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~レイサ編~
レイサは今日も今日とて早朝のパトロール中だった。自警団の一員であるレイサは、こうしてほぼ毎日パトロールを行っている。
「今日は公園の周りをパトロールしてみましょう!」
公園は安全と思われがちだが、人目につかない場所もあり、そういった場所で怪しい行為が行われている可能性もある。人気が少ない早朝なら猶更だ。レイサは草の根をかき分けパトロールを行う。どんな危険も見逃さない!そんな心意気で調べていたレイサの前に、突如彼女は現れた。
「ひえぇ!!?」
低木の影に倒れている少女に、レイサは思わず大きな声をあげる。
「だ、大丈夫ですか!?」
とにかく近づいて、ゆすってみる。体は温かく、その点に少しレイサが安心すると少女は目を覚ます。
「ふわぁ……おはようございます」
上体を起こし、少女は呑気に挨拶をした。
「お、おはようございます……?」
「……どうやら、あなたが私を起こしてくれた王子様のようですね」
「お、王子様?何を言ってるかわかりませんけど、こんな場所で寝てたら風邪を引いちゃいますよ!!」
「おや、マジレスされてしまいました」
「えーっと……制服的に他校の生徒さんですかね?」
「ええ、あなたはトリニティの生徒さんですよね?」
「はい!宇沢レイサと申します!!」
元気いっぱい挨拶したレイサを見ながら、少女はぼーっと遠くを見つめる。
「あ……すみません。寝起きにうるさかったですかね?」
「いえ、宇沢、宇沢レイサ……どこかで聞いた気がして」
「あ、自警団の誇るスーパースター宇沢レイサとして他校でもしかして有名だったりするんですか!?」
「いえ、そういう訳ではないんですが」
「あ……そういう訳じゃないんですね」
レイサはしゅんと哀しそうな顔をする。表情がころころ変わって面白い子だなと少女は思うのであった。
「あ……そうだ。スイーツ部のみなさんから聞いたことがあります!宇沢レイサという名前を!」
「えっ!?スイーツ部のみなさんのことを知っているワイルドハント生ということはもしかして……」
「ああ、名乗っていませんでしたね。これは失礼。私は椎名ツムギ。ワイルドハントの眠り姫です」
「あなたがツムギさんですか!?スイーツ部のみなさんから話は聞いてます!」
「こちらも聞いてますよ。噂通り、元気いっぱいの方ですね」
「え!?てことは、私の話をしてたんですか!?なんだか恥ずかしいな……」
「お会いできて光栄です。私たちの出会いは運命だったのかもしれませんね」
ツムギの言葉に、完全に忘れていたレイサの疑問が再度思い浮かぶ。
「出会いといえば、私はパトロールしてましたけど、ツムギさんはどうしてここで寝てたんですか?」
「ふむ、気候がよかったので、公園でそのまま寝ちゃいました」
「私も深夜のパトロールの最中、そのまま寝ちゃったこととかありますけど……危険だからやめた方がいいですよ!」
「まぁまぁ、こうやってレイサさんがパトロールしてくれてるじゃないですか」
「だからといって全部守れるわけじゃないんですから!」
「それじゃあ、私みたいに危険な人を護るために、私もパトロールに同行しましょうか。二人なら、全部護れるかもしれませんよ」
ツムギは寝起きだがシャキッと動き、荷物を整えパトロールの準備をする。
「おぉ!本当ですか!?正直一人だと心細いなって思ってたところなんです!」
「ふふ、これでも私は以前自警団のパトロールに同行した経験があるので、頼ってくれてもいいんですよ?」
実際はスズミに無茶を言って同行した挙句ワイルドハントまで送られただけなのだが、こんなにも可愛らしい年下の前では強がりたくなるものである。たかが一歳といえど、この年頃の一歳差は大きい。
「そうなんですか!?ツムギさんってけっこうトリニティに来てるんですね?」
「まぁ、バンド活動のために色んな学校を渡り歩くことが多いですからね」
