うっかり派生、連載したら移動させます。
季語とか辞書を引きつつ頑張った記憶があります。
約束をしたのは、いつだったのだろう?
生まれた時から、ずっと一緒だったあの女の子。
毎日、毎日、飽きる事もなく一緒に遊んでいたってお母さんは言っていた。
家が隣同士で、歳も同じ。数ヶ月だけ僕がお兄さん。
幼稚園に行くまでは、お互いの家に一緒にいた。
幼稚園に行ってからも、ずっと一緒にいた。
他にも仲良くなった子はたくさんいたけど、その子とはずっと一緒だった。
お別れをしなくちゃいけなくなったのは、小学校に上がる時。
その子のお父さんが、仕事で遠くへ行かなくちゃいけなくなった。
最初は、単身赴任という話だったが、家族全員行くようにと言われたのだそうだ。
それを聞いて、その時は単身赴任というのが何かは分からなかったけれど、その子がいなくなるのは分かった。
だから、大声を上げて泣いた。
その子も一緒に泣いた。
泣いて、泣いて、お父さんとお母さんを困らせて、それでもその子と二人で泣いた。
彼女が家族と一緒にここからいなくなる日。
彼女から、彼女がずっと大事にしていたぬいぐるみをもらった。
いつも彼女と一緒にいたぬいぐるみ。
それを、どれだけ大切にしていたか僕はよく知っていた。
だから、僕はその子に自分が大事にしていた石をあげた。
おじいちゃんの、お父さんからもらったんだって言う石。
綺麗な、光にかざすとキラキラと輝く石をお母さんが作ってくれた袋に入れた。
大切そうにそれを握って、その子は首から下げていた。
心のどこかで、行ってしまうのは自分にはどうしようもないのだと分かっていた。
だから、僕もその子から貰ったぬいぐるみを持って、泣きべそをかきながら、さようなら。と、手を振った。その子も、泣きながら手を振っていた。
お手紙、書くよ・・・
お手紙・・・?
うん。いっぱい書くから・・・
うん・・・待ってる。
その子が行ってしまってから、哀しくて、淋しくて声を上げずに泣いた。
ぽんぽんと、お父さんが頭を撫でてくれた。
お母さんも、今日は僕の好きな夕ご飯を作ってくれた。
嬉しいけど、やっぱり寂しくて、悲しくて・・・あんまり食べた気がしなかった。
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生まれた時から、ずっと一緒だったあの男の子。
毎日、毎日、一緒に色んな事をして遊んでいたってお母さんが言っていた。
家が隣同士で、歳も同じ。
数ヶ月だけ、あの子がお兄さん。
でも、私の方がお姉さんだと思う。
だって、すぐに泣くし私の後ろばっかり歩いているから。
幼稚園に行くまでは、お互いの家に一緒にいた。
幼稚園に行ってからも、ずっと一緒にいた。
他にも仲良くなった子はたくさんいたけど、その子とはずっと一緒だった。
お別れをしなくちゃいけなくなったのは、小学校に上がる時。
お父さんが、仕事で遠くへ行かなくちゃいけなくなった。
最初は、単身赴任という話だったが、家族全員行くようにと言われたのだそうだ。
言葉の意味が分からなくて首を傾げていたけど、それを聞いて、その子は、大声を上げて泣いた。
離れたくないと泣いているのを聞いて、あぁ、お別れになっちゃうんだと分かって・・・
泣くもんかと思っていたのに、つられて、一緒に泣いた。
泣いて、泣いて、お父さんとお母さんを困らせて、それでもその子と二人で泣いた。
お引っ越しをする日。
その子に、私がずっと大事にしていたぬいぐるみをあげた。
おばあちゃんが、私が生まれた日にくれた大切なぬいぐるみ。
どこに行くのも一緒だったから、私の代わりにあの子と一緒にいて欲しかった。
そうしたら、その子がその子に自分が大事にしていた石をくれた。
綺麗な、光にかざすとキラキラと輝く石。
どれだけその子がそれを大事にしていたのか知っている。
絶対に失くしちゃいけないって分かっていたから、大切に握りしめて、首から下げた。
私からもらったぬいぐるみを持って、男の子は泣きべそをかきながら、さようなら。と、手を振った。それにやっぱりつられて、泣きながら手を振った。
お手紙、書くよ・・・
お手紙・・・?
