【本編完結】どうやら私は学園のマドンナを口説き落としたらしいけど記憶にないんですけど!? 作:ステラ
「なんだか照れちゃうな」
緊張して眠れなかったらどうしよう。
なーんて思ってたのに爆速で寝ちゃった私は特に早くもなく遅くもない時間に起きてしまった。
隣のベッドをのぞき込む。
既に目を覚ましていた紗良は、視線に気づいて穏やかな表情で私を見返してくれた。
「どうしたの? 急に」
私の恋人、素敵な人、優しくてかっこよくて、誰よりも私を大切にしてくれる人。
改めていい所を挙げるともっと好きになってしまう。
だから何度でも、きっと何時までだって好きなんだろうな。
「なんでもないよ、うん」
そう、これは特別な事じゃなくてなんでもない。
とても当たり前で、ありふれた日常。
そういうことになって欲しい。
だから聞いてくれるかな。
「あのね、初めて会った時ね? 怒られたでしょ、実は話半分にしか聞いてなかったの」
「……突然どうしたの?」
「怒られちゃってて気まずかったんだけど、でもなんか嬉しくってさ。紗良のことは一方的によく知ってたから」
こんなに綺麗な人が居るんだと初めて知った時は凄くドキドキしてた、それはきっと今の様な気持ちじゃなくて。
テレビや映画に出ている芸能人や俳優に憧れるようなありふれた気持ちで。
だから、入学式で怒られた時の気持ちは迷惑掛けたならもう仕方ないか!
このまま推し活しよ〜って結構投げやりな気持ちでもあった。
「それからね毎日会いに行ったんだ。興味本位な気持ちだったんだけど、仲良くなれたら嬉しいな……ってぐらいの」
「そうなの」
そうなんだ。
だけど紗良は私ほど興味も関心もなく、名前さえ覚えてくれてなかったから何だか無性に悲しくて。
しつこいぐらい会いに行って、色んな人達にもこの気持ちを真正面からぶつけていったら何とか協力してくれたりして。
色々あったけど楽しかったな。
「初めて名前を呼んでもらった時、すごく嬉しくて死んでもいいやって思ったの。やっと私のこと見て貰えたって、その日は眠れなかったんだよ〜」
「…………」
それからは急激に仲良くなれたかなって自分では思う、毎日放課後に図書室へ行くのが楽しみだった。
夏季休暇の時は流石に会えなくなったけど、街の図書館で偶然会えた時は本当に運命を感じた。
連絡先を交換したのもこの時だよね、紗良にとっては特に教えない理由が無かっただけだと思うけど……私は舞い上がってたよ。
1年の終わりの頃になるともう勉強より話してる方が多くなっちゃったよね。
料理が苦手だって聞いて、手作りクッキー持っていったら凄く驚いてくれて。
「家のこととか家族のこととか、ほかにもいっぱい色んなことを語り合ってさ。その時になって紗良も弱いところがある普通の女の子なんだって分かった」
「……うん」
無理を言って休日に遊びに出た時はすごくすごーく嬉しくって、何度も予定を確かめたりお店を選んだりして。
でも上手くいかなかったな。
分かりやすいぐらい私テンパっちゃってたから。だってこの頃だと思うから。
この気持ちに気づいたのは。
先にあなたのことを“そういう意味で”好きになっていたのは私の方。
それをこの時になってやっと気付けた。
気持ちを自覚してからは毎日が楽しくて、幸せで、でもとても苦しかった。
どうせ叶わないと思っていたから。
「今も推しっていうのは変わらないんだけど、ちょっと昔とは意味が違うんだ。私は紗良単推し、もっとハッキリ言うと───その頃には紗良の事が好きになってた」
「…………」
特別になった私の気持ち。
記憶喪失になっても忘れることはなかった、この胸のドキドキが。
あたりまえになった私の気持ち。
ありふれた言葉で綴る気持ち。
あなたの事が好きだと言う気持ち。
「ううん好きじゃ足りないかも、愛してる」
私の独白を聞いていてくれた紗良は。
一筋の涙を静かに零してから確信に満ちた問いを投げかけてきた。
「いつ……記憶が戻ったの?」
それなんだよね。
ハッキリは分からない、だって昨日の私と今日の私に明確な境が存在しないから。
「んとね、多分さっき寝てる間かな。色々な夢を見てたよ、そうして起きたら……ぜんぶ戻ってた」
「そう、なのね」
体を起こして紗良の寝ているベッドへと寄り掛かる、そのまま目元を赤くしている彼女をギュッと抱きしめた。
暖かな雫が紗良と私の両方の瞳から溢 れ落ちてベッドを濡らしていく。
これが嬉し涙ってやつなのか、思っていたより凄く……いい気分かな。
(なんで今記憶が戻ったんだろう)
正直もっと劇的な感じで、ここぞと言う場面で思い出すと想像してたのに。
蓋を開けてみたら「あ、そういえば思い出した」って軽い感じで記憶が戻るなんて流石に予想外かな。
でも花火大会当日に記憶が戻ったのは流石にヒロイン力高くない?
