災禍に祈りは届かない   作:天都ダム∈(・ω・)∋

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全六章中、第一章を先行公開予定です。


一等星の彼方より

◇TURN4 五十嵐レンジ

 

 五万人以上を収容できる会場(ドーム)は、それでも満員。

 中継を通じて試合を見ている者を含めれば、その数は百倍にもなる。

 それが秋季最大のプロアマ混合国内大会、フォーマルハウトの決勝戦だった。

 

 歓声に包まれながら、舞台上で対峙するファイターは二人。

 一人は二十代前半の男性、溢れる闘気を隠さぬまま、高らかに己が下僕へと宣言を放つ。

 

「<大剣豪 The・武刺(ムサシ)>でアタック!」

 

 ボードを通じて空間に投影されたクリーチャーが、命令に従い構えた刃を振り下ろす。

 

「……っ、クリーチャーでブロック!」

 

 相対するファイターは、どう高く見積もっても十代始めの子供だった。

 揚羽蝶の髪飾りに彩られた、床につきそうなほど長く艷やかな黒髪。

 花の刺繍を精緻に施した絹織りの着物は、勝負の場にそぐわないとすら言える。

 その子供をかばうように、少女をかたどった人形(ヒトガタ)が前線に躍り出る。

 筋骨隆々の鎧武者が振り切った一刀は容赦なく人形を切り裂き――――。

 

「きゃあああああっ!」

 

 クリーチャーに守られたはずのファイターを、剣戟の余波が切り裂いた。

 残る全てのライフデッキが吹き飛び、散りゆく……しかし。

 

「……っ、呪言、<間一髪>を発動――!」

「対抗はねえ、ブロックされたしな」

 

 文字通り間一髪、受けるはずのダメージを1に抑え込み、こと無きを得る。

 しかしその程度は想定内、と言わんばかりの態度で、男は腕を組んだ。

 

「さすが名門出身だ、初出場でここまで来たのは凄えよ。素直に称賛に値する」

 

 なぜなら、彼の戦いは常に〝こう〟だからだ。一撃で削るライフの量が多く、故に仕込まれた<間一髪>を引きがち。

 しかし同じ火力を二度、三度と叩きつけてやれば相手は倒れる……というこの世の真理を理解しているため、動揺は全く見られない。

 

「だが――阻むぜ。俺が最後の砦だ。天才少女(、、、、)

 

 その名も五十嵐(イガラシ)レンジ、【百命(ハンドレット・スターズ)】が八十六位。

 レンジのデッキはクリーチャー主体のテーマと装備テーマからなる【二重血統(デュアルブラッド)】。

 

 一つは<The・武死道(ブシドウ)>――タフネスを削りパワーに偏重した武士クリーチャーを中心とするテーマ。

 彼らは戦う相手を選り好む。今回は相手の場にクリーチャーが1体しか居なかった為に機能しなかったが共通して【決闘】――『攻撃の対象を自分で選べる』という能力を持つ。

 そして、もう一つ。

 

「<大嵐刀(ダイラントウ) 天覧白蛇(テンランハクジャ)>の効果によって、今ブロックしたカードは墓地に行かず除外され、場の魔石の効果で再びレディ状態になる」

 

 攻撃を終えた後も<武刺>に隙はない。<武死道>のカードに残心を教える秘伝書が魔石として展開されている限り、敵を屠った直後にも次の戦いに備えることが出来る。

 

「くっ……」

 

 <<大嵐刀(ダイラントウ)>――同じ刀を持つ者たちを一つの戦場に集める――バトルの際に複数のクリーチャーのステータスを合算する共通効果を持つ、高コスト装備秘宝で構成されたテーマ。

 

 パワーのみを底上げする割り切った強化と【貫通】付与、更に刀によって様々な相手に対し対応でき(メタれ)る汎用性を持つ。

 <大剣豪 The・武刺>が身につけた<大嵐刀(ダイラントウ) 天覧白蛇(テンランハクジャ)>は、そのバトルで破壊された全てのクリーチャーをゲームから除外する。

 これが……あまりにも致命的だった。

 

