災禍に祈りは届かない   作:天都ダム∈(・ω・)∋

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彼女たちの日常 Ⅰ

 花守家が古くからLifeの名門であることに疑いようはないが、その戦績が順風満帆であるかと問われれば否である。

 

 ハオリの姉、花守ユカリの最高戦績はフォーマルハウト二回戦敗退、結婚を機にプロを引退してから十年以上、目立った成果を残せていない。

 

 だからこそ、十二歳にしてフォーマルハウトを勝ち抜いたハオリには多大な期待が寄せられており、当人もそれに応えるべく努力を重ねている。

 

 その一環として行っているのが――――――。

 

「じゃあ、今日はこっちの棚を片していこっか」

 

 ハオリの家はそれはもう大きい。広大な敷地にでっけぇ屋敷がドーン、一般住宅と比較しても大きい離れが同じ敷地内にドーン、そんでもって蔵がいくつかドーン、という感じである。

 

 ハオリとリオは、その蔵の一つに居た。蔵と言っても玄関もあるし電気も通ってるし、エアコンもあるしなんなら冷蔵庫だってある、ちょっとした個室のような空間だ。同時に、花守家が所有する物理ストレージでもある。

 

 代々収集されてきたカード群は、それはそれは膨大な物量となっている。全てが保護用のスリーブに収められているものの、実際のファイトで使う為、と言うよりは固有資産としてのカードであるため、長らく整理されぬまま眠り続けているものだ。

 

「ねーはおりん、今どれぐらい終わったんだっけ」

「全体の五分の一……でしょうか」

「うへぇ、一年半かけてそんなもんかぁ。先は長いねえ」

 

 勝手知ったるといった様子で棚から木箱を引っ張り出し、中に収められたカードを丁寧に取り出して、入口近くに設置された大きなテーブルの上に一枚一枚と並べていく。

 カードの仕分け作業(、、、、、)だ――二人はこれを、週に三、四回のペースで行っている。

 

 

 きっかけは、雑談から始まった。

 転入直後のリオと話の流れで『うちの蔵には沢山カードがあるんですけど、整理が追いついてなくて困ってるんです』とこぼした所、突如目を爛々と輝かせ、

 

『それ、あたしに整理させて! やらせて! お願い! ねっ! ねっ!』

 

 と頼み込んできたのである。今日知りあったばかりの人間を家に招くのは多少なりとも抵抗はあったが、既に人間関係が固まった時期に転入してきた娘だ、仲良くなるきっかけになればと思い実家に連絡した所、『何かあってもハオリが責任を取るのなら』という条件でオーケーをもらった。

 

 つまり盗難などが発生したら、ハオリが自己責任でケリをつけろ、ということだ。

 ハオリの母はその辺り、寛大というか、厳しいと言うか。

 ただ、我が子の親切心を無下にしたくない、というのも本音なのだろう、とハオリは思っている。まぁ今となってはリオを連れて帰宅すると笑顔で迎え入れてお茶菓子とか出してくれるようになっているのだけど……。

 

 閑話休題。とにかく、ハオリはそこで――リオの才能(、、)を見た。

 

 

「きちゃー! 来たよはおりん! やっぱり考察大正解! <施界樹の大翼(フレースヴェルグ)>のイラスト違いだけど見て! やっぱ元々は<施界樹の邪龍(ニーズヘッグ)>と同じドラゴンだったんだよ!」

 

 リオが見たいのはカードそのものではなく、イラスト(、、、、)の方だった。

 

 特に同じカードのイラスト違いを見つけると火がついたようにメモを取り出すので、ハオリが定期的に窘めなくてはならなくなる。

 

 なので、二人でストレージを整理する、といっても、実際により分けを行うのはリオの仕事で、ハオリはもっぱらストレージからカードを出したり、仕分けされたそれをしまったりするのが主だ。しかしその基準は、ハオリにからするといまいちよくわからない。

 

