どうやら私は学園のマドンナを口説き落としたらしいけど記憶にないんですけど!? 作:ステラ@毎日更新中
「お待たせ。祭りの時間よ」
「ふぁーぃ?」
クーラーの聞いた部屋で呑気にお煎餅食べつつY〇uTube見てダラダラ夏を満喫していたら妙にウッキウキな紗良が部屋に戻ってきた。
最近は朝起きた時から夜まで居ないことが多くて寂しかったけど、今日は違うみたい。
手には何本かのクラッカーと高級そうな箱に入ったケーキのお土産があった、また餌付けされちゃーう。
ん? あれ、今からお祭りに行くんじゃないの?
何が始まるんです?
「録画してるけれど、やっぱり生で見なくちゃね」
「ん〜テレビ?」
「ええ、貴女もきっと気にいるわ」
こんなお昼過ぎに放送してる番組なんて変な料理番組とかつまんないニュース番組の2択だと思うんだけどな〜。
何度か選局して目当てのチャンネルを探し出した紗良は、ぽすんと隣に腰掛けて(めっちゃお風呂上がりのいい匂いがした)ニッコニコの笑みでこちらを見てくれた。
ファンサ助かる。
『────』
『─────』
画面の中ではガヤガヤと誰もいない椅子と机が並べられた光景が映っており、反対に会場は何人もの人がごった返して各々の持ち物やカメラの角度を微調整している姿が映されている。
緊張した面持ちのキャスターが「えー間もなく始まろうとしております、どうかこのままお待ちください」って思わせぶりな表情で入口で構えていた。
何これ記者会見?
「〜〜〜?」
「まあまあ、始まるまでもう少し待ちましょう」
そう言って肩に頭を預けてきた紗良から香ってくる爽やかな匂いにドギマギしつつ。
やがて沈痛な面持ちで入場してきた草臥れたオジサン達へと一斉にシャッターとフラッシュの光が降り注いだ。
うおっ! 眩しっ!
真ん中に立った偉そうな人が深々と腰を曲げて再度シャッターとフラッシュに晒される。
彼らは一様に憔悴した顔をしており、あまりにも哀れに見えた。
司会? の人に促されてこの度は〜お集まりいただき〜うんぬんかんぬん言っちゃってる。
ダメだこういう真面目な空気は耳が滑る。
内容が頭に入って来ない。
隣に紗良がいるから呼吸や心臓の音の方がおっきくて集中できないのもある。
「フフ……とても良い気分だわ、歌でも歌いたくなっちゃうぐらい」
「え? じゃあ明日カラオケ行こ、デュエットしよ」
「いいわね。すごく楽しそう」
キャッキャウフフしつつながら見を続けていると一際パシャシャシャシャって煩くなったのでテレビに目線を戻す。
まーたオジサン達が頭を下げていた。
何が起きてるのか知らないけど社会人になるって大変だなぁ。責任ある立場ってこうなっちゃうんだねぇ。
やっぱり目指すは途中でFireする事だよ、私も勉強がんばって良いとこに勤めないと。
「〜〜〜♪」
そのまま質疑応答?
に入ってあーだこーだ盛り上がってる記者さんたちより今は、少なくとも記憶喪失になってからは見たこともないレベルでご機嫌な紗良のことが気になって仕方ない。
すごく可愛い……。
綺麗系の顔立ちで普段は凛としてるのに、今日はまるで童女みたいな屈託のない笑顔で。
画面を指差しからからと微笑んでいる姿は普段とのギャップであまりにも魅力的だった。
好きすぎるのだが。
え、結婚しよ?
「子どもは何人がいい? 私は3人ぐらい欲しいかな」
「ん〜そうね、やっぱり最初は女の子かしら」
「あー良いかも、お母さんが私の子どもの頃の服持ってるから着せてあげたいし」
私たちはしばらく大真面目に将来について語り合っていた。
でも私たちは女同士だから子どもは作ることが出来ない、少しだけ残念。
(私はともかく紗良の子どもは見てみたいかなぁ……でも、紗良に子どもが出来るって言うのはその、そういう事をする、ってことだから。あー……それは嫌かな!)
雰囲気に流されている間にいつの間にか記者会見も大詰めになったようで、正気に戻った紗良が私の顎をクイッと持ち上げて話を切った。
あんまりメロいことしないでくれません? 私チョロいから!
あ、もう堕ちてた(てへぺろ)
「いけない、今日の本題を忘れてた。ねえありさ、あの中央にいる男が見えるかしら?」
「…………ハッ! う、うん見えるよ。どうかしたのこの人?」
「こいつがあなたを突き落とした主犯よ」
「へー……え?」
ええええええええええええ!?!?
こ、この人が私の記憶喪失の原因なの!?
いやいや何で、何で私を記憶喪失にした人がテレビに出て会見してるの?
なになになに??
どういうことなの???