「……天才、ですか」

 

 対し、天才少女と呼ばれたファイターは、落ち着きを取り戻す為か、ふぅー……と大きく息を吐いた。

 

「そのような称号、こそばゆいです。この様な姿を晒していれば、なおさら」

 

 小柄な体躯を震わせて、きっ、と眼前の星持ちを睨む。

 

「不満そうだな? 誇れよ。少なくとも<シリウス>への出場はほぼ確定してんだ。十分な成果だと思うぜ」

「……決着が着く前に勝利を語るとは」

 

 秋季最大の大会、フォーマルハウトの優勝者は、自動的に<シリウス>への出場権が手に入る。

 そして【八十八星座(アステリズム)】に属するレンジは既に出場が確定している為――結果がどうあれ出場権は繰り上がるだろう。

 

「なら、カードで語れ。ターンエンド」

 

 ターンの終了宣言によって、手番が移動する。

 現地での観戦者及び配信を見ている者達にもわかるよう、会場に設置された巨大な電光掲示板が煌々と光る。

 

 

 

 

 

◇TURN5 花守(ハナモリ)ハオリ

 

 吸った息を、大きく吐く。

 花守ハオリ――Lifeファイトの名門、花守家嫡子。

 その才能は、まさに天禀のそれだった。齢十二にしてフォーマルハウト決勝に至り、<シリウス>出場に手をかけた天才少女。

 世間からはそう認識されている――そして、星座との戦いに挑み、最後のターンを迎えようとしている。

 

 もう一度思う――何たる無様か。

 場にクリーチャーはおらず、色彩は13枚。手札は3枚。

 

「レディ・アップキープ・ドローフェイズ、メインデッキからカードをドローします」

 

 デッキから引いたカードを見て、ハオリは目を細めた。

 自らの右手が呼び寄せたそのカードが、ここに至って現れた(、、、、、、、、、)、その意味を想いながら。

 

「ライフデッキからカードを1枚コストゾーンに。魔石(コア)<戦火の記憶>をセット」

「おっと、そいつは妨害だ。場の魔石<大嵐の鍛冶場>の効果を発動。場の武刺が装備した<大嵐刀>を墓地に送り、セットした魔石は効果を無効にして破壊される」

 

 パリンッ、と音を立てて、場にセットした魔石が砕け散る。

 レンジの場に展開する<大嵐の鍛冶場>は<大嵐刀>をコストに効果の打ち消しと破壊を行い、更に打ち消したコストに応じた<大嵐刀>をデッキからサーチして装備する。

 

「デッキから<大嵐刀 天晴土竜(アッパレモグラ)>を装備。通るか?」

「――通ります」

 

 持ち替えた刀の効果はパワー+4、【貫通】、そして――――。

 

「効果を解説しておくぜ。<天晴土竜(アッパレモグラ)>を装備したクリーチャーがブロックした際、タフネスを超過した分のダメージを相手プレイヤーのライフに与える」

「っ」

切り札封じ(、、、、、)だ、わかるだろ?」

 

 【貫通】はアタック時に超過ダメージをプレイヤーに通す効果だが、これはそのブロック版。

 まして装備しているの<大剣豪 The・武刺>は強固な除去耐性と【機先】――戦闘時、先にダメージを与えるキーコード効果――を有するレンジのエースである。

 下手な一手を仕掛ければ、こちらが一方的に討ち取られるわけだ。

 

 実質的なアタックが、これで封じられた。

 ライフデッキの残りは4枚……今引いたから残りは3枚。

 頼りの魔石はきっちりと妨害を受けた。残りのライフデッキにもう<間一髪>はなく、時間稼ぎは不可能。

 

 だが、それ以上に辛いのは墓地の枚数だ――――わずか6枚。

 ハオリの使うデッキは、墓地のカードをコストにした大型クリーチャーの踏み倒しを前提とする。

 しかしその墓地は今やスカスカで、代わりにゲームから除外されたカードがボードの片隅に重なっている。

 

 動きを止めたハオリに、レンジは言う。

 