うん。いっぱい書くから・・・
うん・・・待ってる。
そんな約束をしてから、1週間が経った。
小学校が始まって、初めて会う人達といっぱい話をして・・・
最初は恐かったけど、少しずつ楽しくなり始めていた。
げんきですか? ぼくはげんきだよ。
さくらの花が、いっぱいさいてきれいです。
ひばりっていうとりさんもなきはじめて、あたたかくなりました。
そんな、短い手紙と、封筒に入れられた数枚の桜の花びら。
ちょっとぐにゃぐにゃしていて、読みにくい字で書かれた手紙に笑った。
送られてきた手紙を持って、帰って来たお父さんとお母さんに見せた。
嬉しくて、すぐに手紙の返事を書いた。
わたしはげんきだよ。
あたらしいともだちもできて、まいにちたのしいです。
こっちも、さくらがさいています。
あえないのはさびしいけど、またおてがみかくね。
一生懸命、ていねいに、ていねいに書いた。
向こうから送られてきた、薄紅の桜の花びらは栞にして、こっちの白い桜の花びらを手紙の封筒に入れた。
ポストに入れて、お母さんと手をつないで家に帰った。
返事はいつくるんだろう?
来週かな?
それとも、夏かな?
いつだっていい。
あの子からの手紙が、楽しみになった。
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拝啓 山の緑も色濃くなって、吹く風もどこか夏らしくなってきました。
中学生になったので、少し背伸びをしてこんな書き方にしてみました。
子供の頃、野山を駆け回れば小鳥や虫達の声が聞こえていたのに、今では殆ど聞こえません。
蛍の姿も、見ることができませんでした。
皆、どこへ行ってしまったのでしょうね?
ニュースでは梅雨に入ったというのに、あまり雨が降りません。
少し、今年は梅雨入りがずれているんでしょうか?
暑い日が続いています。お身体にお気をつけください。
敬具
あの子からの手紙。
あれから、もう9年が経った。
あの子との手紙は、もう何百通にもなる。
一つも失わずに、全て箱の中に大事にしまっていた。
電子メールというものもある。でも、なぜかお互いそんなものは使いたくなかった。
だから、葉書や封筒の手紙とでやりとりをずっとしていた。
手紙の書き方、と書かれた本を図書館で読みながら、一生懸命に次の手紙を書く。
字が汚いと笑われないように、硬筆や毛筆の勉強をしたのはあの子には内緒だ。
僕がお兄さんなんだから、少しくらいは見栄を張ったっていいだろ?
そんな言い訳をしながら、頑張って丁寧に書いた。
拝啓 麦秋の候、吹く風もすっかり夏めいてまいりました。お元気ですか?
そちらにならって、このような文体でお返しいたします。
こちらでも、虫の声はあまり聞こえません。
鳩や雀もめっきり減って、烏の声しか聞こえなくなりました。
その烏の声も、次第にしなくなってきています。
餌を求めて、引っ越しでもしてしまったのでしょうか?
梅雨なのに雨が降らないので、こちらは少々水不足になっています。
まとまった雨が降るといいですね。
暑かったのは昨日までで、今は涼しくなりました。
まるで、夏至も過ぎていないのに秋に入ってしまったようです。
急激な気温に変化が続く毎日、体調にはお気を付けください。
敬具
手紙を書く手を止めて、ふと窓の外を見る。
半袖の人は紫外線から身を守るために、ここしばらく見ていない。
みんな、暑くても長袖を着ている。
だから、この急に寒くなった気温でも風邪が流行らずにすんでいるようだけど。
ご飯よー!
はぁーい!!
