どうやら私は学園のマドンナを口説き落としたらしいけど記憶にないんですけど!? 作:ステラ@毎日更新中
最悪の出会い方をした2人が
共に歩み始めるその第一歩の物語
上級生や同級生達から必要以上に構われるのが好きではなかった。
遠巻きに見てくるだけならまだしも、深く関わって来ようとする人達と仲良くしようなどという気にはなれない。
時間の無駄だから。
だから適当にあしらっていたのに……それすらも好意的に見られるのは誤算だった。
何時しか麗しの氷姫やら学園のマドンナなどと変な方向におだてられ特別視されるようになってしまった。
2年に進級して、当然のように下級生からの感心が増えた。
少しだけ鬱陶しく思っていたその中に見知った顔が居ることが気付くのに時間は掛からなかった。
なにせ忘れようにも忘れられない変わった子だったから。
「紗良様っ! おはようございます!」
「あ、今日は2年との共同授業なんですね! 隣でご一緒しても? ドゥフ」
「ごきげんよう、今日も良い天気ですわね……しゅきぃ(小声)」
「そう……」
変な子に懐かれてしまった。
入学式の時に遅刻した彼女を捕まえ説教してから毎日、何処かしらで出会うようになっていた。
偶然だと思っていたのも数日のこと、半月も顔を合わせて居ればどれだけ鈍くても気付く。
既に大半の者たちは話し掛けにすら来なくなったというのに……意味が分からず困惑しかない。
「相変わらず人気者ですね枢木さん」
「枢木様はやはり特別ですから」
「憧れてしまいますものね」
そんな風に誉めそやすクラスメイトたちを一瞥する、流石に無視するのもきまりが悪いので適当な答えを返す。
「別に、そういう訳でもないですよ」
自分に頻繁に会いに来るのは確かだが、既に学園中で噂になっている程度には彼女は誰彼構わず会っては交友を深めていた。
外部生は少し孤立しやすい所がある。
専ら彼ら彼女らに求められるのは何を差し置いても先ずは成績。
その為に先ず先輩方に気にいられ前年度の過去問や傾向などを教えて貰おうとする策略。
そういう打算での関係性。
桐生翔馬、西園寺桜花、本田涼、サラ・グレンハイヤー、etc……そして枢木紗良。
有力な人物とのコネを求めているのが分かりやすい行動だった。
入学してひと月にもならない段階でここまで精力的に活動している点では目を見張る物はある。
その熱意だけは評価していた。
その内もっと与し易いと思った相手に興味を移す筈、お世辞にも自分は愛想がいいわけでもないから。
そうしてくれていい、静かに過ごしたいから。
暫くして彼女が西園寺桜花ととても親密な関係になった事を噂話として聞いた。
これで付き纏われる事もなくなるだろう。
そんな風に思っていたのに。
「紗良様はお好きな食べ物はなんですか、私こう見えても料理には結構拘りがありましてね?」
「お疲れ様でした! あ、あの……良かったらこのタオルお使い下さい! もちろん洗濯済みの未使用品ですから!!」
「落し物されてましたよ、こんな貴重な推しグッズ……もとい品を持たせて頂いてめっちゃ申し訳ないけど嬉しかったです! んふ!」
彼女は離れようとはしなかった。
意味が分からなかった。
来る日も来る日も何が嬉しいのか笑顔を絶やさずグイグイと近付いてくる。
しつこさを見兼ねた周囲の者が注意するも幾度か話す度に態度を軟化していくだけ。
遂には積極的に案内してくる様になったのが、最も意味が分からない事だった。
「……貴女は、何が面白くて私に付き纏うの?」
直ぐに居なくなると思っていた相手は、何時しか誰よりも近くに居続ける存在になった。
最初の出会いは互いに良い印象になることなど無かった筈なのに、少なくとも自分からすれば礼節を弁えていない失礼な娘でしか無かった筈なのに。
今では図書室でこうして自然と隣り合わせで共に勉強している。
何よりも驚いたのは、気付けば彼女が来るのを至極当然のように思っていた自分だ。
「……! ぐふっ、す、すみません。ご迷惑だとは分かっていたんですけれど、溢れる気持ちを抑えきれず! 推しへの付き纏いなんてギルティってのは分かってたんです……ホントです、私嘘つかない」
ギョッとなった顔をしたと思ったら、ふにゃふにゃとした表情でしどろもどろになりながら此方を見てはキャーキャーと首を振る。
いったい何なのかと怪訝そうに見れば、頬を赤らめ「そういうの良いです、かなり好み」ボソボソと何事かを呟き小さく固まる。