「俺はお前のデッキを知っていた。昔、お前の姉貴と散々やりあったからな」

 

 故に、レンジは最初から武士達に墓地除外効果を持つ<天覧白蛇>を持たせた。

 クリーチャーの死後に墓地と言う安寧を与えない。

 戦場を経由せず墓地に落ちた札すら、別のカードで叩き出す。

 

 

「俺にお前の<未亡人形(ウィ・ドール)>は通じない」

 

 

 ハオリとて、何もしていなかったわけではない。装備によって強化された武士達は、クリーチャー同士での殴り合いを得意とする。

 2枚以上いればパワーとタフネスを合算してくるのだからたまらない。

 だからハオリは徹底して、数を並べられないように立ち回った。

 しかしそれは、こちらの強みを相手に押し付けられない動きだった。

 結果として、ジリジリと逆転手のないまま、最後のターンを迎えてしまう。

 

「ここからお前が――<未亡人形(ウィ・ドール)>が俺に逆転できる方法は、ない」

 

 デッキを知るが故に、レンジは断言した。

 

「<未亡人形(ウィ・ドール)>のエースはこっちの準備が整わない序盤に、コストを踏み倒してでてくるから強いんだ。戦局がここに至った今、俺の<武刺>は越えられない」

 

 ハオリの手札には、1枚のクリーチャーがある。

 <<未亡人形(ウィ・ドール)>・白無垢のウィルダンス>、破壊されず、条件を満たせばコストを三つ減らしながら場に現れ、更にリソースが続く限りのバンプアップが行える<未亡人形(ウィ・ドール)>のエース。

 

 しかし、肝心のリソースがない。墓地にカードが溜まっていれば力づくで<武刺>を突破できたかもしれないが、故にこそ、レンジはそうされないように立ち回っていた。

 

「降参も一つの潔さだ。かかってくるならそれも良い。敗け方ぐらいは選ばせてやる」

 

 これが【百命】、これが【八十八星座】。

 己の我を通し相手の道を断つ、強者の振る舞い。

 故にこそ――――。

 

「まだです」

 

 ハオリは口にした。

 

「敗け方を選ぶつもりはありません。(わたくし)は勝つ為に参りました」

「なら――――その口に、家名に恥じない戦いをしてみせろ!」

 

 言われなくてもそのつもりだ――ハオリはちらりと相手の場を見る。

 

 レディ状態の色彩は2枚、先程、ハオリが出した魔石を打ち消すのに使ったコストが響く。

 刀の持ち替えに伴う妨害はもうないだろう――レンジの場の色彩は『赤』、もう1枚妨害を構えているとしても、何かしらの条件が伴うはずだ。

 

「……クリーチャーを召喚します」

「はっ、来るかよウィルダンス!」

 

 レンジの声に<武刺>が刀を構え直す。このクリーチャーもまた、幾度となく戦ってきた好敵手との邂逅を予感したのかもしれない。

 

「色彩を起動、コストを生成。どうかその力を貸してください」

 

 ボードにカードをセットし、その名を告げる。

 

 

 

 

「――――<一閃騎士団(ラインヘリヤル) 光槍のライン>!」

 

 

 

 

 召喚されたのは、騎士だった。

 鎧に身を包み、馬上槍を構え、騎馬に跨った騎士である。

 コストは2、表示されるパワーとタフネスはそれぞれ2/2。

 

「……あん?」

 

 肩透かしを食らった、と同時に怪訝そうな顔をするレンジはもちろん、観客たちもざわ、と動揺の声を走らせる。

 花守ハオリは<未亡人形(ウィ・ドール)>を使う――ここまでの快進撃によって、試合を観戦していた者たちからすれば、それは共通認識となっていた。こんなカードは見たことがない。

 

「おい、何だそのカードは」

「<ライン>の効果を発動します。場に出た時、デッキから<ライン>以外の<一閃騎士団(ラインヘリヤル)>を1枚、手札に加えさせていただきます」

 

 問いには答えず、淡々と効果を告げるハオリ。レンジの返答はなく、ならと続けざまに。

 

