18/100!!
~ミヨ編~
寮の402号室。特殊交易部の部室でツムギとミヨは向かい合っていた。ツムギはいつも通りの穏やかな表情だが、ミヨは困り眉で汗を垂らしている。
(ここにわざわざ来たってことは……十中八九特殊交易部の新しい仕事だよね……?)
ミヨは特殊交易部の部長という立場でこそあるが、特殊交易部の活動に積極的ではない。十分なお金さえあれば今すぐにでもやめて、大好きなタイプライターに囲まれながらゆっくり恋愛小説でも執筆する生活を送りたいのだ。
「それで……どういったご用件でここに来たんでしょうか」
本来ならこういった交渉は営業室長であるフユの仕事であるが、生憎フユもリツも現在留守だ。なんで自分はいっつも貧乏くじばかり……という思いを内に秘めミヨは話を切り出した。
「前置きは結構ですので……ツムギさんの要望をお聞かせください」
「話が早くて助かります。では私にしては珍しく単刀直入に言いましょう。ワイルドハントで禁止されている爆薬を持ってきて欲しいんです。今度のステージでの演出で使いたくて」
「今度のステージって……えぇ!?確かワイルドハント内でのステージですよね!?大人数の前で禁止されてる爆薬を使うつもりなんですか!?ほぼ100%バレちゃいますよ!?」
「ですが、運び込むまでは完璧にしてくれるでしょう?ミヨさんならば。あなたのプロット能力と計画成功率は聞き及んでいますので」
(カノエさん経由だろうな……)
「はぁ……以前にも絶対にバレる使い方で密輸品を利用しましたよね?オカルト研究会のメンバーで」
「ああ……ありましたねぇ。ワイルドハント学園全体で魔法陣を書いた日ですよね?あれはいい思い出です。」
「できればそういう行為はやめて欲しいんですけど……とばっちりで密輸品の調査が激しくなりかねないんですよ」
ミヨはツムギからもわかるようにため息をつく。
(とばっちりというにはやっている方も悪いと思いますけど、まぁ、そういったスタンスを貫ける強かさもミヨさんの強みですよねぇ)
「一体なぜツムギさんはそこまでして欲しいんですか?爆薬なら威力を抑えれば演出なら使ってもOKでしょう」
「なぜ……ですか。観客(オーディエンス)のみなさんを驚かしたいから、だけですけど」
「……見る人が何人いるかもわからない。たった1秒にも満たない瞬間のためだけに、そこまで準備をすると?」
「ええ。そうですけど」
キョトンとした顔でツムギは真面目に答える。そう、ただそれだけ。それだけのためにツムギはどこまでも突き詰めるのだ。人によってはツムギの行動を狂人と評す人もいるだろう。
「……はぁ。わかりましたよ。そういうことでしたら請け負いましょう」
しかし、ミヨは違う。ミヨは、ほんの一瞬の驚きのために、何人見てくれるかもわからない状況で苦心に苦心を重ね、物語を紡ぐことが彼女の生きがいだ。いかに常識人ぶろうと、彼女だってワイルドハントの生徒なのだから。ツムギの気持ちは痛いほどわかるのだ。
「完成品に妥協をしたくないという考えには……同意しますから。報酬金は……この程度貰えますか?」
「ふふっ、想定より安くて助かります。では、交渉成立ということで」
二人は固く握手をして、芸術のための交渉の成功を祝うのだった。
~アカネ編~
ワイルドハントで行われるステージに使う爆薬を特殊交易部に用意してもらったまではいい。しかし、問題はむしろここからである(というか特殊交易部に失敗などあり得ないというのがツムギの前提にあったのだが)。
もし設置にもたついている間にバレたら。もし本番で不発に終わってしまったら。気にするべき点は無限にあり可能性はどれも捨てきれない。だが、そういう時の解決策は意外と簡単だ。専門家(スペシャリスト)に頼る。この手に限る。
「もしもし、アリスさん。爆発の専門家(スペシャリスト)って、そちらにいたりしませんか?」
そこで白羽の矢を立てたのがキヴォトスでも最先端の技術力を持つ学校、ミレニアムの生徒である。今日はライブの本番前日。アリスの紹介で一人の生徒が来る手はずだ。
「メイド服だからすぐにわかると聞いてますが……まさか他校に出かけるにもメイド服を着てるわけは……」
キョロキョロと探すツムギの目に留まったのは、ロングスカートにゆるふわな雰囲気のいかにも上品なメイドといった立ち振る舞いの女性であった。
「……彼女ですね」
もはや疑う必要も無し。声をかけに行く。
「すみません、アカネさんですか?」
「そういうあなたは、椎名ツムギ様ですね?今回の依頼主だと伺っています」
さしものツムギもいきなりのキラキラお清楚メイドオーラに若干押されそうになるが、気持ちを切り替えて話を続ける。
「アリスさんに話を聞く限り、一応体制側の生徒らしいですが、本当にいいんですか?私みたいなのの手伝いをしちゃって」
「構いません。話を聞く限り、問題行為を起こすために爆発をするという訳ではないみたいですし……なにより火力の高い爆発の素晴らしさをワイルドハントの生徒の皆様にも知ってもらいたいので」
(あ、よかった。私たちと同じ変人側だ)
この手の変人ならワイルドハントには山ほどいる。一気に話しやすくなったのでステージの席に座りながら細かい要望などを伝えながら話をしていると────
「なるほど、わかりました。ツムギ様はこちらでお茶でも飲んでいてください」
「えっ、はい?」
どこから出てきたのかいつ用意したのか全く分からない淹れたての紅茶を注がれ、受け取るしかないツムギを横目にアカネは席を立つ。
「さしあたりこの作りでは爆発の演出を120%活かせませんので、いくつかステージの方も調整させていただきますね」
そう言って1時間も経たずにアカネは爆薬の設置はもちろん。ステージの微調整からついでに清掃までこなしてしまった。
「おお……おおお!!」
「いかがでしたかツムギ様。ミレニアムのC&……ではなくメイド部の力というのは」
「か……完璧です。インスピレーションは無限に湧き出てくるほどに完璧な仕事ぶりでした!」
渡された紅茶が冷めるのも気にせず、ツムギはアカネの仕事っぷりに見惚れて作品を書き上げていた。
「あ、アカネさん!まだ時間はあるでしょうか!」
「ええ。まだまだ時間はありますよ。思ったよりも簡単な仕事だったので」
にこやかにアカネは微笑みかける。
「でしたら、お話聞かせていただいてもよろしいでしょうか!お代も払いますので!」
財布を取り出そうとするツムギをアカネは人差し指で制止し、またメイドオーラを全開にしながら優しく語り掛ける。
「お代は……あなたのその嬉しそうな顔で十分です。誰かに尽くして、笑顔にするのがメイドの一番の悦びですから」