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~イズミ編~
ツムギは長蛇の列に並んでいた。ウナギゼリープリンという人気の商品があると聞いて、朝一番から店に並んでいるのだ。一般的な評価は壊滅的だが、一部のコアなファンからの人気は凄まじいものらしく、この長蛇の列のほとんどがウナギゼリープリンを買いに来た客だというのだから、驚きである。
ツムギはゲテモノ好きという訳では無いが、全く新しい味というのは新鮮なインスピレーションを与えてくれる。常にインスピレーションを探しているツムギはチャレンジのために並んでいるのであった。
「果たして、今日はどんな物語と出会うことができるのでしょうか」
ツムギの順番になる。話題のウナギゼリープリンを見てみれば、お一人様二つまでという張り紙がされている。
「せっかくですし、二つ買って一つはレナちゃんに食べてもらって反応を見ますかね?すみません、ウナギゼリープリンを二つお願いします」
ツムギは二つ注文して、紙箱に包んでもらって店を出る。もうウナギゼリープリンは少なくなっており、なんとか買えたことに胸を撫でおろすツムギであった。
「さて、早速ですが一つはここで食べてしまいましょうか?」
この店にはテラス席が用意されており、買ったスイーツを自由に食べることができる。ツムギが椅子に座り、紙箱を机の上に置いたところで叫び声が聞こえてきた。
「ええ~!!今日の分はもう売り切れ!?」
「すみません……ちょうどお客様の前で売り切れになってしまって……」
「そんなぁ……」
声の方をツムギが見てみれば、羊のような大きな角が特徴的なゲヘナ生が膝から崩れ落ちている。
(……残念ながら、彼女の物語はここで終わってしまったようですね)
とぼとぼと店から出てきた少女は、今にも泣きそうな顔で帰り道を歩いていく。
(あの様子、よほど楽しみにしていたのでしょうね)
「……もし、そこのヒロイン」
「ふえぇ……買えなかった」
少女はショックからかツムギに声をかけられたことに気づかず、そのまま歩いていく。
「そこの、大きな角がチャームポイントのヒロイン」
ツムギはもう一度大きな声で、話しかける。
「大きな……角?」
少女は周囲を見渡す。しかし、どこにも角が生えた女性はいない。
「え!?もしかして私!?」
「ええ、あなたのことです」
自分を指差して驚く少女に、ツムギは冷静に頷いて返答する。
「何々?何か困ったことでもあったの?」
「困っているのはあなたではないでしょうか?随分落ち込んでいるように見えましたが」
「そんなにわかりやすかった!?実はウナギゼリープリンが買えなくて……」
「実は私二つ買っていまして。一つ分けましょうか?」
「え!?いいの!?なんで!?」
「それは……」
あなたが随分と落ち込んでいたためと正直に答えては、相手は気を使われたと感じ、気分が悪いだろう。さて、上手い言い方は何かないものかと探しているうちに、少女の方から口を開いた。
「あ、もしかして、みんなで食べたほうが美味しいからってこと?」
「そうですね。美味しいものは分け合った方がいいですから」
「じゃあ、一個貰いたいな!私は獅子堂イズミ!」
「私はワイルドハントからの探求者、椎名ツムギです」
喜びながらツムギの対面席に座ったイズミは、涎を垂らしながらじっと箱の方を見詰めている。
「では、開きますよ……」
箱を開けば、中からは黄色いプリンの中にゼリーで固められたぶつ切りのウナギがぎっしり入っている謎のスイーツが二つ飛び出してきた。
「おお……禍々しいと形容すべきでしょうか……ウナギのエキスを使ったゼリーでも入っているのかと思えば、まさかウナギがぶつ切りになって入っているとは」
「わぁ~美味しそう!私ね前これを食べたんだけど、ほんっとうに美味しかったんだ!」
「なんと!?そうだったんですか……美味しいんですね。意外です」
最も、列に並んでいた時点で一般的な人と味覚は少し違うかもしれないが、ここまで屈託のない笑顔で自信を持って美味しいと言われれば少しばかり期待したくなるというもの。ツムギは早速プリンを取り出し、一つイズミに分ける。蓋を開ければ、中身がぷるんと揺れる。
