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~ユウカ編~
「ふぅ……今日は暑いわね」
ユウカはセミナーの業務が一通り終わって、気分転換に公園を歩いていた。
「結局徹夜して、朝になっちゃったわね……体中が座りっぱなしで悲鳴を上げてるし……後でシャワー浴びてゆっくり寝ましょう」
公園を歩いている中、ふと、光景に違和感を覚える。一見すると何も変じゃないように見えるが、よく目を凝らしてみると、青々とした草むらに擬態して緑色の髪をした緑色の服を着た少女が仰向けに倒れているのだ。
「……誰か倒れてる?もしかして熱中症!?ちょっと、大丈夫ですか!?」
ユウカは急いで隣に片膝立ちして、少女をゆする。少女はゆっくりと起き上がり、ユウカの方を見た。
「ううん……おはようございます」
「……おはようございます?」
ユウカは安心したような呆れたような顔で、大きく息を吐く。
「……もしかして、寝ていたんですか?」
「ええまぁ、はい」
「……心配かけさせるようなことをするなー!!!」
ユウカの鋭いツッコミの迫力にツムギはひっくり返りそうになる。
「なんでこんなところで寝てたんですか?しかもこんな暑い日に。熱中症で倒れたかと思いましたよ」
「ご心配をおかけしました。しかし、これにはのっぴきならない理由がありまして……」
よく考えれば、こんな気候で野宿なんて深い理由があるに決まっている。そう考えたユウカは真剣な面持ちで質問する。
「聞かせてください。私でも力になれることなら手伝いますから」
少女はどう返答するべきか一瞬悩んだが、変に飾り立てて言っても仕方ないのでぶっちゃけることにした。
「────『お金』、がありませんので」
「……それで野宿をしていたんですね。本当にのっぴきならないというか、哀しいというか」
「まぁご安心ください。野宿には慣れておりますので」
「そんなもの慣れないでください……とにかく、これでも飲んでください。スポーツドリンクです、よく冷えてますので。後、ついでにハンディ扇風機もお貸しします」
「手厚い介護ありがとうございます……よく持ってましたね」
「暑い日に外に出るときは持ち歩いてるんですよ」
「しっかりしたお方だ……そういえばこれ、飲んだら間接キス……」
「……」
無言の、そんなこと言っている場合ですかという圧があったので、少女は素直にスポーツドリンクを飲み体を冷やす。
「その制服、ワイルドハント生ですよね?」
「よくわかりましたね。私はワイルドハントの眠り姫、椎名ツムギです」
「眠り姫……?私はミレニアムのセミナー会計、早瀬ユウカです。それで、やっぱりワイルドハントの生徒って売れないとお金が足りないんですか?」
「まぁ芸術の世界は作品作り自体にお金がかかるケースも多いですし、私のも楽器代や機材代などでお金がかかる側ではありますが、幸いなことにうちのバンドはファンのみなさまのおかげで十分な収入を得ることはできていますよ」
「それじゃあなんで……?まさか借金とかですか?」
「いえ、お金が入るとパーッと使いたくなるので、お金が溜まらないだけですね」
ツムギはさらっと答える。ユウカは目を丸くしてしばらく硬直した後、ゆっくりと口を開く。
「……は?そんな理由で野宿を?」
「まぁ、野宿もそんなに悪くないですよ?」
「バカ!大馬鹿!何してるの!!」
「おや、思ったよりも直球で怒られてしまいました」
「ちょっと家計簿を見せて!」
「つけてません」
「それじゃあ領収書とか!複数人でバンドやってるなら楽器とかにどれだけお金を使ったとか管理してるでしょ!?」
「一々値段を気にするのはロックじゃないので……」
「じゃあ持ってるレシートとか全部出して!」
「え、いやそれはちょっと……恥ずかしいといいますかいえ何も後ろめたい物を買ってるわけではありませんが」
「いいから!!」
ユウカの圧に負けて財布からレシートを取り出すツムギ。ユウカはレシートを一枚一枚広げて内容を確認していく。
「……明らかに衝動買いが多すぎる。こんなのお金がたまるわけないじゃない!」
「しかし、宵越しの銭を持つなんてロックじゃありませんし……」
「何がロックよ!計画性がまるでないだけじゃない!!」
「お、おおう……真っ向からの否定……」
「ちょっと送りたいものがあるからモモトークを交換しましょう」