台所からお母さんに呼ばれて返事をする。
丁寧に手紙を折ると、封筒に入れて栞を入れる。
昨日、学校の授業で作った和紙で作った栞。
小さい頃、あの子と一緒に見た夕日をイメージした紅葉色の栞に小さく笑う。
夏休み、お父さんとお母さんがいいって言ったら、遊びに行きたいな。
そんなことを考えて、封をした手紙を鞄に入れて台所へと向かった。
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拝啓 芒の穂が風にそよぎ、柿の実が日増しに色づくこの頃、いかがお過ごしですか?
学校の行事も一段落して、後はテストが待っています。
毎日、毎日、勉強漬けで、頭がパンクしそうです。
そうそう。一昨日、不思議な事が起きました。
楓が紅葉して、イチョウも黄色い葉を落としているのに、その根元に菫や蒲公英が咲いています。
そして、モンシロチョウやシジミチョウが周辺を飛び回っていました。
寝ぼけてしまったのでしょうか?
敬具
彼女からの手紙がポストに入っていて、汗だらけの手を拭ってから手に取った。
汗で濡れてしわくちゃになって読めなくなったら、泣くに泣けない。
ただいま、と叫んで、手も洗わずに部屋へと走る。
階下で母親が何か言っているようだが、無視して手紙を開いた。
拝啓 庭の金木犀が香り高い花を咲かせ、街路樹も色づき始めています。
こちらでも、桜が狂い咲をしています。
もう一度、満開の桜並木を通ることになるとは思いませんでした。
もうすぐ、高校受験ですね。
志望校は決まりましたか?
こちらは、また父が転勤をするそうです。
ですから、その場所から通える高校を探して受験しようと思っています。
急に暖かくなったり、寒くなったり、晴れていたのに雨が降ったりと、不安定な天気が続いております。
体調を崩さぬよう、お気をつけください。
敬具
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ちくちくと、冷気が頬を刺激する。
フード付きのコートを羽織って、急ぎ足でポストから手紙を回収した。
暖かい部屋に戻って、あの子からの手紙を探す。
あった。今度は封筒だ。中を見ると、写真が入っていた。
拝啓 例年よりも多少早く、鶯の初音が聞かれる頃となりました。
今年の冬は、雪があまり降りませんでしたね。
雪遊びができずに、少し残念でした。
そうそう、梅の花の根元に、今度は向日葵が咲きました。
ここ数年、こういったことが付近で見かけることが多いです。
いったいどうしてしまったんでしょうね?
じめじめとした、雨が続いています。
まるで、梅雨がきたようです。
それに、雨が普通の雨とは違いました。
黄色い雨と、黒い雨です。
あれは、いったい何なのでしょうか?
山の木が枯れ始めています。
車も、なんだか少しボコボコしていました。
壁も、ベランダも、黄色になってきています。
少し、不安になってきました。
息をするのも、時々息苦しく感じます。
お身体にお気をつけください。
敬具
一緒に入っていた写真には、赤茶けた山肌を覗かせる、懐かしい山々。
そして、いびつな凹凸のある車と、黄色くなった壁やベランダ。
視線は、自然と窓の外に向けられる。
そこには、写真と同じような光景が広がっていた。
すぐに便せんとペンをとって、返事を書いた。
前略 康哉様
その雨は、黄砂や排気ガスから出る窒素酸化物が溶けているのではないでしょうか?
木々が枯れて行くのは、酸性雨のせいかと思われます。
車も、おそらくそうでしょう。
雨にはぬれないよう、特殊コーティングされた傘を使う事をお勧めします。
古い傘では、外を数十分歩いただけで溶けてしまうので、とても危険です。
エコカーが普及し、確かに二酸化炭素の排出量は減りました。
けれども、周辺諸国から流れてくるものまではどうしようもないようです。
一時期、ガソリンなどの高騰により自転車が売れましたが、今は車がとても売れています。
自転車やバイクでは、降り注ぐ危険な雨を、いいえ、薬品やガスから身を守れないからです。
もう、免許の取れる年になりましたね。
購入するなら、特殊な金属コーティングされた車の購入をお勧めします。
選挙権も、2年後には得られ、多くの自己責任が伴う歳になります。
生きるためには、知識と情報を仕入れないといけなくなってきました。
ラジオに、新聞や、時事ニュースには耳を傾けていますか?
