ようやくミナト君と原作キャラとの絡ませられた!
それではどうぞ
『アビドス砂漠』
名前の通り、アビドス自治区の大半を覆っている広大な砂漠だ。元々ここ一帯が全部砂だったわけではなく、昔はもっと人も多く、街もちゃんと機能していたらしい。けれど数十年前のある時期から頻発し始めた大規模な砂嵐によって砂漠化が進行し、建物も道路も次々と砂に呑まれていった。
当然、何も対策しなかったわけじゃない。
砂漠化を食い止めるために莫大な資金を投入したものの、状況はほとんど好転せず、残ったのはとんでもない額の借金。好転の見込みなしと絶望した生徒の多くが転校・退学し、生徒数も減少の一途を辿ってしまったようだ。
その結果、かつては広大だったアビドス自治区そのものが、今ではすっかり衰退してしまった――とアイギスから聞かされていた。
そんな場所をこれからオーパーツ捜索で駆けずり回るわけだが、一か所だけならまだしも、候補地点は自治区全域に点在している。それを自分の足だけで回ろうものなら、オーパーツを見つける前に俺が干からびてしまう。
というわけでアイギスと相談した結果、移動手段を用意することになった。
そして現在――
砂煙を巻き上げながら、一台の四輪駆動車がアビドス砂漠を突っ走っている。ブラックマーケットで借りてきた砂漠走行対応の四駆だ。荷台には水や食料も積み込んであり、今回の足としては申し分ない。
因みに運転はアイギスに全部任せている。なんでも車両制御系へ介入し、走行に必要な操作を代行しているらしい。運転なんて当然したことなかったから正直助かってる、アイギス様々である。
そんなこんなで始まったオーパーツ捜索だが――結果から言えば、絶賛難航中である。
「いやぁ……ここまで見事にハズレ続きとは」
《正確には、すべてがハズレだったわけではありません》
「壊れてるか、別物なら似たようなもんだろ……」
原因は、現在のアイギスの探査精度にあるらしい。
《現状では広範囲の反応を検知できますが、詳細な識別には精度が不足しています》
「範囲は広いけど、何があるかまでは分からないってことか」
《肯定。ただし、正常なオーパーツを一つ取り込めれば探査機能の精度向上が可能です》
「その最初の一個が見つからねぇんだよなぁ……」
オーパーツを探すために、まずオーパーツが必要になる。
世の中うまくできていない。
窓の外には、どこまでも続く砂の大地。
借り物の四駆は砂煙を引きながら、砂漠を走り続けるのだった。
――それから一時間ほど経った頃。
《マスター、間もなく次の捜索地点へ到着します》
「ん……もうそんな走った?」
運転席で代わり映えのない景色をぼんやり眺めていた俺は、アイギスの声に身体を起こした。
《到着まで約五分。なお、捜索地点周辺に二名分の生体反応を検知しました》
「……生体反応?」
《肯定、現在も同地点に留まっています》
「こんな砂漠のど真ん中に?」
ぼんやりしていた意識が、一気にそちらへ向く。
「一旦停めよう。少し離れたところで」
《了解しました》
四駆は速度を落とし、目的地点から少し離れた砂丘の陰で停止する。車を降り、持ってきた双眼鏡を手に砂丘を上る。頭だけ出すようにして目的地点を覗けば――
「……いた」
人影はアイギスが言った通り二人。一人は緑がかった薄い水色の長い髪をした、俺より少し年上に見える女性。もう一人は短いピンク髪で、俺より年下に見える女の子。そして二人揃ってシャベルを手に、せっせと砂を掘っていた。
《目的地点は二名が掘削している地点の直下です》
「マジかよ……」
どうやら先客らしい、しかしそれ以上に気になることが一つ。
「………スク水?」
《衣服の形状から、水着の一種である可能性が――》
「いや、それは分かる」
なんで砂漠のど真ん中でスク水着て穴掘ってんの?