「<一閃騎士団(ラインヘリヤル) 疾駆のミカゼ>を手札に。<一閃騎士団(ラインヘリヤル)>の効果で手札に加えられたこのカードは、コストを軽減し、ステイ状態で場に出ます」

 

 続けざまにもう一体の騎士が現れ――止まらない(、、、、、)

 

「<ミカゼ>の効果を発動します。自身を墓地に送る(、、、、、、、、)ことで、デッキからコスト3以下の<一閃騎士団(ラインヘリヤル)>を、正規のコストを支払って場に召喚いたします」

「っ! 手札から<大嵐戦(ダイランセン)>発動! <大嵐の鍛冶場>の効果をもう一度発動する!」

 

 最後の1枚はどうやら、コストが低い代わりに場に魔石がなければ使えない妨害――だったようだ――であれば。

 

「対応させていただきます。<ライン>の効果を発動――自身を墓地に送り(、、、、、、、、)、<一閃騎士団(ラインヘリヤル)>を対象とする効果を打ち消させていただきます」

「――――っ」

 

 場に現れた二人の騎士が、同時に戦場を去り墓地へと向かう、そして――。

 

「<ミカゼ>の効果は継続し、<一閃騎士団(ラインヘリヤル) 師団長レヴィン>を召喚いたします。これによって<レヴィン>の効果が起動いたします」

「……効果は、何だ!?」

「デッキ、墓地から合計コストが3になるように、<一閃騎士団(ラインヘリヤル)>をステイ状態で召喚いたします。ただしこのターン、<一閃騎士団(ラインヘリヤル)>のカードはアタックを行うことが出来ません」

 

 アタック制限と引き換えに行う大量展開、それが師団長レヴィンの効果。

 

「<一閃騎士団(ラインヘリヤル) 見習いのシャル>、<一閃騎士団(ラインヘリヤル) 偵察兵ローダ>、<一閃騎士団(ラインヘリヤル) 伝令兵クック>を召喚―――」

 

 次々現れる騎士達の、その誰もが<武刺>を越えられない。

 誰か一人でも立ち向かってくれば、返す刀で斬り払い、その場で勝負が決する。

 だが、そんなことは問題ではない。この騎士たちは、戦うためにいるのではない。

 レンジは察してしまった、恐らく<一閃騎士団(ラインヘリヤル)>の共通効果は――――。

 

「<シャル>の効果を発動、自身を墓地に送り(、、、、、、、、)、場の<一閃騎士団(ラインヘリヤル)>のタフネスを+1します」

 

 一人の兵士がまた自ら墓地へと向かう。生命と引き換えに、仲間を鼓舞する。

 

「<ローダ>の効果を発動、自身を墓地に送り(、、、、、、、、)、<一閃騎士団(ラインヘリヤル)>に【対空】を付与します」

 

 空を警戒する偵察兵が、仲間へ空への対処法を告げ、堕ちる。

 

「<クック>の効果を発動、自身を墓地に送り(、、、、、、、、)、<一閃騎士団(ラインヘリヤル)>一枚をレディ状態にします。これによって、<レヴィン>がレディ状態になります」

 

 伝令兵は仲間に戦場の場所を教え、戦の支度を終えさせる。

 

「そして、<レヴィン>の起動効果を発動いたします。効果は――――」

 

 戦支度を終えた師団長もまた、死地へと向かう。全ては後に託す為に。

 

自身を墓地に送り(、、、、、、、、)、墓地にある<一閃騎士団(ラインヘリヤル)>をコスト合計がXになるようにレディ状態で召喚します、このXは墓地にある<一閃騎士団(ラインヘリヤル)>の数に等しくなります」

「………………?」

 

 レンジは怪訝な顔をした。

 どれだけ数を並べても、<武刺>相手には敵わない。墓地にクリーチャーを送っていたのは、<未亡人形(ウィ・ドール)>のコスト軽減能力……【誰彼(たそがれ)】を使うためだと思っていた。

 

 ましてや<レヴィン>は召喚効果でクリーチャーの展開を行う代わりにアタック制限を課している。

 

