喫茶店を出た俺は、ユメさんと小鳥遊さんが待っているであろう場所へ急ぎながら、さっきまでの黒服さんとやり取りを思い出していた。
ギヴォトスに来てから色々あり過ぎて、考えもしなかったが、傍から見たら俺やアイギスって実は滅茶苦茶怪しいのではないだろうか……
ギヴォトス唯一と言っても過言ではない生身の男であり、ギヴォトスのトップが目を光らせてる場所から出てきた大盾持ちの浮浪人。よく考えなくても怪しさ二百満点である。
今でも外を歩けば珍しいものを見るような目でジロジロ見られてしまうのだ(半分はアイギスのせい)。あの二人だって男を見るのは初めてだって言ってたし……もしかして俺危機感無さすぎ?
下手したら、俺が知らないだけで連邦生徒会から指名手配されてたりとかして……なんだか一気に不安になってきたぞ。大丈夫だよな、大丈夫と言ってくれアイえもんッ!
《ネットニュースや一般公開されている指名手配リストで該当する者はありません》
どうやら大丈夫のようだ、いやそれでも水面下で俺を捕縛する準備進めてたり、アイギスの監視網の外から監視されてたり……というか黒服さんに監視止めてもらえるように言うの忘れてたな。やばい、考えれば考える程不安になってきた。
「…………まあ、いいか。何とかなるだろ」
過ぎたこと考えても仕方ない。これから気を付ければいいやろ。もちろん頑張ってもらうのはアイギスだけどね!
「というわけで、改めてこれからもよろしくなアイギス!」
《マスターの不安を処理する速度は速いですね》
「よせやい、ただの現実逃避だよ」
《問題を解決せず、思考を打ち切る傾向も再確認できました》
「言っとくけどそれ、全く褒めてないからな」
不安を頭の隅の隅に追いやりながら漫才をしていれば、目的の場所へ到着する。辺りを見回すもまだ二人とも到着していないようだ。
そういえば前世を含めても、誰かと遊ぶのって覚えてる限り片手の数しかない気がする。そう考えると何だか緊張してきたな……菓子折りとか買っておいた方がいいかな。
「おーい、ミナトくーんッ!」
声の方を振り向くと、満面の笑みで大きく手を振りながら走ってくるユメさんが見えた。無邪気な笑顔が隅の隅に追いやった不安を根こそぎ消し去ってくれる。あぁ^~心が浄化されるんじゃぁ^~
「ちょッ!ユメ先輩!置いてかないでください!」
その後ろを、置いてかれないように走ってついてくる小鳥遊さん。相変わらず振り回されてるな~大型犬と、そのリードを持つ飼い主みたいで、見ていて飽きない。
「もう、急に走らないでください!そうじゃなくてもユメ先輩は何もないところで転ぶんですから!」
「だってだって、ミナト君見つけたら嬉しくなってつい……」
「ついじゃありません!大体ユメ先輩はそそっかしいんです!この前だってッ――」
「ひぃん、次から気をつけるから許してぇ」
目の前で繰り広げられる微笑ましい光景に思わず頬が緩む。これぞアビドス生徒会と言った感じである。
「何ニヤニヤしてんのミナト……ぶっ飛ばすよ」
「そうやってすぐ凄むのよくないと思うよ小鳥遊さん。せっかくの可愛い顔に皴寄っちゃうよ」
「か、かわッ!///……う、うっさいバカミナトッ!///」
「あぶなッ!今ちょっと掠ったッ!空気が抉れる音したよ今ッ!アイギスッ、ヘルプミーッ!」
《マスターの回避能力で十分対処可能です》
「薄情者ーッ!」
どうにかこうにか小鳥遊さんの猛攻を回避していく。ちょっとユメさん!ニコニコしながら見てないで助けてほしいんだけど!
「ふふ、ホシノちゃんとミナト君、仲が良くて嫉妬しちゃうな~」
「「仲良くないッ!(ですッ!)」」
《皆さんの声量が周囲の迷惑になっています。これ以上の応酬は控えることを推奨します》
「「「……すいません」」」
アイギスに窘められてしまった、マスターとしての威厳が……まあ、でもこれでようやく落ち着いて話せる。さあ気を引き締めろ神城ミナト!まずは挨拶からだよな、えぇと……
「……今日は私めをお誘いいただき恐悦至極?」
「仰々しいよ!普通に遊びに誘っただけなんだから、もっとリラックスしてよ!」
今日はなんだか緊張しっぱなしだな。やっぱり初めは「お日柄も良く~」から入った方が良かっただろうか……未知の体験過ぎる。
「えっと……実は、こうして誰かと遊びに行くのって、あまり慣れてなくて……」
これ以上知ったかして醜態晒すより、正直に話したほうが傷も浅めで済むだろう。手遅れな気がしないでもないが……
俺の言葉にユメさんは一瞬きょとんとして、それからぱっと笑顔になる。
「そっかぁ!じゃあ今日はお姉さんに任せて!張り切って案内しちゃうんだから!」
むんっ、とご立派な胸を張りながらお姉さん風を吹かせるユメさん。うーん、ユメさんには悪いが少し不安だなぁ……視線を小鳥遊さんに向けて、目で訴えかける。小鳥遊さん出番だぞ!しっかり手綱握っててくれぇ!
