【本編完結】どうやら私は学園のマドンナを口説き落としたらしいけど記憶にないんですけど!? 作:ステラ
「たまの休みで良いから連絡してねありさちゃん、また遊びましょう」
「うん桜花、また遊びましょうね!」
きっとですからねー!
最後にそう告げられて私は彼女と“お別れを”した。
ええ、また遊びましょう。
その時までにはこの気持ちを整理しておきますから。
彼女から受け取ったブーケを大切に抱きしめる、臆病で弱いわたくしには過ぎた贈り物を慈しみながら。
「…………ああ、今日はいい日ね」
あなたを愛しています。
その言葉さえ口に出せなかったわたくしはとっくの昔に彼女の隣に居る権利を失っていたのだ。
それなのに未練タラタラで彼女の傍に居続けることを選んだ。
彼女とあの女が仲を深めていくのを見せ付けられる地獄に。
我ながら愚か極まりないこと。
先に彼女と出会ったのはわたくし。
先に彼女と仲良くなったのはわたくし。
先に彼女を愛していたのはわたくしなのに。
そんな事を思う資格はないと分かっていても心に澱む憎しみは消えなかった。
けれどそれも今日までにしなければ。
この学園の卒業とともにこの愚かしい未練を精算し心から彼女の幸福を祈れる親友になりたい。
……ならなくてはならない。
「この桜はしっかりと保存しておかなきゃね」
香りはいつまでも記憶に残し、この姿をいつまでも鮮やかに遺しておきたい。
卒業生へとブーケを手渡す学園の伝統に初めて感謝したわ。本当にいい香り……桜なんか別に好きじゃなかったけれど今日からは別ね。
もう彼女の後ろ姿は見えない。
あの女の下に向かったのだろう、何も言っていなかったけれど表情を見ていたから分かる。
私には一度たりとも見せたことのない愛情に満ちた表情を。
私が毎日身嗜みを整える度に鏡の中で浮かべていたモノと同じ表情をしていたのだから。
どうか永遠に仲良くしていてね。
そうでなければわたくしは……自分でも何をするか分からないのだから。
「西園寺先輩! 一緒に写真を撮って頂いてもいいですか?」
ああ鬱陶しい。
人がせっかく物思いにふけっていたのに邪魔をするだなんて……有象無象がよくも思い上がる。
祖先の栄光とはいえこの尊き身であるわたくしに対して気軽に声を掛けるなどとは、親の躾がなっていないようね。
はぁ……思考が荒ぶる。
仕方がない家のためにも人付き合いは欠かせないもの。
剥がれかけていた【誰にでも優しい西園寺桜花】の仮面を被り直し人受けのする笑みを浮かべた。
「ええ勿論、よろしくってよ」
万が一にでもコレとブーケが当たらないように反対側に持ち替え空いている手を差し出して握らせる。
嬉しいでしょう?
お前がこの先どれだけ生きていたとしても二度と触れることの叶わない手よ。
「さあ撮りましょうか朝倉さん」
「あ、私の名前……! 覚えていてくれて嬉しいです西園寺先輩!」
当たり前よ、お前の家は我が家にとっても有用だもの。愛想ぐらい幾らでも振り撒くわ。
しかし憂鬱ね、ここから正門を潜り迎えの車に乗車するまであと何人とこんな事をしなくてはならないのだろうか。
手早く別れの挨拶をして足早に移動する。
どうかそうやって遠くからわたくしを眺めていているだけにして頂戴ね皆様。
これでもわたくし傷心しているのだから。
・西園寺桜花
記憶喪失の後から始まる物語の都合上、初めから負けヒロインだった可哀想な女の子。
どこまでいっても友達であることをやめられず友達以上になることに二の足を踏んでしまったのが敗因か。