 これはファイターに適用される制限(ルール)であるため、一度墓地から蘇生したから違うカード扱いになる、ということもない。

 

「――または(、、、)

 

 だから、ハオリが宣言するのは<レヴィン>の起動効果の二つ目(、、、)だ。

 

 

 

 

「コストがXまでの『黒』のクリーチャーを、デッキから1枚手札に加えます。このXは同じく、墓地にある<一閃騎士団(ラインヘリヤル)>の枚数に等しくなります」

 

 

 

「――――――」

「私がデッキから加えるのは、<未亡人形(ウィ・ドール)>」

 

 騎士たちが命を捧げ、その人形を手繰り寄せた。

 

「【誰彼(たそがれ)】に代替コストを支払い、墓地からカードを五枚除外します……来たれ、<未亡人形(ウィ・ドール)・黒染めのシャルウィー>!」

「――『黒』の<未亡人形(ウィ・ドール)>だと!?」

 

 死地へと落ちた騎士たちが、果て無き奈落に追放される。

 ハオリが、いや――花守家のファイターが使うエースは常に不動だった。

 白無垢に身を包んだ花嫁人形……しかし今、騎士たちの死を嘆くように鳴き声をあげながら現れたのは、喪服を模した武装に身を包む黒きゴーレム。

 身構えるレンジに対し、ハオリは静かに首を振る。

 

「<シャルウィー>は【飛行】と【スレイヤー】を持ちますが、攻撃に関する能力はそれだけです」

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

<未亡人形(ウィ・ドール)・黒染めのシャルウィー> コスト(黒)(黒)(黒)(2)

 

種族:ゴーレムのクリーチャー

【スレイヤー】【飛行】【唯一無二】 5/4

 

 未亡人形(ウィ・ドール)・黒染めのシャルウィーは、レディフェイズにレディにならない。

 未亡人形(ウィ・ドール)・黒染めのシャルウィーによって破壊されたカードは墓地に送られず、除外する。

 

 あなたのコントロールするクリーチャー1体をステイする。

 そうしたならば未亡人形(ウィ・ドール)・黒染めのシャルウィーをレディする。

 

 起動(黒)(2):墓地2のカード1枚を手札に戻す。

 この能力は1ターンに1回までしか使用出来ない。

 

 誰彼(白)(白)(あなたはこのクリーチャーを、その誰彼コストで支払って召喚してもよい。そうした場合、場に出た時に墓地のカードを5枚除外する)

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「…………はっ、焦らせやがる」

 

 その効果を推し量り――レンジは大きく息を吐いた。

 確かに強力なカードだ。スタッツが高い上に【飛行】【スレイヤー】。

 つまり【飛行】がなければブロックできず、【スレイヤー】によってこのカードと戦ったクリーチャーはタフネスの値にかかわらず破壊されてしまう。

 

 【誰彼】効果によって下手すれば1ターン目から出てくる可能性があるのも驚異的だし、ライフデッキから墓地に落ちたカードを回収する効果は、レンジであっても見たことがない、珍しい効果ではある。

 だが、この局面を覆す力はない――レンジのライフは残り10。

 

 <武刺>の頭を飛び越える手段があることには驚愕するが、一撃でこの命を奪うには火力が足りない。まして【速攻】を持たないのでステイ状態で場に出ているわけで――――。

 

「続けて、【誰彼】効果によって<未亡人形(ウィ・ドール)・白無垢のウィルダンス>を召喚」

 

 <一閃騎士団(ラインヘリヤル)>以前に屠られ、<大嵐刀>の隙間を縫って墓地に送り込めた残りのカードをコストに、白無垢の花嫁もまた顕現する。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

<未亡人形(ウィ・ドール)・白無垢のウィルダンス> コスト(白)(白)(白)(2)

 

種族:ゴーレムのクリーチャー

【速攻】【魂葬】【唯一無二】 4/5

 

 このクリーチャーは破壊されない。

 このクリーチャーは、レディフェイズにレディにならない。

 このクリーチャーによって破壊されたカードは墓地に送られずに、除外する。

 

