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~ホシノ編~
「さて……まだここは相変わらず暑いですね」
ツムギはアビドスを訪れていた。どうやらアビドスアイドルプロジェクトを進めている最中壁にぶち当たり、専門家の意見を聞きたいということでツムギが呼ばれたのだった。
「それでは、集合場所に向かいましょうか」
アビドスは広く迷ったら致命的な気候ということで、今回は駅前でアビドス高校の生徒と集合することになっている。以前一回遭難しかけたツムギにとってはアビドスの脅威はよく知るところであり、迎えが来てくれることに心の底から感謝するのだった。
「それにしても、迎えの人はどこでしょうか?まだ来てない可能性もありますが。確か、ピンクの髪と大きな盾が特徴的な生徒さんだと聞きましたが……」
ツムギは周囲を見渡すが、それらしい人影は見えない仕方ないのでベンチに座って休みながら待っていようかなと考えたその時であった。
「やぁ、君がツムギちゃん?」
「おや?今の声は?」
ツムギはもう一度周囲を見渡してみるが、アビドスの生徒と思われる姿は見当たらない。相変わらず駅前だというのにほとんど人がいないアビドスで見逃すとは思えないツムギは、もう一度周囲を見渡すがやはり見つからない。
「うへ~。灯台下暗しって言葉、知ってるかな?」
「灯台……あっ」
ツムギがすぐ下を見てみれば、そこにいたのは聞いていた特徴通りの生徒だった。
「ふむ、すみません。まさかこんなにも近くにいるとは。あなたがホシノさんですか?」
「まぁ、三年生の先輩って聞いてたらもっと大きい人をイメージするよね~。メッセージ送ったのノノミちゃんだから、ホシノ先輩って書いてあったでしょ?」
「ええまぁお察しの通りで……お恥ずかしい話です」
「ま、気にしてないからさ~それじゃあ早く行こうか~。この時期になってもアビドスはまだまだ暑いからね」
二人は駅から歩き始める。自分より小さい三年生の後ろ姿を見て、ツムギは少しカノエのことを思い出すのだった。
「さて、それで。具体的にどのような場所で困っているのですか?」
「も~全部だよ~。オリジナルソングを作りたいとかノノミちゃんが言い出したけど全然ノウハウが無いし、とりあえず仮決めの曲でダンスの練習してもらってるけどなんだか私たちが振付考えると前のやつと似たようなダンスになっちゃうし、セリカちゃんとアヤネちゃんはツムギちゃんが見に来るって聞いたら抵抗を始めるし……」
「なるほど。まぁ、私はアイドルは専門ではないですが、できる限りのお手伝いはしますよ。青春の汗を輝かせるヒロインたちの力になれるなら、ね」
「いや~ごめんね~?無茶苦茶言っちゃって。でも、会議中に頼るならツムギちゃんがいいって名前が挙がったから」
「おや、光栄ですね」
「でさ~。ツムギちゃんってうちの後輩たちとはどういう関係性なの?」
そう問われるやいなや、ツムギは全身の産毛が逆立つような緊張感に包まれる。
「……もしかして、警戒されてます?私」
「いやいやまさか~。ただ、可愛い後輩のことだからちょっと気になるだけだって」
下手にふざけると危険になるだけだと気づいたツムギは、真面目に答えることにする。
「セリカさんには何度かライブ会場設営のバイトに来ていただきました。シロコさんとはよく一緒に運動をする仲ですね。ノノミさんはシロコさん経由で知り合いましたが、以前ショッピングでご同行させてもらいました。アヤネさんは、アイドルをやっていた時にステージ上で踊っているのを見ただけですね」
「ふむふむ……まぁ、引き続きうちの後輩たちと仲良くしてくれると嬉しいな」
「あ、後、シロコさんのお姉さんとも出会いましたね」
「ほほ~。結構顔が広いね」
ホシノは一見のんびりした顔をしているが、その瞳の奥には鋭い鷹の目が潜んでいることをツムギは既に見破っていた。いや、そもそもあまり隠す気もないのだろう。
「……後輩が心配ですか?」
「勘違いしないで欲しいけど、うちは本当に生徒数が少ないし外との交流もあんまり無いから、後輩にツムギちゃんみたいな友達ができたことは嬉しいんだ。だけどさ……」
「数少ない後輩だからこそ、絶対に護りたい、ですよね?」
「……やっぱり過保護だと思う?気を悪くしたならごめんね」
「いえ、どうにもダメな話しか聞かないのに、なぜあんなに後輩のみなさんから慕われているのか謎が紐解けたところですよ。やはり、隠された文章までしっかりと吟味するものですね」
