95/100!!
セイア誕生日おめでとう!
~セイア編~
セイアはワイルドハントを訪れていた。といっても、既に外交の用事は済み、今は予定より早く終わったため自由時間となっていた。
「こういう時間こそ、相手方を理解する時間にすべきだ。実際にこの目で見なければ、真実というのは噂に巧みに隠されてしまうものさ」
と親衛隊に言って一人飛び出してきたが、要するに親衛隊に縛られず遊ぶ時間が欲しいだけなセイアは適当に周囲をぶらぶらと歩いてみる。
「さて、まずは案内人を探すとしようか。トリニティ程ではないがワイルドハントは広い。このままでは十分に満足できる一日を過ごす前に、このワイルドハントの中で一生過ごすことになりかねないからね」
周囲を見渡す中、セイアは一人の生徒に狙いをつける。その生徒は広場でゲリラライブを始めようとしており、周囲には多くの生徒が集まっている。
「ふむ、あの生徒の周囲にあれだけ人が集まっているのなら、よさそうな案内人も見つかるだろう。それに、せっかくワイルドハントに来たならば」
セイアは案内人を探すのはこのゲリラライブが終わった後にしようと考え、まずは観客の一人となりライブの開始を待つ。
(上品な雰囲気の生徒だね……クラシックでも演奏してくれるのかな?)
少しすれば、広場の中央でその生徒は天に向かって叫ぶ。
「ヒャッハー!!テメェらよく集まってくれたなぁ!それじゃあ一緒に行こうぜぇ!地獄までぇ!!!」
「じ、地獄?」
流れ始めたのはセイアの予想とは真反対のデスメタル。圧倒的音圧と重低音、デスボイスのミックス。セイアは演奏が始まってからしばらくは呆気にとられていたが、そもそもはわんぱくで刺激を求める節もある年頃の少女。ワイルドハントでも注目を集めるほどのデスメタルをすっかり気に入ってしまい、後半はノリノリで合いの手を入れるのだった。
演奏が終わった後、周囲の人が解散し始めたころ、セイアは少女に声をかける。
「君、ああ、そこの君だ。先ほど演奏を披露してくれた」
少女は声をかけられると素直にセイアに近づき、先ほどとは打って変わって大人しそうな声色を喉から出す。
「ふむ、私で間違いないでしょうか?」
「ああ、少し耳を疑うが君で間違いないだろう。随分と雰囲気が変わるものだね」
「よく言われますが、日常と非日常には堺があるべきなのです。だからこそ、非日常の一つである芸術を人はより深く楽しむことができる。最も、日常に紛れ込む芸術もありますが────『特別感』、は大事ですから」
「ふむ、確かに日常に紛れ込む芸術であろうと、本当にただの日常に溶け込むのであれば、それは芸術とは認識されない。例えば機能美のように。君は、君の芸術を完成させるために普段大人しくしているのかい?」
「ふふ、さてどうでしょう。もしそうだとしたら、私が日常に出しているのは自分ではないということになるのでしょうか?」
セイアはここまで話して直感する。自身と似ているタイプの存在だと。自身を唸らせるほどの芸術センスを持ち、息が合う存在に案内してもらうならば最高だろう。セイアは早速交渉を仕掛ける。
「すまないが、私はトリニティから来た……観光客だ。ワイルドハントのことは色々不自由でね。そちらさえよければ、ワイルドハントの案内をしてくれないかい?」
「ワイルドハントの案内……ですか。ふむ、そういうことならば喜んで引き受けましょう。あなたの兎となり、この不思議の国を案内しますよ」
「不思議の国かい」
「不思議とは、普通と異なること。トリニティから来たあなたにとってはワイルドハントはまさに不思議の国でしょう」
「兎さん。名前を伺ってもいいかな?」
「私はあなたの兎、椎名ツムギですよ狐さん」
「私は百合園セイア。好奇心旺盛なトリニティの狐さ。今日はよろしく頼む」
「ところで、何か興味がある芸術はあるのでしょうか?」
「そうだねぇ……私は音楽とか好きだね。君の歌にも随分と感動させてもらったよ。よく自分で歌ったりもするものさ」
「ふむ、そうなるとアイ・オブ・アートで今音楽会をやっているはずですね」
「おお、それはまた随分とタイミングがいいね」
「毎日のように生徒による公演が行われているといっても、音楽会のタイミングで来るとは運がいいですね。普段の行いがよいのでしょうか?」
「もちろん、私は清廉潔白な生徒だよ」
「私はどちらかというと不良側ですねぇ」
「あまりそうは見えないが、まぁワイルドハントはトリニティ以上に色々厳しいと聞くからね。となると、私は今不良生徒にほいほいついていってしまってる訳か」
「物語の鉄則に沿えば、校舎裏でカツアゲですかね?」