「ほへぇ……じゃあ、トリニティはもちろんとして、色んな学校を訪れた経験があるんですね。なんだか経験豊富な大人みたいで素敵です!」
「ふふっ、レイサさんは褒めるのがお上手ですね」
レイサに褒められて更に調子に乗ったツムギは、ニコニコでレイサの頭を撫でてみる。
「ひゃあ!?なんですか急に!?」
「いい子いい子~レイサさんはいい子~」
「もう……早くパトロールに向かいますよ!」
「ところでツムギさん、スイーツ部のみなさんとはどうやって仲良くなったんですか?」
「実はスイーツ部……というかアイリさんとの初対面は先ほどと同じように外で寝ていたんですよね」
「ええ!?その時も寝てたんですか!?」
「思い出してください。私とレイサさんが出会った記念すべきシーンを」
「あ……眠り姫」
「その通り。不思議な不思議な眠り姫が、同じように不思議な行動をとっていても、何もおかしなことはないでしょう?もっとも、不思議だというのにおかしなところはないというのは矛盾していますが────『ムード』は大事ですから」
「確かに、眠り姫が眠って以外いたらムードはよくない……?」
「まぁ、あの時も風邪の心配をされてしましましたがね」
「やっぱり同じ心配されてるじゃないですか!?」
ガビーンという効果音が聞こえてきそうな突っ込みをするレイサだった。
そんな風に楽しく会話していれば、パトロールは無事に終わった。
「ふむ、何事もなく終わりましたね。以前パトロールした時も何事もなく終わりましたし、トリニティは基本的に治安がいいですね」
「えへへ!喜ばしいことですね!私たちのパトロールの成果が少しでも出てるのかもしれません!」
「そうですね。正義実現委員会に自警団。二つの組織が競い合っているからこそ、この治安の良さが維持できているのかもしれません」
「そ、それじゃあ……」
(それじゃあ、さようなら?)
そう言い出そうとしたところで、レイサの心がざわつく。相手はワイルドハントの生徒、ここを逃せばまた会えるかすらわからない。だというのに、このままさようならでいいのだろうか?
(ここでさようならは、とっても寂しいな)
そう思ったとき、レイサは思わず声をあげた。
「あ、あの……ツムギさん!!」
「ん?どうかしました?レイサさん」
「じ、実は私、今から予定が無くて、空いてるんです。ツムギさんは……どうでしょうか?」
「私も空いてますよ」
「そ、それじゃあ、よ、よろしければその……」
誘っていいものだろうか。いくら先ほどまで一緒にパトロールしていたといえど、関係性は友達の友達。これ以上付き合わせてもいいものか。そんな葛藤が、ここから先の言葉を声にしてくれない。
「ああ……そういえば、トリニティは広いので、すぐ迷子になってしまうんですよね。どなたか親切な王子様がトリニティを案内してくれたら嬉しいんですが……レイサさん。どうでしょうか?」
それは、ツムギからのお誘いに見せかけた答え。まだあなたといたいという、お姫様からの熱烈な言葉。
「はい!!宇沢レイサにお任せください!!」
レイサはとびっきりの大声と笑顔で応える。それが、上手く誘う立場と誘われる立場を入れ替えられてしまった自分にできる最大の感謝の言葉だったから。
「それじゃあ!まずは私のお気に入りのカフェからご案内しますね!」
「おや、一体王子さまはどのような場所を案内してくれるのでしょうか」
「あ、それと!私は王子様ではありません!騎士です!トリニティを、ツムギさんを護る騎士!」
「おや、それはそれは、失礼しました。では騎士様、未知の世界の案内をお願いしますね」
もしかしたらスイーツ部と関りが深いツムギなら知っているかもしれない。そんな心配がレイサにはあったが、お姫様から案内を頼まれたのだ。ならば、レイサにとってトリニティの好きな場所を胸を張って案内するだけである。二人は改めてトリニティの道を歩き始めるのだった。
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