 例えば、今テーブルに並んでいるカード……リオが大騒ぎしているのは、<施界樹(ラスクトスク)>、というテーマ群だ。

 

 コストを生まない色彩を持ち、更には他の色彩が生み出すコストを吸い上げ独自のカウンターを溜め込んでゆき、それを支払うことで規格外の能力を持つクリーチャーを召喚する、という独特な挙動をするカードで、扱いは難しいものの現【八十八星座】に使い手がいるため、知名度だけならそこそこある、という感じだ。

 

 リオは半年ぐらい前から<施界樹(ラスクトスク)>の大型クリーチャー、<施界樹の大翼(フレースヴェルグ)>に関して、

 

『<施界樹の邪龍(ニーズヘッグ)>は<施界樹の大翼(フレースヴェルグ)>の闇落ちした姿だと思う!』

 

 と強く主張していた。それは何か重要なことなのだろうか? とハオリは思うのだが、リオにとっては大事なことらしい。

 

 まあそれはさておき……リオはそんな<施界樹(ラスクトスク)>と一緒に、なぜか<果物遊戯(フルーツゲーム)>というテーマのカードを、同じカテゴライズとしてまとめるのだ。

 

 <果物遊戯(フルーツゲーム)>は同種のクリーチャーが二体揃うと、その二体を生贄に上位種をデッキからリクルートする、というテーマだ。それを繰り返すことで最上位クリーチャーを召喚する。

 生贄にしたカードも次のターンには上位種が墓地から引っ張れるので、時間が経てば経つほどサイズが膨れ上がり、コストをあまり使わない、という利点がある。

 

 ……となると成長にコストを必要とする<施界樹(ラスクトスク)>と、あまりコストを使わずにクリーチャーを展開できる<果物遊戯(フルーツゲーム)>は相性が良いように見えるのだが……現実のLifeはそう甘くない。

 <施界樹(ラスクトスク)>に共鳴するプレイヤーが、<果物遊戯(フルーツゲーム)>にも共鳴できるとは限らないからだ、逆もまた然り。

 

「<果物遊戯(フルーツゲーム)>と<施界樹(ラスクトスク)>はDカテゴリでおねがーい。<茨磔呪傷(ソーンバインドカース)>と同じとこー」

「わかりました。……リオちゃん、こっちはいいんですか?」

 ハオリがテーブルの端に除けたカード群は<果物遊戯(フルーツバスケット)>。<果物遊戯(フルーツゲーム)>と字は同じだが読みが違う、というややこしいテーマで、テキストを見る限り挙動もぜんぜん違う。

 

 クリーチャー、魔法、秘宝、魔石といったカードの種類を指定して、ファイター双方にその使用を禁じたり、逆に使用しないとペナルティといったルールを追加したりする動きをする。

 

「うん、そっちは違うから(、、、、、、、、)

 

 コストを溜め込んでいる間、相手の動きを止めると言う意味では<施界樹(ラスクトスク)>との相性は良さそうなものだけれど……リオからすると、やっぱりどうも、違うらしい。

 

「こっちの<果物遊戯(フルーツバスケット)>は<野菜騎士(ベジタブルナイト)>とか<果物武者(サムライフルーツ)>が入ってる方ー、Fカテゴリー」

「……何が違うんです?」

 

 ハオリは時折、そう聞くことにしている。

 するとリオは決まって、こう答えるのだ。

 

 

 

「世界観が違うんだよ」

 

 

 

 その言葉の意味が、ハオリにはまだわからない。

 

 

 

 ◆

 

 カード整理を二時間ほど続けて、しばし休憩しようか、と相成った。

 備え付けの小型冷蔵庫から取り出したお茶の封を切って口をつけると、思ったよりもごくごく飲めて、汗はかかずとも水分を消費していたことを如実に感じる。

 

「はぁー、生き返るー」

 

 ぐぐー、とリオが両腕を伸ばすと、巨大質量兵器が動きに合わせて上下する。

 ハオリは極力そちらを見ないようにしながら、

 

