「と、言うわけでぇーっ!」
少女が音頭を取ると、集まった全員が一斉に手にしたクラッカーの紐を引いた。
「はおりんっ、フォーマルハウト優勝、おめでとぉおおおおっ!」
「「「「「「おめでとーーーーーーーーーーーーーーー!!」」」」」」
市立
「わああああああああっ!」
と中央で悲鳴を上げるハオリすら、頭を抑えてはいるもの、嬉しそうな笑みを隠さない。
「見た見た!? すげえよ花守!」「<二重花嫁>ちょーかっこよかった!」「五十嵐さんに勝つのマジでスゲーって!」「本当に【百命】入りしちゃうかもしれないね!」
子供社会において、ファイトの強さはそのまま人望と人気に繋がる。
クラスで一番、だとか学年最強、くらいなら嫉妬の一つも沸きそうなものだが、フォーマルハウトを始めとする大会ともなってくると、流石にもうレベルが違う。
「皆、騒ぎすぎないようにねー」
「「「「「はーい!」」」」
担任教師のたしなめもなんのその、とはいえ、放課後の教室でお菓子やジュースを広げてのお祝いを許してくれているわけで。
「これで学校対抗ファイトも絶対勝てるぜ! 西校の奴らをギャフンと言わせてやる!」
男子の一人がそう叫ぶと、教師が笑顔で首を振った。
「えー、花守さんは
「「「えーーーーーーーー!!」」」
「当たり前でしょう、セミプロみたいなものですから」
「あはは、皆のこと、応援してますね」
「「「NOおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」
しばらくの間、話題の中心であるハオリを囲んで騒いでいたクラスメート達であったが、やがて大会全体の感想へと話題が移り、その内、各々仲の良いメンツと固まって、おしゃべりを続けたり、机でファイトを始めたりし始める。
ハオリがふう、と一息ついたところで、
「はーおりんっ」
「ひぇあん!?」
ぴとっ、と冷たいものが頬に触れて、反射的に全身に震えが走った。
「あはは、可愛い声~」
クラスメートの一人が、缶ジュースをあててきたのだった。にやにやとした表情はイタズラが成功したことを如実に語っている。
「ちょっと、もう、リオさんってば!」
「ごめんごめん、油断してたからつい~」
口では謝りながらも全く悪びれる様子なく、にひひ、とからかいを交えた笑顔のままだった。
「やー、まさかはおりんがフォーマルハウトを取っちゃうなんてねー。ッさすがのあたしもびっくりしちった。あのおにーさん、ちょー強かったじゃん」
その容姿は、ハオリと
少女の髪の毛は卸したてのコピー用紙のように真っ白で、ヘアゴムで束ねられたサイドポニーの先端がゆらゆらと揺れる。
しかし彼女を見た人間は、百人中九十人は“そこ”に注目するだろう。
「これもあたしのおかげかなー? なんてね?」
喋り、笑い、動くたびに、髪の毛以上に
小学生とは思えぬほど大きく実った、二つの果実。
比較対象を持たぬハオリにはその具体的なサイズが如何程か想像することすら烏滸がましい。
ましてや凝視などもってのほかであるから、意識的に“そこ”から目を逸らす事になり、結果として瞳をじっと見つめる羽目になる。
「ん~?」
ペリドットのような淡い緑色の瞳が、すっと細められ、
「やーん、はおりん、じーっと見つめられたら照れちゃうってー」
またきゃらきゃらと無邪気に笑うのだ。
彼女の名前は
「……はい、リオちゃんのおかげだと思っていますよ」
ハオリを勝利に導いた、
花守ハオリが彼女と出会ったのは、五年生の頃だった。
『加藤リオでーす、よろよろー』
五月のゴールデンウィーク明けという、なんとも半端な時期にふらっと転校してきた彼女は、なんというか当時から非常に豊かな胸部装甲を有していたので、男女共に『うわ……』と目を奪われてしまったものだった。
『花守ハオリと申します、よろしくお願いしますね』
転校生はクラス委員長だったハオリの隣の席に座ることになった。そして自己紹介早々、
『え、すごー。あたしと名前似てんね! ていうかお着物やば~、かわい~! ねえねえ、はおりんって呼んでいい? 仲良くしよ~!』
とえげつない速度で距離を詰めてきた。
『に、似てます? 名前』
『似てる似てる、リオとハオリでしょ? こんなのもうハオリオじゃ~ん』
何が『こんなのもう』なのかはわからないが、とりあえず物怖じしない性格なのはよくわかった。会話開始五秒でコンビ名が決まる経験は流石のハオリもなかったが、不思議と嫌な感じはしなかった。
『では、挨拶がてらファイトなど』
一時間目の授業が丁度フリーファイトだったので、その流れになるのは必然だった。
時期外れの転校生のファイトの実力に皆興味津々だったのもある。特にこの年代の子供はカードの強さがヒエラルキーの高さに直結するわけで。
『おっけ~! あたし、結構やるよ~!』
にひひ、と笑いながらランドセルを開き、デッキケースを取り出すリオ。
その時のファイトを、ハオリは多分、生涯忘れない。
「や、頑張ったのはさ、はおりんじゃん? あたしが手伝ったのなんてちょーっとだけだって」
「あら、ご自分で仰ったのではないですか?」
大きな胸を大きく張って出した言葉を肯定したら、急に慌てふためき始めた学友の姿を見て、ハオリは思わずくすくすと笑ってしまった。
「ツッコミ待ちじゃんそれは~!」
「では、私の一勝ですね?」
「ず、ずるっ! ちょい待ちちょい待ち、はおりんに口喧嘩で負けたとあってはあたしの沽券に関わる」
「口喧嘩だったのですか? と言うかあの、それどういう意味ですか?」
