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オカルト研究会イベント復刻の告知来ましたね!!
~イチカ編~
イチカは久しぶりに取り出したギターを河原に座って弾いていた。特に理由はない。強いてあげるとすれば、最近全然触ってなかったなと思い、最近は外も涼しくなってきたので河原で演奏をしているのだ。
(なんだかこんな場所で演奏していると、上手い人と勘違いされそうっすね)
イチカの演奏は初心者にしては悪いものではない。むしろ、初心者にしては器用にギターを扱えていると言えるだろう。だが、それまでだ。先生に褒められて以来たまに触ってこそいるが、触っている時間はまだまだ少ない。一つのことに熱中することが苦手なイチカにとってはこれでも比較的長く続いている方の趣味なのだが、のめり込んでいる人に比べれば雲泥の差である。
「よっし……まずは適当にいくつか演奏してみるとするっすかね~」
イチカは初心者用の曲からいくつかピックアップすると、スムーズに弾いていく。まぁこんなものかと思い、次の難易度の曲に挑戦しようかと思った時であった。イチカの背後から何者かが声をかける。
「こんにちは、いい天気ですね黒髪のヒロイン」
イチカはぎょっとして背後を振り返ると、そこにはワイルドハントの制服を着た生徒が立っていた。
(げぇ!?わ、ワイルドハントの生徒さん!?本業じゃないっすか!?)
イチカの額に冷や汗が垂れる。別に悪いことをしているという訳では無いのだが、本業の人に遊びで適当に弾いているところを聞かれたとなってはなんだか凄く恥ずかしい。イチカはとっさに謙遜の言葉を紡ぐ。
「あ、あはは。初心者なりに棚の奥から引っ張り出して来て、演奏してるんすよ。久しぶりの演奏なんで、大分下手くそっすよね?」
「そうでしょうか?久しぶりの演奏にしては随分と指が動いているように聞こえましたが」
「ワイルドハントの生徒さんにそう言ってもらえるなんて光栄っすね。もしかして、ギターの専門家だったりします……?」
「ふふっ、そう緊張なさらないでください。私はギターは専門ではありません」
そう言われてイチカは心底安心する。
(それはそうっすよねぇ。まさか久しぶりに演奏していたらギターの専門家が演奏を聞いていたなどそんなことあるはずないっすもん)
「よかったぁ……じゃあ何の専門家なんすか?音楽以外?」
「私はバンドでベースをやっていますね」
(……専門家じゃなくても分類めっちゃ近くないっすか!?というかベースとギターって何が違うんすか!?)
正直その違いについて聞きたいが、素人丸出しの質問なのでイチカは心の奥に閉まっておく。
少女はイチカの隣に座り、ギターをマジマジと見つめる。
「ああ、申し遅れました。私はワイルドハントの吟遊詩人(バード)、椎名ツムギです」
「ば、バード?どうもご丁寧に。私は~」
「正義実現委員会のイチカさんですよね?以前活動しているところを見たことがありますので」
「ありゃ、名前バレてるんすか。トリニティ内ならそんなに珍しくないっすけど、まさかワイルドハントの人に知られてるとは予想外っすね」
実は以前セムラを奪おうとしてスイーツ部が正義実現委員会に捕まった夜、ツムギはトリニティに潜入してこっそりアイリたちの様子を見ていた。その時にイチカと先生が話しているのを目撃していたのだ。
「いつも活動お疲れ様です。今日は休日ですか?」
「まぁ、そうっすね。ちゃんと休むことも仕事のうちっすから、なんて。みんなにも言ってはいるっすけど、み~んな真面目で若干肩身狭いっすね」
「正義実現委員会のみなさん、見るからに真面目そうな方ばかりですもんね。うちの寮監隊を思い出しますよ」
「あ~そっちは色々監視が厳しいんでしたっけ……うちは別にそんなに厳しく監視しろって言われてないんで、張り切りすぎるのもどうかと思うんすけどね。息が詰まるというか」
そんな風に和やかに話していると、イチカにとって恐怖の言葉が飛び出してきた。