「より正確に言うとこの男のクソガキ……もとい子どもが首謀者なのよ、まあ手配したのはこの男だから主犯で間違ってる訳じゃないのだけど」
「えっ? え、えっと……えっ?」
「ああ、ごめんなさいありさ。怖いわよね、急に犯人のことを伝えてしまったから。ごめんなさい配慮が足らなかったわ」
いやそれは全然なんていうか実感ないから気にしてないんだけど……え?
「この会見に出てる桐生会長だけれど、この名前学園で聞いた覚えはないかしら?」
瞬間、私の脳内リストがその人物名を弾き出した。
「桐生……って、もしかして4年生の桐生翔馬先輩?」
たぶん昔の私が接触したことがある推しリストの1人だ、最近は全く推し活してないから忘れてた。ん? なんで推し活しなくなったんだっけ?
「そう。あそこと枢木が業務提携してるのは知ってるでしょう? でもね、実は仲が悪いのよ」
それは初めて知ったけれども。
「一応幼なじみでもあるのよ私とあいつ」
それは知りたくなかったんだけど!
うぐぅ! の、脳が破壊されるところだった……紗良と付き合ってなかったら即死だった。
「あのボケ……もといお父様とあのカス……もとい桐生会長は幼い頃は仲が良かったのよ、それがどういう理由かは興味ゼロだから調べなかったけれど仲違いをしてね? それから互いに地味な嫌がらせの応酬をしているのよ。いい大人が笑い種よね」
問題は段々とその行為がエスカレートしていった事なのだと忌々しそうに舌打ちをした紗良。
その表情は般若もかくやと言わん程に憎しみに塗れていた。
要点だけ纏めるとゴシップや妨害工作など色々な事を仕掛けていた中で、紗良のお気に入りである所の私を標的にする案が上がったらしく。
学園内で実行犯を手引きした桐生先輩が紗良に電話を掛けて直接私が落ちる姿を見せ付けようとしたら。
思いのほか紗良が大慌てで騒いで枢木本家も一時騒然となった事から会長は大変気分が良くなった、と。
…………あー、なんだろ。
うん、こいつ最低だね。
もちろん犯人が分かったらこの手で直接余計な勉強をさせられた怒りを込めてぶっ〇す気満々だったんだけど。
人って自分よりキレてる人間を見たりしたら落ち着くって言う話。
あれって本当だったんだなぁ。
「だからね、お父様にお願い(脅し)して桐生グループごとウチの会社も何個かまとめて破産に追い込んであげたの。
どう? 楽しいでしょう、この間まで天上の人間と信じて疑っていなかった人間がここまで落ちぶれてる姿は」
紗良の顔は笑っているけど笑っていなかった。
そして最後に2人同時にクラッカーを鳴らして、祭りは終わった。
ポンッ☆
「お〜これは凄い」
夕方にもなると世間は枢木グループと桐生グループの壮絶な共倒れ倒産に関して様々な憶測混じりであれやこれやと世間は勝手に騒いでいた。
とっくの昔に経営破綻していたのだとか、敵対的買収を受けて勝てなかったとか。
新規産業への投資が失敗して資金が焦げ付いたとか……本当に想像豊かな人達である。
まあ私も知らない立場なら好き勝手言ってただろうし。
だが流石に真実に近付けている予想は一つもなかった。
無理もないよね。
今回のセンセーショナルな一連の出来事の発端が地味で何処にでも居そうな私を巻き込んだ事件で、それにキレた紗良が自分の家諸共仕掛けた戦略的共倒れによる日本有数のグループ企業の倒産劇だった……だなんて。
(愛されてるなぁ私……)
とても凄い事になってるのは私にも理解出来てるんだけれど、その上でこんな私の為に紗良が文字通り死に物狂いになって復讐を果たしてくれたというのが嬉しかった。
「ま、いいや。明後日の花火大会までに課題を終わらせなくっちゃ」
ダラダラと進めて行っても間に合う量なんだけど、もうこれ以上何も抱えずに真っさらな気持ちで楽しみたいから頑張ろう。
ベッドで眠っている紗良のおでこに触れないようにキスをして、気合を入れた私は何とかギリギリ花火大会に間に合うよう課題を終わらせたのである。
本当の祭りが明日、はじまる。
・枢木紗良 ご満悦
自分の人生に余計な重みとしてのしかかっていた全てにケリを付けて開放感に溢れてる人。
枢木グループは色々と手回しをしてあるので桐生グループと違ってここから数年で再建に成功する、その陣頭指揮を取り正式にグループの会長に就任する予定の女。
今は花火大会デートの事で頭がいっぱいの恋する乙女。
・橘ありさ 被害者
よく知らないうちに自分を記憶喪失にした犯人たちがテレビで公開処刑されてるのを目の当たりにして怒りの矛先を失った人。
まだ記憶の全ては戻っていないけど、今はただ花火大会デートの事で頭がいっぱいの恋する乙女。