病気としか思えない。
「ねえ貴女、大丈夫なの? 病院に行った方が良いのではなくて?」
「アッ……! すいませんすいません、本当にすいません。あああのですね、私はただ推しとの掛け替えのない時間を共有したくってですね」
「推し?」
推し。言葉通りに言えば彼女は自分を推しているらしい、何をどう推しているのかはサッパリだが特別な関係性になりたいのだろうという事は文脈と表情から見て取れた。
こんな面白みのない人間に何故こんなにも構いたがるのか。
分からない。
青くなったり、赤くなったり、照れたりと百面相で実に忙しない。
唯一変わらないのはその瞳だけ。
眩しい物を見るようにキラキラとした視線には、隠しようのない好意が見て取れる。
とても苦手な目だった。
「……なんでもいいけれど、体調が良いのならもう少し静かになさい。周囲の迷惑になるわ」
「あっ……ザッス、すみません」
こんな風に真っ直ぐな目で見られた記憶はない、家族も親戚も……誰からも。だからこの瞳で見られるのは好きになれそうにない。
胸が酷くざわつき落ち着かなくなるから。
がくりと肩を落とした姿を何故か見ていられず、反射的に顔を逸らした。
「っ…………」
視線が合わないよう意識して教科書に視線を落とす、余計な時間を使ってしまった。
暫くカリカリと互いのペンが文字を刻む音だけが室内に響く。
予習復習の為に使える時間は限られている、学園に居られる時間は大切に使わなければならない。家にはあまり居たくない。
(ふぅ、今日はどうしてか集中しきれない)
ほんの少しだけ解答に詰まって……目が合った。
無意識に彼女の方を見てしまっていて、同じくこちらを向いていた彼女と不意に重なった。
「…………」
「…………!!」
大きく目を見開いた彼女は慌てて視線を逸らされてしまった。
その反応が何故か癪に障る。
そのまま見てくると思っていた瞳が、こちらを向いてない瞳が、苦手な筈の瞳が逸らされた事に説明しようのない苛立ちを覚える。
半ば意地になって視線を逸らすことなくじっと見つめ続けた。
「………………」
「〜〜〜!」
俯いて一心不乱に強化書を穴が空くのではないかと思う程食い入る様に下を向いている彼女を、明らかにわざとこちらを見ようとしない彼女を見つめ続けた。
酷く気持ちが落ち着かない。
どうしてこちらを見ないのか聞こうと名前を呼ぼうとして───名前を覚えていない事に、今さらながら気付いた。
「……あ」
「……!! うぅ」
どうかしている、何で今さらそんな事が気になるのか。どうかしている、聞きたくてどうしようもないこの気持ちが。
本当に病気なのはもしかしたら、自分の方なのだろうか。
「ねえ、貴女の」
「は、はひ?」
「貴女の名前は、なんて言うのかしら」
聞いた事があったかも知れない、なかったのかも知れない。
どちらにせよあまりにも興味が無かった彼女の事を、これからもこうして顔を合わせる事になるのなら。
名前ぐらい覚えて置いて損はないからだと。
自分に言い訳をしながら。
「あ、申し訳ありません。そういえば言ってなかったですね、私橘ありさって言います! 宜しければありさと呼んで下さい」
「そう、ありささんね。覚えておくわ」
「!! 推しに認知された、今日死んだっていい……っ!」
何やら不穏な言葉を発しながら口を抑え、律儀に静かにしようとしながら身悶えする彼女を……ありさを見て無意識に笑みがこぼれた。
それから何度も同じ様に勉強をした。
どちらともなく自然に会話をするようになり、何時しか勉強を見てあげる事になった。
自分にとっても予習復習の良い機会になるからと、誰にするでもなく言い訳を考えながら。
「そこは違うわ、例文をよく読んでみて。違う意味の物がある筈よ」
「あっ! そっか、これが正解なんですね」
「そうよ、落ち着けば落とすような問題じゃないわ」
放課後の僅かな時間。
図書室で勉強をする事と、その隣に誰かが居るという事が枢木紗良の日常となって。
何時しか疑問に思う事は無くなっていた。
誰かと関わる事を極端に厭う眉目秀麗な1人の令嬢の傍に居ることを、たった1人の身の程知らずな少女は諦めませんでした。
関わる筈の無かった2人の運命は今や交わり、少しずつ距離が近付いていく。
次回はそんな2人が互いへの本当の気持ちを自覚する物語。
学園のマドンナと変な子 その②をお楽しみに。