暦の上では春になります。体調にお気をつけください。
草々
暦の上では、か・・・そうだよなぁ。
四季のある日本は珍しい。
それは知っているけれど、今の日本は四季なんてあってなきものだ。
季節感のない景色に苦笑して、手紙の返事を書こうと便箋を引っ張り出した。
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前略 茅那様
空を見上げると、昔は朝なら薄いオレンジの朝焼け、昼なら綺麗な青空、夕方なら綺麗な茜空、夜ならば、満天の星空が広がっていました。
それら見えなくなったのはいつからだったのでしょうか?
今では、見上げれば見えるのは薄紫色のスモッグだけ。
毎日、毎日、光化学スモッグの注意報が流れて、外を歩くのにも酸素マスクなどをつけなくてはならなくなりました。
中には、空気に触れるだけで拒絶反応を示す人間もいるようです。
山には木など一本もなく、赤茶けた山肌が広がっています。
いつ、大雨が降って土砂崩れが起きるのかと、みんな不安でいっぱいなようです。
それに嘆きつつも、テレビの俳人達は風流だと言い始めました。
村の俳句をしている者達も、それを聞いて寂しそうに笑っています。
これも、時代の移り変わりでしょうか?
私にはよく分かりません。
今度、役所が補助金を出すので、避難所を作るそうです。
巨大なドームで、村人全員暮らせるだけのものができあがるとのことでした。
村の男達や、遠方からの職人達が毎日頑張っています。
僕もその手伝いのために、村を出られません。
遊びに行くのは、また別の機会になりそうです。
草々
前略 康哉様
さんさんと降り注ぐ強い陽射しに、ジュウジュウと、アスファルトが溶ける音が聞こえます。
薬品で守っているとはいえ、いつ家の壁や屋根が溶けるのかと、不安です。
外を歩く人影は、まったくありません。
電線は、早くに地中に埋められました。
ですが、その上にあるアスファルトが溶けて、電線の埋まった管が表に出てきそうです。
動物達は姿を消しました。
時折、烏の声はしますが、姿を確認することはできません。
こちらでも、スモッグの注意報は毎日流れています。
ダイオキシンやアスベストの問題が薄れてきたと思えば、また被害が拡大しつつあるようです。
何より、オゾン層が破壊されてしまったことにより、人体に有害な紫外線が直接降り注いでいるのが原因で、皮膚病やガン。それに、白内障などが流行しているようです。
私も、青空なんてもう何年も見ておりません。
ドームはこちらでも、着実に建設されています。
父も、設計士の一人として協力しているようです。
10年後に完成させるのが目標だと聞きました。
逢える日を、楽しみにしています。
草々
手紙を丁寧に畳んで、新しい箱の中に入れる。
都会も、農村地帯であるこちらもそんなに変わらないようだ。
おぉい・・・
くぐもった声がして、窓の外を見た。
仕事だぞぉー
今、行きます!!
部屋に戻り、不織布と不織布の間に特殊フィルターを挟んだ3層構造の防護服を着る。今ではもう、これを着て外に出なければ危なくて、歩くことなんてできやしない。
ゴーグルと、フィルターのついたマスクをつけて、外へと出た。
今日は天井に薬品を塗って、置いて行くぞぉ・・・
雨が降る前に急ぎましょうね。
だなぁ・・・うん?
ちらちらと、白いものが舞い落ちる。
雪かぁ?
季節感はあまりありませんが、今は一応夏ですよ?何でしょうね・・・灰、でしょうか?
さぁてな・・・ほら、仕事場に急ぐぞ。
はい!