長髪の彼女は暑さにへばって息を切らしながらも、どこか楽しそうに砂を掘っているのに対して、ピンク髪の少女の方は汗を流しながら、見るからにうんざりした様子でシャベルを動かしていた。
「……すげぇ絵面だな」
とはいえ問題はそこじゃない。二人が掘っている場所と、俺たちの目的地点は完全に重なっているということはつまり……
「目的は俺たちと同じオーパーツか……これ、どうすんの?」
双眼鏡から目を離す。
もし俺たちの目当てがあそこから出てきたとして、先に見つけるのは多分あの二人だ。そうなれば譲ってもらえるよう交渉する必要がある。話自体はアイギスが何とかしてくれるだろうけど、向こうが応じてくれるかは別問題だ。
最悪、揉めて戦闘に――なんてこともあり得る。
「なあ、アイギス……」
《何でしょうかマスター》
「別の場所探そう。他にも反応あっただろ?」
昨日見せてもらった地図には、今日捜索した場所以外にも候補地点がいくつもあったはずだ。わざわざ先客がいる場所に突っ込む必要もない。我ながら平和的な解決策である。
しかし――
《……当地点からの撤退は、推奨しません》
「えぇ、なんで?」
《目的座標へ接近したことで探査精度が向上しています。現在検出している反応は、あの二名が掘削している地点とほぼ一致しています》
「……つまり?」
《当地点にオーパーツが存在する可能性は極めて高いと判断します》
「マジかぁ……」
《他にも候補地点は存在します。ただし現時点でここまで明瞭な反応を確認できているのは当地点のみです》
つまり他を探しに行くこと自体はできる。ただ、ほぼ当たりだと分かっている場所を捨てて、当たりかどうかも分からない場所へ向かうことになるわけだ。
「……それは勿体ないなぁ」
もう一度双眼鏡を構える。まあ話しかけるだけなら大丈夫だろう。向こうだっていきなり撃ってくるなんて――
「…………ん?」
気のせいか……ピンク髪の少女と視線が交差した気がした。
「…………は?」
いやいや待て、ここ結構離れてるぞ?
こっちは砂丘に隠れて頭を少し出しているだけだ。双眼鏡を使ってようやく表情が見える距離なのに、少女の目は明らかにこちらを捉えている。
「……アイギス、俺の気のせいだと思うんだが……あの子、俺たちのこと見てないか?」
《……対象の視線はこちらを向いています。ただし当方を認識しているかは――》
その瞬間、双眼鏡から少女の姿が消えた。
「――え?」
直後、乾いた銃声が砂漠に響く。
「うおッ!?」
反射的に頭を引っ込めた直後、さっきまで顔を出していた場所を散弾が薙ぎ払い、砂が盛大に弾け飛んだ。
「ちょっ!撃ってきた!?」
《マスター、後退してください》
「言われなくても!」
砂丘を滑り降りるように後退する。なんだよあいつ!この距離で視線に気づくのおかしいだろ! というか確認もせず撃つなんて容赦なさ過ぎるだろッ!
さらに二発、三発と銃声が続く。だが散弾が撃ち込まれたのは俺ではなく、少し離れた砂地だった。巻き上がった砂煙の中から、ピンク色の影が飛び出す。
「は?」
鋭い目が俺を射抜く。地面を蹴り、ショットガンを撃ちながら、砂地とは思えない速度で距離を詰めてくる。
「アイギス!」
慌ててアイギスを掴んで前方に構える――が前方にあの少女はいない。
「え、どこ行っ……」
《マスター、後方です》
「――ッ!?」
振り向こうとして、後頭部に冷たく硬いものが押し付けられる。いつ回り込まれたのかすら見えなかった。
「動くな」
後頭部に押し付けられた銃口よりも冷たい声が背後から掛けられる。冷水を頭からぶっかけられたと錯覚してしまうほどのそれに、背中を冷汗が伝う。
「…………」
動いたら有無を言わさず撃たれる。背後に立つ彼女は本気でそうするだろう。
この一か月アイギスに散々しごかれ、実戦でも何度か勝ってきた。
だから心のどこかにあったのだろう。
苦戦はしても、アイギスと一緒なら負けはしない――そんな慢心が。
けれど、目の前の少女は違った。
勝てない、それ以前に勝負にすらなっていない。
改めてギヴォトスの危険性を思い知らされながら、この状況をどう切り抜けるか脳みそをフル回転させる。そんな俺とは対照的に、アイギスはいつもと変わらない声で告げた。
《対象の戦闘能力を再評価――現状のマスターによる対処は困難と判断》
「見れば分かるし、骨身にしみてますよぉ……」
「勝手に喋るな」
「分かったからッ!だから撃たないでッ!銃口グリグリしないでッ!」
頭に銃口は洒落にならないッ!暴発でもしたら例えヘイローがあってもただじゃすまないからッ!今まで味わったことのない危機的状況に俺が震えている中、少女の視線がアイギスへ移る。
「そっちの……盾でいいのそれ?とにかく動くな」
アイギスを目で制しながら淡々と話す少女に対して、アイギスもまた淡々と返す。