「はおりんには、あたしの一言一句に苦笑したり照れたりしていてほしいの」
「あの、リオさん。
「でっかい勝負を乗り越えて大人の余裕を身につけられたらあたしはどーすればいいの!」
「どうもしなくてよいのではないかと……」
「でっかい胸以外に勝てるところがなくなっちゃう?」
「あ、今のは喧嘩ですね? 買いましょうか?」
「…………やだ、興味津々だった?」
「ファイトで決着つけましょうか、バトルフィールドをお借りしてきますね?」
「はおりん、争いは虚しいよ、やめようよ。あたしの胸に免じて許してよ」
無言でデッキを取り出そうとするハオリに、リオがやべ、という顔をしたその時。
「ねー、花守さん、いちゃいちゃしてるとこ悪いんだけど、リオっち借りていい?」
クラスメートの女子、
「あれ、せっちゃん、どったの?」
「ちと相談があってさー。明日には返すからー」
「お、あたしの自由意志ない感じ?」
「仕方ありませんね……リオちゃん、葉更さんにご迷惑をかけませんよう」
「お、あたしペットか何かっぽい?」
「デッキがどうしても回んなくてさー、ストレージ一緒に見てよー」
「話が進んでる~! まあいいや、んじゃまた後で~」
ずるずるとセレナに引きずられていくリオを見送る。見ればクラスメートが何人か集まって、やいやいと何かを討論しているようだった。
自分も輪に入っても良いのだが……少し疲れた。
「花守さん、大丈夫?」
入れ替わるように担任教師が近寄ってきたので、ハオリは軽い会釈で応じた。
担任は、ハオリの体が強い方ではない事を知っている。
傍から見ても全体的に細身で薄く、体調を崩して病欠することもある為、こういった騒ぎが障っていないか確認しに来てくれたのだろう。
「はい、皆にお祝いしてもらえて嬉しいです」
「そう。でも無理はしちゃ駄目よ。うちのクラスはちょっと……羽目を外しがちじゃない」
「あはははははは…………誰か泣かされると先陣切って殴り込みに行く娘が居ますもんね」
セイラを始めとしたクラスメートと共に四つくっつけた机を囲んで、あーでもないこーでもないと話しているリオをちら、と横目で見て、苦笑する。
「弟がもう生意気でさー、次の旅行先ファイトで決めることになっちゃってー」
「弟さんのデッキなんだっけ」
「ウチと同じで<
「お、いいよねぇー、<灼熱龍士(サラマンドレイク)>、特に
「あー、ごめんリオっち。その話長くなりそ?」
「なる。めっちゃ。あと二時間語れる」
「ワリ、パーティ終わっちゃうからなるはやで頼んま」
「ちぇー……まー、そーなってくるとー、これかな?」
「…………え、マジ? リオっちがいうなら信じるけど……」
「ほんとほんと、絶対に
「デッキからどれ抜いたらいい? 今んトコこれがベストって感じなんだけど」
「えーっとねー、あ、これいらないかも。せっちゃんには共鳴(ぴか)らないと思う」
「えー、時々使うんだけどなー」
「これ使える時って、たまたまこっちの魔石出た時、一緒にサーチ出来ちゃうだけっしょ? 自然に手札に来たことは一回もないはず」
「…………あ、そーかも。よくわかんねそーいうの」
「あたし、
クラスの共有ストレージを机に広げる様子は、他のクラスには見られない独特な光景だった――そもそも、共有ストレージという概念があるかどうか。
「ふふ……殴り込みね、あれ本当に胃が痛いから辞めてほしいんだけどファイトで決着つけるにしてもバトルフィールド借りる申請するの大変だから……」
教師あるある、学校内の問題をファイトで決着つけがちだが、フィールドを急に使わせてくれと言われて許可取りに追われる。
「でも、リオちゃんが来てくれてから、クラスの空気、変わりましたよね」
「……ええ、そうね。あんなに皆で真剣に、それも楽しそうにLifeに取り組む事って、なかった気がするわ」
カードの強さが立場の強さ。子供であれば特に顕著。
だからこそ普通、余程親しい相手でもなければ――場合によっては家族であったとしても、自分のデッキを他人に見せたりはしない。
それは自分の弱点をさらけ出すのと同義である。真剣に
「花守さんと、加藤さんが変えてくれたのよね」
「私はなにもしてませんよ、リオちゃんのおかげです」
「ふふ、あなたならそう言うわよね」
そうこうしている間に、どうやらデッキが完成したらしいクラスメート達は、試し切りとばかりにテーブルでファイトを始めていた。
「ああ、それと、週が開けたら校長先生が朝礼で表彰したいって言っていたの。申し訳ないのだけれど、受けてくれると助かるわ」
「あはは…………それはちょっと恥ずかしいですね。でも、わかりました。謹んで」
「ありがとう。次の<シリウス>も楽しみだわ。卒業間近でも学校全体で応援しますから、何でも言って頂戴ね」
「はい、お言葉に甘えさせていただきます」
「ああ、そうだ、それと花守さんのお母様に少しお話があって……」
公的な大会の優勝には、名誉の代償にそれなりの責任も伴うわけで。
そんな事務的な話が終わる頃には、ファイトの決着もついたらしい。
「<導火線ドレイク>が破壊されたので【点火カウンター】を全部爆破―! 5点ダメージ!」
「うぎゃーーー! 負けたーーー!!」
両手を上げてうばー! と悶えるリオと、しゃあ! とガッツポーズを決めるセレナ。
「……加藤さん、あれでファイトが強ければねえ」
「あはは……」
自称・テンサイ少女、加藤リオ。
クラスランキング、四十位。
堂々たるドベ、カードと全く