
「そ、それは……」
そもそもミドリがワイルドハントに来た理由、それはエリに会うためであった。以前ゲーム開発部にツムギが遊びに来た時、ツムギのルームメイトに絵の専門家がいると聞いて、ツムギの案内でワイルドハントまでやってきたのだった。
「どうですエリは?とてもいい子でしょう?」
「ええ、ツムギさんが急にどこか行っちゃって二人っきりになった時には緊張しましたけど、話も盛り上がって、とても有意義な時間を過ごせました。エリさんを紹介してくださってありがとうございます」
「私の存在はあの部屋には不要と判断しましたのでね。むしろいたら二人の絵描きの邪魔になるだろうと思って、去ったまでですよ」
「それで、今は広場の風景を描いていたんですか?」
「ええ、ワイルドハントはどこもかしこも描きたくなるような風景ばかりで、私みたいなデザイナーにとっては最高ですね。それに……」
「それに?」
「デザイン案としてエリさんの絵も描かせてもらったんですよ」
「デザイン案として?ああ確かに……エリはまさにRPGなんかに出てくる古からのイメージの魔女ですもんね」
「エリさんに、今度エリさんをモデルにしたキャラクターを出していいか聞いてみたらOK貰っちゃいまして。どんな風なキャラにするか今からでもわくわくですよ」
「エリはRPGとかも好きですからねぇ。魔法を使いこなす魔女にゲーム内だけでもなれるなんて、そりゃあテンション上がるでしょうね」
「えへへ……RPGトークでも盛り上がっちゃいました。魔女に関しても色々面白い知識を得られましたし」
「ゲーム大好きなミドリさんとは相性がよかったみたいですね」
「ツムギさんも音ゲーは当然として、RPG好きですよね」
「他者視点の物語は私の人生観を揺さぶってくれます。それは新たな視点を得る助けとなるでしょう────『インスピレーション』、は作曲において大事ですから」
ツムギはミドリが必死に絵を描いてる間、となりに座ってじっとミドリが絵を描く様子を眺めている。
「あの……退屈じゃないですか?」
「全然?私、誰かが何か作ってる様子を見るのも大好きなんですよ。なんだか私も情熱を分けてもらってる気がして」
「だから、私たちのゲーム開発の手伝いをいつもしてくれてるんですね」
「まぁそれもありますが……それだけじゃありませんよ」
「ほへ?」
「ゲーム開発部のみなさんが好きだから手伝っているんです」
あまりにもストレートな告白。さすがにそんなことを言われれば、ミドリも頭にクエスチョンマークが浮かぶ。
「私たち……そんなに好かれるようなことしてましたっけ?」
「みなさんのことを好いている人はたくさんいると思いますよ?だから、周囲にあれだけの人が集まってきてるんです」
たまにしかミレニアムに行かないツムギが知る限りでもゲーム開発部には多くの関わっている人がいる。ツムギが知らない部分まで含めたら、もっと多いだろう。
「そう……なんですかね?」
「わからないならわからなくても問題ありません。ゲームが繋いだ輪、とでも思っておいてください」
「よ~し描き終わった!次はどこに行こう!」
描き終わった後もミドリのやる気は満々であった。次はどこに行こうと周囲を見渡す。
「よろしければ、私が案内いたしましょうか?」
「案内って……どこにですか?」
「それは内緒です。ですが、ミドリさんも気に入ると思いますよ」
「じゃあ、お任せします。私じゃあどこに何があるか全くわかりませんしね」
「では、足元にお気をつけくださいヒロイン。少し険しい道となりますので」
ツムギは片膝立ちして、まるで童話の王子様のようにミドリに手を伸ばす。
「だ、大丈夫です!いくら引きこもり気味といえど歩けますよ!手を繋ぐのは、その、恥ずかしいですし……」
ツムギの言った通り、進んでいく道は険しい山道であり荷物をたくさん持ってきたミドリにとってはかなり厳しい道であった。
「ふぅ……ふぅ……」
「大丈夫ですかミドリさん?」
「だ、大丈夫です!もっと色んな意味で険しい道を進んだこともありますので」
「荷物多いですね。私が半分ぐらい持ちますよ」
「あ、ありがとうございます。ダンジョンに入る前は事前準備が大事なので、どうしても持ち込みすぎちゃうんですよね。特にアリスちゃんやお姉ちゃんは準備不足なことが多いので、どうしても習慣になっちゃったというか」
ほとんど手ぶらで突撃していくモモイや変な物ばかり持ち込んで突撃するアリスの様子が用意に目に浮かび、なるほどと頷くツムギであった。
「そういえば、ミドリさんはエリと別れた後どこを見て回ったんですか?」
「私はネモギャラリーに向かいましたね」
「なるほど。確かにあそこの美術品は創作者にとって素晴らしいインスピレーションの元になるでしょうね」
「はい。特に絵画は純粋に技術として感心したものから、独自の世界観でゲームテーマそのものの案になったものもたくさんあって、ワイルドハントに来て本当によかったです。今度はゲーム開発部のみんなで来てみたいと思います」
「ふむ、でしたら次はオクルス・スタジオなんかもいいかもしれませんね。あそこは各種映像作品の総合スタジオなので、ゲーム開発の参考になるかもしれません」
「なるほど!絶対にまた来ますのでその時は……」
そこまで言って、さすがにこれ以上頼るのは失礼かなとミドリは悩む。そんなミドリの気持ちを読み取ったのか、ツムギは自分から申し出る。
「ええ、その時はまたご案内しますよ、案内役の兎としてね。バニースーツとか着た方がいいですかね?」
「そんなC&Cみたいなことしないでください!?」
「ミドリさんの中でC&Cってどんなイメージなんですか……?」
「でも前潜入任務的なのに行ったときに、C&Cのメンバーの一人がバニー服を着てたのを見たので……」
「そもそもなんでミドリさんたちが潜入任務に……?色々聞きたいことがありますね。次案内した時にぜひ聞かせてください」
「さて、到着しましたよ」
「わぁ……夕陽に照らされて綺麗な場所ですね。でも頂上じゃありませんよね?」
「ここが一番いい距離感で見えるんです。夕陽が差し込む方向に進んでみてください」
ミドリが進んでいくと、そこはワイルドハントを一望できる絶好のスポットであった。
「わぁ……!?」
あまりの美しさに言葉を失ってしまうミドリ。夕陽に照らされたワイルドハントの街並みはそれそのものが一つの芸術作品として完成しており、ミドリは疲れた体でも自然とスケッチブックを開いていた。
「どうですかミドリさん。ここ、私のお気に入りの場所なんです」
「とても綺麗です。大冒険した後のエンディングの一枚絵みたいな……」
「だから、ここまで大冒険してきてくれたミドリさんに、ぜひ眺めて欲しいなと思ったんです」
その後、絵を描き終わった後は暗くなった道を帰ることになった二人は、暗い道に慣れているツムギの先導があったほうが安全ということで手を繋いで帰ることになった。
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