 あなたのコントロールするクリーチャー1体をステイする:このクリーチャーをレディする。

 

(白):墓地のカード1枚を除外する。

 ターン終了まで、未亡人形(ウィ・ドール)・白無垢のウィルダンスを+1/+1修整する。

 

 誰彼(黒)(黒)(あなたはこのクリーチャーを、その誰彼コストで支払って召喚してもよい。そうした場合、場に出た時に墓地のカードを5枚除外する)

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 こちらの効果なら、レンジはよく知っている。【速攻】と【魂葬】……ダメージを受けてもライフデッキから落ちた色彩を場にセットできなくなる効果だ。

 こちらも序盤に使われると厄介だが、終盤の現状ではもう脅威ではない

 ウィルダンスはバトルの結果、タフネスがゼロになっても『破壊されず』に場に残る為、【機先】を持つ<武刺>の天敵でもあるのだが、<天晴土竜《アッパレモグラ》>をもたせたのはその対策なのだ。

 ブロック時にも発生する超過ダメージは、ハオリのライフを根こそぎ狩り尽くす――切り札封じ。

 

 2体並んだ所で、<武刺>は越えられない、それがレンジの出した結論だった。

 ……そう、見えている情報では、そうなる。

 

 だが、一つだけ、レンジが忘れていた……いや、知らなかった事がある。

 

 

 花嫁(おんな)には何時だって、裏がある(、、、、)

 

 

「<ウィルダンス>と<シャルウィー>が揃ったことにより、効果を発動いたします」

「……何?」

「効果の発動の条件は三つ、<ウィルダンス>と<シャルウィー>が私のコントロール下にあること。色彩が8枚以上に場に揃っていること」

 

 ハオリは<ウィルダンス>と<シャルウィー>、2枚のカードをボードから引き抜き、裏返した。

 戦場に投影された2体は、同時に変形を始める。

 裏返した2枚のカードを、縦に並べて、ボードに再度セットする。

 それが――【合一】の合図。

 

「白の花嫁、黒の花嫁。二つの花束が我が双翼なれば。禁断の果てに禁忌を犯し、共に生涯を歩みましょう」

 

 2枚のカードを一つにして(、、、、、、、、、、、、)新たなクリーチャーを召喚する(、、、、、、、、、、、、、、)効果である。

 

 

 

 

 

「両手に花を――――お色直しの時間です、<二重花嫁(ダブルブライダル)>」

 

 

 

 

 

 

 やがて現れたのは、白黒の様相を持つ一体のゴーレム。

 二対四本の腕は祈るように組まれ、生と死を表す白黒のドレスが風に撒かれて翻る

 

「……【合一】、だと……!?」

「では、簡単に説明しますね。五十嵐様」

 

 柔らかく微笑みながら、ハオリは告げた。

 

「スタッツはご覧の通り、5/5、ですが破壊されず、効果の対象にならず――――」

「……ならず?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【速攻】【魂葬】【双撃】【飛行】を持っています」

「……………………は?」

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

<二重花嫁(ダブルブライダル)> コスト -(<ウィルダンス>と<シャルウィー>の【合一】により召喚)

 

 種族:ゴーレムのクリーチャー

 【速攻】【魂葬】【双撃】【飛行】 5/5

 

 このクリーチャーは破壊されない。

 このクリーチャーによって破壊されたカードは墓地に送られず、除外される。

 このクリーチャーは、対戦相手の魔法・能力の対象にならない。

 

 起動:墓地2のカード1枚をライフデッキの一番上に戻す。

 この能力は1ターンに1回までしか使用出来ない。

 

 (黒)(白):手札のカードを1枚捨てる。カードを1枚引く。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「なんっ…………だそりゃああああああああああああああああああああ!」

 

【双撃】と言う効果がある。

 いわゆるキーコード効果……省略されたテキストであり、レンジはよく知っている。何せ<大嵐刀>の最も高コストなカードは、こいつを付与する為だけにあるからだ。

 