「いいですよ」
モモトークを交換した後、ツムギの元に一通のアプリのURLが送られる。
「この家計簿アプリに、何を買ったか記入してちょうだい。そして、一週間ごとに内容を私に送ること!そしたらチェックするから!」
「え……っと申し訳ありませんが、初対面ですよね?なぜここまでしていただけるのか聞いても?実は前世で私の奥さんだったりしました?」
「だって放っておけないじゃない!このまま放置してたらどんなことになるか!きっと先生みたいなお金の管理がだらしない大人になることが目に見えてるもの!」
「……ダメ人間に引っかかるタイプの最上級みたいな人ですね。言っておきますけど、バンドマンのベーシストにお金の正しい使い方なんて教えたところで、実践できる訳がありませんよ?」
「そう、でも私にだってミレニアムの会計としてのプライドがあるのよ」
なぜか自信満々のツムギに、ユウカは怒りを隠さない声で宣言し返す。
「そういえば会計やってるって言ってましたね。道理でお金に関して厳しいわけだ……あれ?もしかしてユウカさんってけっこうお偉いさんですか?」
「別にお偉いさんって訳じゃないわよ。確かに学校の運営に関わる立場ではあるけど、あくまでもミレニアムのみんなのために活動する組織だもの。暴君みたいな立ち回りが許されるわけじゃないわ。まぁでも……実際部の取り壊しや部費の決定をする立場ではあるから、そういう意味では恨まれても仕方のないお偉いさんかもしれないわね」
「ハンコ一つで部の存続を脅かせる立場ではあると……」
「だからこそ、危ない状況の部活は直接見に行く必要があるし、伝えるときはちゃんと対面して伝えるべきだと思ってるわ。まぁそれでも許されるかどうかは別の問題でしょうけど……」
「ゲーム開発部とかよく部費が足りないって嘆いてますね」
「あの子たちの知り合いなの?まぁ、実際あの子たちも頑張ってるのはわかってるんだけど、普段から割と問題を起こしてるからね……だから冷たい言葉もたくさん言っちゃったし、敵視されててもおかしくはないわね」
「そうなんですか。問題って例えば?」
「他の部活への襲撃やミレニアムでのカジノ運営とか……その他にもいろいろあるけど、あの子たちに誘われても変な事に手を貸しちゃダメだからね?」
「……凄い。思ったよりもしっかり問題児してますね。いやまぁモモイさんの普段の様子を見るに納得してしまうのがアレですが」
ここまでの話を聞いて、ツムギはある発想に至る。
(もしかしてユウカさんって、ミレニアム、いえキヴォトスでも随一のとんでもない世話焼きなのでは……?)
それならば明らかに問題児である自分やゲーム開発部に優しくしてくれるのも納得がいく。そして、これがユウカ自身には厳しい対応に見えているのだろう。
「ご安心ください。ユウカさんは、ユウカさん自身が思っているよりミレニアムのみなさんに愛されていますよ」
「そう?別に気を使わなくてもいいわよ?」
「愛は注いだ分返ってくるものです。ユウカさんが愛に溢れた人だということは、今話していてよくわかりましたから」
「……意外ね。てっきり無理やり家計簿をつけることを押し付けたから、鬱陶しいと思われたかと」
「ふふっ、ユウカさんならそう考えるでしょうが……少なくとも、本気で心配してないと内容を送ってもらってチェックするとは言えないでしょう」
正直、最初に言われたときは驚いたのは確かだ。しかし、彼女は本当に、ただ心の底から心配しているのだと伝わってくる誠実さがある。その誠実さこそ、彼女の美徳であり、みなに好かれる点なのだろう。
「色々迷惑をかけたお礼として、またお金が入ったら一緒にご飯食べに行きましょう」
「見栄張って高い店に招待とかしなくてもいいからね?」
「……なんで私の行動を読んでるんですか」
「呆れた……一応釘刺しといただけなのに。ツムギの悪癖が直るまで私がずっと見てあげるから、覚悟しなさいよね!とりあえず、朝は私がミレニアムの学食奢って上げるから」
そんなツンデレっぽくただ優しすぎるだけの台詞を言って、ユウカに連れられてツムギはミレニアムの学食を食べる。ユウカに奢ってもらった学食は、なんだか普段の食事よりも心に染みわたるのだった。
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