促されて、足早にそこからドームを完成させるために作業場所へと向かった。
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前略 茅那様
雨が降るたびに、村の外にジャングルが広がっていきます。
もはや、四季などなくなってしまっているようです。
あるのは、夏とほんの涼しくなる秋のような時期だけ。
空を飛ぶ鳥や、力強く根を張る植物達は私達とは比べモノにならないくらいの、逞しい生命力を持っているようです。
有害紫外線が降り注ぐ中、生身のまま、外を自由に動き回る鳥や動物達が羨ましいです。私達はもう、防護服と窒素と酸素の混合気体が入ったボンベ付きマスクなしには、外を歩くことはできません。
外の空気は、ほとんど酸素と二酸化炭素だけで、中毒症状を起こすからです。
宇宙から降り注ぐ紫外線は容赦なく肌を焼き、空を見上げれば目を焼きます。
大気は、ジャングルのおかげか、多少綺麗になったようですが、まだまだマスクなしには歩けません。
ドームがようやく完成しました。今では、その中で暮らしています。
お互い、もう壮年といってもよい年になってしまいましたね。
逢いたいと思いながらも、機会を逃してしまいました。
今はもう・・・そこへ行く手段すら困難です。
時折、空から白い粒が降り注ぎます。雪ではないようです。
山に、川に、野原に、そしてドームの表面に降り落ちていきます。
あのジャングルが、少しずつ枯れ始めました。
人が触れたら・・・考えただけで恐ろしいと感じます。
それが原因なのか、咳が止まらない日々が続いております。
そちらは大丈夫でしょうか?
時節柄、というのもなんだかおかしいですが、お身体にお気をつけください。
草々
前略 康哉様
こちらも、咳が止まらない日々が続いております。
父や母が、急激な環境の変化に耐えられず他界してから数年が経ちました。
今では夫や子供達と暮らしていますが、時々二人がいない事が寂しく思います。
私もドームの中で暮らしております。
遺伝技術の向上から、絶滅を免れた動物達は避難所の一角で生活していますが、それもいつまで続くか分かりません。食料も、段々と乏しくなり始めました。
世界中で、生きている人間は私達が子供の頃の半分にも満たないようです。
世界一の長寿国と呼ばれているのは変わりませんが、それでも日本の平均寿命は、男性は60歳。女性は70歳だそうです。江戸時代のようですね。
いくつもの島々が海に沈み、海底火山の影響で新しく島ができ、世界地図が幾度となく描き直されているようです。日本も、そう遠くない未来に分断されるでしょう。
ドームの中から見上げる空は、いつも灰色。
せめて、死ぬ前には青空を見上げたいものです。
お互い、長生きできるよう、健康には気をつけましょう。
草々
送ったその手紙に、返事は帰ってこなかった。
その数日後。
幾重にも、幾重にも梱包された大きな宅配便が届いた。
差出人は・・・ずっと昔から、手紙のやりとりを続けていたあの人。
所々溶けてしまっている包みを開いて、その中からたくさんの箱を取り出す。
出てきたのは、今まで送り続けた手紙。そして、新しいあの人からの手紙。
前略 茅那様
おそらく、これが最後の手紙でしょう。
もう、私達の暮らす村のドームは持ちません。
少しずつ溶け始め、穴があき始めました。
修繕に修繕を重ねてきましたが、もう駄目のようです。
村人達は、ここを出る準備をしています。
私も準備をしていますが、きっと間に合わないでしょう。
あぁ、もう天井に穴があきました。
隣の家に住む住人が、避難しろと呼びに来ています。
この手紙を書き終え、今まで手紙を同封いたします。
子供達や貴方の住んでいる所ならば、まだ大丈夫でしょうから・・・
私も、また子供の頃に見たあの青空を見たいと願っていました。
私の分も、長生きをしてください。
草々
パタパタと、膝の上に涙が落ちた。溢れる涙を拭って、立ち上がる。
おばあちゃん、どうしたの?
