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~ラブ編~
「よっし!今日もスケバンどもとの縄張り争いに勝つことができたわ!」
ラブは嬉しそうに声を張り上げ、銃の素振りをする。勝って兜の緒を締めよ、これからも絶対に負けないために、気合いを込める。気合いを入れる動作が銃の素振りなのは、ラブが隊長を務めるジャブジャブヘルメット団……というかヘルメット団は全体的に弾に余裕がないからである。
「あいつらの驚いた顔と言ったら!またうちの武勇伝に一つ加わったわね!」
ご機嫌な調子で寝床に帰ってきたラブ。最も、寝床といっても橋の下での野宿なのだが。何度か縄張りを奪ったり奪われたりする中で、今の最も安心のできる寝床はここである。
「さぁ~って、お腹空いた~今日は何を食べようかしら?」
ブルーシートでできた入り口を開けると、そこでラブは予想だにしていない出会いをすることになる。
「……こんにちは」
「……ぎゃあぁぁぁぁ!!?誰ぇぇぇ!?」
「ふむ、私も驚いて普通の挨拶をしてしまいましたが、そんなにびっくりされると少し傷つくのですが」
「いや、あんた!あんた誰!?」
謎の少女は立ち上がり、丁寧に礼をして挨拶をした。
「どうも、私の名前は椎名ツムギ。さすらいの吟遊詩人(バード)です」
「あ、これはご丁寧にどうも。私は河駒風ラブです……じゃなくて!?なんでうちの家に入ってるのよ!?」
「このブルーシートで区切った四角い空間がラブさんの家なんですか……失礼しました」
「いえいえお気になさらず……じゃなくて!だからなんでうちの家にいるんだー!!」
(ところどころ育ちの良さが出てるのが面白いですね……)
ツムギはなんと説明したものかと顎に人差し指を当ててしばらく悩むが、面白い言い回しも思いつかないので直球で伝えることにした。
「今日の宿に困ってまして……それで、橋の下を探索してたんですよ」
「へぇ~あんた、この橋の下を狙うなんて良い目の付け所してるじゃない。でも残念、ここはうちの専用スペースよ」
ツムギは無言ですっとスーパーの半額唐揚げ弁当を取り出す。
「……話がわかるじゃない。あんた、野宿素人じゃないわね?」
「こういうこともあろうかと、二つ買っておいて正解でした」
「入りなさい。今日だけ特別に使わせてあげるわよ」
中に入ると、ツムギは荷物を整えて地面に座る。ラブも一緒に地面に座ると、小さな折り畳み式のちゃぶ台を取り出す。
「おお、いいものをお持ちですね」
「でしょ~?普段は狭いから立てかけてあるんだけど、ご飯食べるならテーブルがないと。それにしてもラッキーね。スケバンどもとやりあってたらこんなに遅くなっちゃったから、今日は絶対弁当なんてありつけないと思ってたわ~」
「縄張り争い……ふむ、未知の世界です」
「あんた見るからに不良って感じじゃないもんね。よく今まで生きてこれたね?」
ラブはマジマジとツムギを見て、う~んと唸る。
ラブに何か勘違いされてそうなのを察したツムギは、一言挟む。
「あ……私、住む場所ありますよ?」
「なんだ、じゃあ家出?気持ちはわかるけど、生半可な覚悟でやらない方がいいわよ」
「いえそういう訳じゃなくて、今度やるバンドのためにせっかくならいい会場借りたんですけど、思ったより費用がかかっちゃって……でも、大分前に連日の外出許可をとっちゃってたんですよ。ワイルドハントで連日外出できる機会なんて限られていますし、そんな貴重な機会を棒に振るわけにはいかないので。それで最近はずっと野宿してるんです」
「大人しく諦めて寮生活しておけばいいのに……ま、あんな息の詰まりそうな場所にずっといられないってのはわかるわ~」
「私たちが寮で生活していることも、ワイルドハントが閉鎖空間であることについても知っているとは、もしかして以前はワイルドハントの近くで生活したことがあるんですか?」
「別に?ただ、昔何度か行かされた経験があるだけよ。芸術の勉強だとかなんだかで」
「ワイルドハントはラブさんを楽しませられたでしょうか?」
