どうやら私は学園のマドンナを口説き落としたらしいけど記憶にないんですけど!? 作:ステラ@毎日更新中
次に会った時にはもう彼女は話題の中心でした、良くも悪くも。
そして3度目に会った時、わたくしは理解したのです。
ああ……長い付き合いになりそうだな、と。
そう思われませんか? あなたも。
あらまぁ……思っていたより見苦しいものなのですね
女の嫉妬というモノは。
ねえ記憶喪失じゃない頃の橘ありさ、頼むから精神体になって私の前に来て説明して。お願いだから、もう怒る気力もないから。
お願いだからさ……説明して!
なんでこの2人が私の事で争ってるの?
「せっかくの休日にまであなたに連れ回されるなんて、なんて可哀想なのかしら橘様ったら」
「クドクドとよく動く口ね、もう少し貞淑さを覚えなければ将来行き遅れるわよ」
どうせなら美少女同士のキャッキャウフフが見たかったとです……修羅場ですやん。
まさに犬猿の仲って感じのお2人に挟まれてるパンピーで空気な私、橘ありさが現場で実況致します(涙目)
えー先ず私をギュッと後ろから抱き締めてる方が私の恋人で現役の実業家でもあらせられる枢木紗良様です。
桜花様から護ってくれてる感じなんでしょうけどその……近い、今までで一番近い!
お願いだから私の心臓の音が聞こえませんように。恥ずか死ぬ。
威嚇しながら恐らく無意識に頬を撫でてくれてるのがメロいです、好きぃ。
そして正面の、西園寺桜花様。
旧家の一つで今は豪商の西園寺家のお嬢様、界隈ではその名を知らぬものは居ないとされる由緒正しい血統の方。
そんな方が私のことを友達として遊びに誘ってきております、どうして?
えー、なんでこんな風に争ってるのかは皆目見当もつきません。誰か助けてください。
現場からは以上です(無能)
「チッ! ハァ……今日はしつこいわね、なんのつもりよ。これ以上は時間の無駄だから付いてこないでね」
忌々しそうに舌打ちをされる紗良様(舌打ち助かる)に手を掴まれ歩き出した私達を、桜花様は先回りして胸元から取り出した扇子を広げ通せんぼをした。
うわっ、今のカッコイイもう一回やって欲しい。シュッ、シュパンって私もやってみたい、やったら破っちゃいそうだけど。
「良いでしょう、どうやら言わなければ分からない様ですので言わせて頂きます───橘様を護れなかったあなたが今も隣に居るなど、烏滸がましいのではなくって?」
「ッ!!」
立ち止まった紗良様が強く、それは強く私の手を握り締めてきました。はて? 護れなかったとは何ぞや。病院代とか送り迎えとか、過剰なぐらいお世話してくれてるし護って貰ってると思うんだけど。
私の困惑を見て取ったか。
それか紗良様が黙っているから畳み掛ける気なのか桜花様は語り続ける。私に向いてる圧じゃないのに気圧されそう。
「その様子では橘様にお話になっておられないようですね、どうして? なにかやましい事でもございますの? 急に静かになられてどうされました、反論があるのなら申し開きされてみては如何でしょう」
「………………」
優雅な所作で口元を扇子で隠された桜花様は、言い訳は許さないぞと言った感じでキッと睨み付けた。大袈裟になりそうな動き方なのに凄く絵になる方だなぁって感じ。
……? 我ながら妙にリアクションのノリが弱くて困惑する。もし同じ様に紗良様がやってたら……ふゎあぁあぁぁん! カッコよすぎりゅ、しゅきぃ……っ!!
ってなりそうなのに。
なにせ何を隠そう桜花様も私の推しリストの一人なのだ。優雅な感じの美人で紗良様とはタイプの違う美少女、だからオタクとしては会えたらかなり興奮して……すると思ってたんだけど?
なんだろうこの変な感じ。
ずっと手を強く握り続けている紗良様から伝わってくる温もりと、微かな震えを感じれば感じるほど私の思考は妙に落ちつきを取り戻していく。
「あの、紗良さ……紗良。えっと、護れなかったとはどういう事なのでしょうか?」
「……それは、その」
歯切れの悪い紗良様を見ていると胸の奥がグルグルして嫌な気持ちだ。こんなにも弱々しい雰囲気の紗良様を見ていたくなくて、何とかしてあげたくて……気付いたら私の方から抱き締めていた。
「……ありさ?」
えっ何やってんの私。
でもなんだろう、こうしなきゃいけないって思ってる……ううん確信してる。こんな事したら絶対に気恥しい筈なのに、今はあんなにも煩かった心臓も凄く静かで落ち着いている。
「大丈夫だよ紗良、私はここに居るから……大丈夫だからね」
「ッ!!」
───大丈夫だよ紗良、これからは私がずっと傍に居るからね───
───貴女と居ると……私はっどんどん弱くなる……ッ───
───良いんだよ、私の前だけは強がらなくて……だから、話して紗良のこと───
何か“思い出した”気がする。
一瞬だったけど今のって……私の記憶? こんな風に今にも泣き出しそうな“紗良”の事を抱き締めてあげた事が前にもある……?