《敵対の意思はありません。我々の目的は当地点に存在する物品の捜索であり、あなた方への危害を目的としたものではありません》
「人のこと隠れて覗いてたヤツの言葉、信用できると思うの?」
「………」
ごもっとも過ぎて何も言い返せない。砂漠のど真ん中で、正体不明の男が巨大な盾を連れて遠くから双眼鏡で監視……うん俺が逆の立場なら通報してる。
《必要であれば目的および捜索対象について情報を開示します。交渉を提案――》
「必要ない」
即答だった。その一言で更に空気が重くなる。
頭に向けられた銃口はそのまま。下手に振り返ることもできず、少女がどんな表情をしているのかすら分からない。それでも――これ以上動いてはいけないと、本能が警告していた。
《……マスター、抵抗を推奨しません。そのまま動かないでください》
「…………」
何も答えず、指一本動かさない。
アイギスが俺の生存を優先するのは、俺がアイギスとの『適合者』であるためであり、アイギスの機能を十全に発揮するためである。
そのアイギスが、盾を取れとも、構えろとも言わなかった。
――抵抗するな
それが何を意味するのかくらい、俺にも分かる。そもそもアイギスなしでの防御なんて教わっていないし、今ここで抵抗したところで、盾に手が届くより先に撃たれる。
背中の冷汗がより一層ひどくなる。ほんの数秒の沈黙が、やけに長く感じられた。
そして――
「ちょ、ちょちょちょっと待ってぇぇぇぇ!!」
遠くから、緊迫した空気にはあまりにも似つかわしくない声が響いた。
「その人まだ何もしてないよー! 撃っちゃダメだからねーっ!」
砂を蹴散らしながら、長髪の彼女がこっちへ走ってくる。
「ホシノちゃーん! 待って! お願いだから待ってぇー!」
「……ユメ先輩」
「はぁっ……はぁっ……や、やっと追いついたぁ……」
彼女は膝に手をついて盛大に息を切らす。
「ふぇ~あつぃ……じゃなくて!ホシノちゃん!いきなり襲っちゃダメだよ!?」
「見るからに怪しいじゃないですか、私たちのこと監視してましたよ」
「それは……」
長髪の彼女が俺を見る。
「…………」
「…………」
なんとも言えない沈黙が流れた。
「……と、とりあえず撃つのはやめよう?ね?」
少しして、ようやく頭に突きつけられていた銃口が離れた。
……助かった、まだ警戒されているのは嫌というほど伝わってくるが、少なくとも今すぐ撃たれることはなさそうだ。
それから彼女たちに促され、ここへ来た事情を一通り説明した。
オーパーツを探していること。アイギスが反応を探知し、辿ってきた先が二人の掘っていた場所だったこと。そしてオーパーツがアイギスの修理に必要なこと。
正確には修理ではなく失われた機能を取り戻すためなのだが、その辺りは説明するとややこしいし、世界の滅亡云々についても同様に省略させてもらった。
「なるほどぉ……それでオーパーツ?を探してたんだね」
長髪の彼女は何度も頷きながら話を聞いていたが、ピンク髪の少女は相変わらずショットガンを手放さず、警戒心剥き出しで睨んでくる。怖すぎてちびりそう……
「ねえオーパーツって……もしかして、これのこと?」
長髪の彼女がポケットから何かを取り出した。手のひらほどの大きさをした、黒銀色の多面体。表面には幾何学的な細い溝が幾重にも走り、その奥で淡い青白い光が微かに脈打っている。明らかに普通の物じゃない。
「さっきホシノちゃんと掘ってたら出てきたんだけど……」
「……アイギス」
《了解ですマスター》
俺の声かけにアイギスは一瞬だけ表面を淡く光らせて応える。
《照合完了、当該物体は捜索対象のオーパーツです》
十一か所目にして、ようやくまともな当たりを引いた。しかも、こいつを一つ取り込めれば次からの捜索精度も上がる。
だからこそ――簡単に諦めるわけにもいかなかった。
そんなことを考えている俺をよそに、二人の話は別方向へ進んでいた。
「それでユメ先輩。この人たちどうするんですか?」
「え?」
「え、じゃないです。不審者ですよ、この人」
「ふ、不審者って……ちゃんと事情も説明してくれたし……」
「それを信じるんですか?」
「うっ……」
「それにここはアビドスの自治区です。勝手に入ってきて、そこで見つけた物を持っていこうとしてたんですよね?」
「で、でもまだ持っていってないよ?」
「ユメ先輩が先に見つけたからでしょう」
「そ、そうだけど……」
ピンク髪の少女に詰められ、長髪の彼女が目に見えてあわあわし始める。
「事情は聞いたし、目的の物も見つかったんでしょ。だったら、もう用はないよね」
ピンク髪の少女の視線がこちらへ向いた。
「これは渡さない。これ以上アビドスで勝手なことをされても困るから帰って」
「…………」
……これはもう無理なのでは?
