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~スズミ編~
「……一旦休憩するとしましょうか」
スズミはパトロールの休憩中に公園のベンチに座る。まだそんなに歩いてはいないが、先ほど不良たちと交戦して疲れたのかもしれない。原因不明のモヤモヤが自分にのしかかってきているような、不思議な感覚に襲われているせいかもしれない。
「むぅ……」
いつもパトロールの休憩中などに使うヘッドホンを取り出し、音楽を聴こうとしたところで、頭によぎる言葉があった。
『な、なんてセンスだ!?いったいいつの次代の曲だよ!?』
それは、柱に縛り付けて耳元で『オスティン・ビーバー』の『ベイビー』を聴かせた不良から今日も言われた言葉。以前から何度も似たようなことを言われ続けた言葉。
「私は好きなんですけどね……」
しかし、スズミがやっていることは縛り付けて強制的に大音量で音楽を聴かせ続けるという方法。スズミは音楽を罰の道具として使ってしまっているのだ。
「本当に好き……なんでしょうか」
スズミの中で、一つの疑問が浮かぶ。好きだからこそ、音楽を聴かせ続ければ精神的に良い方面に作用するかもしれないと最初はやっていたような気もする。しかし、実際はもう恐れられていることを知っているのに同じ手法を使っている。そんなことに音楽を使う自分は果たして音楽が好きなのだろうか?音楽の敵ではないのか?そんな考えが脳裏をよぎる。
ベンチで一人悩んでいると、歌が聞こえてきた。激しく、そして重々しい過激な曲調。しかし、その力強さにスズミは自然と惹かれていく。
「一体どこから聞こえてきてるのでしょうか……?」
スズミが歩いて行った先にいたのは、一人の生徒がゲリラライブをしている場面であった。スズミと同じように音楽に惹かれて集まってきた人々が周囲にはたくさんいた。
(彼女は……制服的にワイルドハントの生徒ですかね?)
ワイルドハントは芸術の専門学校である。そこの生徒ならばこの力強い演奏にも納得できる。しばらく彼女の演奏に聴き入っていると、彼女はゲリラライブをやめて礼をする。
「凄かったね~」
「さすがワイルドハントの生徒さんだ……」
周囲の人々が思い思いの言葉を吐きながら、散り散りに消えていく中、スズミはなぜかその場から動けなかった。
「……どうかなさいましたか?」
少女がスズミに話しかけてくる。
「あ……すみません。見事な演奏でした。それでは」
「何か、悩んでいるんじゃないですか?」
「……そんなことは」
「顔に書いてありますよ」
「……表情にはあまり出ない方とよく言われるのですが、わかりますか」
「ふふっ、音楽には感情を揺さぶる力がありますから。あなたの表情も普段よりきっと大きく変わっているんですよ。お話、お聞きしますよ」
「……そういうことでしたら、話だけ聞いてくださいますか?」
「そうだ、自己紹介がまだでしたね。私の名前は椎名ツムギ。ワイルドハントの吟遊詩人(バード)です」
「私はトリニティの守月スズミ。自警団をやっています」
先ほどまでスズミが座っていたベンチに二人で座り、スズミはぽつぽつと語りだす。本当はパトロールの休憩時間はもうとっくに過ぎているのだが、自分のやり方に疑問を持った状態でパトロールを続けることはスズミにはできなかった。
「私は音楽が好きだと自分では思っています」
「そうですか。確かに、私目線真剣に聴き入っているように見えました」
「そして、音楽の良さを人にもわかってもらいたいと、思っているつもりです」
「……なるほど」
「ですが、私は音楽を罰として使っています。自警団の活動で捕らえた不良に対し、強制的に大音量で音楽を聴かせ続けるという手法をとっているのです」
「それは……中々個性的な手法ですね」
「これはツムギさんのような方たちからは怒られても仕方ない行為だと思っています。音楽を侮辱していると捉えられても仕方のない行動ですから」
「それが、スズミさんの悩みですか。音楽が好きなはずなのに、堂々と音楽と向き合うことができないという悩み」
ツムギは顎に手を当ててしばらく考え込んだ後、スズミに質問をすることにした。
