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~ヒマリ編~
ツムギはミレニアムを訪れていた。といっても、いつもみたいにインスピレーションを探しに遊びに来たわけでも無ければ、ライブしに来たわけでもない。先日、ツムギのメールに謎のメッセージが届いたのだ。
内容は『オカルト研究会副会長椎名ツムギ様。もしあなたが本当にオカルトに興味があるのならば、次の日曜日にミレニアムに来てください。あなたの期待しているモノが待っていることを約束します。なお、このメッセージは誰かに伝えることなく、あなた一人で来ること、それが条件です』というものだった。
明らかに怪しいが、だからといってここで行かないのは謎を追い求めるオカルト研究会副会長としての名が廃るというもの。ツムギは最大限の準備をしてから、ミレニアムに向かい、今、無事に到着したのだった。
「さて、ミレニアムにまで来たのはいいものの、ここからどこに向かえばいいのでしょうか」
そんなツムギの独り言に丁度反応したかのように、ツムギの電話が鳴る。
「……これは、電話に出ろということでしょうか」
電話に出てみれば、聞こえてきたのは明らかにボイスチェンジャーを使った声であった。
「椎名ツムギ様でお間違いないでしょうか?」
「ふふ、わざわざ人違いを確認してくるなんて、礼儀正しい怪現象ですね。ええ、間違いありませんとも」
「では、目的地までご案内しましょう。そこから左を向き、その方向を直進してください」
(方角ではなく、私の向いてる方向で指示を……これは完全に見られていますね)
ツムギは言われた通りの方向に電話を繋いだまま進む。
「次の曲がり角を右です」
(なんだか、カーナビを使ってるような気分ですね)
ツムギが誰もいない通路をしばらく歩いた後、ドローンが前から迎えに来た。
「ここから先は目隠しと耳栓をして進んでもらいます。ドローンに案内させるので、ついてる紐を離さない様にしてくださいね?」
「ふむ、目隠しも耳栓もドローンに持たせてありますね。ふふ、目を覚ましたら異界にでも連れ去られてしまうのでしょうか?」
ツムギは言われた通り、目隠しと耳栓をして、ドローンの紐を掴んで進んでいく。
数分後、ツムギの目隠しが突然外された。目の前に現れたのは、車椅子に座った全身真っ白な少女であった。
「~~~~~~」
「……?何か仰ってるようですね。耳栓も外してよろしいのでしょうか?」
少女が頷くと、ツムギは耳栓を外す。周囲を見渡せば、そこは怪しい機械で囲まれた部屋であった。
「近未来へのテレポートでもしましたかね?」
「そう思ってしまうのも無理はないでしょう。私の秘密の部屋ですから、ここにはミレニアムでも最新鋭の技術が揃っています」
「そして、あなたが電話の主で間違いありませんかね?怪異の一種かと思いましたが、随分と可愛らしいヒロインではないですか」
「可愛らしい……当然です。私は超天才清楚系病弱美少女ハッカー、明星ヒマリとは私のことですから!」
「ハッカー……ということは、私の行動を監視できたのも、そもそも謎のメールで私のことを特定していたのも……」
「ええ。私にかかれば市販のパソコンのハッキングなんて、造作もないことですから」
「ふむ、残念ですね。怪現象の類だったら気分も盛り上がるものなのですが……そうだ、いくら名前を知っているといっても、挨拶しないのは礼儀に反しますね。私の名前は椎名ツムギ。あなたのご存知の通り、オカルトの探究者です」
「椎名ツムギさん。このような誘い方になってしまい申し訳ありません。ですが、あのやり方が一番あなたの興味を引けると思いましたので。キヴォトスのありとあらゆるオカルトを調査しているオカルト研究会。その力をお貸しくださいませんか?」
「よくオカルト研究会についてご存知ですね。ワイルドハントの数多くの生徒の中で会員数四人、非公認組織でしかないのに」
「怪現象について調べるうちに、あなたたちのグループについての目撃情報も集まりまして。後は、私が本気になれば特定など容易いことです」
「恐ろしいですねぇ……ではまず早速質問を一つ。なぜオカルト研究会の中でも私なんですか?」
「それは、あなたはミレニアムに何度か訪れており、私の可愛い後輩たちとも交友関係があったからです。少し上からの物言いになってしまいますが、あなたは信頼に値すると判断させていただきました」
「なるほど、それは光栄ですね」
「あなたの友人であるトキやケイは特異現象捜査部の一員なんですよ?最も、兼部という形ではありますが。場合によっては、あなたのご友人にも手伝っていただくことにもなるかもしれませんね」
「ではもう一つ質問を。私の期待しているモノがあるという話。そちらは本当でしょうか?」