「今日はだいぶ整理が進みましたね」

 

 蔵にあるカードの総量は依然としてとんでもない物量だが、仕分けの速度は以前と比べてもかなりのハイペースだった。

 

「カテゴリ分けが出来たからねー。やー、今日も眼福眼福。はおりんの家の蔵はお宝だらけですなあ」

「ほとんど実用出来ないカードですけど……」

「そんなことないよ! 古い年代のカードが昔の姿のまま残ってるんだもん! イラスト違いだってたくさんあるから並べて比較がしやすいし!」

「……リオちゃん。今更ですけど、なんでそんなにカードのイラストにこだわるんですか?」

「え、趣味」

「……左様ですか……」

 

 ハオリからすると、カードの整理や仕分けというのは、酷く退屈で面倒な作業だ。本音を言えばこの時間をファイトの特訓に当てたい気持ちのほうが強い。

 

 いずれせねばならない事を、今友達と楽しくお喋りしながらできるから、やっているだけだ。

 

「そういえば、今日、葉更さんに渡したカードは何だったのですか?」

「えーと、あれは<砂漠城の王冠(デザートクラウン)>かな。ほら、この蔵にもあったじゃん」

「<砂漠迷宮(デザートラビリンス)>の秘宝(アーティファクト)、ですよね?」

「そーそー、あれ、消費したカウンターを使い回せるからさ、せっちゃんの<灼熱龍士(サラマンドレイク)>に丁度いいんじゃないかなって」

 

 <灼熱龍士(サラマンドレイク)>はいくつかの手段で直接ファイターにダメージを与えるテーマ、セレナはその中でも【点火カウンター】と言う独自のカウンターを消費することで焼くデッキを使う。

 

 カウンターを溜め込めば溜め込むほど火力が上がるのだから、それを使い回せれば確かに効率的だろう……けれど。

 

「……セレナさんに、共鳴は?」

 

 共鳴率。ファイターが持つ、カードを己の手に呼び寄せる力。

 誰でもそれなりに共鳴できる<植物戦鬼(ゴブリンプラント)>のように、ファイターを選ばない(たま~~に使えない人もいるが、本当にたま~~~にだ)デッキもあるにせよ、基本的にはそのファイターに最も共鳴するデッキ、というものが存在する。

 

 ハオリの場合、それは<未亡人形(ウィ・ドール)>であり、セレナであれば<灼熱龍士(サラマンドレイク)>だ。

 

 共鳴の力は顕著だ。己と響き合うカードであれば如何なる状況であれ手札に呼び込めるし、反対に響かないカードであればデッキの底まで引き尽くさない限り、ファイトの場で出会うことはない。

 

 ただテキスト上の相性が良いからデッキに入れる、なんてのは子供なら一度は思いつきはするものの、大抵は周囲から苦々しい顔をされて、そんなお行儀の悪いことはやめなさい、とたしなめられるのが常となる。

 

 己と共鳴するカードと出会うことが何よりも重要なのだ。

 ――――だというのに。

 

 

 

してたよ(、、、、)

 

 

 

 こともなさげに、あっさりと、リオはそう言った。

 二つのテーマを同時にデッキに入れるには【二重血統(デュアルブラッド)】と呼ばれる特殊な才能が必要だ。両方に対して等しい共鳴率――それこそ、フォーマルハウトで戦った五十嵐レンジのように――を有していなければ、望んだ時に望んだカードを引くこと(、、、、、、、、、、、、、、、、)が出来ない。

 

 対して、あくまでメインとなる一つのテーマに、少しだけ別のテーマを混合させたデッキを【亜種交血(インブリード)】と呼ぶ。

 

 普通、そんな混ぜものが使い物になるわけがない。

 加藤リオは――――人に共鳴するカードを見つける天才(、、、、、、、、、、、、、、、、)だった。

 