「……スズミさんは、不良のみなさんをどう思っていますか?」
「はぁ……どうしてあんなことをするんだろうなと思ってますけれど」
「理解できない存在だから、どうしたいと思いますか?」
「……理解し合えるようになりたいと思っています」
「なるほど。ではもう一つ、スズミさんは不良のみなさんと戦う時にどんなことに気を付けますか?」
「……なるべく傷つけずに無力化することですかね。閃光弾を主に使います」
「なぜ、傷つけないことを重要視しているんですか?」
「……?それは、誰だって痛いのは嫌じゃないですか?」
ツムギは何度か深く頷く。その顔は、優しい笑みを浮かべていた。
「スズミさんは相手を傷つけたくて、自分の正義を押し付けたくてやっているわけではないということがわかりました」
「……そうでしょうか。自分の好きにやっているつもりでしたが」
「ですが、あなたの根本には優しさがあります。だから、あなたは武器として音楽を選んだ。それは自分が好きな物だったから」
「好きなものだったから……武器に選んだ?」
「ええ、閃光弾だってきっとそうです。もし自分が相手の立場になったら……という気持ちがなるべく傷つけないための武器選びに自然と向かったんです」
「そう……なんでしょうか」
「言われてもわからないでしょうね。これは、あなたが無意識にやっていることなので。だから言ったんです。あなたの根本には優しさがあると」
スズミは優しいと連呼されて、少し顔を赤くする。いくら彼女の表情があまり変わらないタイプだからといって、ここまで目の前で真っすぐ言われれば少しぐらい照れるというものだ。
「さて、悩みへの答えですが、あなたは間違いなく音楽が好きなんだと思います。だから、これからも胸を張って音楽と向き合っていいと思いますよ」
「私は音楽が……好き」
スズミはヘッドホンを荷物から取り出し、見つめる。パトロール中の休憩や、気分転換にずっと使っているヘッドホン。普通の汎用品であるが、思い入れ深いパトロールの際の相棒。
「どうです?音楽とまた向き合えるようになった記念として、私が一曲演奏しましょうか?リクエストがあれば聞きますよ?」
「それは本当に嬉しい提案なんですが……私はまだやるべきことが残ってますので」
スズミはパトロールに向かうために、ベンチから立ち上がる。
「やるべきことですか……いい顔になりましたね。でしたら、演奏はそのやるべきことが終わってからにしましょうか」
ツムギも立ち上がり、スズミについていくため荷物をまとめる。
「いいんですか?相談に乗ってもらっただけでも悪いのに、わざわざパトロールまで付き合ってもらって」
「逆ですよ。相談に乗ったんですから、これぐらいの役得はさせてもらわないと。自警団のパトロールに付き合えるなんて、貴重な機会そうそうありませんから」
「ふふっ、ではついてきてもいいですが、私のそばから離れないでくださいよ?危険もあるかもしれないので」
「おや、私ってそんなに弱そうに見えますか?」
ツムギからの質問に、スズミは少し苦い顔をして答える。
「……まぁ、あまり強そうには見えませんね。特に、あなたの演奏をする音楽を聴いてない人にとってはそうでしょう」
「そうですか……以前トリニティに来た時に不良に絡まれたことがあったので、もしかしてと思ったんですよね」
「……ワイルドハントまでお送りしましょうか?」
「気にしなくても大丈夫ですよ。その時は正義実現委員会の方が助けに来てくださったので」
「あなたは危機感が無さ過ぎます……今日のパトロールの終わりはワイルドハントにしましょう。それがせめて私ができるお礼です」
「おや、お気を使わせてしまいましたね。ありがとうございます」
その後、ツムギはスズミと共にパトロールを行ったが、スズミが傍にいたためか残念ながらというか幸いというか、特に問題は起こらなかった。ワイルドハントまで送ってもらった後、スズミはなんと検問がある入口までわざわざ付いてきてくれ、本当に優しい人だなぁと思うツムギなのであった。
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