「さて、せっかくですし、セッションしてみますか?ベース持ってきてるんですよ」
「せ、せせせ、セッション!?私さっき言った通り、初心者っすよ!?」
「演奏ができるなら、セッションはできるんですよ。そんなに難しいこととして捉える必要はありません。共に音楽を重ね合うことによって────『エモーション』、を感じることさえできれば、それは成功なのです」
「えぇ……じゃあ、曲はこっちで指定してもいいっすか?そんなに演奏できる曲が多くないんで」
「ええ、どんな曲でも構いませんよ」
その余裕が怖いのだが、弾ける曲がそんなにないイチカにとっては嬉しい言葉でもあった。
「じゃ、じゃあこの曲で……楽譜を見ての通り初心者向けのやつっすけど」
イチカは先ほどまで練習していた曲から、一曲ピックアップする。
「その曲ですね。私も始めたての頃に練習したことがあります」
「あ、そうなんすか?じゃあセッションできるっすね……なんて。ワイルドハントの生徒さんなら初見でもこれぐらい演奏できちゃうんでしょうけど」
イチカは初めてのセッションにドキドキであった。自分だけあまりに下手で不協和音になってしまうのではないかと予想しているからだ。イチカが持っているのは初心者用の店で一番安いギターであり、プロを目指すワイルドハント生徒と比べて志も何もあったものではない。
「それでは、私の合図で初めてもよろしいでしょうか?」
「あ、じゃあお願いするっす」
「3,2,1──」
セッションが始まった瞬間聴こえてきたのは、不協和音などではなく複雑に重なり合った奥深さのある音楽であった。同じ曲を演奏しているはずなのに、先ほどまでの自分とまるで違うような錯覚に陥る。自身が何十倍も上手く、熟練者になったかのような錯覚だ。
「え……なんすかこれ?めっちゃ上手くなった気がします!」
「ふふ、セッションしてみると音の厚みが全く違うでしょう?一気にプロにでもなった気分じゃないですか?」
「多分ツムギさんがプロ並みに上手いってのも理由なんでしょうけど……正直今震えてるっす。セッションって単一の音と比べてこんなにも違うんすね」
「だから、私はバンドが好きなんです。単独でゲリラライブをしたりもしますが、バンドで奏でられる音楽とはまるで重さが違うんですよね」
「なんていうか……正方形のスポンジだけを食べていたところに、クリームが合流してロールケーキまで出来上がっちゃったって感じっすね」
「さて、イチカプロ。お次の演奏はどの曲にします?」
「じゃ、じゃあこの曲を演奏してみたいっす!」
「では、3,2,1──」
その後もイチカのリクエストした曲を一緒に演奏してみたり、ツムギのリクエストした曲のセッションに挑戦してみたりしているうちに、すっかり辺りは暗くなってしまった。
「イチカさんどうですか?音楽の世界は」
「凄い楽しかったっす!でも……音楽の世界とか難しいことはよくわかんなかったっすね……夢中になって演奏してたら、時間が過ぎてた感じなんで。でもそれだってあくまでツムギさんのリードが上手いおかげというか……まぁとにかく楽しかったっすよ!それだけは間違いないっす!」
「それで正解です。音楽は、楽しんだもの勝ちですから。あなたがまた音楽を楽しみたいなと思う時が来たらいいなと、私は少し手伝いをさせてもらっただけなんです」
「えへへ……そういうことなら、結構興味湧いちゃったかもしれないっす。いつかツムギさんと一緒にまたセッションしてみたいっすね」
「今度はイチカさんの方から誘ってくださってもいいんですよ?それでは」
「ま、待ってくださいっす!!お別れする前に、これだけちょっと聞きたいことが!」
「はい?なんでしょうか」
「えーっと……ギターとベースの違いって何っすか?」
その夜、イチカは家でひっそり今日演奏した曲の復習をするのだった。先生以外にもギターを聴かせたい相手ができ、ほんの少し夢中になれるものを見つけることができた一日となったイチカであった。
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