「……ごめんなさい、ありさ。忘れてるなら今言わなくても、ううん違う。貴女に言いたくなくって、嫌われたく、なくって。だから言い出せなかった事があるの」
「うん……」
「……聞いてくれる?」
抱きしめてる私の腕に縋るように弱々しく手をそっと添えた紗良は、私が記憶喪失になった原因……私が突き落とされた日の出来事とその裏話を語ってくれた。
『明日から春休みだね、う~~~んっ! ふぅっ! やっとストレスから解放された〜』
『新学期が始まるまでの期間限定だけれどね』
『え〜? そこはこう、一緒に盛り上がるとこじゃない?』
『貴女に勉強を教えてたのは誰だと思ってるのよ、毎日気が気じゃなかったわ……赤点取りそうだから助けてーって泣きついてきたの誰だっけ?』
『それは……えっと、ごめんなさい』
いわゆる外部組であるありさ達は進級試験や定期試験での成績が卒業後の進路にとても大きな影響を受ける、成績上位者でなければ受けられない各種特権の為に毎日頑張って勉強を続けている姿は健気で、とても心配だ。
こんな時ありさより歳上である事が少しだけ嬉しい、私にとっては既に習った範囲だから余裕を持って教えてあげられるから。
でも本当は同級生が良かった、そうだったらこの学園を卒業するまで一緒に居られたし……一緒に卒業出来たのに。
ありさが卒業する迄のたった一年とはいえ、別れて暮らすなんて耐えられそうにない。
やはり無理にでも退寮させて近くに家を借りて一緒に暮らすべきじゃないかしら。お金の無駄だなんて言うけど、貴女の為に使うお金に一銭のムダもないというのに。
わからず屋なんだから、そういう所も可愛いのだけれど。
『とりあえず今日はもうその話無しっ! 寮に着いたら早速遊びに行こう、青春は待ってくれないんだよ!』
『はいはい、そんなに慌てなくたって───もしもし。今日は連絡するなと伝えておいた筈よね?』
電話越しに焦りながら喫緊の要件を伝えてくる秘書の佐藤からの連絡に腹が立つのを抑えられない、裁可権も与えているというのに私とありさの大切な時間を邪魔するとは……。
買い被り過ぎていたのだろうか。
減俸処分ね。
『ハァ、お待たせ。帰りましょうか』
『え、それはダメだよ! 佐藤さんめっちゃ困ってる声してたじゃん』
『困っておけば良いのよ、私が居なくても何とでもなるから』
『え〜気にするよぉ』
絶対に今日確認しなければならない様なことではない、それは間違いない。ただ今日対応しておけば色々と面倒でないのは確かだ。
それ以上に今日ありさとデートする事の方が最優先と言うだけで。
『良いから〜、おほん! 私ここであなたの帰りをお待ちしておりますわ騎士様』
『……ハァ。では暫し御前を離れる事をお許しください、私のお姫様』
『ええ。早く迎えにいらしてね、私の騎士様』
学園祭でのお芝居の一幕、その再現。
皆からの推薦で主役を任され嫌がる私を無理やり引っ張り出して出演させた恥ずかしい思い出であり、私とありさがやっと心を通じ合わせた大切な思い出。
キザったらしく芝居掛かった仕草でありさの手を取り唇が軽く触れるだけのキスを薬指に贈る。小さな手だ、このまま頬擦りしたい気持ちをぐっと抑える。
あと2年経ってありさが卒業したらここに彼女の誕生月のペリドットを飾り付けた婚約指輪を贈りたい、とても似合うから。
さり気なく指のサイズを確認してる事に気付かれてないといいけど。
こんな重たいことを考えていると知られたらどんな風に思うのだろう。気味悪がられる? ううん、きっとありさならとても喜んでくれる。
だから名残惜しいけれど早く俗事は終わらせなければ。
『へへへ〜行ってらっしゃい!』
はにかんだ笑顔を今でも覚えている。
きっと何事もなければこの後街へ行って一緒にショッピングをして、映画でも観て、夜は星空を共に眺めていた筈なのに。
私は愚かにも背を向けて歩き出してしまった。
prrrrrrrr!!
