不動の彼女は平穏を望む   作:カルシウム強化

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心操の宣戦布告をC組視点から。

●主人公
不動 利世(ふどう りせ)
雄英高校普通科C組

モブ子▶︎樫宮 纏(かしみや まとい)
モブ男▶︎光崎 灯(こうざき ともす)



敵情視察って言ったよね

放課後。

 

 

「本当に行くの?」

 

 

不動は心操の背中に声をかけた。

心操は前を向いたまま

 

 

「うん、どんな連中か見ておくだけ。敵情視察ってやつ」

 

 

と淡々と答え、迷いのない足取りで教室を出ていく。その後ろを、野次馬根性丸出しの樫宮と光崎の二人がなんとなく追いかける形で着いて行く。心操が向かったのはヴィラン襲撃で今話題のA組のクラスだった。人混みと騒がしい場所が苦手な不動は一人、教室に残ることを選んだ。

 

 

「いってらっしゃい」

 

 

――――――――――

 

 

数分後、教室の扉がものすごい勢いで開けられる。

不動が「おかえり」と言うよりも先に樫宮が鬼の形相で口を開く。

 

 

「信じらんない! 何なのあの爆弾頭! 『モブ』だの『ザコ』だの!」

 

「お高くとまってるよな、ヒーロー科なら何言っても許されると思ってんのかよ」

 

 

戻ってきた二人は顔を真っ赤にしてブチ切れていた。話を聞くと、A組のとある生徒が自分たち野次馬に向かってそのように吐き捨てたそうだ。

樫宮の怒濤の勢いをよそに、心操が後から静かに入ってくる。その瞳の奥には冷たく研ぎ澄まされた闘志が宿っていた。

 

 

「終わったんだ、敵情視察」

 

 

不動の何気ない一言に、心操は彼女を見て短く答えた。

 

 

「うん。──宣戦布告してきた」

 

「……は?」

 

 

思わず間の抜けた声が出る。

 

 

宣戦布告?

もともとは敵情視察、そういう話だったはずだ。

どういう経緯でこうなったのか──考えかけてやめる。

経緯なんて今はどうでもいい。

とにかく、ヒーロー科のクラスを敵に回したとまでは言わないにしても、心操が自身の存在を知らしめてしまったことだけは間違いなかった。

 

 

「……最悪なんだけど」

 

 

協力するとは言ったが目立たず後ろから支える、という意味でのつもりだった。敵情視察の話がいつの間にか宣戦布告にすり替わるなんてのは想定外だ。心操の中ではすでに勝負は始まっていたのだ。不動の考えていた目立たず静かに体育祭を終えるという計画は見事に崩れ去った。

 

 

「敵情視察なんて、最初からそんなつもりはなかったよ」

 

 

心操が軽く肩をすくめて笑う。笑ってる場合か。

 

 

「……樫宮達がブチ切れてんの、あんたが煽ったせいなんじゃないの」

 

 

そんな不動の言葉を余所に、隣にいた光崎が教室中を見回しながら叫ぶ。

 

 

「みんな聞け!心操がA組に宣戦布告したぞ!」

 

 

その瞬間、教室中の空気が弾けた。

 

 

「あのA組に?」

 

「すげえな心操!」

 

 

冷めきっていたはずのC組クラスが一斉に活気づく。クラス中の心操を見る視線が少しだけ変わる。「普通科の底力見せてやろうぜ!」なんて言い出す生徒も出てきた。なんだか話が大きくなってきたような気がする。

 

 

「…心操、やっぱり体育祭の協力の話はナシに──」

 

「あー……」

 

 

心操はわざとらしく間を置いてから、軽く笑いながら口を開いた。

 

 

「友達の夢は応援してくれるんじゃなかったっけ。言い出しっぺがそれ言っちゃうのかよ」

 

 

彼の見えない圧力のような言葉に逃げ場などなかった。不動は、協力するなどというあの時の発言をすでに後悔し始めていた。

 

 

「……メゾン・ド・ボンボンのフルーツタルト」

 

 

メゾン・ド・ボンボン。いつも行列ができている有名スイーツ店だ。中でもフルーツタルトは若者のご褒美スイーツとして絶大な人気を誇り、開店と同時に完売することも珍しくない。

この一言で不動が何を要求しているのかは充分伝わるはずだった。これくらい奢ってもらわなければ、どう考えても割に合わない。

 

 

心操は短く息を吐き、不動を見た。

 

 

「いいよ。協力してもらう立場だし」

 

 

そんな彼の横で、樫宮と光崎が「あ、私もそれ食べたい」「俺は肉がいい」と勝手に便乗し始める。

 

 

しかし彼女はまだ、この選択の重さを知らなかった。

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