 デッキのメインとなるテーマ以外の場所(、、、、、、、、、、、、、、、、、、)から、ひょいと必要な一枚を見つけてくる。そのカードはファイターが求めていた要素にぴたりとハマり、高い確率でファイターに共鳴する。

 

 フォーマルハウトの決勝戦でハオリが使った<一閃騎士団(ラインヘリヤル)>が、まさにそれだ。

 

 花守家のデッキが<未亡人形(ウィ・ドール)>であることは、少し調べればわかるくらい有名だ。そしてプロ級のファイターなら墓地対策をしてくる可能性は大いにあり、<未亡人形(ウィ・ドール)>単体ではその対処に乏しかった。

 

 だから<ライン>を一枚引ければ、そこから確実に墓地を五枚増やしつつ、<シャルウィー>を手札に呼び込める<一閃騎士団(ラインヘリヤル)>は、まさに求めていた最後のピースだった。

 

 <一閃騎士団(ラインヘリヤル)>なんてテーマ、リオに教えられるまでは名前すら知らなかった。

 

 この蔵から見つけたそれを『使ってみなよ』と言われ、触れた時、なぜだかわからないが、驚くほど手に馴染んだ。それも<未亡人形(ウィ・ドール)>が必要な時には過度に共鳴することなく、普段の運用を邪魔しない――だからこそ、隠し玉として仕込んでいた六枚のクリーチャーが、最後の最後で勝負をひっくり返したのだ。

 

 

 

「はおりん、中学校はどこいくんだっけ」

 

 ペットポトルを空にした直後、不意にリオはそう言った。

上磐(じょうばん)市の毬岸(まりがん)大学付属ですね。推薦もいただいてます」

「うへー、超名門じゃん。あたしじゃ逆立ちしても無理―」

 

 名門私立は入学試験の科目としてLifeの知識を求められたり、実技試験としてのファイトが行われるのが一般的だ。知識面はさておき……うん、試験官に勝てなくとも善戦するのが最低条件だが、リオの戦績を知っているハオリはその言葉を否定できなかった。

 

「あのさ、はおりん」

「はい、なんですか?」

別中(べっちゅー)になっても遊び来ていい?」

 

 やがて、カードを束ねながらそう尋ねるリオに、ハオリは少しむ、としながら答えた。

 

「そんなの、当然じゃないですか」

「……あは」

 

 そんな会話の折、コンコン、と蔵の扉を叩く音がした。

 こちらの返事を待たず、ガチャと音を立てて扉が開く。

 

「お楽しみの所、失礼致します」

 

 現れたのは和装の美人……凄く端的にいうと、ハオリをそのまま大人の女性にしたような女性だった。

 

「あ、はおりんママ、お邪魔してまーす!」

「お母様、どうなさいました?」

 

 問いに、ハオリの母は申し訳なさそうな顔で頬に手を当てた。

 

「加藤さん、ごめんなさいね。少し用事ができてしまいまして……ハオリ、これから出掛けます、支度をなさい」

「ええっ」

 

 本当に急な話だった。普段出かける際は事前に予定を決めておくだけに、学友が居るときに突如、というのは本当に珍しい。

 

「うーん、お家の用事じゃしょーがないにゃー」

「本当に申し訳ないわ。代わりに次の日曜は家にいらっしゃいな。まだ身内でのお祝いはしていませんから……一緒にハオリの優勝記念パーティをやりましょう」

「え、ほんと? あたし居ていいの?」

「もちろんですとも。お寿司もとりましょう」

「やたーーーー! はおりんママ大好きー!」

 

 微妙に餌付けが始まっている気配を感じながら、そこまで母を急かす物が何かを考える。

 

「……お母様、一体、どのような用事なのですか?」

 

 ハオリの質問に、母は一つ頷いて、答えた。

 

「これより上磐(じょうばん)市へ向かい、市長の常盤(トキワ)火戸(カド)様と謁見します」

 




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