「それでは……いただきます」
ツムギが一口食べると、そこは未開のジャングル奥地だった。甘い水を飲んでいたら、突然口の中にウナギが飛び込んできたような衝撃が全身にほとばしり、条件反射的にえずいてしまう。口の中に広がるえぐみが、視界をモノクロに変え、耳は何も聞こえなくなり、どんどん味覚以外の五感全体も破壊していく。
「こ、これ……は……」
元より全く新しい味を探しに来たツムギはそもそも美味しいものではないという覚悟はできていた。しかし……しかし、長蛇の列に並ぶうちにいつの間にかツムギの中で期待が膨らんでいたのも確かである。その期待を裏切るだけですまないこのあんまりな仕打ちは、ツムギの中に新たなインスピレーションを生み出した。
「お、降りてきました……新しいメロディが……」
死にそうな声で宣言し、なんとかノートを取り出しメモをしていくツムギ。その動きはまるでダイイングメッセージを残す被害者のようでもある。
「うん!とってもおいし~!!」
そんなツムギのことなどどこ吹く風。イズミはウナギゼリープリンをパクパクと美味しそうに食べている。
「ねぇツムギ!これとっても美味しいね!分けてくれてありがとう!」
百点満点の笑顔でツムギにお礼を言うイズミ。明らかにツムギの様子がおかしいが、きっと美味しいものを食べて感動しているんだろうな~程度にしか考えないのが獅子堂イズミという少女だった。
「ど、どういたしまして……」
ツムギの方はというと、さすがにこれをレナに食べさせたら絶交を言い渡される危険性すらあるが自分で二つ目を食べることもできないので、二つ目を食べてくれたイズミの存在にひたすら感謝するのだった。
イズミはぺろっと一つ食べ終わると、ツムギが食べ終わるのを待ってじっと目の前で待っている。ツムギがなんとかウナギゼリープリンを食べ終わると、イズミは待っていましたと口を開く。
「ねぇねぇ!ツムギ!これから食べ歩きしよ!私のおすすめの美味しいものを紹介するよ!」
「……はい?」
「だってさぁ!ツムギは私に美味しい物を分けてくれたんだから。私も分けてあげたいんだ!美味しい物は分け合った方がいい、でしょ!」
命の危機を感じるほど不味い物を食べたツムギの生存本能とも言うべき直感が告げる。彼女の食べ歩きについていくのは、命のリスクがあると。もし正気ならば、決して応じるべきではないと。
(ですが……命のリスクがある程度で恐れているのは────『ロック』、じゃあないですよねぇ!)
自ら死地に飛び込みインスピレーションを得ることこそロック。現に、先ほどのインパクトはツムギに新しいメロディをもたらした。
「ええ、ぜひお願いします」
「やった~!!じゃあツムギに色々紹介するね!」
そうして二人の狂気の食べ歩きが開始した。イズミの知識は凄いもので、キヴォトス中の店についての知識があった。その中には、もちろん真っ当な店も多くあったが、やはり特にイズミがおススメする店はゲテモノを取り扱っていることが多く、イズミは相変わらずの笑顔と善意で大盛りのゲテモノをおススメしてくる。
しかも、屋台などで買ったものにはイズミトッピングがついてくる。これがまた問題であり……
「これには特製牡蠣ソースをかけるといいんだよ!」
「オイスターソースとはまた違うんですか……?って生臭!?」
かき氷にはどこからともなく取り出した牡蠣ソースをかける。
「これにはイチゴジャムが合うんだよ!」
そう言って串カツにイチゴジャムをかける。
特に、ゲテモノにイズミトッピングが合わさった時の破壊力はウナギゼリープリンを凌駕しており、ツムギはその日だけで三途の川の渡し守と顔なじみになり、普段歌っている死についてより深く理解することができる一日となったのだった。
次の日、ツムギはお腹を壊しトイレと一日を過ごすこととなった。
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