「それは初めての体験だね。ほら、早く私を連れて行きたまえ」
「ふふっ、セイアさんこそ意外と豪胆な方ですね。ここエピファニー広場から見てあちらの建物の裏にあります。はぐれないようにしてくださいよ?」
ツムギに案内されたセイアが目にしたのは、青い球体のような建物であった。
「ここが……アイ・オブ・アート。変わった見た目だね」
「なんでも、ミレニアムの最新建築技術を使っているらしく、デザイン性と機能性の両方を完備しているワイルドハント自慢の建物です」
「ミレニアム、懐かしいね。確かにあそこの技術力ならば、どんな形の建物でも建築可能だろうね」
「おや、セイアさんはミレニアムを旅したことがあるのですか?」
「まぁ、こう見えて色々な学校を渡り歩いているよ。外の世界を見るというのはいいことだ。私に何が不足しているのか嫌でも痛感させられる」
「理解できます。私もバンド活動などで他校に行く機会があるのですが、常に新鮮な視点を与え、自分を、世界を多角的に見ることができます。それこそが私に────『インスピレーション』、を与えてくれるのです」
「ふむ、自己というものの評価は自分以外の世界との相対的評価にて確立される。例えば、芸術の心得がある人間は、ワイルドハントでは当然の存在としてそれを特別視はできないだろう。だからこそ、自分以外の世界そのものを変えることによって自己が変わり、自己を表現する芸術にも多様性が出てくる……面白い話だね」
「ここであなたと芸術について語るのも非常に興味深くはありますが、せっかくここまで来たわけですし、アイ・オブ・アートに入るとしましょうか」
二人はアイ・オブ・アートで音楽会の公演を楽しんだ後、二人は外に出てきて感想を言い合う。
「いやぁ……演奏はもちろん見事だったが、それを引き立てるためのステージの構成……最新の技術力を活かした公演を楽しめる場だというのは嘘偽り無いようだね」
「私も以前使ったことがありましたが、ステージに立つ側としてもあそこは最高ですね。惜しむらくは予約でいっぱいいっぱいなことです」
「つまり、毎日様々な公演をあそこで楽しむことができると……暇さえあれば通いたいぐらいだね。さて、次はどんな世界を見せてくれるんだい?」
「次もきっと気に入ると思いますよ。ネモギャラリーと言われる美術館です。厳重な検問を通る必要こそありますが、ワイルドハントの誇る美術館です」
「ワイルドハントにおける美術館……その言葉だけでここまで期待を高めさせられてしまうとはね。早速案内よろしくお願いするよ」
「ところで、セイアさんは絵や彫刻には興味があったりするんですか?」
「まぁ、教養として学ぶうちに興味は湧いたね。特に絵に関しては、友人がよく描くから自然と調べる機会も増えたかな」
「ほほう、ご友人が絵を。でしたら、ここでの話をすればきっと羨ましがることでしょう。ワイルドハントのネモギャラリーで絵画を見てきたなんて、最高の土産話ですよ」
「ふふ、そうだね。だが、確か彼女も以前ワイルドハントで絵画展を案内してもらったとか言っていたな。誰に案内してもらったと言っていたか……まぁいい。この貴重な機会。目の前のことにだけ集中しよう。幸い広い視野を持った案内人がいてくれることだからね」
ネモギャラリーを一周し終えた後、外に出れば空は黄昏時でありどんどん暗くなっていったが、二人の会話は対照的に盛り上がっていく。
「いやぁ……まさかすぐ隣に地元の生徒を連れての美術館がこんなにも楽しいものとは……先ほど君が言っていた芸術は複数の視点が大事という話を思い出させられたよ」
「こちらこそ、セイアさんレベルの知識人と共に語るのはまるで百科事典の精霊と語っているような気分になりますよ」
「さて、本当ならば宿泊してでも二日目を楽しみたいところだが……残念ながらお別れの時間がやってきてしまったようだ。こう見えて、あまり自由な行動は許されない身でね」
「おや、では物語はこれにて終幕ですかね?」
「いや、一旦栞を挟むだけさ。君と私、両方が望むのならばまた出会うこともあるだろう。もしかしたら、今度は君がトリニティに来た時に私が案内することになるかもね」
「ふふ、要するに連絡先を交換して友達になりたいってことですかね?」
「言葉にすると大分安っぽいが、そういうことになってしまうかね」
二人はモモトークを交換しあってその場をお別れする。後日、ミカとナギサにどんなことがあったか土産話を伝えた結果、ナギサを案内してくれた生徒と同じでミカの知り合いでもあったと知って、三人でこの偶然について話し合い盛り上がるのだった。
気が向いたら評価お願いします!