ピンク髪の少女の目……完全に敵を見る目だ。まあ彼女の目には自分たちが大変な時に自治区に侵入してきた火事場泥棒に見えているのだろうな……否定できる要素が一つもない。幸いこのまま引けば見逃してくれそうだし、言う通りにここは一度撤退を……
《当該オーパーツの買い取りを提案します》
「買い取り?」
《はい。相応の対価を支払い、譲渡していただくことを提案します》
「…………」
ピンク髪の少女は答えず、こちらを睨んだままだ。俺も下手に口を挟まず、黙ってアイギスの言葉を聞く。
ただ――買い取りと言われても、そんな大金は持っていない。今回は長丁場になることを見越して生活費には余裕を持たせてきたが、それはあくまで飯や宿に困らない程度の話だ。
オーパーツなんて得体の知れない代物がいくらするのか知らないが、少なくとも手持ちで気軽に買える値段とは思えない。
《当機内部には希少鉱石が保管されています。それらとの物品交換を提案します》
「希少鉱石……?」
《肯定。現在の市場では流通量が極めて少なく、高値で取引されています》
まさか俺の生活資金源がこんなところで役に立つとは……アイギス頑張ってくれ……ッ!
「……信用できない」
しかしその提案もピンク髪の少女は一蹴する。
「その鉱石が本当に価値のある物なのかも、それがこのオーパーツと釣り合うのかも怪しいし」
《その指摘は妥当です》
「だったら――」
「……あの」
話を終わらせられる前に口を挟む。
「買い取り業者に査定してもらうのはどうかな~って……?」
「……査定?」
「オーパーツと鉱石を両方査定してもらって、オーパーツの査定額と同じ分だけ鉱石をその場で売るんだ。そこで出た金を、そのままそっちに渡す。もちろん、そっちが信用できる店で査定してもらえば、俺たちが誤魔化すこともできないし……」
「…………」
ピンク髪の少女はしばらく黙ったまま、こちらを見ていた。
「……分かった」
やがて、渋々と頷く。
「ただし私たちも一緒についていく。それと――」
ショットガンを構え直し、こちらを睨む。
「少しでも怪しい動きをしたら撃つから」
「…………はい」
目が本気だ。交渉成立を喜ぶより先に、絶対に余計なことはしないでおこうと心に誓った。
「じゃ、じゃあ決まりだね!」
張り詰めた空気をどうにかしようとするように、長髪の彼女が明るい声を出す。
「それで、買い取り業者ってここから近いんですか?」
「アビドスの市街地の方だよ」
「……俺たちが乗ってきた車があります。それで行きません?」
「車?」
「あの砂丘の向こうに停めてあります」
ピンク髪の少女はしばらくこちらを見たあと、小さく頷いた。
「……分かった。じゃあ案内して」
というわけで、一度四駆へ戻ることになった。
二人は近くに置いていた荷物を回収し、スク水の上から制服を着込む。スク水だった理由は……聞ける空気ではなかったので、結局分からないままである。四駆へ戻ると、俺はアイギスを車両の制御系へ接続した。
「運転はアイギスに任せます」
「……それ、大丈夫なの?」
「俺が運転するより百倍安全です」
そんなわけで、俺が運転席、アイギスが助手席。そして長髪の彼女とピンク髪の少女が後部座席に乗り込んだ。もちろん少女がそこを選んだ理由は、俺とアイギスを後ろからまとめて監視できるからだろう。
《目的地を設定してください》
「あ、うん!えっとね――」
長髪の彼女が慌てて場所を伝え、アイギスが経路を設定する。
《経路設定完了。出発します》
四駆がゆっくりと走り出した。
「…………」
「…………」
車内が死ぬほど気まずい。なんとなくバックミラーを見るとピンク髪の少女と目が合った。
「…………」
そっと前を向き、どこまでも広がる砂漠の地平線を眺める。
……買い取り業者まで、あと何分だろう。
重苦しい空気の中、アイギスの操縦する車は目的地へ向かうのであった。
アビドス市街地の一角にある買い取り業者の店をあとにする。無事に目的を達成できたことで、ようやく張り詰めていた緊張が抜けていくのを感じた。