「……はぁ、ユメ先輩少し落ち着いてくだ――」
「よぉし!じゃあホシノちゃん、ミナト君!レッツゴーだよ―ッ!」
「え、ちょっ、いきなり――ッ!」
「ちょっ、ユメ先輩なんで手を握って――ッ!」
いきなり手を握ってきたかと思ったら、凄い勢いで走りだしたユメさん。隣を見れば同じように引っ張られてる小鳥遊さんの姿。どうやらユメさんの中で、さっきの小鳥遊さんの説教は遥か彼方にぶっとんでいったらしい。手綱を握るのは失敗のようだ、トホホ……
こうして俺の初めての街ブラはされるがまま、慌ただしいスタートを切るのだった。
あれから引っ張られること約十分。目的地にたどり着き、やり切った感を出しているユメさんを待ち受けていたのは、鬼の形相で仁王立ちしている小鳥遊さんからの説教であった。烈火の如く叱られたユメさんは正座させられ、鼻水垂らしながら半べそかいている。
因みに地べたで正座させるのは可哀そうとのことで、アイギスの上で正座させられているユメさん。なんともおいたわしい……アレがさっきまでドヤ顔だった自称お姉さんの姿である。というかアイギスも断っていいんだぞ?
「……ユメ先輩、反省しましたか?」
「ひぃぃん……ホシノぢゃぁぁん、ごべんなざぁぁい!」
どうやら説教は一段落したようだ。
小鳥遊さんお疲れ様、さっきそこのお店で買ったお茶だよ。喋り過ぎて喉乾いたでしょう?まあまあ遠慮せずに、それオススメらしいけど美味しい?
アイギスもお疲れちゃん、ところであのシールド面がクッションみたいになるやつ、いつできるようになったんだ?あとで俺も寝てみたいんだけど
ユメさんはとりあえず俺のハンカチで涙を拭いてください……あぁちょ、鼻かまないでくだ――いえ、何でもないです
ようやく収拾がついて、みんな落ち着いたところで本題に入る。
「それでユメさん、ここは一体……」
「ふふん!ここはね柴関ラーメンだよ!」
気を取り直したユメさんが指さす方向に目をやると、木枠の窓と、落ち着いた色合いの外壁。軒先には濃い青緑色の屋根が張り出し、その上に大きな木製の看板が掲げられている。黒々とした文字で書かれた「柴関ラーメン」の看板は、年季の入った木目と相まって、店の歴史を感じさせた。
「ここはアビドス自治区で一番美味しいラーメン屋さんなんだよ!私たちもよく食べに来てるんだ~」
「そうなのか小鳥遊さん?」
「ズズッ……何で私に振るの。まあ確かにここのラーメンは絶品だよ。」
美味しそうに頬を緩ませてお茶を飲んでる小鳥遊さんに話を振ると、キリッと表情を引き締めて答えてくれる。そんなに気に入ったのかな、あとでユメさんにも買ってあげよう。
それにしてもラーメンか、そういえばこっちに来てから口にしてなかったな。二人がここまで推すラーメンとなると滅茶苦茶気になる。さっきから店の外からでも分かる香ばしい匂いに反応してか、腹の虫が騒ぎ出した
「それは……気になりますね」
「でしょでしょ!じゃあ早速入っちゃおー!」
張り切るユメさんに続いて店に入ると、店内には木の色を生かしたカウンターやテーブル席が並んでいる。真新しい店というより、長いあいだ地元の人たちに使われてきた場所、そんな雰囲気だ。壁にはメニューが貼られ、厨房から立ち上る湯気とともに、豚骨スープの重厚な香りや、醤油の香ばしさ、ニンニクと背脂の匂いが鼻腔を満たしてくる。
「へい、らっしゃい!お、ユメちゃんか、来てくれたのかい!」
「柴大将ー!三人なんだけど、席空いてるかな?」
「おう!空いてる席に座んな!」
声のした厨房の方へ目を向ける。そこにいたのは、青い法被に白い前掛けを身につけた柴犬だった。ユメさんが大将と言っているし、店の名前からしてここの店長だろうか?