 <大剣豪 The・武刺>が持つ【機先】はクリーチャー同士のバトルの際、本来同時に適用するダメージを先に与える、というものだ。

 パワーが相手のタフネスを上回っていれば、一方的に破壊することが出来る。だから殴り合いにめっぽう強い。

 

 そして【双撃】は【機先】と同じタイミングで攻撃した後、更に通常のタイミングでもう一度殴る。つまり二回攻撃を行うわけだ。

 

 <二重花嫁(ダブルブライダル)> のパワーは5、2回攻撃するからダメージは当然2倍、そしてレンジのライフは残り10。

 

 【速攻】を持つためレディ状態で召喚され、今すぐ攻撃を行える。

 【飛行】を持つので、同じく【飛行】を持つカードでなければブロックすら出来ない。

 

「メインフェイズ1を終了し、バトルフェイズに移行します」

 

 宣言に、レンジは首を横に振った。

 対抗はない、という合図だ。

 

「……五十嵐様、一つ伺ってもよろしいでしょうか」

「……ンだよ」

 

 着物の袖で口元を隠し、こてん、と小さく首を傾げて、ハオリは問うた。

 

「ライフデッキに<間一髪>、残っておられます?」

 

 レンジははっ、と笑った。

 

「もうハゲたよ! おい花守ハオリ!」

 

 <二重花嫁>が両翼を広げる。武士の頭上を飛び越えて、四本の腕を解き放つ。

 

 

 

 

 

「次は敗けねえからな! <シリウス>で会おうぜ!」

 

 

 

 

 

 

 フォーマルハウトを優勝した花守ハオリは同年行われたLife最大の祭典、<シリウス>にて。

 初出場でベスト32に食い込み、その功績を認められ、【八十八星座】九十六位に名を刻むことになるのだが、それはまだ少し先の話。

 

 

 

 

 

 

 

  ◆

 

 フォーマルハウトの決勝戦、誰もが敗北を疑わなかった幼き天才の逆転勝利。

 その様子を、画面越しに眺めている男が居た。

 

「なんて、美しいんだ……」

 

 その視線は、長い黒髪を揺らしながら懸命に戦う姿に向けられている。

 

「君だ、君だったんだ、僕の愛しき花嫁は――」

 

 喉の奥からこぼれ出る言葉を止めることが出来ない。〝彼〟は運命を感じていた。

いや、運命を、この瞬間に確信した、と言う方が適切か。

 

「待っていてくれ、すぐに行く、迎えに行くよ」

 

 〝彼〟は立ち上がり、服を脱いだ。風呂場に移動し、シャワーをたっぷり三十分浴びて体を清め、それから一糸まとわぬ姿のままクローゼットの前に向かい、悩む。

 花嫁は美しい着物を着ていた。本来はスーツ派である〝彼〟だが、女性に合わせるスタイルだってやぶさかではない。

 趣味の合わない男だと思われても悲しい……となるとこちらも着物が良いだろう。

 黒が映える一級品が必要だ。早急に手配せねばならない。

 

「ンすゥ――――――はァ――――――――――ン…………」

 

 深く、深く呼吸をする。まるでこの場に〝彼女〟がいるかのように。

 空想の中で醸造された香りだけでも、意識がどこかに飛びそうなほどの刺激が走る。

 実際に出会ってしまったら? 見つめあってしまったら? 匂いを嗅いでしまったら? 声を聞いたら? 触れ合ってしまったら? 理性を抑え込める自信がない。激しい情動のままに、暴れてしまいそうだ。

 嗚呼、嗚呼、我慢が出来ない、この愛おしさを何に例えよう。

 それは嘘偽らざる気持ち、真実の愛、本物の感情。

 

 運命の相手と出会う度に思う(、、、、、、、、、、、、、)――――。

 

「僕は君と出会うために、生まれてきたんだ……っ!」

 

 だから当然、君も僕と出会うために生まれてきたに違いない。

 彼は一切の疑問を抱かずそう確信して、とりあえずネットで検索して一番上に出てきた高価そうな呉服屋に連絡を取った。

 

 

 




ネタバレ:先行公開の範囲だと加藤リオが出てこない。
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