“そいつ”は佐藤の番号を装って私に電話を掛けてきた。きっとそうしなければ私が異変に気づくだろくと推測していた。
そいつの思惑通り連絡に苛立つ私は、横を通り過ぎる男への警戒をつい疎かにしてしまっていた。
『……なに? 今そっちに向かってるか『ざ〜んねん、親切な第三者さ。おっと切らないでくれよ』……あなた誰、どういうつもり』
『随分な御挨拶だな、親切心から教えてやろうって言うんだぜ。なあ……もう戻った方がいいぞ? お前のお姫様の所にさ』
『……っ!』
反射的に振り向いた視線の先に見えたのは、さっき私の横を通り過ぎて行った何者かが欄干から私の大切な人を突き落とし逃げていく姿だった。
『ありさっ!!』
その光景を忘れない。
バカみたいに泣きじゃくって血溜まりの中のありさに縋って泣いて、異変を察知して駆け付けて来た教師達に羽交い締めにされて止められた私。
救急車に飛び乗り枢木の病院へと運べと怒鳴り声をあげて、救急措置をする人達の邪魔になっていた私。
肝心な時に何も出来なかった
愚かな私は目の前にいた大切な人を
もう少しで見殺しにしてしまうところだった
貴女と一緒に居られることに舞い上がっていた私は
私を狙う誰かが常にいるということを
私の弱みを狙って来るということも
そんな当然の事さえ忘れて油断してしまっていた
私は貴女を……護れなかった
「貴女がそんな目にあったのは私のせいなの、私の傍に居たらまた今回みたいな事が起きるのかもしれない。ごめんね。貴女に嫌われるのが怖くて言い出せなかった」
「紗良……」
「だけど離したくない、貴女の隣に居たい。今度こそ私が護るから、だから……だから……ッ!」
お願いだから私の傍に居て。
その声は私に拒絶される事をひどく恐れて震えていた。
えっと……大人しく聞いていたけど。
凄く言いにくそうにしていたのも分かる内容なんだけど……これってさ、紗良は何も悪くなくない?
誰か知らないけど私を突き落とした人と指示した人が悪いんじゃない?
わざわざ電話掛けて煽ってくるとかキッショ!
ていうかさ……ハァアアア!?
私はともかく推しを悲しませるとか舐めてんのそいつ! めっちゃ腹立つ!! 何なのそいつ!!
俯いてる紗良の顔を強制的にあげて頬っぺたを両手で包み込んで、私はありったけの気持ちをぶつける事にした。
「そいつ一緒に探し出してぶっ〇してやろうよ紗良! サイテーだよほんっと、むっきぃいいいいい! めっちゃ腹たってきた!!」
「あ、ありさ?」
「ゆっるっせっんっ!! 誰なのそいつ、推しを泣かせるとか人間じゃないっ! つまり殺人罪は成立しない、殺り得……ッ! んぎぃぃぃぃい!!」
「お、落ち着い「だからっ!」」
「だから、そんな奴のせいで私が紗良を嫌いになんか絶対にならないから……一生掛けて推すからっ! そんな悲しいこと言わないでよぉ! うぇえええん!」
「……ありさ……ありさぁっ……!!」
どちらからなんて分からないけど、私たちは人目も憚らずに抱き合い泣きじゃくった。
「くすくす……それでこそ橘様ですわ」
暫くそうしてたら不意に声がして、見上げると遠巻きに見世物になっていた私たちの傍らで桜花様だけが楽しげに笑っていた。
目と目を合わせるとニンマリ、と言った表現の似合う顔をしている。その瞬間、私たちの中に確かな何かが通じた気がした。ははーん、分かってきた気がするぞ?
この方ってば確かに私の特別な友達なのかもしれない、嘘偽りなく。
「わたくしの知ってる橘様とは思えないほど大人しかったので2人の間で何かあったかと思っていましたけれど、どうやら勘違いだったようね」
「……貴女が、ありさのことを知ったふうに……語るんじゃないわよ」
「あら〜涙声でよく聴き取れませんでしたわぁ? こんなにも弱々しい枢木様ったら新鮮〜♪ 写真撮らせて頂いても?」
許可を求めておきながら勝手にパシャパシャ撮っている桜花様からは先程まで感じていた圧が微塵も感じられなかった。
やっぱり出会った時もワザと紗良に対して強めに煽っていたのだろう、本来はこんな感じでニコニコと相手を揶揄うタイプの人なんだ。
こういう人に対してなんて言うか相場は決まっているのだ。
フンッ、おもしれー女。
・橘ありさ☆5 凸1
無事に記憶の欠片を取り戻し胸の奥底に眠っていたクソデカ感情と頭の中が一致して落ち着きを取り戻した。
スキルLV.2
記憶はなくても推しを口説いた実力は健在であり、今回もクリティカルを出して速攻で2人の間に出来そうだった壁をぶち壊した。
桜花とは本当に友達な気がしている。
・枢木紗良 よわよわver.
全てが終わってから話そうと思っていた、気に入らない女に正論を突かれて何も言えなくなった。
またありさに弱い自分を救われた人、でも弱さを認めてこそ強くなれる。まだまだ発展途中。
真犯人の検討は付いているが、今は証拠集めに奔走している。
・西園寺桜花 その2
日頃あれだけ大口を叩いておきながらありさを命の危険に合わせた事に思う所があり今日のレスバはノリが良かった。
ありさと仲良くなったのは実は紗良より早い、それも合って嫉妬されている事に気分がいい。
扇子を持ち歩いているのは実はありさからの提案。
自室でポーズの練習をするのが日課。