アイギスを壁に立てかけて、テーブル席に腰を据える。改めて店内を見渡していると、柴大将がお盆に水を乗せて運んできた。
「あれ、そっちの坊主は見ねえ顔だな。ユメちゃん達の友達かい?」
「この子はミナト君だよ!アビドス生徒会の手伝いをしてもらってるんだ~!」
「どうも、神城ミナトです……」
「ミナト君か!俺はここで店主をやってるもんだ、よろしくな!」
右目の隻眼や左目の下の十字傷といった厳つい風貌ながらも、昔ながらの人情家らしい貫禄がありつつ、人懐っこさが声にも表情にも滲み出ている。そして極めつけはその毛並み。頼んだらモフらせてくれないかな……
「よっしゃ!初めて来てくれたミナト君のために、腕によりをかけて作ってやる!うちのラーメンをしっかり味わってもらわねえとな!それじゃあ注文聞くぜ」
「そうですね……大将、オススメとかあります?」
「おう!初めてなら、まずは柴関ラーメンだな!うち自慢の一杯よ!」
「このお店に来たら迷わずラーメンですよね!柴大将、私は醤油でお願いします!」
「じゃあ私は特製味噌で炙りチャーシュートッピングを」
「それじゃあ、俺は豚骨ラーメンでお願いします」
「醤油ラーメン、特製味噌ラーメンに炙りチャーシュートッピング、豚骨ラーメンだな!よし、作ってくるから、ちょいと待ってな!」
注文を確認した柴大将は、威勢よく厨房へ引っ込む。その間、他愛のない話をしていると、ほどなくしてお盆にラーメンを乗せた大将が戻ってきた。湯気とともに、豚骨や醤油の濃厚な香りが再び広がる。
「お待ちどう!三人とも熱いうちに食ってくれ!」
テーブルに並べられたラーメンに、ユメさんも小鳥遊さんも目を輝かせている。俺の目の前の豚骨ラーメンも器からはみ出しそうなほど具材が盛られていた。これすっごい量だけど、普通盛りなのか?
「よぉし!待ってましたー!いただきまーす!」
「「いただきます!」」
まずはスープをひと口。レンゲですくって口に運ぶと、濃厚な豚骨の旨味が舌に広がった。醤油の塩気が味を引き締め、背脂の甘みとニンニクの香りがあとを追いかけてくる。見た目どおり力強い味だ。けれど、ただ重たいだけではない。気づけばもうひと口すすっていた。
続いて麺を持ち上げる。太くて、箸にずしりと重みが伝わる。スープをたっぷりまとった麺をすすれば、歯ごたえのある食感と濃い味が一緒に押し寄せた。
「……美味い」
思わず声が漏れてしまうほどの旨味に箸が勝手に進む。なんだか視線を感じるが、関係ない。今は目の前のラーメンを夢中で啜り続けることしか考えられない。
味がしみ込んだもやしも噛めば噛むほど肉汁が溢れるチャーシューも、余すことなく味わい尽くす。最後には器を掴み、スープを飲み干す。あっという間に完食である。
「ふぅ……ごちそうさまでした」
前世を含めて、今まで食べてきたラーメンの中で文句なしの一番だった。これはやばい、アイギスが許してくれるなら毎日でも通っちゃう。ふと、二人はどうだろうと目をやると、何故か目が合った。
「……どうしました二人とも?」
「……ふふ、何でもないよ。ただ連れてきてよかったなって思って」
「ミナトって美味しそうに食べるよね、あんなにガッツいちゃってさ」
「あれだけ美味しそうに食べてくれるんなら料理人冥利に尽きるってもんよ!」
どうやら夢中になり過ぎていたようだ。ユメさんも小鳥遊さんも俺なんか見てないで早く食べなさいよ、麺がのびるでしょうが!大将もあんまり大声でそういうこと言わないで!恥ずかしすぎる……
顔に熱が集まる感覚を味わいながら、視線を逸らすと壁に立てかたアイギスが目に入る。心なしか、いつもより威圧感を感じる。あれ、アイギスさん……もしかして怒ってる?
《……マスター。以前からお伝えしていますが、食事はもう少しゆっくり摂ってください》
「……あぁ、ええと、アイギスさん?」
《先ほどから何度も注意していますが、マスターはラーメンに夢中で、耳を傾けることすらしませんでしたね》
「……はい、すいませんでした」
二人が食べ終わるまで、アイギスの有難いお話を延々と聞かされるのであった。
「ミナト君の新たな一面が見れてよかった~。よぉし、この調子でもっと引き出しちゃうぞぉ!」
「ユメ先輩、早く食べないと伸びちゃいますよ」
「そういうホシノちゃんもミナト君の顔に釘付けだったみたいだけど?」
「変なこと言うのやめてください!///馬鹿な事言ってると、ユメ先輩のチャーシュー食べますよ!」
「ひぃん、ダメだよホシノちゃん!大事にとってあるんだから!」
3人の休日はまだまだ続く。
ここまで読んでいただいたありがとうございます!
前回シリアスに入ると言ったけど、あれは嘘です
この日常回終わり次第、有言実行いたしますので、何卒ご容赦を…!
ご意見・ご感想あれば、是非お待ちしています!