ちなみに、ここへ来るまでの車内で最低限の自己紹介は済ませている。あまりの空気の重さに耐えかねたらしい長髪の彼女が、必死に会話を繋いでくれたおかげだ。
長髪の彼女が梔子ユメさん。アビドス高等学校三年生の生徒会長。
ピンク髪の少女が小鳥遊ホシノさん。一年生にして生徒会副会長らしい。
最初は梔子さんと呼んでいたのだが、「ユメさんでいいよ!」と押し切られ、ユメさん呼びになっている。小鳥遊さん?「馴れ馴れしくしたら撃ちます」ってショットガンちらつかされてしまったよ……
さっきまでの出来事を思い返しながら、改めて周囲を見渡した。
「…………」
こうしてまともな街中を歩くのは、ギヴォトスに来てから初めてかもしれない。今まで足を運んだ場所といえば、ほとんどがブラックマーケット。薄暗い路地に怪しげな店がひしめき、少し歩けば銃声が聞こえてくるような場所だ。
それに比べれば、ここはずっと普通の街に見える。道路と歩道はしっかり舗装されており、その両脇には店や建物が並んでいる。
……ただ。
「ちょっと寂しいな……」
閉じられたシャッター。砂埃に覆われた窓。人の気配がない建物。
道路にも薄く砂が積もり、建物の向こうには砂漠が見える。アイギスからアビドスが衰退していることは聞いていたが、実際に見ると随分印象が違った。廃墟というわけじゃない。営業している店もある。
なのに――人がいない。
街だけが取り残されているような、妙な寂しさがあった。ブラックマーケットとは正反対だ。あっちは治安が終わってる代わりに、嫌になるくらい人がいる。こっちはずっと綺麗で、ずっと静かで――だからこそ、その静けさが余計に目についた。
「……ね、ねえ」
隣を歩いていたユメさんがおずおずと声をかけてきた。
「これ……本当に貰っちゃっていいの?」
そう言って、両手で大事そうに抱えている封筒へ視線を落とす。中に入っているのは、先ほど査定されたオーパーツと同額の現金だ。
「いいも何も、そのために鉱石を売ったんですから」
「そ、それはそうなんだけど……」
ユメさんは困ったように眉を下げる。
「でも、こんなに貰えるなんて思ってなかったっていうか……」
「……それは私も同じです。正直、あの鉱石があんな金額になるとは思ってませんでした」
「だよね!? 私、金額聞き間違えたのかと思ったもん!」
「……私も最初は桁を一つ間違えてるのかと思いました」
どうやら相当衝撃だったらしい。まあ、気持ちは分からなくもない。俺だって以前ブラックマーケットの質屋で初めて売った時は、似たような反応をしたのだから。
「でも、査定したのは二人が選んだ店でしょう?」
「そうだけど……」
「それに、オーパーツについた値段と同じ分しか渡してないですし」
「うぅ……そうなんだけどぉ……」
理屈では納得しているのだろう。それでもユメさんは落ち着かない様子で、手元の封筒と俺を何度も見比べている。すると小鳥遊さんが小さく息を吐いた。
「ユメ先輩、受け取っておきましょう」
「ホシノちゃん?」
「こっちが指定した店で査定してもらって、その金額で合意したんです。今さら返す方がおかしいです」
「……うん」
「それに――」
小鳥遊さんの視線がこちらへ向く。先ほどまでの露骨な敵意こそ薄れているものの、警戒心までは消えていない。
「この人がそれでいいって言ってるんですから」
そもそも、あのオーパーツを手に入れるためにここまで来たのだ。金額が予想以上だったのは事実だが、それでも目的の物が手に入ったのなら文句はない。
「……そっか」
ユメさんはもう一度封筒を見る。それからようやく納得したのか、大事そうに抱え直した。
「ありがとう!大事に使わせてもらうね!」
「……いえ」
満面の笑顔で礼を言われると、なんだかこっちまで妙な気分になる。こっちは対等に取引しただけなんだけどな。別にお礼を言われるようなことはしていない。
とはいえ、さっきまでの険悪な空気に比べれば随分と話しやすくなった。
そこでふと思い出す。生徒会長と副会長、アビドス自治区のトップがこの場に揃っている。
しかもさっきまでに比べれば空気もかなり和らいでいる。
――頼むなら、今なのでは?
