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~ヨシミ編~
ツムギは悩んでいた。椎名ツムギは非常に悩んでいた。トリニティに寄ったついでに、可愛い可愛い後輩であるレナに何かアクセサリーを買って帰ろうと思ったのだが、どれもこれも非常に高価なのだ。上品でおしゃれなのはいいのだが、ツムギははっきり言えば貧乏学生である。楽器に会場に音響資材に衣装。活動にかかる代金は数えきれない。
ウン十万のネックレスだの、指輪だのを買えるほどの余裕はとてもじゃないが無いというのが悲しい現実だ。
「さて……どうしましょうか」
「あら、ツムギじゃないの。ここで何してるの?」
「その声は……ヨシミさん」
ツムギの耳が聞き間違えを起こすはずもなく、背後にいたのは当然大正解のヨシミであった。
「意外ね~。ツムギってこういうの趣味じゃないと思ってたんだけど」
「まぁ第一印象からそう思われるのも無理はないですね……実際、今日買いに来たのも自分のためのものじゃないですし」
「えーなにそれ!?誰かにプレゼントってわけ!?じゃあこのヨシミ様に任せなさいよ!これでもシュガーラッシュの衣装担当だったのよ!」
ヨシミはウキウキでよさげなアクセサリーを選び出す。
「えっとそのぉ申し上げにくいのですか……この店のものはちょっと高いので、もう少し安い店って知りませんか?」
「あ~トリニティ生じゃないとそういう問題もあるか。それならここら辺の安い店案内するわよ。私、好きなものには耳聡いんだから!」
ヨシミは慣れた様子でツムギの手を取りショッピングに向かう。2時間ほど店を回れば、ツムギでもなんとか手を出せる値段でよさそうなイヤリングを見つけることが出来た。
すっかり歩き疲れて二人でベンチに座りながら、二人はそこで買ったアイスを食べる。ツムギのお財布事情に合わせて、コンビニで買ったものだ。
「ん~~!!甘い!冷たい!やっぱ歩き回って疲れた体にはアイスよね!!」
ヨシミは足をぱたぱたさせながら棒アイスに齧りつく。
「……ヨシミさんって、私のルームメイトに似てますね」
「そうなの?」
「ええ。そのルームメイトに贈り物をしようと今探してるんですよ。オシャレで、元気はつらつで、ちっこくて」
「ちっこいは余計!!」
「からかうと面白くて……ふふ、なんだかそっくりですね」
「ふ~ん……まぁ私とそっくりなら、さぞ可愛いルームメイトなんじゃない?」
「ええ。とっても可愛らしくて、みんなに愛される自慢の後輩ですよ」
ヨシミはそれを聞いて、アイスを食べているはずなのに顔を熱くする。
「……自分で聞いといて、恥ずかしくなったわね。そんな子が私とそっくりなんて言われると」
「ふふ、ヨシミさんも自分から声をかけて、困ってる私を助けてくれた自慢の────『友人』、ですから」
「ちょ!?これ以上はやめてよ!本当に恥ずかしいから!」
「あ!恥ずかしがってるその顔!そっくりです!ちょっと、シャーって鳴いてみてくれませんか!?」
「誰が鳴くか!!」
ちなみに、これは後日談だがレナはツムギからのプレゼントをとてもとても喜んだそうだ。
~カノエ編~
ある休みの日の昼間、特に何かすること無く、ツムギが暇そうにベッドに転がっていた。
(たまにはこういう時間も悪くないかもしれませんね)
そんな風に思いながら寝返りをうった瞬間、ツムギの全身に電流が走る。
「!!?」
突如として足を掴まれる。若干冷たいが明らかに人の手だ。何か対応をしなければいけないと本能が警鐘を鳴らすが体が反応する前にそのまま布団の中に引きずり込まれ、ソレは姿を現す。
「魂をよこせ~~……なーんて、イヒッ……ムギちゃん。驚いたぁ?」
「こういうのはレナちゃんかエリにやってくださいよ……その方が反応も面白いでしょう」
「そんなこと言って~~実は結構焦ったでしょ?」
毛布の中にいたのはルームメイトであり先輩でもある板垣カノエ。しょっちゅうこのようないたずらを仕掛けては怖がった後輩の反応を見るのを楽しむ困った先輩である。
「まぁこれはほんのあいさつでさムギちゃん。実は今日お願いがあるんだ」
もぞもぞと毛布から顔を出したカノエは、一転真面目な声色でツムギにお願いをする。
「今度声優の仕事の一環で、キャラソンを歌うことになってさぁ。ムギちゃんに指導してもらいたいんだよ」
「……そういうのなら本業の方が指導してくれるのでは?」
「それが中々都合つかないらしくてさぁ。練習できる時間がたりないんだ」
「今ちょうどヒマしてましたからいいですけど……役に立つかはわかりませんよ?キャラソンは私の専門外ですから」
そうして寮の近くの公園で特訓が始まった。最初は不安そうな顔をしていたツムギだったが、5分もすれば完全にプロの顔となって指導を始める。
「違う!お腹から声を出しつつ!キャラの声を意識して!」
「ここの言い方は原作に合わせてもう少し伸ばすことできませんか?呼吸が厳しいかもしれませんけど、キャラらしさが格段に上がると思うんです」
「声量を上げればいいってものじゃないですよ!キャラの立場を考えて!!持ち味を活かして!」
2時間程練習すれば、カノエは完全にグロッキー状態で横たわっており、ツムギは膝枕をしていた。
「……少々熱が入りすぎてしまいましたかね?すみません」
「まさか。その熱が欲しくてムギちゃんに頼んだんだから」
「と、いいますと?」
「知ってるよぉムギちゃん。ムギちゃんが私が声優として出演している作品全部網羅してることぐらい……ファンじゃないとあんな指導できないもんね。不安そうにしてたのも、ちゃんと全作品見て責任感を感じてる『プロのファン』……だからでしょ?」
「……それは」
「だからムギちゃんに頼んだんだよぉ?これ以上信頼できるファンなんていないからね」
ツムギは赤くなった顔をカノエに見られないように露骨に逸らす。相手を照れさせるような言動が得意なツムギではあるが、自分自身が照れた時の対処法についてはまだ未熟なようだ。
「さすがにカノエ先輩には敵いませんね。一方的に丸め込まれちゃいましたし、そう言われるとまた付き合わざるを得ないじゃないですか」
「イヒッ、それじゃあ明日もよろしくねぇ?」