「うへ!?そんなに酷く言われてるの?」
「ずっと寝てばかりだとか、すぐサボる癖があるとか……」
「お昼寝が気持ちいいのが悪いよね~」
「ホシノさんは眠るのが好きなんですか?」
ホシノはごそごそと荷物を漁ると、そこから枕を取り出した。
「ま、こんなものを持ち歩いてるぐらいにはね」
「ほほう、実に柔らかそうな良い枕ですね。実は私もどこでも眠る能力には自信があるのですが……さすがにアビドスでは外で眠れませんね」
「私もさすがに外では寝たりしないよ?」
「アビドス以外では割と野宿できますよ私」
「何自慢げに話してるの……そんなことしてたら危ないよ?おじさん心配になっちゃうって」
「あ」
「ん?どうかした?」
「いえ、生の『おじさん』を聞くことができて感動しただけです。自分をなぜかおじさんと自称しているとも聞いてましたので」
「ああね~。まぁ、この自称にそんな大した理由もないから、聞きたいんだったらいくらでも聞かせてあげられるよ?」
「いえ、そういう訳ではないですが。まさかこんな可愛らしいヒロインがおじさんを自称していることには驚かされますね」
あまりにも真正面から突然放り込まれた可愛らしいヒロインという言葉。ホシノもまさかほぼ初対面の相手に自分がこのような扱いを受けるとは思っていなく、面を食らう。
「可愛らしいヒロインって……まさかうちの後輩もそんな風に口説いてたりするの?」
「逆に聞きますが、ホシノさんはあなたの後輩が可愛らしくないと思うのですか?」
「そりゃみんな可愛いとおもうけどさぁ~そういうことじゃないじゃん?」
「もちろん、ホシノさんのことも心底可愛いと思ってるので」
「……よくないよ?いつか危ないファンに刺されたりするよその調子じゃあ」
そんな風に歩き続けていると、木陰の下にあるベンチが見えてきた。
「疲れたし、一旦あそこで休む?」
「そうですね。一旦休憩しましょう」
二人はベンチに隣り合って座り、一息つく。アビドスの厳しい日差しを遮る木陰のおかげで、ゆったり休むことができる。
「足を休めている間、せっかくですし一曲弾きましょうか」
「お、いいねぇ。おじさんも楽しみだよ。ツムギちゃんの演奏」
ベースを取り出したツムギが演奏したのは、ほのぼのとした、まるで木漏れ日のような曲であった。
「なんていうか……心休まる曲だね。ツムギちゃんの得意分野はデスメタルだって聞いたけど、こういうのも弾けるんだ」
「ふふ、聞いている人に合わせて演奏するのも技術のうちですから。ホシノさんが求めているのはこういう曲でしょう?ずっと警戒していて、疲れたんじゃないですか?そうじゃないと、現地人のホシノさんが私よりも先に疲れて休みたがるなんて思えませんし」
「警戒なんてそんな~」
「最初だけ、とでもいいたげですね。私と他愛ない話をしながらも、ずっと私の言葉の裏側を探っていましたよね?」
「……」
ホシノは黙りこくる。最初こそ上手く隠せていない自覚はあったが、後半はすっかり隠せていたつもりだったのだ。
「ですので、私の本音を話そうと思います」
「ツムギちゃんの本音?」
「ええ、私、椎名ツムギはホシノさんを攻略したくなりました」
「うへ!?急に何を言ってるの!?」
「そして、最終的にはアビドスのアイドルの一人としてホシノさんをデビューさせるつもりです!アビドスアイドルプロジェクトに関わる一人として!」
「なんでそういう風になるのかな!?」
ホシノは先ほどまでの余裕がなくなり、かなり素に近い状態でツッコミをいれる。
「もちろん、先ほど言った通り、ホシノさんを心底可愛いと思っているからです。すぐ裏側を疑うホシノさんに、この思いを伝えるためにはホシノさんが本当に可愛いことを証明する必要があるなと思いまして……」
「じゃあこっちも一つ本音で言わせてもらうけど、アイドルだけは絶対にやだからね!?私にそういう役割は絶対に似合わないから!愛嬌とか全然ないし!」
「いえ、ノノミさんとも交渉して、絶対にホシノさんにはアイドルをやっていただきます!」
「はぁ!?ノノミちゃんだけはダメだって!絶対にそんな提案したら通しちゃうじゃん!」
結局ガチの言い合いに発展した後、このまま案内せずに置いてくぞという必殺の一撃でなんとか自分の身の安全を確保したホシノ。思っていたのとは別方向に危険な人物のため、これはこれで警戒しなければなと思うのだった。
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