「残念ながら、ね。といっても、ガキに高尚な名画とか、高級な楽器でのクラシックとか、そんなこと言われても良さがわかるわけないから、別にワイルドハントが悪いわけじゃないわよ」
ツムギはすっと立ち上がるとケースからベースを取り出す。
「いえ、来てくださった人を楽しませられなかったとなればワイルドハントの名折れ。私がその分今、ラブさんを楽しませてみせましょう」
「あんたの荷物それ、バカでかいの楽器だったんだ」
「ええ、自慢のベースです。最も、ラブさんの昔聴いたクラシックの楽器よりは安いでしょうが」
「いいじゃん聴かせてよ。せっかく家に泊めてあげてるんだから、それぐらい楽しませてもらわないと」
ゆらりとツムギの体が揺れれば、一瞬でムードが変わる。目は鋭くラブを睨み、全身から溢れ出るオーラは歴戦の猛者であるラブをも一瞬ビビらせるほどだった。
「ヒャッハー!!それじゃあ、ぶっとんでいこうぜぇ!!」
「……は?え?そういうタイプ!?」
ツムギのデスメタルでの演奏が始まれば、先ほどまでの印象とあまりにも違いすぎて戸惑っていたラブも、段々とデスメタルの世界へと引きずり込まれる。演奏が終わったころには、ラブは無意識のうちに拍手をしていた。
「凄い……本当に凄い。うちも、こんな音楽に昔会ってたら、少しは違ったのかな……」
「楽しんでいただけました?」
「ああ。うちにとってはワイルドハントの芸術の中で、最高の作品だったよ」
「人によって好き嫌いはありますからね。それを踏まえた上で、楽しませる必要があります」
「きっと、昔もこういう魅力があったんだろうね……ワイルドハントには。何度か行ったことがあるはずなのに、知ることができなかったのが惜しいな」
「今から知ればいいんですよ。今度、ワイルドハントの本当の魅力を案内しますよ。その時は、ラブさんの思うが儘に、気になったものを堪能できるように私が兎として不思議の国を案内しましょう」
「……あんた、わざわざ自分の学校に不良招こうとするって、正気?」
「おや?じゃあラブさんはワイルドハントで何か悪さをするつもりなのですか?」
「そういうわけじゃないけどさぁ……」
「あなたがそう言うならば、それで信頼できます。話した時間は短いですが、あなたが悪い人には見えませんので」
「あっそ……調子狂うわ。もうさっさと弁当食べましょ」
「そうですね。私も全力で演奏してお腹が空いてしまいました」
二人はちゃぶ台の上に弁当を広げ、食べ始める。
「……何?こっちの方チラチラ見て。唐揚げならあげないわよ」
「おや、釘を刺されてしまいましたね」
「やっぱ狙ってたか……」
(食べ方は特に育ちが出ると言いますが……上品ですね。彼女にも彼女なりに色々な事情と覚悟があって、ヘルメット団をやっているのでしょうね)
ツムギは今までのラブの発言や行動から、色々抱えていることを見抜くことができた。
「そういえば、ヘルメット団って普段何してるんですか?」
それならば、昔のことを聞くのは野暮というものである。ツムギは彼女が誇りを持っているであろう『今』について質問することにした。
「お、聞きたいか?それならジャブジャブヘルメット団の隊長自ら話してやろうか!」
「へぇ、隊長だったんですか」
「まず今日はね~大量のスケバンに囲まれたわけだけれどさ!そこでうちが~」
ラブによる武勇伝が始まり、ツムギは知らない世界について興味深そうにメモをとっていく。結局、ラブの武勇伝は止まることを知らず、辺りがすっかり暗くなって眠る時間になるまで続いた。二人は地面に転がりながら、眠る体勢になりながらも話を続ける。
「ツムギ、あんた面白いやつね……もし学園から追い出されたら、うちが拾ってあげるからまたここに来なさいよ」
「ふふ、確かに不良側の人間ですからね私も。いつかお世話になるかもしれません」
「その時はうちのピカピカヘルメット、一つ分けてあげるわよ」
固い地面と橋の下というコンディションではあったが、その日は二人とも普段よりもよく眠ることができた。
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