「ええ。あなたが期待している以上の不思議を提供できると約束します」
ヒマリがそう言った瞬間、巨大モニターに映ったのは数々の怪事件やUMAなどの情報であった。
「これは……オカルト界隈で話題となった数々の事件!情報の中には我々の知らない情報も多数あります」
「……私たちの活動は簡単に言えば、特異現象を科学的な観点から分析することです。しかし、我々だけではどうにも情報も視点も足りていない。そう判断したため、オカルト研究会に協力を仰いだ訳です」
「ふむ、意外ですね。ミレニアムはそういったことをあまり信じてないイメージでしたが」
「私個人として、昔からオカルト全般や占いといったことが好きで、毎日運勢とラッキーカラーやラッキーアイテムなんかの確認は欠かしてないんですよ?それに……あなたも知っているでしょう?特異現象は決して、このキヴォトスにおいてはありえないものでは無いと」
「ええ、実際に私自身何度か遭遇したこともありますし、どうにも説明がつかない特異現象も多くあります。その一つが、キヴォトス中の空が赤く染まったあの日……」
「詳しくは言えませんが、私はあの日、異変の最前線にいました。そして、あのようなキヴォトス全体を巻き込むような特異現象がまたキヴォトスで起きる可能性もあると……私は判断しました」
「あのような特異現象が……それを調査するために私が……ふふふ。くくくくく」
ツムギはまるでステージの上に立っている時のような高揚感に包まれ始める。汗が噴き出て、全身が熱くなってきた。
ヒマリはいつの間にか麦茶を淹れて、ツムギに差し出す。
「冷えた麦茶です。ここに来るまで大分歩かせてしまいましたので」
「ありがとうございます。丁度、頭と体を冷やしたいところでしたよ」
ツムギは一気に麦茶を飲み干し、ヒマリの話を聞く態勢に入る。
「さて、今見せられるのはここまでです。ツムギさん。我々特異現象捜査部と……協力していただけますか?」
「ええ、もちろんですとも。なんなら私だけでなく、オカルト研究会の他メンバーもなんなら呼べば協力してくれると思いますよ……若干一人は怪しいですが」
「それはよかったです♪まさかここまでして断られたら面目が立たないところでした」
ヒマリとツムギは自然と握手をする。
「では、次はオカルト研究会の研究結果を報告していただけませんか?」
「ええ、もちろんいいですが、普段からあまりデータとかにはあまり纏めないもので……一応ノートがあるので、そちらを元に話させていただきますね」
ツムギが報告する間、ヒマリはところどころに合いの手を入れて新しい視点から情報をブラッシュアップしてくる。
「ふむ、オカルト研究会からの報告、我々の持ちえない情報が大量に出てきますね。やはり、あなたたちと協力して正解でした」
(この人の持つ知識と頭脳は信頼できますね……ミレニアムでも屈指の生徒なのでしょう)
そんな彼女から、驚くべき提案がされた。
「ところで、もしツムギさんが希望するというならば、今後のオカルト研究会の活動にミレニアム最新鋭の技術を提供してもよろしいのですよ?」
「はい?といいますと具体的には……?」
「ドローンを使えばより多角的に現地の調査が行えますし、暗視ゴーグルがあれば暗闇での調査も捗ることでしょう。なんなら、そもそも中々外出できないという問題も、私がデータを書き換えれば簡単に突破できますよ」
これだけの部屋を持っており、尚且つツムギのデータを軽々ハッキングした彼女にとっては大したことではないのだろう。涼しい顔でオカルト研究会にとって破格の提案をしてくる。
「魅力的な提案ですが、お断りさせていただきましょう」
だが、ツムギの答えはNOであった。
「オカルト研究会は、きっと限られた状況の中で工夫してきたからこそ、あなたがた特異現象捜査部とは違った情報が手に入ったのでしょう」
「……続けてください」
「本格的な調査機関になってしまっては、あなたたちと視点が一緒になってしまう。複数の視点があってこそ、オカルトの謎は解き明かせるものだと思っていますので」
「ふむ、面白い考え方ですね。その発想はありませんでした」
「これは、科学者というより芸術家としての考え方ですからね。視点、環境の違いこそ新しい価値を生み出すという考えです」
ヒマリは納得したため、深く頷きツムギの考えに尊重を示す。
「わかりました。科学者の特異現象捜査部と芸術家のオカルト研究会。その二つの視点からアプローチすることとしましょう。余計なお節介を焼いてしまいましたね」
「いえ、お気持ちはとても嬉しかったですよ」
その後、二人はオカルトトークで盛り上がり、ツムギが帰ったのはすっかり暗くなってからであった。
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