世界が私たちを祝福してる!
みたいな?
なーんてね。
「ま、これで二学期からテスト勉強に追い込まれなくて済むからラッキーかな〜」
「……バカ、もう少しあるでしょ、私に言うこと……ッ!」
「あはは、ごめんってば。わか、分かったから擽るの……やめ……やめ〜!!」
「いー、やっ! よ!」
ええいお返し!
きゃいのきゃいのと、朝っぱらから2人で子どもみたいにいたずらし合って寮母さんに怒られるまで目いっぱい遊んだ。
記憶が戻った事を伝えたら凄い優しい顔でおめでとうって言ってくれた、ありがとうね……いっぱい迷惑掛けたこともちゃんと思い出したから。
だから本当にありがとう。
2人目のお母さんだと思ってます。
その後はまだ帰省してない子たちを無理やり巻き込んで記憶喪失快復おめでとう会(主催私)でちょっとだけ普段より豪勢な食事をして。
さあ夕方、今日の本番。
花火大会が始まるまでお祭りで楽しむぞ〜!
「わぁ……とても綺麗、しゅきぃ」
「試着の時に散々見てたじゃない。それに、ありさのほうがずっと綺麗よ」
姿見の前で互いの着こなしに感想を送る。
私たち自覚のあるタイプのバカップルだから、褒めることしか考えられないのが玉に瑕かな?
まあ100%本気の感想だから良いのだけれど。
「それはないよ〜紗良の方が綺麗だもん! 例えるなら麗しき花の妖精さん、黒地の浴衣に簪から裏帯まで鮮やかな赤色で統一してるから紗良の黒髪ともよく映えて美しすぎる……」
「同じデザインで貴女の白と私の黒を合わせたんだもの、似合ってくれなきゃ困るわ。
ほら、髪の毛結んであげる……お団子にしちゃっていいよね」
クルクルと慣れた手つきで髪を巻いてくれる紗良の手際にうっとり、ほんと器用だなぁ。
「なんでもいいよ、でも紗良は流してね? まとめちゃダメだよ」
「どうしてよ」
それはうなじが見えるからです!
私だけが見ていい聖域なのっ!
せっかく楽しく祭りに来てる一般客を性犯罪者にしてしまうのは私とて本意ではない、魅力的過ぎてしゃぶりつきたくなるだろうから。
決して他の人に紗良のうなじを見せたくないからとかいう子供じみた独占欲からではない。
私は義によって立っているのだ。
「わァ〜馬子にも衣装ってやつかな。我ながら似合ってる気がしないでもない」
「……(ゴクリ)」
けっこう似合ってるから紗良の視線も釘付けだぜぃ、さあ団扇を帯に挟んで祭りに向かいましょうかね!
本当は桜花様に貰った扇子を持っていきたいんだけど、なんでか紗良は桜花様からのプレゼントは気に入らないから付けられない。
少し残念だなぁ。
私と桜花様は親友なのに……嫉妬かにゃぁ?
「へぶっ、何するの!?」
「変なこと考えてる顔してたからよ」
私の頭をチョップしてからちょんちょんっと手を伸ばしてくる、口をすぼめて不満ですよアピールしつつ躊躇なくその手を握った。
「行きましょ私の騎士様」
エスコートしてください
「ええ、私のお姫様」
素敵な世界へ
・橘ありさ 白浴衣
さよなら記憶喪失
また逢う日まで(?)
・枢木紗良
いよいよデート当日
嬉しいサプライズに泣いちゃった