【本編完結】どうやら私は学園のマドンナを口説き落としたらしいけど記憶にないんですけど!? 作:ステラ
支え合っていけるのなら
最近笑顔が増えたね。
あまり会話することのないクラスメイトからそう言われた瞬間、これまでの人生が脳裏を過ぎった。
その瞬間、紗良の時は比喩なく止まっていた。
そんな自覚は全く無かった。
だがクラスメイトがこんな事で嘘をつく様な人間でないのは確かだ、ならば本当に自分は笑顔でいる時間が増えていたらしい。
その理由はきっと───
「……ありささん、よね」
自分が笑顔になる理由なんて心当たりは1つしか無かった。
そうか笑っているのか自分は。
それに気付いてしまえばもう終わりだ。
意識的に笑顔になるのを抑えることなど出来そうになかった。
「そっか」
彼女と会うのが楽しみだった。
何を考えてるのか分からなくて。
とてもしつこく構ってくれて。
いつの間にか当たり前に隣に居た人。
問:私にとって彼女とはどういう存在なのか?
そうだった。
認めてしまえば簡単なこの感情の名前。
これまで気付くことが出来ていなかった問題の答えは、既に自分の中にあった。
答:好き。
たったの2文字で表せられるこの解答に1年近くも気付くことが出来ていなかった。
いや、目を逸らしていた。
いったい何時から?
初めからでないのは確かだ。
嫌いではなかったけれど、だからと言って好き……などと。
「知らなかった。私って、馬鹿だったんだ」
常に強く在りたいと生きてきた。
その強さは自分の中で全てを完結する事が出来ることだと思っていた。決して他者に依存する事は無いモノなのだと、誰に頼ることでもないのだと。
その認識が揺らいできている。
今までの自分を疑ってしまいそうになる。
家族からの愛情を諦めたあの日の自分を。
精一杯頑張ることを決めて突き進んできた自分を見捨ててしまうような。
危険な自己認識。
足元が崩れてしまいそうな錯覚。
「会いたい……」
自分の中の強さに自信が持てない。
揺らぐ。揺らぐ。揺らぐ。
そもそも自分はどういう意味で彼女の事が
友愛? 親愛? それとも───
「会いたい……ありさ……っ」
分からない。
この答えは全くもって分からない。
図書室での勉強会などとっくの昔に形骸化していた、今では問題文を解くフリをしながら楽しそうに笑う彼女の話を聞いていた。
貴女にはもしかして分かるのだろうか?
聞かせて欲しい。
この感情はなんなの?
もう何が正しいのか分からない。
一刻も早く会いたい。
会えばこの思いも解消されるに違いない。
そう思いたい。
この日の授業は酷く長く退屈に感じた。
「…………」
「…………」
最初から紗良が普段とは何処か違う空気を漂わせている事に目敏く気付きはしたありさ。
だが、それ故に何を喋るべきかに悩み。
らしくもなく沈黙だけがその場に横たわっていた。
だって入って来てからずっと、ただ何も話すことなく紗良がじっとこちらを見ているのだ。
心臓のドキドキという音が伝わっていないか考えるだけで、精一杯なのだから。
「…………」
「…………」
そんな普段の2人とは何か違う空気に周囲も気付き始め、居た堪れなくなった者たちが1人……また1人と居なくなっていった。
やがて完全に取り残された2人。
カリカリとペンが動く音さえしない、静謐さだけが場を支配している。
(具合でも悪い……って感じじゃない、よね)
観察するようにその顔を眺める。
うっすら浮かべている笑みは何時ものようにとても綺麗で……なのに何処か危うさを孕んでいるように思えた。
「……あ、あのぅ」
遂に勇気をだして語り掛けた。
その瞬間、花がほころぶ様に紗良の笑顔が咲いた。
「なあに?」
直ぐに言葉に詰まった。
あまりにもその笑顔が眩しくて、照れてしまって言葉が喉を通らない。
(じぃ……っと麗しいその瞳で見つめられると心臓が止まってしまいそうになるんですけど!?)
内心で声にならない叫び声をあげテンパるありさと、その内心すら傍目から推し量ることの出来ない紗良。
おかしな2人のおかしな関係は、やがて普段とは違う結末へと動き始める。
見つめ合う2つの人影。
この緊張感は嫌ではなかった。
どちらかと言えばずっとこうしていてもいい。
世界に自分達だけしか居ない感覚に囚われる。
「…………ぁ」
「…………ん」
やがてどちらともなく近づく。
何かに突き動かされるように、互いの睫毛の数が分かるほどに近く、息遣いが生々しく耳に響く程に。
そして一瞬だけ窓から照らされ映し出されていた2つの影が交錯した。
「…………?」
いま何が起きたのだろうか。
いや何をしてしまったのか?
一瞬だけ感じた今まで知らなかったその感触に脳の奥が痺れるような感覚を味わった。
もう一度今のを体験したい……。
トロンと目が垂れる、顔を真っ赤に染めた目の前の少女から普段以上に目が離せない。
でもどうして?
どうして今度は近付かないの?
このままだと届きそうにない。
少しだけ腰を浮かせ自分からゆっくり近付きながら、そっと瞼を閉じる。
2つの影がまた交錯する……その直前。
ガタン!
唐突に立ち上がった紗良はぎこちない動作で自分の荷物を鞄にしまうと一目散に出口へと向かい、そのまま戻ってくる事はなかった。
「……ぽへぇ」
居るはずの場所に誰も居なくなっている。
その事に幾分か遅れて気付いたありさは不格好に体を突き出している自分の姿を客観視し、羞恥を覚え急いで周りを見渡した。
幸いなことに誰も存在していない。
「……今のって、わ、私の妄想だったのかな……? あ、あはは! な、何だよもぅ、幾らなんでも今のは無いぞありさ! あは、アハハハ…………ハ……」
そう思い込もうにも。
確かに覚えている感触は鮮烈で甘かった。
そして後日。
この時のことを2人が口にする事は無かった……
出会いと交流
変わってゆく関係性
そして2人の思いが重なるとき
過去編最終章
騎士様とお姫様 その① をお楽しみに。