おばあちゃんのお友達がねぇ・・・遠くへ逝ってしまったんだよ。
そうなんだ・・・
千夏。おばあちゃんが死んだら、この手紙を大事にしまってくれるかい?
変なおばあちゃん。でも・・・うん、いいよ。
笑う孫に微笑んだ。
自分が書いた手紙を入れた箱の横に、遠くへ逝ってしまった彼の手紙が入った箱を置く。
何千通にもなった、たくさんの葉書に封筒にポストカード。たくさんの手紙。
この日送られてきた最後の手紙には・・・
まだ、返事は書かなかった。
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「・・・・・・それで?」
「うん?」
「その後、どうしたの?」
「おばあちゃんね、それから100歳まで生きたんだよ」
「100歳!!凄いね。私のおばあちゃん、60歳だったよ」
「じゃあ、千夏ちゃんの家に手紙はまだあるの?」
「ううん。お父さんとお母さんが資料館作ったから、そこに飾ってあるよ」
「へー」
「貴重な資料なんだって。環境の汚染が悪化する前に作られた紙とか、桜とかの植物も残っているし・・・それに、おばあちゃんもそうやって残してくれるなら、って言っていたし」
「ふうん・・・」
「この男の人、本当に死んじゃったの?」
「うん。手紙をおばあちゃんに送って、避難所までは移動できたんだけど・・・アスベストで肺をやられて死んじゃったみたい。それに、放射能で細胞がほとんど汚染されていたんだって」
「あぁ・・・ドームの工事で?」
「あの時、外国の原子力実験が近くで行われていたんだってね・・・」
「そうそう。無許可でね・・・日本海近くだったから、魚もたくさん死んだし、灰も飛んだみたい」
「手紙の白い雪みたいなものがそれってわけ?」
「たぶんねー」
「昔もあったんだってね、そんな話」
「うん」
そんな話をしながら、ドームの中から空を見上げる。
おばあちゃん達が見たいと願っていた青空は、ホログラムという手段で見ることはできる。でも、それはしょせん人工の青空。本物は、生まれてから一度も見ていない。
「ドームの外、だいぶまともになったらしいよー」
「へぇ・・・そうなんだ。」
「うん。もうちょっとしたら、試験的に外に出てみようかって…」
「じゃあ、本物の空が見られるかな?」
「どうだろ・・・?」
「でも楽しみだよねー」
「ねー」
首を傾げる友達と笑いながら、家へと帰る。
「千夏―・・・手紙が来てるわよー」
「はーい」
靴を脱いで手を洗い、手紙を受けとって、仏壇の前に座った。
一つだけ、両親も、資料館を訪れて二人の手紙を読んだ人も、誰も知らない事がある。
それは、おばあちゃんと私と・・・あの人だけの秘密。
最後の、本当に最後の二人が交わした手紙。
手紙のやりとりをする、きっかけとなった出来事が綴られた一通の便箋。
貴方とこの約束をしたのは、いつだったのでしょうね?
毎日、毎日、一緒に遊んでいて、生まれた時からあなたとはずっと一緒でした。
家が隣同士で、年も同じ。数ヶ月だけ、私がお兄さんでしたね。
幼稚園に行くまでは、お互いの家に一緒にいて、幼稚園に行ってからも、ずっと一緒。他にも仲良くなった子はたくさんいたけど、貴方とはずっと一緒でした。
でも、小学校に上がる時、貴方のお父さんが、仕事で引っ越しをして、別れを告げなければならなくなりましたね。あの頃は、小さすぎてどういう事か分かりませんでしたが、貴方がいなくなるのは分かって、大声を上げて泣きました。
泣いて、泣いて、両親を困らせて、それでも貴方と二人で泣いたのを覚えています。
貴方達家族が引っ越す日。
貴方がずっと大事にしていたぬいぐるみを受け取ったのを、鮮明に覚えています。
私が貴方にあげた、あの石はどうなったのでしょうか?
大切そうにそれを袋に入れて、首から下げていましたが、まだ貴方は持っていてくれているのでしょうか?