「あの、一つお願いがあるんですけど……」
「ミナト君?どうしたの?」
「アビドスでオーパーツを探す許可って、頂けたりは……」
「ダメ」
言い終わる前に、小鳥遊さんにばっさり切り捨てられた。
「今回の取引とそれは別。これ以上、自治区内を勝手に動き回られるのも困るから」
「勝手にアビドス自治区に侵入したことは謝ります、本当にすみません。その上で頼みたいんです、どうか捜索の許可を……ッ!」
「しつこい」
取り付く島もない返答に言葉が詰まる。まあ、さっきまで不審者扱いされていた身だ。当然といえば当然か、仕方ない……やっぱり諦めるしかないか。
「待って、ホシノちゃん」
諦めかけたところで、ユメさんが口を挟んだ。
「条件付きなら、許可してもいいんじゃないかな?」
「……ユメ先輩?」
「ミナト君、知ってる?アビドスは今すっごくすっごく大変なんだぁ……借金はかなりの額だし、生徒の数も減る一方だしで、もうてんやわんやなんだよね」
静かに語りだすユメさんから先程までの情けない雰囲気が嘘のように消える。そんな変化に思わず聞き入ってしまう。
「私は生徒会長として、大好きなアビドスを復興させたいの!でもそれには問題が山積みで、人手もお金も足りなくて……」
そう言って一呼吸置くユメさん。
「だからミナト君、私たちに協力してくれないかな?」
「……ッ?!本気ですかユメ先輩ッ!」
ユメさんの発言にすぐさま噛み付く小鳥遊さん。でもそう言いたい気持ちも分かる、初めて小鳥遊さんと意見が合った。
「本気だよホシノちゃん!私たちは人手が増えて、ミナト君はオーパーツが欲しい、うぃんうぃんの関係だよ!」
「こんな得体の知れないヤツと協力するって言うんですか!」
その通りなんだけど本人目の前にして言わんでも……ちょっと傷つく……
「うん。ホシノちゃんが心配する気持ちも分かるよ」
「だったら――」
「でも、ミナト君たちはちゃんと約束を守ってくれたよ」
小鳥遊さんの言葉を遮り、ユメさんは真っすぐこちらを見る。
「だから私は、ミナト君たちを信用してもいいと思うんだ!」
「でも、もし何かあったら……」
「その時は私が責任を取るよ」
迷いのない声だった。
「……ユメ先輩」
「許可を出すのは生徒会長の私だから。何かあった時の責任も私が取るよ」
そう言い切ったユメさんに、小鳥遊さんは黙り込む。さっきまで大金を前にあわあわしていた人と、本当に同一人物なんだろうか。
でも――今なら分かる。
この人は本気で、アビドスを復興したいと思っている。
「…………はぁ」
長い沈黙の末、先に折れたのは小鳥遊さんだった。
「分かりましたよ……」
「ホシノちゃん……!」
「ただし!」
ぱっと表情を明るくしたユメさんを制して、小鳥遊さんがこちらを睨む。
「私たちの自治区にいる間は勝手な動きは厳禁。少しでも怪しい動きをしたら……」
「分かってますって、小鳥遊さん……ありがとうございます」
「……分かってるならいい」
お礼を言うとそっぽを向いてしまう小鳥遊さん。お礼を言われると思わなかったのか、その横顔には少しの困惑が滲んでいる。
「ユメさんもありがとうございます」
「やったぁ!これで決まりだね!」
つい数秒前までの凛とした雰囲気はどこへやら、ユメさんはさっきの調子で嬉しそうに笑っている……切り替わり早いな、この人。
「それじゃあ改めてミナト君、アイギスちゃん、これからよろしくね!」
《“ちゃん”は不要です》
一日目から波乱続きのオーパーツ捜索。
どうやら俺のオーパーツ捜索は思っていたよりずっと長く、そして面倒なものになりそうだった。
ここまで読んでいただいたありがとうございます!
原作キャラの口調難しい……
ご意見・ご感想あれば、是非お待ちしています!