私はまだ、あのぬいぐるみを大事にしまっています。
時々日陰干しをしては、丁寧に、丁寧に手入れをしていました。
そう。あの時、約束をしたのでしたね。
私から、貴方に手紙を書くと。
あの頃が懐かしい。まだ、青空が広がり、鳥や虫達がざわめいていたあの頃。
私達の代では無理でも、いつしか子供達の子供達が大人になる頃。
その頃までには、人工物ではない、本物の青空を仰げることを願っています。
梓崎 康哉
幼い頃、私は貴方よりも私の方がお姉さんだと思っていました。
すぐに泣くし、私の後ろばっかり歩いていたからです。
だから、貴方を守らなくては…そんな事を考えていました。
私が引っ越しをすると聞いて、貴方は、大声を上げて泣きましたね。
私は泣くもんかと思っていたのに、つられて、一緒に泣いてしまったのを覚えています。
泣いて、泣いて、両親を困らせて、それでも二人で泣いて、あれも、良い思い出の一つです。
引っ越しをする日。
私は貴方にぬいぐるみを渡して、あなたは綺麗な、光にかざすとキラキラと輝く石を渡してくれました。どれだけ、貴方がそれを大事にしていたのか知っていました。
だから、絶対に失くしちゃいけないと思って、大切にそれを袋に入れて、首から下げていました。今でも、あれは私のお守りです。
手紙を書いている今も、首から下がっていますよ。
最後には、私からもらったぬいぐるみを持って、泣きべそをかきながら、さようなら。と、手を振った貴方に、やっぱりつられて、泣きながら手を振り返しました。
あの時の約束をしてから、1週間後に届いた貴方からの手紙。本当に嬉しかった。
あれからもう90年も経ったのですね。
あの時、あなたは6歳。私はまだ5歳。
今ではもう、貴方は遠くへ、私はよぼよぼのおばあちゃんになってしまいました。
それなのに、あの時の事は今でもよく覚えています。不思議なものですね。
もう、紙面が尽きてきました。私も、もうすぐ貴方の所へ逝くでしょう。
その時は、今まで紙面では話せなかった事を、たくさん話せることを願っています。
綾瀬 茅那
同じ封筒に入った、二通の便箋。
消印のない、その手紙と一緒にぬいぐるみと石が光る。
キラキラと、人工の太陽の光を反射する石を首から下げたぬいぐるみが、黒い瞳で自分を見返した。その鼻先を軽くつっついて、届いた葉書を裏返す。
千夏様
外に初めて出ました。防護服を着てですが、青空が見えました。
初めて見る青空に、興奮が収まりません。僕は、祖父の願いをこうして叶える事ができました。貴方はどうですか?
「あーあ、先こされたー」
青空は先に見られてしまった。でも、まだ彼もやっていない事がある。
弘毅様
私も、ドームの外に出られたし、草花にも触れましたよ。凄いでしょう?
動物達も、外で暮らせるようです。
人間も、少しずつ昔のように外で生活できるでしょう。
もしも機会があれば、外で会いたいものです。
「うん、これでいいね」
葉書を書き終えて、ポストに投函する。
届くのは1週間以上あとだが、それでもかまわない。
だって、草木に触れるのは、これからの予定なのだから。
嘘じゃないもん。必ずやることだもん。
「おーい!」
「行くよー!」
「はーい!!」
そんな事を考えながら、駆けだす。
両親はどう思うんだろう?
祖母の文通相手の孫と、自分が手紙をもう一度やり取りしていると知ったら・・・
その時を思って、楽しくなって笑えてきた。
「どうしたの?」
「あ、わかった。今日が楽しみだったんだ」
「せいかーい」
笑って、一歩シャッターの外へと踏み出す。
「わ、ぁ・・・!!」
見上げた視界いっぱいに、本物の青空が広がっていた。
あの頃は温暖化とか、今よりずっと騒いでいたなぁなんて思って。
騒いでいたあの時より、騒いでいない今の方が色々深刻なのにね。